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2023.2香川 ベネッセハウスミュージアムを歩く

2023年12月10日 | 旅行
日本を歩く>  2023.2香川・直島へ ベネッセハウスミュージアムを歩く


 宇野港を望む宿で目を覚ます。海は静かで、すでに船が動いている。朝食を終え、チェックアウトし、キャリーバッグを宿に預ける。
 香川県直島・宮浦港行きはフェリーと旅客船が運航していて、乗り場が異なる。宇野港9:22発のフェリー乗り場に向かい、宮浦港300円の乗船券を買う。
 乗車予定の車が並び始め、待合室もにぎわいだした。ほどなく大きなフェリーが入港する。新しい船で、500人+61台を乗せることが出来る「あさひ」である(写真)。最前列に座り、瀬戸内海を眺めながら20分の船の旅を楽しむ。
 9:40過ぎに宮浦港に着く。草間彌生作「赤かぼちゃ」が見えるが、ツツジ荘行きの町営バスは10:00発なのでバスに急ぐ。


 直島はかつてMマテリアル、Hケミカルなどの産業開発が進められたが、1900年代半ば、町長が観光文化開発に力を入れ、石井和紘設計の小学校、幼稚園、中学校、役場、安藤忠雄設計のベネッセハウスなどが次々と建てられていって、アートの直島として知られるようなった。島を観光資源化する試み、日本を代表する建築家の作品を実感しようと20年?前に訪ねたことがある。その後も新しい作品が建てられ、瀬戸内アート、瀬戸内芸術祭などが開催され、耳目を集めている。
 定員28名の町営バス「すなおくん」は満席になった。地元の方も利用するが、途中のアート作品での乗り降りも多い。直島アートへの関心の高さがうかがえる。
 町営バス終点ツツジ荘バス停でベネッセアートサイトシャトルバスに乗り換え、ベネッセハウスバス停で下りる。


 坂道を上ると石積みの塀が立ちはだかる(次頁左写真)。石塀に沿って歩き、180度向きを変えるとベネッセハウスミュージアムの入口が現れる(右写真)。塀や段差で目標物を隠し、誘導路の向きを左右に変え、アクセスを長くし、来訪者の気持ちを集中させ、期待を高ませる手法である。安藤忠雄氏はこの手法が巧みである。
 ベネッセハウスは、1992年、「自然・建築・アートの共生」をコンセプトにして美術館とホテルが一体となった施設として、安藤忠雄氏の設計で開館した。瀬戸内海を望む高台の立地を生かし、大きな開口部、吹き抜け、吹き放し、空間の断絶と連続によって、瀬戸内海、島の自然と建築、アートを融合させている。
 ベネッセハウスミュージアムは予約不要なので、鑑賞料金1300円を払い、入館する。鑑賞順路はなく、自由に歩き、安藤氏の空間とアートの融合との出会を楽む仕掛けになっている。入口が1階で、カーブした廊下の左下にガラス越しに吹き抜けが見えるので、地階まで斜路を下る。
 コンクリート打ち放しの円と角が交錯した空間で、地階から3階まで吹き抜けていて、「young and live」「 young and die」のように○○liveと○○dieが並んだネオンが順に点滅していくインスタレーションだった(写真、ブルース・ナウマン作「100生きて死ね」)。
 天井には円形の天窓があり、閉じ込められた囚人が出ることのできない空を見上げ生きるか死ぬかを繰り返す、ということだろうか。
 ネオンの後ろの階段は壁で行き止まりになる。階段は上の階と下の階をつなぐといった既成概念を壊そうとしたのであろう。安藤氏の空間は奇想天外である。


 斜路を戻り、1階の展示を見る。壁面に押しつぶされた色とりどりのポットが展示されている(セザール「モナコを讃えてMC12」)。自由に何かを感じればいいのだろうが、ついついどう解釈すればいいのか考え、思考が止まってしまう。
 よく分からないまま展示を見ながら進むと、壁面に白地と黒地を反転させた泥仕上げの大きな輪があった(写真右、リチャード・ロング「瀬戸内海のエイヴォン川の泥の環」)。少し先には木製の床に木の切れ端が丸く並べられている(前掲写真奥、リチャード・ロング「瀬戸内海の流木の円」)。右の屋外テラスにも木の切れ端が丸く並べられている。「瀬戸内海の流木の円」とそっくりに見えるが、こちらはリチャード・ロングの「十五夜の石の円」らしい。泥と流木と円、???。相変わらず鑑賞は混沌としているがそのまま進む。


 その先は明るく開けていて、地階に向かって斜路が下っている。斜路からもジョナサン・ボロフスキーの「3人のおしゃべりする人」が見える。板を組み合わせた大きな人型で、下あごが動くように出来ていて、音を絶え間なく発している。3人の人形の向かいの壁面にはいろいろな国の国旗が並べられていて、うねうねとした線で結ばれている(柳幸典「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム」)。屋外のテラスには滑らかに磨かれた石が2つ置かれている(安田侃「天秘」)。
 向きを変えるとボートをかたどった黄色と黒の展示が置かれ、壁面に海と砂浜と打ち上げられた黄色と黒のボーとが描かれている(写真web転載、ジェニファー・バートレット「黄色と黒のボート」)。
 2階に上ると、安藤忠雄氏のベネッセハウス模型とドローイングが展示されている。ベネッセハウスの発想の原点が想像できるが、なぜそうした発想が浮かび上がるのかは想像を超える。
 テラスに出て冬晴れの瀬戸内海を眺める。展示を眺めてきて理解が追いつかないのをもどかしく感じていたが、瀬戸内海の陽光にきらきらする風景を見ていると気持ちが和やかになってくる。


 ベネッセハウスを出る。地中美術館の予約時間まで余裕があるので、ベネッセハウスミュージアムの入館券とセットになったヴァレーギャラリーに向かう。坂道を少し上ると、シャトルバスのバス停の先に仮設のような受付がある。ベネッセハウスミュージアムの共通券を見せる。谷あいの少し先の斜面に、安藤忠雄氏らしいコンクリートの塀が視界を遮っている(写真)。
 踏み固められた細道の足下には、豊島の産業廃棄物処理後のスラグを素材にした小さな仏が並んでいる(小沢剛「スラグブッタ88」)。数えなかったが谷あいに88体が置かれているそうだ。
 池の縁を過ぎると、銀色に輝くミラーボールが無数に散らばった風景が広がる(草間彌生「ナルシスの庭」)。
 ミラーボールは安藤氏のコンクリート塀で行き止まり、来館者は左に折れて緩い階段を上り、コンクリート塀の向こうを右に折れると、コンクリートの台形平面の建物に開けられたスリットの入口が現れる。台形平面は二重壁になっていて、ミラーボールが転がっているあいだの階段を上る(写真)。外壁上部は開け放しである。
 安藤氏は、季節ごとに移り変わるランドスケープの体感をコンセプトにしたようだ。
 斜面には回遊路が設けられている。足下がおぼつかない坂道を上ると、谷あいのヴァレーギャラリーを俯瞰することができる(写真)。安藤氏は結晶のような強度をもった空間を作ろうとしたそうだ。確かに、ヴァレーギャラリーは、谷あいに存在を主張している。


 シャトルバス通りに戻る。バスの時間まで少し間がある。反対側に李禹煥美術館の案内板があったので坂道を下りると、林を背にしたコンクリートの壁が立ちはだかっていた(左写真)。安藤忠雄氏らしい建築である。李禹煥氏のことは不学で知らなかったが、国際的に評価の高いアーティストだそうだ。館内を見学する時間はないが、李禹煥氏デザインの垂直の塔を中軸にして海を見下ろすと芝生に台座が置かれていて、その上の大きな放物線のアーチが瀬戸内海の風景を切り取っている(前頁右写真)。
 単なる風景としての瀬戸内海が、塔と台座とアーチによってアートとしての風景に変換する。自然と人工の融合ということだろう。  (2023.12)

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