<日本の旅・群馬の旅> 2020.9 谷川温泉・宝川温泉 5 吹割渓谷を歩く
3日目、宝川温泉旺泉閣東館の窓を開けると、山あいの森閑とした空気のなかを宝川の音が響く。もやっと温泉の湯気が流れていて、子宝の湯、般若の湯、摩訶の湯に気が引かれるが、冷えている朝は血圧が乱高下しやすいので不測の事態を避け、諦める。
9:30過ぎ、チェックアウトし、県道63号線を下り、大穴交叉点で国道291号線=奥利根ゆけむり街道に左折し、月夜野に向かう。奥利根ゆけむり街道は、井戸上町交叉点あたりで同じ国道291号線だが月夜野バイパスに名を変える。
戸鹿野町交叉点で国道120号線=日本ロマンチック街道に左折し、吹割の滝を目指す。10:50ごろ、吹割の滝市営駐車場に着いた。
吹割の滝は天然記念物に指定され、日本の滝百選に選ばれている。片品川の流れが凝灰岩、花崗岩を浸食し、吹割の滝、鱒飛びの滝などの落差のある岩の割れ目、はんにゃ岩、獅子岩などの奇岩をつくりだしたそうだ。
天然記念物に指定されている吹割の滝は落差が7m、幅が30mで、東洋のナイアガラとして人気があるらしい。
駐車場の案内図を見ると、一周2400mほどの吹割渓谷散策路が整備されている(写真。web転載)。駐車場から片品川に架かる吹割大橋を渡り、土産物屋が並ぶ遊歩道を歩く(図①)。人出は多い。マスクを用意し、すれ違うときは着用する。
階段を下ると、岩のあいだを勢いよく流れ落ちる鱒飛びの滝に出る(写真、図②)。このあたりまで鱒が遡上していて、この滝で懸命に滝を登ろうと鱒が飛ぶことからこの名が付けられたそうだ。この日は飛び上がる鱒は見られなかった。
その先の対岸の岩は形が般若の顔に似ていることからはんにゃ岩と呼ばれる(写真、右手の岩、図③)。奇岩が続くが、遊歩道は狭く、行き交う人も多いので、奇岩に気を取られると川に落ちそうになる。 岩場が広くなり、大勢が写真を取り合う吹割の滝(写真、図⑤)が現れる。水量が多く、瀑布が勢いよくしぶきを飛ばしている。水の力が高さ7m、幅30mの岩の割れ目をつくったのであろう。水の流れをジーとみていると吸い込まれていくように感じる。水には人を惹きつける霊力があるようだ。
川幅が広くなり、流れが緩くなる。吹割の滝の先に向かう人は少なくなる。風も流れウイルスのリスクも少ないので、人がいないときにはマスクを外し、新鮮な空気を思い切り吸い込む。
川中の平たくて広い岩には千畳敷の名がついている。大小二つの並んだ岩は夫婦岩と呼ばれている。このあたりは川幅が広いが、片品川はよほどの水量らしく、上流から押されているように次々と水が白波を立てながら下ってくる。
川の風景を眺めながら遊歩道を歩き、吊り橋の浮島橋(図⑨)を渡る。浮島(図⑩)には浮島如意輪観音を祀った浮島観音堂が建っている(写真)。三間四方に方形屋根をのせた小さな堂だが、創設は759年と古い。その後荒廃したらしく、1469年に再興され、老朽化が進んだので1984年にいまの形に再建されたそうだ。
説明坂の浮島如意輪観音由来によると、江戸時代初期の彫刻職人・左甚五郎(1584-1644、日光東照宮の眠り猫を始め各地に名作を残している)が日光東照宮で彫刻製作を終えたあとこの近くの追貝宿に一泊し、その晩に如意輪観音座像を彫り上げたとされる(写真)。
もとは白木の像だったが、明治時代、誰かが前橋の塗師に金箔塗を依頼、1945年の大空襲後、追貝の寺に保管され、1990年に浮島観音堂に安置されたそうだ。いくら名人とはいえ一晩で彫り上げたというのは話が大げさすぎるが、信じることも大事、そう思い穏やかな顔の如意輪観音座像に合掌する。
浮島から対岸に吹割橋が架かっていて、対岸には片品川に沿って崖の斜面に遊歩道が吹割大橋まで整備されている。林道のような坂道を上る(図⑫)。詩のこみちと名づけられているが、とくに詩碑は見当たらない。詩心を持って歩けといことだろうか。
道は林に覆われ、片品川の渓谷はチラチラとしか見えない。しばらく歩くと、第1観瀑台が設けられていて、木々のあいだから片品川を望むことができる。
そのまま林道を下ると第2観瀑台がある。広々とした風景のなかを片品川がゆったり流れている(写真)。しばし、ウイルスの脅威を忘れ、気分をほぐす。
少し先の第3観瀑台を過ぎ、坂道+階段を下ると吹割大橋のたもとに出る。
出発が12:15ぐらいだったから、一周2400mを80分ほどかけて散策したことになる。東洋のナイアガラあり、片品川の清流あり、左甚五郎作の観音像あり、林道の上り下りあり、と趣向が凝らされほどよい散策になった。
国道120号線=日本ロマンチック街道を戻りながら食事処を探す。大衆食堂、ラーメン店、焼き肉屋などがあったが昼時で混みあっている。感染リスクを避けられる広々とした食事処を探していたら、道の駅白沢・望郷の湯・展望レストランの案内を見つけた。国道120号線を左に折れたすぐに、方形の大屋根をのせた施設があった(写真)。
マスクを付け、入口で手を消毒する。受付で検温し、スリッパに履き替える。レストランは広々として天井が高い。感染リスクは問題なさそうだ。他の客とは十分に空きをとり、そば膳をいただく。
館内の説明には、河岸段丘の北の白沢高原に建っていて、南東の赤城山と河岸段丘を眺めることができるらしいが、レストランの大きなガラス窓の向こうの松林が視界を遮っていた・・望郷の湯から絶景が眺められるようだが、湯に入るのは慌ただしいので諦める・・。
昼食後、沼田ICから関越道に入り、川越ICで関越道を下り、夕刻に家に着いた。3日目は吹割渓谷しか歩いていないから歩数計は8600歩にとどまった。3日間でのべ27200歩、一日平均9070歩だから、<よく歩きました、○>であろう。
感染リスクを避けながら、・・梅雨の長雨で予定がいくつか変更になったが・・自然を訪ねて心身を癒やし、ささやかながら経済活動も行えた。今回の試行をもとに次の旅を工夫したい。 (2020.11)