Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「ドレミファ娘の血は騒ぐ」黒沢清

2007-09-21 13:04:08 | cinema
ドレミファ娘の血は騒ぐ

パイオニアLDC

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1985日本
監督:黒沢清
脚本:黒沢清、万田邦敏
音楽:東京タワーズ、沢口晴美
出演:洞口依子、伊丹十三、麻生うさぎ、加藤賢崇



すっごい80年代でした。

あの時代はインディーズの時代だったなあ。洗練・頂点・完成指向に基づくアートの硬直化に背を向け、素人・未熟・瞬発力によるデコンストラクションで、商業から人間への表現の奪回を目指した時代。(とあとになって思う)

その突出したインディーズパワーは後にあっさりと構造化され、メジャー未満の部分をさす便利なジャンルになってしまった。そのおかげで、今では「定評のあるインディーズ」だけが復刻されメディアに乗ってわれわれのもとに届く。それが形容矛盾であることに気づくものはもはやいない。

というわけで、これまた80年代からずっと観たかった作品を、まさに構造化の恩恵をこうむり観ることができたわけです。生き残ったものとして。よろこんでいいのかどうなのか。

***

あこがれの先輩をたずねて都会の大学を訪れた少女。ひょんなことから伊丹十三扮する心理学(似非)教授のゼミに迷い込む。教授の追及するのは、究極の恥ずかしさにおける人間行動。ゼミに集まる学生たちに根本的に恥じらいの念がないことを見て取り失望する教授は、まよいこんだ少女こそ究極の羞恥心を持つ者だと確信する。少女もまた教授の学説の怪しげな魅力に惹かれ、教授のもとを訪れ、いよいよ究極の羞恥の実験が始まる・・・

というのが筋といえば筋。しかし例によって、この映画は筋と関係なく、学生たちの享楽的生活の断片、田舎を飛び出して男に夢を抱く少女の独白(粗い画像)、唐突なミュージカルシーン、教授の突然のバイオリン演奏、衒学的な講義、ブラームスやモーツアルトについてのウンチク、いきなりの銃撃戦ごっこ、などなどのカットアップにより構成される。

これはゴダール的ヌーヴェルヴァーグだ、と断じるのは簡単。簡単すぎる。でも言いたい。これはゴダール臭い。

しかしこの映画製作時、ヌーヴェルヴァーグはなつかしい過去なのだ。それはある意味オーソライズされた表現形式として認知されていただけでなく、すでに多くの観客にとって忘却の段階にあったし、「再発見」されてもいたわけで。

その時代に、60年代ゴダールをなぞることは、その表層を借りた末の自爆だったのか、それとも権威を相対化しひざかっくんを食らわす果敢な行為だったのか。
今観てみると、状況は当時よりもはるかに相対化されていて、どちらに転んでいたのか容易にはわからない気がする。
で、それで正しい、という気もするな。

***

・・・ということはまあおいといて、私的に感じたところを言っちゃうと、たとえばアンナ・カリーナとジャン=ポール・ベルモンドがやるとあんなに魅力的な唐突ミュージカルも、腹蔵ありげな存在感では右に出るものがいない加藤賢崇が演じることで、いかに異質で忌むべきものに見えることか(笑)
この1点だけでも、この映画がヌーヴェルヴァーグ的快楽をなしくずしに異化してしまおうという悪意に満ちていたに違いない、と断じてしまってもいいような気もする。

どうだろか?

***

どうしてタイトルはドレミファ娘なんだろか??
作中で、ブラームスがいい、とか言わせながら、音楽部室ドアにブラームスの肖像を貼り目や手のあたりに穴ぼこを開けるおとぼけぶりだが、教授のバッハ演奏といい、音楽の趣味が意外と前面に出てきている。(ちなみにワタシもバッハ&ブラームス派)
それに、ミュージカルだといいはればそうもいえなくはないし、そういうことでドレミファなのかな。

麻生うさぎの、服を着たエッチ演技もなかなかよい。というか、ああいう半端なエロに惹かれるのかもしれない自分。

エンディングでちょいとゴダール「ワンプラスワン」のパクリがある。というか、あれはゴダールは他の作品でもつかいまくっているけれど。

もともとピンク映画として撮られてお蔵入り。それを通常映画(?)として再編集したもの。

洞口さんはいま闘病中ときく。がんばれ。


あそうそう、音楽の東京タワーズは、出演もしている岸野氏一派のグループで、不定形メンバーでライブなんかもやっていた。見に行ったな一度。
作中歌も良くも悪くも京浜兄弟社の音。


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コメント (2)
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