2017.11 顔見世大歌舞伎観劇
2017年11月、顔見世大歌舞伎・4時半開演の夜の部の観劇に出かけた。4時半まで時間があるので、上野・国立西洋美術館に寄って「北斎とジャポニズム展」を鑑賞してから、JRで上野駅から有楽町駅に行き、晴海通りをのんびり歩いて歌舞伎座に向かった。
昼の部は11時開演、夜の部は4時半開演で、どちらも食事にぶつかる。かつての観劇のあいまに飲食する風習がいまに残り、11時、4時半開演が設定されているのかも知れない。1階桟敷席は食事付きで観劇を楽しむことができるが、1階桟敷席は20000円でとても手が出ない。歌舞伎座内にも、鳳、花篭、吉兆の食事処や喫茶檜があり、予約しておけば幕間を利用して食事ができる。弁当も売店で売られている。今回は、晴海通りの向かい側の弁当屋で購入し、幕間に頂いた。
歌舞伎座の客席は1階~3階に分かれ、1階は20000円の桟敷席と18000円の1等席、14000円の2等席、2階は1等席、2等席で、年金生活には高嶺の花である。庶民は3階A席6000円かB席4000円になるが、当然ながら観劇しやすい席から埋まっていく。今回は、web受付と同時に購入予約をしたので、3階東を選ぶことができた。3階東は舞台の東端は見えにくいが、1列席なので前後に席はなく視界が広い。気兼ねもしなくていい。なにより花道を一望できる。楽しみだ。
夜の部の第1は、「仮名手本忠臣蔵五・六段目」、一幕三場である。パンフレットのキャッチフレーズには「様式美と洗練された演出で描く男の悲劇」と記されている。様式美とは、歌舞伎固有の様式のことだろうか?。
幕が上がると、舞台に粗末な住まいがしつらえられていて、片岡仁左衛門扮する早野勘平と片岡孝太郎扮する女房おかるの演技が始まる。
義太夫狂言三大名作の一つだそうで、3階東の席からは見えないが、舞台の右手=上手に「ツケ打ち」が座っていて、「ツケ板(欅が使われる)」を「ツケ木(樫が使われる)」でリズミカルに打ち鳴らし、ツケに乗って物語の背景、物語の展開、演者の心情などが義太夫節で語られていく。
義太夫によれば、塩冶判官エンヤハンガン(=浅野内匠頭)が高師直コウノモロナオ(=吉良上野介)に刃傷し、切腹、家名断絶となったとき、早野勘平は主君の一大事に居合わせなかったため、その責から猟師になっていた。しかし、なんとか主君の仇を討とうと、同志の板東彦三郎扮する千崎弥五郎に資金の調達を約束する。
猟師ではそんな大金を得ることはできないので、おかるを身売りすることにして資金を手に入れる・・女房を身売りとは無茶な話だ・・。その資金を懐に入れていた父与市兵衛は、市川染五郎扮する斧定九郎に襲われて命を落とし、資金を奪われる・・金のために人を殺すなんて無茶な話だ・・。
ところが猟に出た勘平が猪を撃つが誤って定九郎に当たり定九郎は命を落とす・・誤射とはいえ人を殺すのだからこれも無茶な話だ・・。なんと、勘平は懐の金を持ち逃げする・・これも無茶な話だ・・などの展開が、勘平、おかる、上村吉弥扮する勘平の母おかやの演技+会話とともに義太夫で語られていく。
そこへ片岡秀太郎扮するお才がおかるを引き取るため登場、次いでむしろで覆われた定九郎の遺骸が届けられる。おかるの話を早とちりし、勘平は自分が撃ったのが父与市兵衛と思い込んでしまう。
そこに千崎弥五郎、板東彌十郎扮する不破数右衛門が現れ、いよいよ仇討ちのときが来たと話す。勘平は父を撃ち殺した不忠者だからと、弥五郎、数右衛門の目の前で切腹してしまう。
ところが、父を殺めたのが定九郎だと分かる・・早とちりで切腹するのも無茶な話だ・・。息も絶え絶えの勘平は仇討ちの血判状に名を連ねることが許され、血判を押したところで息を引き取り、幕となる。名演技、義太夫の語りはさすがだが、話が無茶過ぎると思った。
幕間に弁当を食べる。席が窮屈で足が縮こまってしまうから、館内をぐるりと歩いているうち、開演のベルが鳴った。
演目の第2は、恋飛脚大和往来「新口村」で、坂田藤十郎扮する亀屋忠兵衛と中村扇雀扮する傾城梅川の逃避行がテーマである。飛脚問屋に勤める忠兵衛は遊女梅川を身請けするため商売の金に手を出し、追われる身になった。
二人は忠兵衛の故郷新口村にたどり着く。雪化粧の忠兵衛の実家が舞台で、花道から中村歌六扮する忠兵衛の父孫右衛門が登場する。孫右衛門が雪で転び、鼻緒を切ってしまう。それを見た梅川は孫右衛門を助けおこし、鼻緒を直す。
孫右衛門は梅川が忠兵衛の連れと気づき、親子が再会するが、追っ手が近いので、泣く泣く忠兵衛・梅川は孫右衛門に教えられた山道に逃げ、幕が下りる。解説によれば「哀感漂う味わい深い上方狂言の名作」である。動きは静かで、見得も切らないが、親子の悲しい別れが伝わってくる。
最後の演目は元禄忠臣蔵「大石最後の一日」で、一幕だが途中で幕が下り舞台設定が変わる。吉良邸に討ち入り、主君の仇を討ったあと、赤穂浪士は4大名に分かれて預けられた。松本幸四郎扮する大石内蔵助始め17名は細川家に預けられた。
舞台は細川家の屋敷である。浪士の一人市川染五郎扮する磯貝十郎左衛門は、吉良低の様子を探るため許嫁の中村児太郎扮するおみとの結納の日に姿を消していた。
おみのは十郎左衛門の真意を確かめようと、男装して細川家を訪ね、内蔵助に苦しい胸の内を話す。内蔵助の計らいで十郎左衛門はおみのと再会し、二人は愛を確信するが、無情にも切腹の沙汰が伝えられる。
赤穂浪士は順に花道を去って行き、最後に内蔵助が花道に消えて幕が下りる。解説には「赤穂浪士の最後の姿を描く史劇の傑作」とあるが、十郎左衛門・おみのの再会と別離もなかなかの演技だった。
歌舞伎座は、新橋演舞場のスーパー歌舞伎などに対し、伝統が重んじられ、様式美が追求されるということのようだ。役者の名演技に拍手を送り、歌舞伎座を後にした。