Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「族長の秋 他6篇」ガブリエル・ガルシア・マルケス

2007-09-11 13:27:03 | book
族長の秋 他6篇
ガブリエル・ガルシア・マルケス,鼓 直,木村 榮一
新潮社

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ガブリエル・ガルシア=マルケス全小説(新潮社)

「族長の秋 他6篇」
・大きな翼のある、ひどく年取った男
・奇跡の行商人、善人のブラカマン
・幽霊船の最後の航海
・無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語
・この世でいちばん美しい水死人
・愛の彼方の変わることなき死
・族長の秋


「族長の秋」は以前文庫版で読みはじめたけれど挫折し放置していた。が、今回読みはじめたら面白くて一気読み。この間に自分になにが起きたのか?

挫折の原因も一気読みの原因も、おそらくはこの独特な語り口にあると思う。
ずっと一人称で通されるにもかかわらず、語り手が目まぐるしく変わるという、小説ならではの視点の重層化。
それから時制もしばしばワープし、ことの終わりから語りはじめられる冒頭のシーンへ至る線が、何本も何本もはりめぐらされた螺旋的構造になっていること。(「予告された殺人の記録」にも見られる形だ)
滔々と言葉が数珠つなぎにくりだされ、ほとんどブレイクがないこと。(改行すらない)
そんな語り口がこの作品の魅力であり本質であるだろう。
ここにはまれれば一気に読み通すことができる。

***

「百年の孤独」が一族の何代にもわたる波乱の歴史であったのに対し、「族長の秋」は、南米の小国の独裁者一代の百年にわたる治世を描く。
おそらくは民族解放ゲリラ戦の末に手にした政権の長である彼の虚像は、影武者がいたりメディア統制をしていたりで、何十年経っても変わらず君臨する大統領だが、その実像は、疑心に満ち、邪悪な直感に突き動かされ、小事に動揺し、大事に大胆で、夜は「3個の掛け金、3個の差し金、3個の錠前」をおろした部屋で軍服も脱がずに不安な眠りにつき、母の面影に語りかける、深い孤独を生きる老人である。

不実な取り巻きたちと生きる独裁者を、沼地のような内面から描くことで、ラテンアメリカの独裁者のもつ豪胆や残忍の源がどこにあるのかを感じさせようということなのだろうか。虚実の双方に大きく広がった人間像を生きながら、そのどちらにも安住を許されない一人の人間と権力の謎を、これほどの言葉を費やして汲み上げる面白さは、並大抵の小説では読むことは出来ないだろう。ガルシア=マルケスならではの力量。

「百年の孤独」を読んだときはその力量に対抗する余裕がなくて、仕事を休んでまで読み体制に入ってしまった^^;が、今回も相当入り込んでしまった。病気休暇中に読んでよかったなあ。。

****

と同時に、冒頭の大統領府の異変に代表される、映画を観るような鮮烈なイメージにも圧倒された。屋敷を徘徊する牛、糞尿にまみれる荒れ果てた室内、破れた窓、飛び交うハゲタカ(だったっけ?)、そのなかに横たわるぼろ布のような人間、破れた服・・・・これを誰か映像化してほしい。グリーナウェイかトム・ティクヴァあたりでどう?

(でもあの文体の妙を映画で生かすのは至難の技だろう。映画は意外と線的で視線も単一なものなのかもしれない。)

***

これまた映画的な「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」(実際、映画の原作として構想された)を含む6編もなかなか魅力的。
大体が蒸し暑く泥や砂や汗にまみれた世界での幻想譚。小品は他の小説中のモチーフとしても再登場したりするので、それもまた面白い。

ガルシア=マルケスは、書き始めるにあたって、ふさわしい文体の発見に加えて、核となる視覚的イメージに霊感を得るタイプの小説家であるという。という意味では映画とのかかわりも気になるところ。

ガルシア=マルケスと映画については、同じ全小説シリーズの「悪い時」の解説に詳しいが、そこでは出演作や脚本執筆を含め映画とのかかわりの深さが解説されていて面白い。

「予告された殺人の記録」「エレンディラ」は映画化されているようであるが、未見。観たい。
他にこの本からは「大きな翼を持った老人」が映画化されている。
寺山修司「さらば箱舟」が「百年の孤独」を原作としているというが、これは相当に無理があるぞ!!
(他方「さらば箱舟」には、「族長の秋」に表れる、消え行く記憶に対抗してメモを書きなぐる男、というモチーフが使われているのも要チェック。)

映画といえば、グリーナウェイ「コックと泥棒、その妻と愛人」の凄惨の源泉はすでに70年代「族長の秋」にあったのか!という発見も。
凄惨を重要なモチーフとするグリーナウェイとガルシア=マルケスは、相当にかけ離れた風土にも係わらず共通するものがあると思う。この件については一度よく考えてみたいなと思う(が、考えないかもな・・)



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