<静岡を歩く> 2018.7 富士を歩く ゲリラ豪雨+鳴沢氷穴+富岳風穴
冬になると、バルコニーから、雪で稜線がくっきりと浮かび上がった秀美な富士を眺めることができる(写真)。ただし、100km以上離れていて雄大さには欠ける。さらに送電線が視界に入り、秀美さを邪魔している。
富士の雄大さを間近で眺めようと、何度か、富士の東西南北の宿に泊まった。比べると、送電線に邪魔されてはいるが、マンションから見える形がもっとも秀麗に感じる・・自画自賛?・・。
富士山にはまだ登ったことはない。登山は大学時代の燧岳ぐらいしか経験に乏しいし、すでに脚力の衰えを自覚しているので、山頂登山は考えたことはないが5合目まで車で行き、5合目付近の初心者向けトレッキングコースを歩くことはできそうだ。そんなことを思っていたら、数年前に富士を間近で見ようと泊まった河口湖畔のホテルマウント富士から優待割引クーポンが届いた。渡りに船である。富士山の天候は急変するから予測できないが、河口湖あたりの長期天気予報で晴ないし曇りが並んだ7月にホテルを予約した。
初日、朝9時半ごろ、トレッキングもできるスニーカーやウインドヤッケ、トレーナーを車に積んで、走り出す。川越ICで関越道に入り、鶴ヶ島JCTから圏央道、八王子JCTから中央道を走る。雲がときどき流れるていどの晴だったが、河口湖ICに近づくころに見えてくるはずの雄大な富士が見当たらない。富士に雲がかかっている。今日が駄目なら明日、と思いつつ河口湖ICを出る。
家からおよそ2時間、12時半ごろ、河口湖畔の食事処でほうとうを食べる。ほうとうは山梨あたりの名物で、うどん状の太い麺をカボチャなどの野菜とともに味噌仕立てで煮込んだ料理であり、「農山漁村郷土料理百選」にも選ばれている。ふ~ふ~言いながらほうとうを食べ終え、河口湖から富士を眺めると、山頂は顔を出したが、中腹は雲に隠れている。富士スバルライン+5合目トレッキングはあきらめ、河口湖バイパスを西に走り、鳴沢氷穴に向かう。
突然暗くなり、一気に土砂降りになった。ワイパーを全速にしても前が見えにくい。なんとか鳴沢氷穴の表示を見つけ駐車場に車を停める。大勢の観光客がずぶ濡れのまま、あきらめ顔で歩いている。気の毒だが助けようがない。
氷穴の見学なら濡れないと思ったが、とんでもない、傘を広げ車から出た瞬間、バケツをひっくり返したような雨でたちまちスニーカー、ズボンの裾がびしょ濡れになった。
局地的な集中豪雨をゲリラ豪雨と呼ぶが、最近、ゲリラ豪雨が各地で多発し、大きな被害になっている。情報の進化でゲリラ豪雨の被害をいち早く知るからゲリラ豪雨の多発を感じるのか、それとも地球全体の気候変動が急速化していてその一つがゲリラ豪雨なのか。気候変動とゲリラ豪雨との直接的な因果関係はまだ明らかになっていないが、少なくともcop21気候変動枠組条約の有効な実践を期待したい。
土砂降りが止まない。濡れたまま、氷穴入場券を買う。近くには富岳風穴もあり、割引になる洞窟セット券を買う。入場口でヘルメットをかぶる。入場口から氷穴入口まで山道を少し歩く(写真)。
見学を終えた外国人グループが傘無しで濡れながら戻ってきた。洞窟見学中に土砂降りになったようだ。足元は豪雨が流れていて、スニーカーは中まで水がしみこんでしまった。
氷穴は「いまから1100年以上前に富士山が噴火し、流れ出た溶岩が冷めて収縮したときに内部のガスが噴出して空洞ができ、地下21mと深く年間平均3℃と気温が低いため、したたり落ちる湧水が冬に大きな氷柱となり、その天然氷をブロック状に積み重ね冷蔵庫として活用した」そうだ。
洞窟入口から階段を下る。足元の岩は凸凹で、濡れているため滑りやすい。下がるにつれどんどん冷えてくる。ウインドヤッケを着込んできたが、寒気が勝っていた。天井の高さが90cmほどしかないところもあり、ヘルメットを何度もぶつけながら、腰をかがめ奥に進む。
最奥に氷柱が再現されていた(写真)。ライトアップされた氷柱は、まるで春に土から芽を出し天に向かって育つ植物のごとく、伸び上がろうとしているように見える。近くには仮設棚が作られていて、貯蔵庫も再現されていた(写真)。
鳴沢氷穴は環状形になっている。寒さに震えながら周回して洞窟入口に戻った。雨は小降りになっていて、空も明るくなってきた。氷穴売店に併設された休憩・展示ホールで、濡れたズボンを拭きながら展示を眺める。
鳴沢氷穴から西に走る。数分で富岳風穴の駐車場に着いた。雨はすっかり上がっていた。突如として現れ、さっと消える、まさにゲリラのような雨だ。ついでながら、スペイン語のguerrillaが語源である。
林の中を歩くと入場口があり、ヘルメットを受け取る。樹林のなかに遊歩道が整備されている。海抜1000mの標識の先に風穴入口の下り階段がある。天井がかなり低い。ヘルメットをぶつけ、身体をよじりながら進む。
風穴は「流れ出た溶岩の上部が先に固まり、下部はそのまま流れ、あいだに隙間ができて固まった空洞」だそうだ。富岳風穴は総延長およそ200mの細長い一本の空洞で、左が往路、右が復路に区分されている。平均気温3℃、やはり寒い。横穴風の支洞は氷が重なりあっていた。
溶岩棚、縄状溶岩の説明があったが、地質には疎い。行き止まりにはヒカリゴケが光を放っていた(写真、青い明かりは照明、最奥がヒカリゴケ)。太陽がまったく当たらないのに光を発するとは、不思議な苔である。
復路を戻り、ヘルメットをぶつけ、かがむようにして難関を抜け、洞窟を出る。樹林の中に遊歩道が伸びているが、スニーカーもズボンも濡れているので、宿に向かうことにした。
富士パノラマライン=国道139号線を東に戻り、富士急ハイランド近くから国道138号線を走って、山中湖の北の高台のホテルマウント富士に15:30ごろ着いた。チェックインし、スニーカー、ズボンの汚れを落とし、温泉につかって身体をほぐす。
富士は相変わらず中腹に雲がたなびいていた(写真)。山頂からは彼方が遠望できそうだが、もし5合目に行ったとしても雲に包まれ何も見えなさそうである。ふと「富士は遠きにありて思うもの・・」が浮かんだが、室生犀星から人生の苦悩が分かっていないと叱られそうだ。富士を遠望しながら湯上がりのビールを楽しむ。 (2019.2)