■Hino = Kikuchi Quintet (Takt)
昭和40年代の我国大衆音楽はエレキからGSブームへと続く、つまりはロックの時代へと入っていったわけですが、まだまだモダンジャズもイカシた流行でした。
例えばトランペッターの日野晧正は、そのスタイリッシュな雰囲気とシャープな演奏が実にカッコイイ代表選手でした。そして自らのバンドを率いてのテレビ出演も多く、そこで短くはありましたが演奏されるジャズロックやミステリアスなモダンジャズは、単にジャズファンばかりか、多くの女性をも虜にしていたようです。
もちろん音楽的な先進性は言わずもがなで、本日のご紹介はちょうどその頃に組んでいたピアニストの菊池雅章との双頭バンドによるアルバムです。
録音は昭和43(1968)年8月22&30日、メンバーは日野晧正(tp)、村岡建(ts)、菊池雅章(p)、稲葉国光(b)、日野元彦(ds) という精鋭クインテットなんですが、実はセッション当時には菊池雅章の渡米により、バンドは解散した後だったと言われています。
そしてこれは私の推察に過ぎませんが、おそらくはレコーディングの契約もあったのでしょうし、このバンドが世界最先端のモダンジャズをやっていた記録として、残される価値が十分にあったということだと思います。
で、それはスバリ、黄金のクインテットと称されていた同時期のマイルス・デイビスのレギュラーグループに端を発する、所謂新主流派!
率直に言えば菊池雅章はハービー・ハンコック、村岡建はウェイン・ショーター、稲葉国光はロン・カーター、日野元彦はトニー・ウィリアムス~ジョー・チェンバース、そして日野晧正はフレディ・ハバードという置換が実現されているのです。
しかも収録曲は全てが菊池雅章のオリジナルですが、今となってはマイルス・デイビスやハービー・ハンコックのリーダー盤で聞かれる味わいが、パクリを超えた愛情コピーとして、思わずニヤリの瞬間が!?!
A-1 Tender Passion
これは丸っきりブルーノートの新主流派がモロ出し!
何の曲かは申しませんが、今となっては耳に馴染んだモードの構成が心地良いと思います。それがパクリだとしても……。
しかし、そういうことを言ってしまったら、モダンジャズの演奏家は全てがチャーリー・パーカーのパクリから逃れられないわけですし、その中で如何に素晴らしいアドリブや演奏をやるかが、瞬間芸のジャズでは個人技の披露の場でしょう。
ここではクールな菊池雅章や村岡建、躍動的な日野元彦、頑固な稲葉国光、そして陰影豊かな日野晧正の各々が熱演で、その研究熱心さは感動的かもしれません。
A-2 Ideal Portrait
これもアッと唸ってしまう、マイルス・デイビスのあの曲のパクリなんですが、そのスローでミステリアスなムードをここまで再現してしまうバンドの実力派は侮れません。というか、当時の世界的なレベルからすれば、我国のミュージシャンがここまでやっていたという事実に、今は驚くばかりです。
そこでは日野晧正も村岡建も、素直に神妙ですが、リズム隊の三者が相当に自由度の高い中での纏まりが実に秀逸だと思います。
B-1 Long Trip
これまたマイスル・デイビスのクインテットでウェイン・ショーターが自作自演した良い部分だけを抽出したというか、思わず苦笑いというのが正直な気持なんですが、ここでの演奏の本気度の高さは凄いものがあると感じます。
特に日野兄弟のハッスルぶりは特筆ものでしょうねぇ~♪
B-2 H. G. And Pretty
ハービー・ハンコック~ウェイン・ショーター路線のモード系ブルース大会!
ということは、必然的にクールで熱いムードが横溢すると思わせながら、ちょいと手さぐりの状況が何とも深いんでしょうか……。
まあ、それもこれも、今となってはモダンジャズの真の名盤をどっさりと聴いてしまった後の感想で、実は告白すると、このアルバムは当時、我が家に下宿していた叔父さんが所有していたので、その頃は中学生だったサイケおやじも一応のリアルタイムで聴いていました。つまりマイルス・デイビスや子分達が出していた傑作群を聴くより以前に、この日野晧正&菊池雅章クインテットの洗礼を受けてしまったというわけです。
そしてテレビで日野晧正を見ていた所為もあって、モダンジャズって、分からないけど凄くカッコイイ! なんて、独りで納得していたのです。
ちなみに叔父さんは、このクインテットの当時のライプを体験していたらしく、そこではレコードよりも熱くて荒っぽい演奏が凄かった! と話してくれました。
ご存じのように日野晧正はこのアルバムが世に出た頃には自らの新しいバンドを率い、さらに電化したジャズロックをやっていました。それは人気盤「ハイノロジー」の発売、ロックミュージャンも顔負けのファッションに身を包み、所謂ヒノテルブームの大ブレイクだったのです。
一方、菊池雅章はアメリカ留学を経て後、自己のグループで活動していくのですが、これまでにも2人の競演盤が幾つか残されているとおり、切っても切れないジャズ的な繋がりがあるのでしょう。
ところで、私が今、聴いているのは、既に10年ほど前に出た紙ジャケット仕様のCDなんですが、これをゲットしたのはボーナストラックで1曲だけ、ライプ音源が入ってるからです。
※CDボーナストラック
H. G. And Pretty (live)
録音は昭和43(1968)年6月27日ですから、このアルバムセッションが行われる前のリアルな活動時期でした。メンバーは前述の5人に実力派の鈴木弘(tb) が加わった、なんと15分を超える爆裂演奏!
音質もステレオミックスされた良好なものですから、当時のクインテットが如何に熱気に満ちたていたかを追体験出来ますよ。
ということで、1970年代になると、このあたりの日本のジャズは「真似っこ」と決めつけられ、不必要に貶されていたものです。しかしサイケおやじにとっては少年時代に最先端のジャズに触れた数少ない機会のひとつとして、このアルバムが忘れられないのでした。
コメント、ありがとうございます。
これが発売された時には、既にヒノテルブームのど真ん中で、「ハイノロジー」期の電化ジャズロックをやっていたと思うんですよ。実際、テレビでも、それでしたからねぇ。
その意味もあって、日野&菊地クインテットは幻の名バンドなのかもしれません。
中身は書いたとおり、ほとんどマイルス・デイビスのバンドから大きな影響を受けていますが、その研究熱心さは流石!?!
そうですか、もう少しハードバップ路線のアルバムかと思い込んでましたが、新主流派路線でしたか。元々メンツは魅力的でしたから、聴いてみたくなりました。
ビジュアル先行の感はあったものの、当時のロック好きの若者たちをジャズで惹きつけた功績は大きいですね。