中国・蘇州同里鎮の住まい 中国民居を訪ねる /建築とまちづくり誌 1992.10
1992年8月、再び上海同済大学専家楼に荷物をおろす。盛夏らしく、最高気温38゚Cが我々を出迎える。ここ数カ月、雨らしい雨が降らず、連日、猛暑とのことだ。
日頃、冷房なしの自然の摂理に身をゆだねて仕事をしてきた私ですら、内心、猛暑に辟易したぐらいだから、初めて上海を訪ねた同行の面々はさぞやびっくりされたと思う。ともあれ厳しい自然に会えたことは、地域を知る近道には相違ない。
暑ければ水が恋しくなるが、上海の水はお世辞にもほめられない。独特の消毒臭があるうえ、透明度がなく、いくら沸騰させてもそのまま飲むには抵抗がある。いつもながら海外にきて、日本の水のありがたみを痛感する。ペットボトルの水を得意になって飲んでいる諸君、もう一度水について考えて欲しい。
人間は水無しでは生きられない。直接、飲用にすることもあれば、水のおかげで野菜や動物、魚を食することもできる。このような水の働きを人との関係でみれば、水の生命作用といえよう。
人はその恩恵を得るために、一方で水の浄化運動に努力することが必然となってくる。専家楼の風呂につかりながらそんなことを考え、あわてて石鹸の使用をやめたりした。なにごとも思い付いたときが出発点、小さくてもスタートすることが大事だろう。
水は生命作用のほかに運搬作用の働きをももつ。動力がなくとも高いほうから低いほうには水の流れにのって移動できるし、浮力によって大量の荷を担える利点がある。
大河あるところに都が栄えると言っても過言ではない。蘇州を始め江南地方には、自然の流れを人工の水路網で縦横につなぎ、商都として活気づいている町が数多い。
訪ねた同里鎮(鎮はおおむね町に相当)も、典型的な水網都市の一つである。
水路と道路、家並みは大ざっぱにみて、水路に沿って道路、道路に面して住居が並ぶ場合と、水路と道路に挟まれるかたちで住居が並ぶ場合に分けられる。
前者は2階建てで住居が多く、開放的で落ち着いている。対して後者は3階建てで1階に商店を構え、閉鎖的だが活気づいている。
2階か3階か、住居か店舗かは自然発生だそうだが、後者は水路側を荷おろし、サービス空間、道路側を商用空間に使い分けられる利点があり、地の利にかなっている。
紹介する民居は前者に相当する(写真はホームページに)。建てて100年以上というから、清の末期だろうか。
木造軸組・煉瓦積み・漆喰仕上げの作りで、当時は木構造が優位であったことをうかがわせる。歩測で間口を計るとだいたい4m弱、奥行きは約8m。尺が基準として用いられたというから、およそ3.6m×8.1mになろうか。
1階、2階とも大きく二部屋に分かれ、それぞれ客堂間(写真はホームページに)・小房間、大房間・小房間と呼びならわすそうだ。
客堂間は、炊事・食事・団らん・接客・行事にあてられる。3つの房間は、以前は夫婦に子供3人だったのでそれぞれ私室として使われていたようだ。現在は母と息子の2人で、それぞれ1階、2階の小房間を用いる。
毎日のように近くに住む孫が遊びにくるようで、孫の話になると満面笑顔。子がかすがいなら、孫は長寿の秘薬と思う。