2017.12 ゴッホ展 巡りゆく日本の夢
2017年10月24日から2018年1月8日まで上野の東京都美術館でゴッホ展が開かれている。副題は巡り行く日本の夢で、ポスターには渓斎英泉の花魁とゴッホ(1853-1890)の描いた花魁が載せられていて、ゴッホが浮世絵から影響を受けたことが紹介されている。
少し前に、上野の国立西洋美術館で「北斎とジャポニズム展」を見た。印象派の画家たちが浮世絵の影響を受けたことが分かりやすく展示されていた。
記憶の冷めないうちに浮世絵の影響を受けたゴッホを学んでみようと、ゴッホ展に出かけた。
東京都美術館は毎月第3水曜がシルバーデーで65才以上が無料になる。ゴッホは人気が高いからいつも混みあうだろうが、無料となればシルバーがド~ンと来るからたいへんな混雑が予想された。上野でランチを取ったあと、都美術館に向かった。案の定30分待ちの混みようだった。シルバーが圧倒的に多い。その混みようのなかを、赤ちゃんをあやしながら絵を鑑賞しているママも何人かいた。子ども連れを優先させたキッズデーがあれば、パパやママもじっくり絵を楽しめるのではないだろうか。保育士が面倒を見てくれるキッズルームの常設も期待したい。
都美術館は風致地区のため高さが制限されているから、地下から入館する。ゴッホ展は、地下1階、1 パリ 浮世絵との出逢い、2 アルル 日本の夢、1階に上がって、3 深まるジャポニズム、5 日本人のファン・ゴッホ巡礼、2階に上がって、4 自然の中へ 遠ざかる日本の夢、の構成である。
第1室早々にファン・ゴッホが1887年に描いた花魁が展示され、少し先に渓斎英泉の花魁が配置されている。渓斎画の花魁は右向きで花魁だけを描いた図柄だが、ゴッホ画の花魁は左向きであり、背景は池で右に竹林、上に小舟、左に鷺、下に蛙、中央に花魁画を浮かして描いている。蛙は葛飾北斎の浮世絵に出てくるらしい。鷺や竹林も浮世絵の模写だそうだ。ゴッホは、一説には550点もの浮世絵を収集したそうだ。膨大な浮世絵を眺め、自分なりの解釈で日本の浮世絵の世界を表そうとしたのであろうか。
同じ第1室の「カフェ・ル・タンブランのアゴースティーナ・サガトリー」も1887年の作品で、パリのカフェ・ル・タンの女主人が中央に大きく描かれていて、右壁に少しぼやかした浮世絵が見える。
パリ時代のゴッホの絵では、浮世絵を直接利用しているような印象だった。
第2室はアルル時代(1888~1889.5)になる。この部屋には歌川広重、葛飾北斎、歌川国貞らの浮世絵がゴッホの絵を挟むように展示されている。1888年の「種まく人」は中央に花を付けた幹が画面を左右に分けるように描かれている。広重の「亀戸梅屋敷」も中央に梅を咲かせた幹が画面を左右に分けている。ゴッホは浮世絵の大胆な構図が気に入ったようだ。「種まく人」の大胆な大きさの輝く太陽、水平線を高くしやや俯瞰的に見下ろす構図などが浮世絵の影響だそうだ。アルル時代は、浮世絵の構成や構図、彩色を取り入れている。浮世絵の影響を抽象化したということだろうか。
第3室は、1888年の「寝室」、「タラスコンの乗合馬車」から展示が始まる。続いて歌川国貞、渓斎英泉、歌川広重などの浮世絵が並ぶ。道路や床が上っていく構図、補色を組み合わせた彩色なども浮世絵の影響らしい。単純化された物体の集合は迫力があるが、一方で私には絵にゆがみを感じる。アルルでのゴーギャンとの共同生活が始まる少し前に描かれているからまだ精神的には安定していたはずだから、浮世絵の単純化された対象を原色、補色を用いて際立たせる手法の応用なのであろうか。
第5室には、ゴッホ亡き後を訪ねた画家、芸術家、文人たちの作品、書簡、写真などが展示されていた。たとえば、前田寛二による1924年の「ゴッホの墓」、佐伯祐三による1924年の「オーヴェールの教会」が目を引いた。
2階の第4室には自然を対象とした絵が飾られていた。晩年の絵が多かった。
浅学の身には絵に隠されたゴッホの意図を読み解くのは難しい。浮世絵の影響も確信が持てない。感じるままに感じることにして、あとは次回に持ち越すことにした。