さいたま市プラザノースでは定期的に「ノース・ティータイム・コンサート」を企画している。2022年5月、vol.25のティータイム・コンサートは「荒川洋 フルート・リサイタル」(図web転載)で、佐藤勝重氏がピアノを演奏した。
370名定員は満席だった。荒川氏のフルートが魅力的だったうえに、大勢が音楽的刺激の機会を待ちかねていたようだ。
ティータイム・コンサートは、「ウィークデーの午後のひと時、お茶を楽しむように音楽を聴きながら過ごす」のがコンセプトである。公演時間はわずか45分で、紙芝居や連続ドラマのように気分が盛り上がり、次の展開が気になるところで演奏を終えるのもティータイム・コンサートの仕掛けであろう。
荒川氏はパリ国立高等音楽・舞踊学校フルート科を首席で卒業、新日本フィルハーモニー交響楽団でフルート副主席・首席奏者を22年間歴任したそうだ。作曲家としても活躍していて、フルート作品、室内楽曲、合唱曲、校歌、歌劇などの作曲を手がけている。後述の小笠原組曲は、日本丸で小笠原諸島に向かうときに作曲したと話していた。
久石譲作曲「千と千尋の神隠し」、加古隆作曲「最後の忠臣蔵」、久石譲作曲「サントリーCM伊右衛門」などでもフルートを演奏しているそうで、聞きなじんでいるのに気づかなかった。
佐藤勝重氏は桐朋女子高等音楽学校音楽科を首席で卒業後にフランスに渡り、パリ高等音楽院を1等賞で卒業したあと12年間フランス、ヨーロッパで活躍し、その間に荒川氏と知り合ったらしい。
1曲目はジーマン作曲「フルート・ソナタ第1楽章」で、フルートとピアノが互いに競い合うような演奏だった。浅学でサミュエル・ジーマンは初めて聞く。1956年にメキシコシティで生まれたメキシコを代表する作曲家の一人だそうだ。
2曲目はバッジーニ作曲「精霊の踊り」で、フルートの軽快なメロディーは精霊が軽やかに踊っている雰囲気が伝わってくる。アントニオ・バッジーニ(1818-1897)はイタリア生まれのヴァイオリニスト、作曲家として知られるそうだ。
3曲目は久石譲作曲「オリエンタルウインド」で、幻想的な雰囲気を感じさせる。久石譲(1950-)、本名:藤澤守は長野県中野市出身の作曲家、指揮者、ピアニストで、風の谷のナオシカ、天空の城ラピュタ、となりのトトロ、千と千尋の神隠しなど、多くの映画音楽を担当するなど、幅広い音楽活動を展開している。
4曲目はピアソラ作曲「オブリビオン」で、哀愁に満ちたメロディーだった。アストル・ピアソラ(1921-1992)はアルゼンチンの作曲家、バンドネオン奏者で、タンゴを元にクラシック、ジャズの要素を融合させたそうだ。ピアソラ作曲のリベルタンゴはyoutubeでよく聴く。哀愁を満ちたメロディは共通する。
5曲目は荒川洋作曲「小笠原組曲より」はアンコールの「小笠原組曲より海原を越えて」とともに、海原の雄大さ、波を切り彼方を目指すまっしぐらな勢いを感じた。日本丸で小笠原諸島に向かうときの感動を、I. 鳥島と果てしなく続く海原と青空のために、II. 母島、またはデッキから見た夕日のために、III.父島より~海原をこえて~の3曲に込めたそうだ。
6曲目はドップラー作曲「ハンガリー田園幻想曲」でプログラムの最後を飾るように、フルートの音色のすばらしさに魅了された。アルベルト・フランツ・ドップラー(1821-1883)はオーストリア帝国領の現ウクライナ・リヴィウで生まれたハンガリー人で、作曲家、フルート奏者であり、ハンガリー田園幻想曲はドップラーの代表作といわれている。
曲ごとの荒川氏の少しはにかんだような話も上手く、ピアノの佐藤氏との掛け合いも軽妙で、なによりフルート演奏を気持ちよく楽しんでいるのが伝わってきた。楽しいひとときになった。 (2022.5)