Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

ブリュッヘン+18世紀オーケストラ ベートーヴェン交響曲全集2011

2012-11-26 01:26:27 | music
Beethoven The Symphonies: Live from Rotterdam, 2011
クリエーター情報なし
Glossa



ブリュッヘンと18世紀オーケストラによる新しいベートーヴェン交響曲全集を買いました。
ベトベンどんだけ持っているのか??
金にあかして単なる買い物中毒なのでは?(多分そう・・・・)

全集を買うと真っ先に5番を聴く。
5番は曲が体に染み付いているので、この演奏がどんななのかを感じ取るにはよいのだ。

この盤の5番は第1楽章が面白く、特にロングトーンの処理がなかなか他にはない感じで、こういう1楽章もありなのだなーと気づかされる。

全体的に残響が豊かで、でもきらびやかな響きではなく弦のガットやティンパニの皮の質感がまーるく広がる感じである。
古楽臭さはあまりなく(いや、古楽くささに慣れちゃってるから気にならないのか)かといって巨匠的な大仰さもない、真摯な印象です。

特徴的なロングトーンの処理は第4楽章にも引き継がれていて、それは人によっては物足りない演奏に聴こえるかも。

インマゼール+アニマエテルナ盤↓とともに一聴の価値のある盤ではないかと、まあ5番と6番を聴いただけですけど思います。


Beethoven: Symphonies ouvertures
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Zig Zag Territories
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「第九 ベートーヴェン最大の交響曲の神話」中川右介

2012-11-19 00:09:05 | music
第九 ベートーヴェン最大の交響曲の神話 (幻冬舎新書)
中川 右介
幻冬舎


年末に向け気分を盛り上げるために読んでみました。

ベートーヴェンの第九の成立の経緯、
初演頃のややこしいやり取り、
ベートーヴェン没後の扱われ方、
後の時代の受容と演奏史
20世紀にかけての神格化
と、第九の受容史で貫かれているのだけれど、
初演当時のオーケストラ事情や
その後の演奏家、指揮者、オーケストラの人間事情や
評論の世界の動向
政治との関わりかたの変容
など、19世紀から20世紀の社会情勢を映し出してもいる。

本の構想が面白いということでもあるが、
このような構想を持てる1曲というのもなかなか第九以外にはそう見つからないだろう。



第九(を初めとするベートーヴェンの交響曲)が
初めはかなりの難物、変わった作品として受け取られていたというのも印象的。

その後のオーケストラや指揮者の充実により
曲の真価に迫る演奏が可能になってくるとともに曲が受け入れられ、
それとともに評論においても曲のもつ精神性や時代的な意義などが論じられ
次第に曲の含意が大きく広くなっていく様子が面白い。

ワグナーが多くの第九論を書き
ドイツ精神の反映としての第九という観点を切り開いて行くくだりも
ワグナー的な誇大さを思うと面白いのだが
それが後の第三帝国的なドイツ民族主義の高揚において第九が利用されることの布石となっていることを思うとただ面白がってはいられない。

この点は先日見たジーバーベルク「ヒトラー」でのワグナーの扱われかたを思い出すところである。
ワグナーは作曲家であるとともに論客でもあり、ドイツ至上主義的な精神論の礎を作った一人であることが、第九との関わりのなかでよくわかる。ジーバーベルクはこういう側面を理解していたのだと思う。

一方で第九は労働運動や共産主義運動においてもここ一番で担ぎ出される曲でもあることがまた面白い。
第九がそういう汎用性をもつメッセ-ジを湛えているということでもあるが
政治というのはそのようなものを敏感にとらえて利用するものなのだと実感する。
政治のポピュリズム的な節操のなさに第九が翻弄されてきたということなのだろう。


そのほかにも、第九を有名に、あるいは神格化するうえで貢献した指揮者の人間模様も
とても面白い。
ワグナー、メンデルスゾーン、ビューロー、マーラー、フルトヴェングラー、トスカニーニ、カラヤン、バーンスタインなど。
彼らは指揮者として第九にどのように取り組んで、それが第九の受容にどのように影響したのか、もさることながら、第九を巡って、例えばフルヴェンとトスカニーニが険悪な関係になるなど、人類みな同胞のメッセ-ジを持つ第九を愛する人たちとは思えない泥臭さがあって実に面白いね。

その他には第九の日本初演はいつなのかを史実を追って考えてみたり。


第九が新書1冊書ける曲であることをしっかり証明した本でした。


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「LAヴァイス」トマス・ピンチョン

2012-11-04 02:53:55 | book
トマス・ピンチョン全小説 LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス ピンチョン
新潮社


原題はINHERENT VICE
生まれながらの悪癖とか悪道とかいう感じでしょうか?

70年のLAを舞台にした探偵ものなのだけど
70年だから主人公の探偵ドックももちろんヤク漬けなわけ。
マリファナで記憶とか時系列とかが曖昧になってくるその狭間の
なんとなく覚醒している時間を使って
なんとか果敢にハードな仕事をくぐり抜けている感じが
妙にコミカルで可笑しい

細部がいちいち凝っていて
まったく実話のような情景描写なのもよい
というかいちいち細かいことに文を割くので
なんともかったるいテンポなのだが
その割に事態は結構急展開するので
まるでヤクでぼんやりした頭と現実を体験しているような気分になってくる。

事件自体もへんてこな展開で
女の失踪から始まって
黒幕と見えた男の背後には奇妙な闇組織が浮上してきて
いよいよその核心に至るかとおもいきや
死んだはずのヒッピーバンドのサックス吹きが現れて乱入
とうとう組織の船が現れたと思うと
失踪した女や男がひょろっと出てきたりして
あれ?事件の解決ってこれじゃなかったっけ?

なんかよくわかんなくなって
でもなんか最後は探偵と刑事が
奇妙な友情を匂わせながら
夕暮れの街を車で走り過ぎ
ビーチボーイズが流れたりして
終わる

おい、ここで終わるのか(汗)


なんとも軽妙で読み易いこれがピンチョンの最新の小説なのだ。
物語の本筋をカクカクと脱臼させてケムに巻く手法を
懐かしのヒッピー文化のもやもやした終末感を使って
ハードボイルド小説のパロディとして仕立て上げた
なんともメタフィクションの大御所らしい小説。
でも、らしくないくらい軽薄な風情にも仕上がっている。

随所に当時のポピュラー音楽の引用やら
シャロン・テイト事件とか
ビートルズ解散とか
たーくさんの文化アイテムへの言及がちりばめられているので
そういう点も面白い。


それから訳者による解説がしっかりしていて
面白いのです。
時代背景からヤクのことから訳のことからw


ピンチョン全集刊行中ですね。
がんばって全巻読むぞー


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