yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

「峠しぐれ」斜め読み2/2

2024年08月14日 | 斜読

book568 峠しぐれ 葉室麟 双葉社 2014

5話
 雪姫一行を見送ったあと、吉兵衛は半平・志乃が留守のあいだ、結城藩勘定奉行・佐川大膳が6人の家来を連れて半平・志乃を成敗にに来たと話し、志乃が15年前の出来事を回想するのが5つめの話になる。
 志乃は結城藩馬廻り役150石の家に生まれ、評判の美人になり、17歳のとき家老の息子・天野宮内に見初められて嫁ぎ、1年後に娘・千春が生まれる。夫の用事で出かけた帰りに雷雨にあい、阿弥陀堂で雨宿りしていると、24・5歳の武士=結城藩勘定方佐川大蔵の家士・伊那半平が阿弥陀堂に駆け込んでくる。2人は阿弥陀堂から、杉林の先で天野宮内率いる5~6人の武士が1人の武士=勘定方組頭・小野忠之進を派閥争いで斬り殺すのを目撃してしまう・・夫のいる志乃が武士と同じ阿弥陀堂にいることは斬首に値するの時代であるうえ、夫による斬殺を見てしまったのだから、志乃は気持ちが押し潰されるように感じたのではないだろうか・・。

 3ヶ月後、天野宮内宛に、志乃と小野忠之進が不義密通を働いたので小野を殺したとの書状が届く。宮内は志乃に、志乃が阿弥陀堂にいたのを見た佐川大蔵が宮内を陥れるために仕掛けているようだと話し、病気療養ということで千春を置いて1人で天野家の親戚である宮下村の三右衛門のところへ行くよう告げる。
 志乃が泣きじゃくる千春を置いて三右衛門宅に身を寄せるが、何ヶ月経っても宮内からの連絡がない。そのあいだにも天野宮内の仲間が斬られた。
 志乃はある晩、千春に会おうと密かに屋敷を出るが、村外れで佐川大蔵派の武士に囲まれる。半平もその1人だったが、志乃を助けるため佐川派の武士を峰打ちにし、2人は天野宮内の屋敷に向かう。宮内に問い詰められた伊那半平は阿弥陀堂での一件を話す。宮内は思案の末、志乃に宮下村へ戻れと厳命する。

 志乃と半平が宮下村に近づいたとき、宮内派の林田鉄馬たちが宮内の命で志乃を斬ろうとする。死を覚悟した志乃に半平は娘に会うためにも生きなければならないと言い、鉄馬たちを斬り倒して2人は弁天峠を越え逃げた。志乃は、その後の風の噂で、宮内は派閥争いに勝ち筆頭家老に上りつめたことを知る。
 ・・主導権を握るために同じ藩でも対立する者を斬り、秘密を闇に葬るために自分の妻をも殺そうとする。4話でも跡継ぎ争いで若君を殺そうとした。葉室氏はどろどろした人間の性を淡々と描いていく・・。  

6話

 春のある日、金井長五郎が茶店に来て、結城藩では中老・岩見辰右衛門、勘定奉行・佐川大蔵が主導権を握り、天野宮内は閉門蟄居になったこと、結城藩城下で夜狐一味が大店を3軒襲い2000両を盗んだことを知らせる。その晩、裏口に男装したゆりと17・8の武家の娘が現れる。志乃は一目で娘・千春と分かり、2人は抱き合う。
 千春によれば、父・天野宮内は出世のため自分を見失っていたが、家老になりひとの心を慮る大切さに気づいた、いまは志乃と半平の心も分かり2人のなかを許したい、岡野藩家老・酒井兵部の次男・小四郎を千春の婿として迎え家督を譲りたい、岩見と佐川は商人と結託して賄賂を取っていて藩が危うくなる、岡野藩家老・酒井を後ろ盾に頽勢を挽回し藩を救いたい、と考えているようだ。
 千春は結城藩の内情を酒井兵部・小四郎に伝えようと岡野藩に向かう途中で武士に襲われ、夜狐の頭・お仙から逃げ隠れていたゆりが千春を助けて茶屋に連れてきたそうだ。このあと、志乃と千春が岡野藩酒井兵部・小四郎に会う話が6つめになる。
 ゆりによれば、夜狐お仙は島屋を乗っ取ったあと佐川大蔵の庇護を受けていたが、潮時と考え大店から2000両を盗み、峠の茶屋を襲うと見せかけて岡野藩に逃げ込むつもりらしい。お仙と半平、天野宮内と佐川大蔵が6話にからんで展開していく。

 まず志乃と千春の話。志乃と千春、ゆりは安原宿大野屋で長五郎に会い、岡野城下に新たな見張り番所を設けて若侍が見張っていると聞いて、大店の内儀一行に扮することにする。見張り番所で奉行・永尾甚十郎の会いに行くと伝えると、髷を切られて頭巾を被った鹿野永助がいちゃもんをつけたので、志乃は一人番所に残り、千春、ゆりに酒井兵部と会うように目配せする。
 志乃が鹿野に脅されているところへ永尾甚十郎が現れ、いきさつを察知して志乃を連れ出す。甚十郎の屋敷で千春、ゆりと会った志乃は、敬之進に頼んで小四郎に来てもらう。小四郎を見た志乃は千春を託せると確信する。
 酒井屋敷は見張られているので、志乃は千春に男装させる。敬之進、男装した千春とゆりが酒井屋敷に近づくと、鹿野たちが敬之進を取り押さえ、千春とゆり、志乃に斬りかかってきた。ゆりが数人を斬り倒すが多勢に無勢、そのときお仙が手下と現れ、自分が千春を助けるから志乃にゆりのことを頼むと言い残し、鹿野たちと短刀で斬り合って千春たちを門内に入らせ、お仙は深手を負ってしまう。
 千春が酒井兵部に届けた天野宮内の書状を見て兵部はただちに登城、殿に結城藩の苦境を訴え、結城藩の騒動を鎮めることになった。
 志乃とゆりが酒井屋敷に運び込まれたお仙に会うと、お仙はゆりに一度だけ母親らしいことをしたかった、私の自慢の娘だ、幸せになるんだと言って、息絶える。

 半平の話に移る。峠の茶屋で志乃、千春、ゆりを送り出した半平は、夜狐一味の襲撃に備える。盗賊が放った火矢を消し、目つぶしを受けながらも何人かを倒すが、鉄砲を撃たれてしまう。その瞬間、お仙が半平に体当たりし、命は助かる。お仙は半平に、性悪で女に酷いことをした商人は殺したが半平のお人好しに惚れたと言い、佐川大蔵が天野宮内を殺そうとしていることを教える。
 志乃、千春を助けに岡野藩酒井屋敷に向かえば結城藩天野宮内を助けられない、半平はお仙に、志乃、千春を助けに行けば千春の父である宮内は殺され千春が悲しむことになる、志乃は娘を悲しませたくないから自分たちより宮内を助けて欲しいと言うだろう、母にとって娘に憎まれるほど辛いことはないと話す・・この言葉がお仙を動かしたのだろうか、前述したように、お仙は娘を思う母親らしく行動する・・。

 結城城下に入った半平は天野屋敷の築地塀を乗り越え、身を潜める。雨が降り出す。佐川大蔵と岩見辰右衛門配下の武士6~7人が裏門から入ってくる。佐川が宮内にかつて正室だった志乃を嘲ると、宮内は自分に見る目がなかった、結ばれるべき縁は結ばれ、離れるべき縁は離れていくと答える。それを聞き、半平は改めて宮内を助けようと決意する。佐川の命令で武士たちが宮内に斬りかかろうとした瞬間、半平は宙を飛び、佐川大蔵を斬り倒す。
 腕の立つ岩見配下の武士6~7人が半平を囲む。半平は悲壮な覚悟を決める。この先の決闘は描かれていない。
 志乃は半平が気になり千春を酒井小四郎に託し、峠の茶屋に戻って半平を待つ。翌日、翌々日・・雨のなか、足を引きずるように黒い人影が峠を登ってくる。志乃が駆け出す。読み手はよかったと胸をなで下ろして、幕になる。

 江戸時代のお家騒動、権力争いは多くの作家が取り上げて物語を構想しているので、「峠しぐれ」は新しい着想とはいいにくい。半平も志乃も、千春もゆりも、お仙、天野宮内までも優等生過ぎるのももの足りなさを感じさせる。悪が倒れ善が勝つ、勧善懲悪、おおむね良しの筆さばき、幕引きだから、気楽に読み終えることができるのは間違いない。 (2024.7) 

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