OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

レイ・ブライアントのにくい貴方

2008-12-14 11:18:29 | Jazz

Lonesome Traveler / Ray Bryant (Cadet)

なんだかんだ言っても、自分は快楽的な生き方が自然体なんで、日頃に聴くものも気楽なアルバムが多くなっています。

例えば本日の1枚はジャズ喫茶的には軽く扱われているかもしれませんが、人気盤には違いなく、もしかしたらレイ・ブライアントでは最高のベストセラーなのかもしれません。もちろん私には必需品の愛聴盤♪ 内容はこの前作「Gotta Travel On (Cadet)」をよりお気楽に発展させたゴスペル系歌謡ジャズロックの決定版です。

録音は1966年9月1&8日、メンバーはレイ・ブライアント(p)、ジミー・ロウザー(b / 9月1日)、リチャード・デイビス(b / 9月8日)、フレディ・ウェイツ(ds)、クラーク・テリー(flh)、スヌーキー・ヤング(flh) という名手揃いですが、結論から言うと主役はあくまでもレイ・ブイアントを主役としたピアノトリオで、2人のトランペッターは彩としてのホーンアンサンブルを作るだけなんですが、これが実に気持ち良い演奏ばかりです――

A-1 Lonesome Traveler (1966年9月8日録音)
 下世話なフレディ・ウェイツのドラムス、躍動的なリチャード・デイビスのベースリフがあって、さらに昭和歌謡曲っぽいホーンアンサンブルという脇役陣の素晴らしさ♪ ですからレイ・ブライアントが何の屈託も無くゴスペル&ソウルなメロディを弾いても、その場は和みの熱気に満たされるだけという、全く私にとっては至福の演奏です。
 とにかくレイ・ブライアントの転がりまくったピアノからはゴッタ煮の美味しさ、闇鍋の危うい楽しさが堪能出来ます。そして3分ほどの短い演奏時間が愛おしくなるばかり♪

A-2 'Round Midnight (1966年9月1日録音)
 モダンジャズを超えて20世紀の名曲となったセロニアス・モンクの有名オリジナルが、なんとダークなボサロックで演じられるという禁じ手が、これです。
 しかもレイ・ブライアントは最初、ソロピアノで神妙にメロディフェイクをやっているんですねぇ~。そのタッチの力強さ、真摯なジャズ魂は流石と唸ってしまいます。そしてそれが一転、フレディ・ウェイツのガサツなボサビートに乗せられた快楽の展開となるんですから、絶句して感涙です♪
 キワモノ寸前のアレンジも素晴らしく、もしこれをセロニアス・モンクが聞いていたとしたら、どう思ったのか非常に興味をそそられるのでした。

A-3 These Boots Were Made For Walkin' (1966年9月8日録音)
 邦題は「にくい貴方」というナンシー・シナトラが歌った大ヒット曲のカバー♪ それを楽しいゴスペルロックに仕立てた、本当にたまらない演奏です。リチャード・デイビスのあざといベースも最高に効いていますねぇ~♪
 もちろんレイ・ブライアントも本領発揮の真っ黒なアドリブが全開で、後年のリチャード・ティーのようなグルーヴでバンド全体をグイグイと引っ張っていきますし、シンプルで楽しいホーンアレンジや如何にも1960年代のテレビショウみたいなドラムスの響きも、私は大好きです。

A-4 Willow Weep For Me (1966年9月1日録音)
 このアルバムでは一番、正統派ジャズっぽい演奏でしょうか、演目そのものがお馴染みのブルース系歌謡スタンダード曲ということもあって、レイ・ブライアントもリラックスしてスイングしたピアノを聞かせてくれます。
 しかし、と言っても、そこはこのアルバムの色合いが大切にされた雰囲気で、幾分早めのテンポでライトタッチの展開は、イノセントなジャズ者が最も毛嫌いする仕上がりかもしれません……。
 それでも私は、これだってレイ・ブライアントならではのモダンジャズだと思っていますし、人気の秘密じゃないでしょうか。

B-1 The Blue Scimitar (1966年9月1日録音)
 ちょいとヘヴィな雰囲気のゴスペル系モダンジャズで、おそらくはホーンセクションの2人が敲いたパーカッションやアフロなドラミングを披露するフレディ・ウェイツの存在が、なかなか素敵なスパイスになっています。
 レイ・ブライアントも十八番の力強い左手、絶妙にマイナーな音選び、グリグリにツッコミ鋭いフレーズもエグイですし、かなりのガチンコを聞かせてくれます。
 このアルバムの中では異質の演奏なんですが、それがネクラなムードになっていないのは流石というか、それこそがレイ・ブライアントの資質だと思います。

B-2 Gettin' Loose (1966年9月8日録音)
 一転して楽しいレイ・ブライアントのオリジナル曲で、ラテンビートとゴスペルムードの華麗なる結婚という感じが実に楽しい雰囲気です。ホーンアレンジが、なんとなく西部劇のテーマ調になっているのも高得点♪
 短い演奏ですが、場面転換としては気が利いています。

B-3 Wild Is The Wind (1966年9月1日録音)
 そして、またまた一転、今度はレイ・ブライアントがソロピアノで地味なスタンダードを存分に聞かせるスローな演奏で、相当にジャズっぽい雰囲気が濃厚です。そして途中から密やかに入ってくるベースとドラムスを従えて、グッとジェントルなムードが高まった展開は、これぞモダンジャズの保守本流なのでした。
 ただしレイ・ブライアントとしては、地味過ぎるのが難点かもしれません……。

B-4 Cubano Chant (1966年9月1日録音)
 さてさて、これぞレイ・ブライアント的な名曲の決定版で、本人のステージでも、これが出ないと収まらないというオリジナル♪ 今日まで幾多のバージョンがレイ・ブライアント自身によっても吹き込まれていますが、ここではホーンアレンジを効果的に使ったゴスペルロックな演奏がたまりません。
 力強いピアノのエグイ感覚は実に真っ黒ですし、適度にC調なテーマ演奏、エキゾチックな本来のメロディの心地良さ♪ あまり期待するとハズレるかもしれませんが、私は大いに気にいっているのでした。

B-5 Brother This 'N' Sister That (1966年9月1日録音)
 そしてオーラスは、これもゴスペルロックが丸出しというレイ・ブライアントのオリジナルで、まさにアルバムの締め括りには、これしか無いの雰囲気が横溢しています。あぁ、フレディ・ウェイツのダサダサのドラミングが実に素晴らしいですねぇ~~♪
 なんて思っているのは私だけかもしれませんが、それがあってこそのレイ・ブライアントのここでの名演じゃないでしょうか。如何にものフレーズしか出てこないピアノは最高ですよっ♪♪~♪

ということで、ワケアリの旅の途中を想わせる美女ジャケットも素敵ですし、けっこうゴリゴリの音が楽しめる録音も良いと思います。

レイ・ブライアントは、このアルバムのように所謂シャリコマな事をやり続けたが為に、1960年代の我が国では評価が低かったのかもしれませんが、ピアニストとして黒人大衆音楽を追求する姿勢は、それも立派なモダンジャズそのものじゃなかっでしょうか? ジャズは娯楽だと思うんですよ。

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