12月29日(火):
日刊ゲンダイ:憲法だけじゃない 2015年に安倍政権が「破壊したもの一覧」 2015年12月28日
民意無視を許すな(C)日刊ゲンダイ
戦後70年の節目を迎えた2015年も残すところあとわずか。この1年ほど戦後の日本にとって、政治権力の暴走で国民の権利や社会の骨組みをズタズタに蹂躙された年はない。破壊された掛け替えのないモノを、一つ一つ列挙していけば空恐ろしくなってくる。
まず、憲法無視の安保関連法案の審議と採決を通じて踏みにじられたものはあまりにも多い。
安倍政権は「集団的自衛権は行使できない」としてきた歴代政権の憲法解釈を正反対にくつがえし、自衛隊法など10本の改正案をひとつに束ねた一括法案と1本の新法を国会に出してきた。
時の政権担当者の身勝手なヘリクツで憲法解釈を百八十度転換し、米国の議会で「夏までに成立させる」と先に約束してきた法案を、後から日本の議会に提出するデタラメ。むろん、憲法で権力を縛る「立憲主義」の常識も通じないうえ、一つ一つ論点の異なる関連法案を十把一絡げにして、丸ごと認めるか否かを国会と国民に迫る手法もムチャクチャだった。
憲法学者の大半が「違憲」と指弾しても、安倍首相はどこ吹く風で「国民の安全を守る」という情緒的な紙芝居に興じていた。
「丁寧な説明を心がける」と強調していた「熟議」の約束もかなぐり捨て、最後はつかみ合いと怒号の中での強行採決。委員長の姿は見えず、声も聞こえず、現場にいた多くの議員も何が起きたのか分からないまま、史上最悪の違憲法案は強引に「可決」されてしまった。
「今年1年の安倍政権による憲法破壊は戦後最大の政治的犯罪です」と断言するのは、政治評論家の森田実氏だ。こう続けた。 「目の前で政治犯罪を許した国会も情けない。時の内閣の暴走を止められるのは国会だけなんです。そのため、日本国憲法は国会を『国権の最高機関』として内閣よりも上に置いています。与党議員にも国権の最高機関の一員としての矜持があれば、憲法破壊の法案に多くの造反者が出ていたはずです。ところが、安保法案の採決では暴走政権の追認機関に成り下がり、国権の牙城を進んで明け渡した印象です」
だから、「憲法解釈の最高責任者は私だ」とカン違いし、最高権力者気取りの安倍が、ますますツケ上がる。安保法案で憲法9条を破壊した後も、臨時国会の召集要求に応じないなど、憲法をことごとく無視。召集要求をシカトし続けた3カ月間は外遊三昧で、大企業幹部を引き連れ、原発や武器輸出のトップセールスに精を出す始末だ。
「戦後日本が70年かけて築き上げた『平和国家としてのブランド』を守るどころか、首相が先頭に立ってブチ壊しているのですから、最悪です」(森田実氏=前出)
暴走一直線の首相にすれば「国民主権の大原則」さえ屁でもないのだろう。安倍本人は日本がこの1年で、すっかり「安倍サマ」の国になった気でいるのではないか。
強権政治が引き起こした腐敗のトリクルダウン
来年も怒り続けろ!(C)日刊ゲンダイ
この1年の安倍政権の強権政治によって、ぶっ潰されたものは数え上げればキリがない。政権の暴走とメディア自体の迷走が重なり、「言論の自由」だって風前のともしびである。
その自由を完全に失いつつあるのがテレビ局だ。安倍の“お友だち”が支配する公共放送は論外として、民放キー局は時の政権におもねってばかり。思えば今年3月、元経産官僚の古賀茂明氏が「I am not ABE」発言で官邸からのバッシングを受け、報道ステーションを降板したことでタガが外れた。
以降、政府与党に批判的な論陣を張るコメンテーターたちは民放キー局の“自主規制″によって報道番組はもちろん、精神科医の香山リカ氏やジャーナリストの青木理氏のように、情報バラエティーからも次々と姿を消した。
今も安倍シンパから「放送法違反だ」と難クセをつけられた、TBSニュース23の岸井成格キャスターも交代が噂される。目に余るメディアの骨抜きぶりで、報ステを降板する古舘伊知郎氏あたりが「最後の砦」として、ありがたがられているような風潮が怖い。
メディアから健全な批判精神が失われれば、権力の暴走は加速する。違憲の安保関連法案の強行採決の当日、憲法学者の樋口陽一東大名誉教授はこう訴えていた。
「めちゃくちゃな内容の法案をめちゃくちゃなやり方で通そうとしている。放っておくと、憲法だけでなく、日本社会の骨組みそのものが危ない」
今まさに日本社会をぶち壊そうとする政権に、骨抜きメディアはいつまで加担する気なのか。
■2016年は日本人の民度と良識が問われる
「安倍政権は数が全てのゴマカシ政治によって、社会の成り立ちの前提となる『良識』を率先して破壊しています」と指摘するのは、筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)だ。こう続けた。
「その象徴が今年度の税制改正大綱です。安倍首相のゴリ押しで、法人税率20%台の前倒し減税を決めました。昨年の消費税増税以降、経済弱者ほど負担感の増す逆進性の苦しみから庶民の多くが抜け出せないまま、なぜ、大企業だけを優遇するのか。しかも、増税とセットであるはずの社会保障の充実は脇に置かれました。こうした格差を助長する税制によって失われるのは『税の公平性』だけでは済まない。“強きを助け、弱きをくじく”という腐敗政治がまかり通れば、必ず世は乱れます。
すでに『今さえ良ければ何でもアリ』の風潮がはびこり、かつての名門企業からも良識が失われつつある。約7年間の長きにわたる東芝の組織ぐるみの不正会計や、三井不動産の傾斜マンション問題など大企業の信頼はガタ落ちです。それでも政権が1%の強者だけに奉仕するのなら、社会のモラルハザードを先導しているに等しい」
この1年、少年による集団リンチ殺人や大阪・寝屋川の中1男女殺し、乳児に覚醒剤を飲ませて死亡させた“バカップル”など、社会のタガが外れてしまったような事件が多発したのも、憲法無視の腐敗政治と無関係ではないだろう。
前出の小林弥六氏は「安倍政権の誕生から3年。富が滴り落ちることはなかったが、腐敗のトリクルダウンは間違いなく起きている」と語ったが、その通り。これでも安倍は良心が痛まないのなら、痛覚がないのか、ハナから良心がないのか、二つに一つ。いずれにしても「病気」を疑った方がいい。
この1年、安倍政権にあらゆる権利をなぎ倒され、蹂躙されまくった怒りを忘れないことだ。年が明けたからといって、絶対に水に流してはいけない。それこそ暴走政権の思う壺になる。
前出の森田実氏は「来年は国政選挙が必ずあります。この国に健全な議会を取り戻すため、大勝負の年となる」と言った。2016年は日本の民主主義の真価と国民の良識が問われることになる。
日刊ゲンダイ:憲法だけじゃない 2015年に安倍政権が「破壊したもの一覧」 2015年12月28日
民意無視を許すな(C)日刊ゲンダイ
戦後70年の節目を迎えた2015年も残すところあとわずか。この1年ほど戦後の日本にとって、政治権力の暴走で国民の権利や社会の骨組みをズタズタに蹂躙された年はない。破壊された掛け替えのないモノを、一つ一つ列挙していけば空恐ろしくなってくる。
まず、憲法無視の安保関連法案の審議と採決を通じて踏みにじられたものはあまりにも多い。
安倍政権は「集団的自衛権は行使できない」としてきた歴代政権の憲法解釈を正反対にくつがえし、自衛隊法など10本の改正案をひとつに束ねた一括法案と1本の新法を国会に出してきた。
時の政権担当者の身勝手なヘリクツで憲法解釈を百八十度転換し、米国の議会で「夏までに成立させる」と先に約束してきた法案を、後から日本の議会に提出するデタラメ。むろん、憲法で権力を縛る「立憲主義」の常識も通じないうえ、一つ一つ論点の異なる関連法案を十把一絡げにして、丸ごと認めるか否かを国会と国民に迫る手法もムチャクチャだった。
憲法学者の大半が「違憲」と指弾しても、安倍首相はどこ吹く風で「国民の安全を守る」という情緒的な紙芝居に興じていた。
「丁寧な説明を心がける」と強調していた「熟議」の約束もかなぐり捨て、最後はつかみ合いと怒号の中での強行採決。委員長の姿は見えず、声も聞こえず、現場にいた多くの議員も何が起きたのか分からないまま、史上最悪の違憲法案は強引に「可決」されてしまった。
「今年1年の安倍政権による憲法破壊は戦後最大の政治的犯罪です」と断言するのは、政治評論家の森田実氏だ。こう続けた。 「目の前で政治犯罪を許した国会も情けない。時の内閣の暴走を止められるのは国会だけなんです。そのため、日本国憲法は国会を『国権の最高機関』として内閣よりも上に置いています。与党議員にも国権の最高機関の一員としての矜持があれば、憲法破壊の法案に多くの造反者が出ていたはずです。ところが、安保法案の採決では暴走政権の追認機関に成り下がり、国権の牙城を進んで明け渡した印象です」
だから、「憲法解釈の最高責任者は私だ」とカン違いし、最高権力者気取りの安倍が、ますますツケ上がる。安保法案で憲法9条を破壊した後も、臨時国会の召集要求に応じないなど、憲法をことごとく無視。召集要求をシカトし続けた3カ月間は外遊三昧で、大企業幹部を引き連れ、原発や武器輸出のトップセールスに精を出す始末だ。
「戦後日本が70年かけて築き上げた『平和国家としてのブランド』を守るどころか、首相が先頭に立ってブチ壊しているのですから、最悪です」(森田実氏=前出)
暴走一直線の首相にすれば「国民主権の大原則」さえ屁でもないのだろう。安倍本人は日本がこの1年で、すっかり「安倍サマ」の国になった気でいるのではないか。
強権政治が引き起こした腐敗のトリクルダウン
来年も怒り続けろ!(C)日刊ゲンダイ
この1年の安倍政権の強権政治によって、ぶっ潰されたものは数え上げればキリがない。政権の暴走とメディア自体の迷走が重なり、「言論の自由」だって風前のともしびである。
その自由を完全に失いつつあるのがテレビ局だ。安倍の“お友だち”が支配する公共放送は論外として、民放キー局は時の政権におもねってばかり。思えば今年3月、元経産官僚の古賀茂明氏が「I am not ABE」発言で官邸からのバッシングを受け、報道ステーションを降板したことでタガが外れた。
以降、政府与党に批判的な論陣を張るコメンテーターたちは民放キー局の“自主規制″によって報道番組はもちろん、精神科医の香山リカ氏やジャーナリストの青木理氏のように、情報バラエティーからも次々と姿を消した。
今も安倍シンパから「放送法違反だ」と難クセをつけられた、TBSニュース23の岸井成格キャスターも交代が噂される。目に余るメディアの骨抜きぶりで、報ステを降板する古舘伊知郎氏あたりが「最後の砦」として、ありがたがられているような風潮が怖い。
メディアから健全な批判精神が失われれば、権力の暴走は加速する。違憲の安保関連法案の強行採決の当日、憲法学者の樋口陽一東大名誉教授はこう訴えていた。
「めちゃくちゃな内容の法案をめちゃくちゃなやり方で通そうとしている。放っておくと、憲法だけでなく、日本社会の骨組みそのものが危ない」
今まさに日本社会をぶち壊そうとする政権に、骨抜きメディアはいつまで加担する気なのか。
■2016年は日本人の民度と良識が問われる
「安倍政権は数が全てのゴマカシ政治によって、社会の成り立ちの前提となる『良識』を率先して破壊しています」と指摘するのは、筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)だ。こう続けた。
「その象徴が今年度の税制改正大綱です。安倍首相のゴリ押しで、法人税率20%台の前倒し減税を決めました。昨年の消費税増税以降、経済弱者ほど負担感の増す逆進性の苦しみから庶民の多くが抜け出せないまま、なぜ、大企業だけを優遇するのか。しかも、増税とセットであるはずの社会保障の充実は脇に置かれました。こうした格差を助長する税制によって失われるのは『税の公平性』だけでは済まない。“強きを助け、弱きをくじく”という腐敗政治がまかり通れば、必ず世は乱れます。
すでに『今さえ良ければ何でもアリ』の風潮がはびこり、かつての名門企業からも良識が失われつつある。約7年間の長きにわたる東芝の組織ぐるみの不正会計や、三井不動産の傾斜マンション問題など大企業の信頼はガタ落ちです。それでも政権が1%の強者だけに奉仕するのなら、社会のモラルハザードを先導しているに等しい」
この1年、少年による集団リンチ殺人や大阪・寝屋川の中1男女殺し、乳児に覚醒剤を飲ませて死亡させた“バカップル”など、社会のタガが外れてしまったような事件が多発したのも、憲法無視の腐敗政治と無関係ではないだろう。
前出の小林弥六氏は「安倍政権の誕生から3年。富が滴り落ちることはなかったが、腐敗のトリクルダウンは間違いなく起きている」と語ったが、その通り。これでも安倍は良心が痛まないのなら、痛覚がないのか、ハナから良心がないのか、二つに一つ。いずれにしても「病気」を疑った方がいい。
この1年、安倍政権にあらゆる権利をなぎ倒され、蹂躙されまくった怒りを忘れないことだ。年が明けたからといって、絶対に水に流してはいけない。それこそ暴走政権の思う壺になる。
前出の森田実氏は「来年は国政選挙が必ずあります。この国に健全な議会を取り戻すため、大勝負の年となる」と言った。2016年は日本の民主主義の真価と国民の良識が問われることになる。