Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「萩尾望都がいる」長山靖生

2022-07-31 21:44:35 | book

 

「萩尾望都がいる」長山靖生

書店で見かけて購入。
著者についてはまったく知らなかったですが、
とっても同世代。

おそらく結構なマニアな方ではないかと思われ、
本書中にもその熱意はみなぎっている。

ただ、強い思いや考え方、解釈を熱弁するのではなく、
あくまで論証的に、高度な文化としての漫画表現を確立した第一人者として
萩尾望都の偉大さを検証してみせるので、
とても好感が持てる。

というか熱意と論証、主観と客観のバランスが
新書というあまり力まないメディアにふさわしい塩梅で、
同じく萩尾ファンである我々の興味と思いによく響くのがよい感じ。

初期から現在まで、作品を中心に
時代の空気や、作家の家族関係をふまえて
革新的な表現を切り開いていった過程を論じていくので、
作品に親しんだものは「そうそう!」とガクガク頷きながら読み進めるだろう。

*******

目次をみると、萩尾本人がもう最後にしてほしいという趣旨での出版の後なのに

大泉の件にも触れているようで、
これはどうなのかと思ったが、
読んでみると、ここも論証的なアプローチで、
大泉時代がどうだったのかということよりも、
近年「大泉サロン」的な物語化、神話化がぼんやりと進み
それに心地よく飛びつき耽溺しがちな我々読者に、
もっと慎重であれと語りかけるようである。

**

中盤からは特に1作毎の章が設けられ、
(ワタシの大好きな)「スター・レッド」や
(ワタシの大好きな)「訪問者」や
(ワタシの大好きな)「メッシュ」や
(ワタシの大好きな)「銀の三角」や

きりがない

が論じられていて
盛り上がりを禁じ得ない。。

 

ということで、萩尾ファンにはおすすめと思います〜

 

漫画世界最高峰とワタシは思う「訪問者」

 

 

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「オフィサー・アンド・スパイ」ロマン・ポランスキー

2022-07-16 18:58:00 | cinema
新作の題材は1894年に起きた「ドレフュス事件」

作風は質実剛健という感じで、
演出的な盛り上がりも抑制的。

だが、淡々と進むストーリーテリングによって、真相解明サスペンスの緊張がぐっと濃縮されている。

ポランスキーらしいコンプレス具合で
131分があっという間に過ぎた。

***

冤罪であることが公になる過程でも、
関係者も街の人々も反応が圧倒的に反ユダヤ的であることが、
作品の通奏低音のように描かれ、
ずっしりと疲れる。

冤罪事件そのものよりも、
この事件を経たにもかかわらず
人々が正義や公正ではなく憎悪と憎しみを選んでいくということに、この映画の主題はあるだろう。

主題というか、
これを題材とした映画を撮る動機の核心なのかも。

***

ウィキペディアでドレフュス事件の項を見てみたら、事件を描いた当時の挿絵が掲載されているが、映画はこの挿絵にかなり近いイメージ。

とりあえず挿絵の出典を把握していないので、後で調べてみよう。
(と言って結局放置なのがいつものパターンだけど)

ルイ・ガレルのドレフュスもウィキにある写真とそっくり。

***

監督本人が演奏会シーンにチラ出演しているらしいが、
まったく確認できなかった。
ので、
もう一度観たい。

そこで演奏されるのはフォーレなんだが、
せっかくチェロとバイオリンがいるのに、
両者が延々とオクターブユニゾンするという、
フォーレの室内楽によく見られる不思議な特徴がよく出ている部分。
(フォーレは宇宙人だと常々思っている)

冒頭静かな風景かと思いきや
よく見るとすごくたくさん人間がいる〜とか、
弁護士の受難シーンのぶっきらぼうな感じに
ポランスキー味を感じた。。

あとデスプラの奇妙な音楽も。


シャンテにて





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