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小学館「興福寺」は法相宗総本山の由来や、豊富な写真で国宝阿修羅像を始めとした仏像群と伽藍を解説

2019年03月17日 | 斜読

book484 興福寺 古寺をゆく編集部 小学館 2009   (斜読・日本の作家一覧)
 2019年3月、久方ぶりに奈良を訪ねた。きっかけは2018年12月に茨城・鹿島神宮を訪ねたときに奈良・春日大社との結びつきを知ったことと、春日大社に隣り合う興福寺の中金堂が再建され公開されたことである。
 といっても、仏門、仏像にさほど詳しいわけではない。手ごろなガイドブックを探し、小学館「古寺をゆく」シリーズの第1巻・興福寺を見つけた。

 とても読みやすい。写真が豊富である。仏像のほとんどが撮影禁止であり、寺院の中は薄暗いうえ離れているし、参拝は正面からなので仏像の側面や上面は見えない。本書はかゆいところに手が届くほどに写真を並べ、ていねいな解説がつけられている。
 以下の目次のように、順序よく網羅されていて、初めて興福寺を訪れる初心者も理解しやすいし、2度目、3度目の中級者にも読み応えがあり、予習にも、持参しても、復習にも、適書である。末尾の周辺散策、境内地図・散策マップもあり、格好のガイドブックにもなっている。

1章 興福寺はどんなお寺か
2章 天平の仏たち 国宝館Ⅰ
3章 平安以降の名宝 国宝館Ⅱ
4章 中金堂の再建
5章 東金堂と北円堂
6章 法灯のことば
7章 南円堂の信仰と仏
8章 五重塔と三重塔
9章 名僧物語
10章 四季と行事
11章 周辺散策
 興福寺年表/興福寺インフォメーション/コラム 国宝にみる阿修羅の姿/コラム 脱活乾漆造りの技法/コラム 灯籠をかつぐ天燈鬼と龍燈鬼/コラム 中金堂の発掘調査/コラム よみがえるナラノヤエデザクラ/興福寺境内地図/散策マップ

 P10興福寺遠望の写真と散策マップを眺めると、興福寺が奈良盆地の東、春日山、若草山の麓、猿沢池の北の台地に位置し、奈良市街を見はるかしていることが分かる。
 P16・・興福寺の起源は669年、藤原鎌足の念持仏を祀った山科寺にさかのぼる。平城京遷都710年より50年も古い。その後、厩坂に移り、710年、藤原不比等が現在地に移して興福寺と号した。
 一方、P18・・661年、唐から当時の法興寺=現元興寺に法相宗が伝わる。興福寺も法相宗を教学とし、のち大いに隆盛し、現在は興福寺が法相宗大本山である。法相宗については、6章法灯のことばに詳しく解説され、9章名僧物語でも触れている。
 法相宗の教学の基本=唯識思想は、世界のあらゆる現象、存在は表層の心と深層の心の働きによってつくり出されている仮の姿であり、心の働きを見極め真理に到達することを目指すそうだ。法相宗に関心があれば、6章の熟読を勧めたい。

 
 この本の表紙は国宝阿修羅像である。阿修羅像は国宝館に展示されていて、本書ではP22~に詳細写真とともに解説されている。奈良時代、脱活乾漆造でつくられた、高さ153cmほど、三面六臂、上半身裸の像である。
 脱活乾漆造についてはP52に製法が紹介さている。中が空洞になっていて軽いため、1180年の南都焼き討ちの際、持ち出すことが出来たそうだ。
 P26阿修羅像正面の顔は、司馬遼太郎は「無垢の困惑ともいうべき神秘的な表情」 と表現した。私は、愁いを帯びながらも強い意志を感じた。P28側面の顔は強い決意を表しながらも、表情は異なっている。
 P32~には北野天神縁起、法隆寺蔵・阿修羅像、三十三間堂・湛慶作阿修羅像を紹介していて、作風の違いが理解できる。

 国宝館には、P24~八部衆立像、P45~十大弟子立像、P50仏頭、P54千手観音菩薩立像、P56金剛力士立像、P58板彫十二神将像、P60天燈鬼と龍燈鬼などの国宝もアップの写真を掲載して紹介している。居ながらにして国宝館を参観している気分になる。

 興福寺は南面立地なので猿沢池側からの参観が良い。参道階段右手=東にP137五重塔が見える。本書には公開されていない釈迦三尊像の写真も紹介されている。
 五重塔奥のP84東金堂、P86薬師如来坐像ほか、さらに奥の国宝館で前述の国宝級の仏像と対面し、再建された中金堂でP74釈迦如来坐像群を拝観する。本書は2009年出版なので、P72に解体前の中金堂が紹介されている。
 中金堂を出て西に向かい、P125南円堂、北のP94北円堂、そして西外れのP142三重塔を見学、と末尾の地図を照らし合わせながら読み進むと興福寺の全容を見学し、すばらしい仏像に拝観することができる。

 興福寺参観を予定している方、復習の方におすすめの本である。(2019.3)

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