フランソワ・トリュフォー DVD-BOX 「14の恋の物語」[I]ポニーキャニオンこのアイテムの詳細を見る |
家庭DOMICILE CONJUGAL
1970フランス
監督:フランソワ・トリュフォー
脚本:フランソワ・トリュフォー、クロード・ド・ジヴレー、ベルナール・ルヴォン
撮影:ネストール・アルメンドロス
音楽:アントワーヌ・デュアメル
出演:ジャン=ピエール・レオ、クロード・ジャド、松本弘子
アントワーヌ・ドワネルの半生をジャン=ピエール・レオがやはりその半生を費やして演じたシリーズの4作目に当たるでしょうか。
前作の『夜霧の恋人たち』で、最後までアントワーヌに暖かいまなざしをそそいでくれたクリスティーヌでしたが、本作ではとうとうアントワーヌとクリスティーヌは結婚しています。
で、その若い夫婦の結婚生活の波風を描くのですが・・
この映画の面白いところは、二人がどのように暮らしていくかがストーリーとして中心にあるわけではないということでしょうか。
ここでは、いかにも若い家庭に起こりそうなさまざまなエピソード、情景、スケッチのようなもの、が延々とコラージュされるのです。
言ってみればアントワーヌとクリスティーヌの二人の姿を借りて、パリ中の「家庭」がその姿を映し出しているというわけです。
なので、ドワネルものといいつつも、彼の個人史的物語以上の一般性を持つことに成功しています。
アントワーヌとクリスティーヌの、しょっちゅう繰り返される口論や和解の会話に、観客は、ああ、どこかでみた感じだという既視感のようなものを覚えるでしょう。少なくとも家庭を持った人ならば。
そいういう点で、これはシリーズ中でもっとも幸福感のある作品になっていると思います。
もちろん、「あのドワネル君もとうとう家庭を持ったか~」というしみじみとした感慨もあります。彼の子供まで生まれてしまう。ああ、よかったなあアントワーヌ^^
といっても、あのアントワーヌがそこでおとなしく成長してしまうかというとそんなことは全くないのですがね・・・
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レオの相変わらずのせわしい身振りや会話も、なんともほほえましいです。
それは彼が家庭の一大事件に気がつく駅での慌てぶりとか、隣近所の飲み屋に窓を飛び越えて入っていくばたばた加減とか、随所に彼の持ち味が発揮されています。
こうした彼のいわばパントマイム的な振る舞いの原泉については、本作ではっきりと明示されます。感動的です。ジャック・タチの映画を一度でも観たものであれば、あの独特の動きがあそこまで完コピされていることに驚きを禁じ得ないでしょう。あの駅のシーンは最高です。
もう一つはゴダールへの眼差しをときどき感じました。冒頭の無意味なほどに執拗に脚部のアップを左右に追うカメラワークとかにそういう匂いがするのですが、定かではないものの、「例の」日本人女性が最後に残した言葉が日本語でゴダールのあの作品タイトルであったことは、どこまで意識的だったのでしょうか。おそらくは計画されてのショットだっただろうと思います。
その日本人女性の風貌も、ありがちなねじれたオリエンタリズムみたいなのを拭い切れていないところが苦笑ものでまたいいんですが、なによりも彼女が同居人と会話する日本語のニュアンスがオドロキでした。その会話のリズムは今の日本では全く聞かれることのないもので、時が経つと話し言葉は大きく変わるのだということをあらためて実感してしまいました。
60年代以前の日本映画を観ると当然そういうことは感じるわけですが、なぜかトリュフォーの映画でそれを強烈に感じたのは不思議です。
ほかにも、アントワーヌがアメリカ系の感謝に雇われるときのやり取り(取り違い、英語のギャグ)とか、その会社でまかされた摩訶不思議な仕事とか、日本人女性とのデートでのあぐらネタとか、たくさん可笑しい要素がありました。
そういう点でもこれはある面コメディだったんだろうなと思います。
通俗的コメディ。
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前に『夜霧の恋人たち』を観たときに、アントワーヌの部屋にバルテュスの絵が掛かっていたのがちらっと見えたんですが、なぜか『家庭』でも、とってつけたようにバルテュスをめぐるやり取りが一瞬でてきました。
バルテュス好きなアントワーヌ。。
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