YS Journal アメリカからの雑感

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東電 OL 殺人事件:佐野眞一

2011-07-22 05:53:45 | 書評
「東電 OL 殺人事件」は、佐野眞一だけでなく、私も激しく「発情」したのである。(在外日本人としては、当時の日本での雰囲気分からず)その証拠に、この本をわざわざ日本で購入しており、挙げ句の果てに、桐野夏生の『グロテスク』まで買っている。

今回、DNA 鑑定の不備で冤罪の可能性が高く、再審になりそうだと言う事で話題になっているが、時期も時期だけに、東電に勤務していた事に「発情」している可能性が高いと思われる。

ネパール人が有罪か無罪かと言う事には、最初から全く興味が無い。この本は、一審での無罪判決時点で書かれたと言う事あり、裁判傍聴の部分を読んでも、有罪を立証する事は難しいと思っていた。状況証拠だけで有罪とした高裁は、司法の自殺行為だ。疑わしきは罰するという、全くの素人判決であろう。90年代はイラン人や外国人が急激に増えており、漠然とした不安感が、司法にも出たのではかと(そう言う意味では、検察も)思ったりもする。

佐野眞一は、ジャーナリストと呼ぶには情緒的すぎて、私の好みでは無いが、思い入れの激しい所が、時々ツボにズッポシ嵌まってしまう事がある。戦後経済成長のしわ寄せを引き受けている翻弄される田舎の心理風景を、日本の悲劇全ての土壌と考えているようで、思わず引き込まれてしまう。(最新の『津波と原発』もそんな感じがする)「御母衣ダムー電力ー東京電力」。「御母衣ダムー水没ー円山ラブホテル街」など、全く事件とは関係無いのだが、思わず引き込まれてしまう。個人的な経験から「ダムー水没」などは、思わずグッときてしまう。

そんな事より、被害者の女性が、東京電力での総合職エリート(挫折していたという話もあった)でありながら、夜鷹(職業的と言う意味でピッタリの表現だと思う)を両立させていた凄みを、誰も理解出来ない所に、「発情」があるのだ。

世代が近いのだが、当時残念ながら、女性で総合職を目指す人に出会った事が無い。(落ちこぼれていた私は、そんな男とも縁遠いのだが)本を読みながら、もの凄く近くにいたはずなのに、自分にとって幻の様な存在で、その上、凄まじい精神力で売春を続けるこの女性に圧倒されっ放しであった。

日本に出稼ぎに来て冤罪で無期懲役で服役中のネパール人より、路上で客引きする女とアパートの一室で事に及んだ後絞め殺した真犯人がいる事より、永遠に解明されないであろう彼女の心の方にばかり心が奪われる。

冤罪、再審の可能性、そして東電と言う事で、不思議な再登場となった事件であるが、彼女の心の闇の強烈さを改めて思う。