yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

「峠しぐれ」斜め読み1/2

2024年08月13日 | 斜読

book568 峠しぐれ 葉室麟 双葉社 2014

 葉室麟(1951-2017)は松本清張賞、直木賞、山本周五郎賞、司馬遼太郎書などの多くの受賞歴があり、徳川家康の策略で弘前藩に嫁いだ正室ともともとの正室の心の揺れを主題にした「津軽双花」(book554参照)を読んで、歴史に翻弄されながらも歴史に正面から向き合った人々を物語にした筆さばきの巧みさを感じた。

 「峠しぐれ」は、岡野藩領内の朝霧峠=弁天峠で茶店を営む40過ぎの半平と35・6の志乃が物語の主人公である。峠を西に下ると弁財天を祀ったお堂があることから弁天峠と呼ばれたが、志乃の顔だちの良さに加えてほのかな色気があり、志乃は峠の弁天様と親しまれていた。
 半平と志乃にはいわくがあり、物語の展開とともにいわくが明らかになるのだが、そのいわくが武士の時代とはいえ常軌を逸しているように思えるし・・葉室氏は常軌を逸した武家社会を描きたかったのかも知れない・・、半平・志乃の縦糸に絡めた2組の母娘が横糸として物語を織り上げているが、娘があまりにも優等生すぎて物語が平凡な展開になったように感じる。
1話
 朝霧峠=弁天峠から西に下れば、麓の安原宿まで5里≒20km、岡野城下まで18里≒70kmになる。東に下れば隣国の結城藩で、国境に番所≒関所が設けられていて、開門は明け六つ≒朝6時、閉門は暮れ六つである。結城藩の番所を朝の開門と同時に通って峠を目指すと昼近くになる。
 最初の話は、朝早いのに東から男女と子ども3人が疲れ切って茶店の前を通り過ぎ、志乃が結城藩からの夜逃げと直感して声をかけるところから始まる。男は味噌問屋三根屋の吉兵衛、女はお澄、子どもは太郎吉、次郎吉、せつである。結城藩ではいままで家老・天野宮内が実権を握っていたが、最近、中老・岩見辰右衛門と勘定奉行・佐川大蔵が主導権を握り、新しく専売制度を採り入れ、味噌を含む商いの専売権が島屋五兵衛に任され、その賄賂が岩見や佐川に流れ、専売権のない問屋は成り立たなくなり、吉兵衛親子は夜逃げになったそうだ。志乃の好意で一息した吉兵衛親子は岡野城下を目指して峠を下る。
  
 10日ほど前、岡野城下の材木商・稲葉屋で、主人夫婦が殺され、300両と金品が奪われる事件があった。町奉行所役人・永尾甚十郎が盗賊夜狐の一味とにらみ調べを進めていて、旅籠大野屋を改めたところ、泊まっていた吉兵衛の荷から稲葉屋から盗まれたと思われる珊瑚の簪が見つかった。娘のせつが峠の弁天様にもらったと言い出す。稲葉屋は安原宿宿場役人・金井長五郎が営んでいて、金井長五郎と半平・志乃と顔なじみであり、長五郎が茶店に出向き、志乃をともなって奉行所に戻る。志乃が、吉兵衛親子は昨日茶店に寄ったと証言し、10日前の強盗の罪は晴れる。
 永尾甚十郎は夜狐一味が弁天堂に盗品を隠しているとにらみ、捕り手とともに弁天堂に向かうと、5人の盗賊が弁天堂に火をつけ待ち構えていた。そこへ薪を持った半平が現れ、仕込み杖で斬りかかってくる盗賊を薪でつぎつぎと倒す。残った小柄な若者は腕が立つが、半平が仕込み杖をたたき落とすと闇の中に走り去った。
 半平は志乃に、逃げた若者は17・8の女で、太刀筋は雖井蛙流と話す。志乃は故あって捨てた娘・千春と同い年と思い愕然とする・・雖井蛙流とは何か、千春をどうして捨てたのか?・・。

2話
 侍の仇討ちが話が挿入され半平のみごとな腕前が描かれるが、本筋に関わらないので、割愛。
 2つめの話しは盗賊夜狐の頭・お仙と娘・ゆりが副題になる。
 半平が夜狐一味の仕返しに備えていると、一味が現れる。半平は手下を倒し、若者=女を捕らえる。女の名はゆりで、母は盗賊夜狐の頭のお仙、お仙は15年前に行き倒れと見せかけ、結城藩城下で雖井蛙流の剣術道場を開く西村幸右衛門に助けられ、やがてゆりが生まれ、ゆりは幸右衛門に雖井蛙流を習うが、お仙の強盗が露見したため幸右衛門はお仙とゆりを逃がしたあとで切腹したと話し、ゆりは立ち去る。
 3ヶ月が過ぎ、茶店に結城藩の豪商・島屋五兵衛と女房・おみね(=お仙)の乗った駕籠が立ち寄る。供にゆりがいる。お仙が五兵衛の茶に薬?毒?を入れるのを見た志乃は茶を取り替えようとして、お仙と一悶着したあと、一行は岡野藩に向かう。
 5日後、宿場役人・金井長五郎が茶店まで来て、岡野城下の山城屋に泊まっていた島屋五兵衛が胸をひと突きされて殺され、女中のゆりが消えた、おみねが茶店でそそのかされたに違いないと言い張るので半平に出向いて欲しいと告げる。

 おみね=お仙は泊まっている山城屋に半平を呼びつけ、半平は結城藩勘定奉行・佐川大蔵の家士・伊奈半平で、結城藩家老・天野宮内の奥方・志乃と駆け落ちしたと半平・志乃の秘密を明かしながら、隠し持っていた短刀で半平を刺そうとする。半平はとっさにおみねをねじふせるが、実は半平をおびき出したうちに峠の茶店をやくざに襲わせ、半平・志乃を訪ねてくるであろうゆりを殺そうという算段だった・・命を助けてくれた西村幸右衛門を死に追いやり、亭主だった島屋五兵衛を刺し殺しのも、母が娘を殺そうとするのも常軌ではない。葉室氏は、最後のどんでん返しのために、お仙を鬼子母神のように仕立てようとしたのだろうか・・。
 一方、峠の茶店に3人のやくざが現れ、茶店を店仕舞いさせる。志乃と手伝いに来ていた吉兵衛が危うくなるところに黒装束のゆりが現れ、やくざを倒し、迷惑になるからと立ち去る。

3話
 3つめの話は半平を軸に、4つめの話は志乃を軸に同時に進み、5つめの話が織り込まれる。宿場役人・金井長五郎が茶店に登ってきて、半平は奉行所役人・永尾甚十郎の息子・敬之進が奉納試合に出るので稽古をつけ(3つめ)、その間、不用心なので志乃は長五郎の旅籠・大野屋を手伝い(4つめ)、茶店は吉兵衛夫婦が切り盛りする、ことになる(5つめの伏線)。
 3つめは半兵が剣術指南をする話である。永尾敬之進は17・8歳、小柄なおとなしい性格で、天道流の道場に通っている。奉納試合の相手は同じ天道流で、二刀流を使いこなす狩野永助である。半平は敬之進におよそ20貫の庭石を持ち上げる訓練から始め、二刀くだきを教授する。しかし、相手は二刀くだきのはめ手を使うだろうから、罠を仕掛ける者には天然自然の理で立ち向かうようにと敬之進に教える。
 奉納試合当日、敬之進は正眼に構え、狩野永助は両手を下げて薄笑いし、敬之進が打ち込むと狩野は左の木刀で払い右の木刀で打ち込み、敬之進は追い込まれる。鹿野が二刀を十字に構えたとき、敬之進は腰をかがめ、木刀を真っ直ぐ突き出して鳩尾をつき勝利する。
 試合を終えて半平が茶店に戻ろうと城下の外れに来たとき、鹿野と4人が刀を抜いて半平に斬りかかってきた。半平は5人の刀を取り上げ、5人の髷を切り落とすと、5人は逃げた。

4話
 4つめは、志乃が安原宿の大野屋に着くと奥座敷で九州・備前榊藩の若君が出府途中で具合を悪くし伏せっていて、世話をすることになったお家騒動の話である。
 江戸藩邸にいる榊藩主・忠徳の容態が思わしくなく、長男・千之助を跡継ぎにしようとしたが素行が悪く問題を起こしたため廃嫡にし、次男萩丸を急ぎ出府させようとした。ところが側室の子・鶴丸を跡継ぎにしようとする家老の仕業で萩丸は毒を盛られたので、妹の雪姫が萩丸が快復して江戸に着くまでのあいだの身代わりを努めることになった。雪姫は、若君の身代わりで出府しなければならない気苦労で伏せってしまったようだ。そこに、家老の指図で刺客が宿場に送られたとの情報が入る。
 志乃は雪姫を案ずる32・3歳の老女・藤(=雪姫の母)に、雪姫を姫君らしい格好にすれば気持ちが晴れると説得する。雪姫は萩丸の身代わりから本来の雪姫に戻って元気になり、一行は江戸に向けて出立、志乃は半平に書き置きを残し、雪姫の供をする。
 一行が峠の茶店に着くころから雪交じりの雨が降り出し、茶店で休んでいると刺客が現れる。刺客が雪姫に斬りかかろうとしたとき、馬で駆けつけた半平が六尺棒で刺客を次々と倒していく。家老の企みが露見し、雪姫一行は安心して江戸に向かう・・この話はここで終わる・・。  続く

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