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映画化された「武士の献立」は加賀騒動を織り込みながら、健気な春と包丁侍安信の夫婦を描いている

2019年03月12日 | 斜読

book483 武士の献立 大石直紀 小学館文庫 2013   (斜読・日本の作家一覧)
 2018年5月、金沢の武家屋敷を歩き、四季のテーブルというレストランで「武士の献立」のポスターを見つけた。2010年に加賀藩の武士を主人公にした「武士の家計簿」、2013年に同じく「武士の献立」が映画化されたそうで、テレビで再放送を見た記憶がある。加賀百万石の武士が主役だったことはさほど意識していなかったが、加賀藩はかなり経済が逼迫していたらしい。2019年2月に「武士の家計簿」を読んで(book480参照)、中下級武士の現実を知ることが出来た。

 続いて「武士の献立」を読むことにした。「武士の家計簿」は古文書を解読した学術研究を分かりやすくまとめた本だが、「武士の献立」は春、舟木安信を主人公にした夫婦の物語である。春は出来すぎと思えるほど理想化されている。献身的で健気で笑い顔の絶えない春に、突然、安信が改心し、夫婦が抱き合い、大団円で終わるという結末も、良かった良かったと胸をなで下ろすものの、物語としては順当すぎる。しかし、ホームドラマの後には生々しい加賀藩の確執が隠されている。
 物語の展開は、序章、第1章 春の嫁入り、第2章 春の賭け、第3章 春の悲しみ、第4章 安信の憂鬱、第5章 安信の決意、第6章 春の決断、第7章 夫婦の行方、終章 である。

 時代は、加賀藩5代藩主=前田家6代吉徳(1690-1745)、加賀藩6代藩主=前田家7代宗辰(1725-1747)、加賀藩7代藩主=前田家8代重煕(1729-1753)にかけてだが、藩主たちは登場しない。「武士の家計簿」が幕末~維新のころの藩財政の困窮が語られるが、「武士の献立」でも1700年代の厳しい藩財政が背景になっている。加賀百万石、実質120万石ともいわれるが、それ以上に出費がかさんだようだ。この本にも藩経済立て直しが描かれる。

 冒頭は加賀藩江戸屋敷で主役の春が登場し、春が嫁入りした後は金沢に舞台を移し、終盤には能登の食材探しも舞台になる。
 春は吉徳の側室・お貞の方に見習い奉公で仕えて間もなく実家の火事で家族を失い、お貞の方に勧められて嫁いだが離縁となり、再びお貞の方に仕えていた。お貞の方は実在した側室で、吉徳に認められ藩政改革を進めている大槻伝蔵と密かに相思相愛の仲だったとされる。
 伝蔵も実在する。足軽出身で、改革が急進だったため、加賀八家筆頭・前田土佐守ら守旧派が反発していた。
 土佐守も実在する。吉徳の死に伴い長男の宗辰が跡を継ぐ。土佐守ら守旧派は勢力を挽回し、伝蔵を流罪にする。宗辰が早世し次男の重煕が藩主となるが、重煕毒殺未遂事件・・いわゆる加賀騒動・・が起き、お貞の方=吉徳没後は真如院に嫌疑がかけられ、幽閉される。この本でも、史実通り伝蔵、真如院は自害する。

 冒頭の江戸屋敷で料理を振る舞うのが、武士の料理人=包丁侍の舟木伝内である。伝内は、吉徳、伝蔵が進めている倹約を実行し、鶴もどきを配膳した。家臣たちは鶴もどきの正体が分からなかったが、お貞の方に付き添ってきた春が見事に言い当ててしまう。
 伝内は春の料理の腕前を高く評価し、息子・安信の嫁になってくれと申し出る。出戻りの春はすでに27才、安信はまだ23才、春は辞退するが、伝内が土下座して願い、お貞の方も勧めるので、嫁入りを決め、金沢に向かう。
 舟木家には長男がいて、伝内の跡を継ぎ包丁侍になることになっていた。次男の安信は小さいころから道場に通い、武道に励んでいた。安信は、道場の師範の一人娘・今井佐代と好き合っていて、いずれ師範代となり、佐代と結婚するのが夢だった。
 ところが長男が病死し、安信が包丁侍の跡を継ぐことになる。武士も佐代もあきらめなければならない運命に心が乱れ、安信は奉納試合で幼なじみの定之進に負けてしまい、定之進が今井家の養子となり、佐代と結婚する。

 伝内は、料理に力が入らない安信を立ち直らせようと、料理の得意な春との縁談を考えたようだ。しかし、江戸からの長旅で金沢入りした春に安信はつらく当たる。
 ほどなく、親戚が集まり安信が包丁侍の跡継ぎにふさわしいか試す饗の会が開かれた。安信の料理に苦情が相次ぐ。春は独断で吸い物を作り配膳すると、親戚中が美味いと賞賛した。
 勝手な振る舞いをしたと、安信が春に当たり散らす。春は包丁侍がつまらない役目と思っているからつまらない料理しかつくれないと安信に反論し、包丁の腕比べとなった。当然ながら春が勝ち、安信は武士の約束通り春に料理を習い腕を上げていく。

 今井定之進は大槻伝蔵と親交があり、密かに伝蔵が金沢入りし、守旧派の土佐守を倒そうと画策する。それを聞いた安信は、包丁侍か、武士として藩政改革に加わるか、気持ちが揺れる。
 藩主が宗辰、重煕に代わり、土佐守が主導権を取り戻し、伝蔵が流罪となり、お貞の方が幽閉される。

 金沢に戻った伝内は、重煕の着任祝いで徳川家はじめ諸大名にふるまう饗応料理を任される。伝内と安信が饗応料理の準備に入って間もなく、定之進らが土佐守を倒そうと集結する。安信は定之進に加担しようと刀を春に準備させる。ことの重大さに春は刀を持って家を飛び出す。やむを得ず、安信は木刀を持って集結場所に向かうが、時遅く、謀叛を知った土佐守が定之進らを一網打尽にしていた。
 激怒した安信は、家に戻った春を手打ちにしようとするが、母・満が長男に続き次男まで死なせるわけにはいかない、春の機転のお陰だ、と安信のほおを叩く。
 伝内は心の病で倒れていたので、安信と春が饗応料理の食材を求めて能登に旅発つ。安信は春に冷たい・・。話が飛んで、饗応料理は大成功するなか、春は私の役目は終わったと、舟木家を出る。帰宅した安信は春を探す旅に出る・・。
 ・・ホームだラマ仕立てだが、加賀料理や加賀藩の財政と主導権をめぐる確執がよく理解できるし、なにより春の理想化された健気さがよく描かれている。(2019.3)

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