book472 ブルー・リング A.J.クィネル 集英社文庫 2000
イギリス人A.J.クィネル(1940-2005)著の元傭兵クリーシィ・シリーズの第1作・燃える男(1980、b380参照)、第2作・パーフェクト・キル(1992、book436参照)を順に読んだ。第3作・ブルー・リング(1993)は図書館で貸し出し中だったので、飛ばして第4作・ブラック・ホーン(1994、book437参照)、第5作・地獄からのメッセージ(1996、book463参照)を読んだ。
クリーシィ・シリーズでは1作ごとにクリーシィも仲間も年を取っていく。1作目で瀕死の重傷を負ったクリーシィは、親友のグィドーの妻の実家があるマルタ共和国のゴゾで健康を取り戻す・・著者クィネル自身がゴゾに住んでいた・・。
2作目で飛行機爆破テロによりゴゾで結婚した妻と幼い娘を亡くしたクリーシィは、孤児院で育ったマイケルを養子にして訓練を重ね、同じテロで妻を亡くしたアメリカのグレインジャー上院議員からの資金援助を受け、テロリストを倒す。
4作目は、グレインジャーの選挙区の夫人の一人娘がザンベジ川のほとりで射殺され、グレインジャーを通して犯人探しを依頼されたクリーシィとマイケルが犯人を見つけ復讐を果たす。このときの銃撃でマイケルは半身不随となり、自殺する。
この4作目にクリーシィの新たな養子ジュリエットの名前が出る。ジュリエットはグレインジャーを頼ってアメリカ留学しているが、4作目、5作目には登場しない。クィネルが元気であれば6作目ぐらいでジュリエットが養父クリーシィと活躍したのではないだろうか。
今回読んだ3作目に戻る。プロローグに登場するのはデンマーク人の若い女性ハンネ・アンデルセンで、男に騙され、麻薬中毒にさせられてしまう。ハンネはこのあとの展開には無関係である。続いて、コペンハーゲン警察行方不明人捜査課刑事イェンス・イェンセンが登場する。
イェンス・イェンセンは、4作目以降ではクリーシィの仲間として活躍する。3作目で警察の限界を感じたからである。イェンスは立て続けに起きている若い女性の行方不明を捜査しているうち、謎めいたブルー・リングという闇の組織を知る。
マイケルを育てた孤児院のゼラファ神父が、マイケルに母が危篤だと伝える。マイケルは自分を捨てた母に会って、母がアラブ人に騙され麻薬中毒にさせられ、娼窟に売り飛ばされ、やむを得ずマイケルを捨てたことを知る。
クリーシィは手がかりを得ようと、マイケルをブリュッセルの高級娼窟経営ブロンディに連れて行く。イェンスも手がかりを探してブロンディの高級娼窟に来ていて、マイケルとイェンスは協働することになり、手がかりのあるマルセイユへ飛ぶ。
イェンスとマイケルはマルセイユ警察コレーリ警部から情報を得ながら麻薬・売春組織を調べていたが、コレーリはギャング組織に通じていて、二人は逆にギャングの隠れ家に捕らわれてしまう。
遅れてマルセイユに着いたクリーシィは武器商人ルクレールから武器とコレーリの情報を手に入れ、コレーリを捕まえて隠れ家に乗り込む。
クリーシィは隠れ家のギャングを倒し、マイケルとイェンスとともに2階に囚われていた二人の麻薬中毒の女性、ハンネと13才のジュリエットを助け出す。
イェンスはハンネを連れ、車で国境を越え、両親に送り届ける。マイケルはクリーシィの友人の高速艇にジュリエットを乗せ、ゴゾに向かう。中段では、マイケルがジュリエットに麻薬中毒を乗り越えさせる壮絶な話が展開する。
クリーシィのもとにルクレールからの武器や薬品などを運んできたフランス人マルクは、ギャングたちを倒し麻薬中毒の二人を助けだしたクリーシィの仲間になる。フクロウと呼ばれ、のちにイェンスとコンビを組む。
イタリア憲兵隊マリオ・サッタ大佐が登場する。サッタは1作目でも登場していて、イタリア・マフィアを追い詰めても裁判が近づくと裁判官が狙撃されてしまい挫折感を感じていたが、クリーシィがマフィアを倒したことから二人は信頼し合う仲になっていた。3作目でクリーシィはサッタにブルー・リングの捜査協力を頼む。
ミラノにクリーシィの仲間、マキシー、ニコル、グィドー、ルネ・カラール、フランク・ミラー、イェンス、フクロウ、もちろんマイケル・・・が集結する。クリーシィたちは白人奴隷売買に暗躍する謎の組織ブルー・リングの手がかりを求め、裏社会に乗り込み始めた矢先、クリーシィはちょっとした油断でミラノのマフィア・アブラータに捕らわれてしまう。
アブラータは、マフィア・ファミリーのボスであるローマのグラッツィーニを呼ぶ。グラッツィーニは1作目のマフィアとクリーシィとの戦いの恨みがあったがクリーシィの説得が功を奏し、クリーシィは指を詰めるだけで解放された。しかし、まだブルー・リングの正体が分からない。
話が進む。クリーシィと折り合いをつけたグラッツィーニはブルー・リングの手がかりを探し、クリーシィにローマ・ヴァチカンのデ・サンクティス神父を会わせる。デ・サンクティス神父によれば悪魔主義によるブルー・リングがまだ存続していて、フリーメイソンとの関わりがありそうだ。
イタリア上層部にもブルー・リングにかかわるフリー・メーソンがいるらしい。クリーシィからこの情報を得たサッタ大佐が動く。マイケルは悪魔主義の儀式に潜り込む算段をすすめる。
終盤、黒ミサ儀式の山荘に潜り込んだマイケル、周りで待機するクリーシィたち、後方支援のサッタ大佐と部下、銃撃戦ののちクリーシィはマイケルの母をおとしめた黒幕を倒す。麻薬中毒、白人奴隷売買、マフィアの抗争、上層階級の顔をした黒幕といった事実を軸に、紆余曲折を織り交ぜ、弱き者のために復讐を果たす、といった筋書きが読者を引きつけるようだ。