yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

「手塚治虫マンガ音楽館」は音楽につながりを感じさせる作品を3楽章にまとめている

2019年04月30日 | 斜読

book489 手塚治虫マンガ音楽館 ちくま文庫 2002   (斜読・日本の作家一覧)
ポーランドを舞台にした本を探して「手塚治虫マンガ音楽館」を見つけた。
 手塚治虫は昭和3年1928年生-平成元年1989年没、まさに昭和の大漫画家で、子どものころにも読んだがブラックジャックや火の鳥を読んだのは大学のころだったかも知れない。

 手塚氏が医学を学び医学博士だったことはブラックジャックに反映されているが、音楽にも長けていた。編者解説の中野晴行氏は、P369音楽を聴くだけでなく楽器演奏も大好きで、学園祭でピアノ演奏し、銀座のバーにピアノがあれば腕を披露し、漫画家の集まりではアコーディオンを演奏したそうだ。

 この本は、マンガ音楽館からも想像できるように、音楽に深いつながりを感じさせる作品をセレクトし、3楽章の協奏曲風に構成している。第1楽章は音楽家をめぐる伝記的な作品、第2楽章はさまざまなジャンルの音楽をテーマにした作品、第3楽章には楽器にまつわる作品と音楽エッセイが収録されている。

第1楽章  には2編が収められている。
虹のプレリュード  ワルシャワが舞台で、ワルシャワをP5ジェヌドドゥリワルシャワ とりすましたウィスラ川のみやこ・・メランコリーの町・・と紹介している。

 フレデリック・フランソワ・ショパン(1810-1849)が登場し、ロシア帝国軍への抵抗とショパンのパリ行きが挿入されているから、1830年のポーランドにおける11月蜂起を背景にしているようだ。
 主人公はルネ・コルドックという男装した若い女性で、ワルシャワ音楽院に入学するところから始まる。ルネはショパンに次ぐピアノの腕を披露するが、抵抗組織の仲間を助けようとして殺される。
 パリに移ったショパンはワルシャワ陥落を知り、革命のエチュードを作曲して、幕となる。  ロシア帝国軍の横暴とワルシャワ市民の抵抗、ショパンの苦悩が盛り込まれている。

雨のコンダクター  1973年1月19日、ケネディセンターホールでのニクソン(1913-1994)大統領就任記念大演奏会でチャイコフスキー(1840-1893)作曲「1812年」が演奏される同時刻、ワシントン大聖堂でレナード・バーンスタイン(1918-1990)指揮によるハイドン(1732-1809)「戦時ミサ曲」が演奏された。
 大雨だったが、ワシントン大聖堂には12000人以上が集まり、大聖堂に入れない人のためスピーカーを20台セットして、演奏が始まった。泥沼化したベトナム戦争に抗議する人々の祈りが大合唱となる・・世の罪をのぞきたもう主の子羊 われらに平安を・・。
 ・・のちに、ニクソン大統領はベトナム戦争を終結させるが、ウォーターゲート事件で辞任する。

第2楽章
0次元の丘  ベトナム・リエンタ村でベトコン狩りにあった親子5人が殺された。それから9年、ジャン・シベリウス(1865-1957)作曲「トゥオネラの白鳥」の演奏を聴くと涙を流す5人が世界各地に現れた。リエンタ村に集まった5人は再会を喜び合った。殺された5人の家族が生まれ変わったという展開に、戦争の悲惨を訴えている。

白くじゃくの歌  ニューギニアに出兵した陸軍大尉は白くじゃくを助け、それから白くじゃくがなついていたが戦死する。遺品の鉄かぶとともに白くじゃくを受け取った娘のユリは白くじゃくと仲良しになった。白くじゃくはユリのピアノにあわせ踊り出し、テレビや劇場に出演し人気になった。白くじゃくは宝石を狙う悪者に殺されてしまうが、大尉の戦友の世話でピアニストになり、「白くじゃくの歌」を作曲する。戦争の悲惨とともに、人間の欲望も描いている。

うたえペニーよ  田舎の農場で暮らすペニーは歌手をめざしてニューヨークで音楽を学ぶが、ニューヨークの暮らしのさびしさに気づき、農場に戻る。幸せは足元にあるということであろう。

以下、ヒノキの精が宿った太鼓を親子3代が打ち鳴らすてんてけマーチ、大名の圧政を踊で訴えるおけさのひょう六 、機動隊の兄と反戦の弟の衝突をテーマにしたがらくたの詩が続く。

第3楽章には手塚漫画から、バイオリンが登場するミッドナイト/四月一日、ラッパが登場するロップくん/催眠ラッパ、 手塚治虫のエッセー3話、「フィガロの結婚」と私、ぼくとチャイコフスキー、二つのバッハ、 最後に手塚漫画2話、鳥人大系/トゥルドス・メルサ・サピエンス(ブラック・バード)、ブラック・ジャック/ストラディバリウスが収められている。

 手塚治虫のシリーズ漫画を読んでいるとその漫画のテーマに注意が向き、音楽に造詣の深かった手塚治虫のさりげない描写に気づかなかったことが多かった。手塚治虫の漫画から音楽に着目して漫画を集め再編成すると、音楽を通して手塚治虫が訴えようとしていることが伝わってくる。
 久方ぶりに手塚治虫の世界に浸った。本を読むのが苦手な世代にお勧めである。(
2019.4)

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山本周五郎短編「白石城死守」は白石城を上杉軍の猛攻から死守する武士と武士の妻の生き様の話

2019年04月26日 | 斜読

book487 白石城死守 山本周五郎 講談社文庫 2018    (斜読・日本の作家一覧)

 2019年4月、宮城の花見に出かける計画を立てた。東日本大震災の復興はまだまだ時間と経費がかかる。被災県を訪ね、年金暮らしに見あった散財をする花見である。福島は2015年4月に会津、三春の桜を堪能した。今年は宮城の花見候補をwebで調べ、仙台藩伊達家の支城だった白石城の桜と一目千本桜に狙いを絞った。白石城を舞台にした本を探し、この本を見つけた。

 山本周五郎(1903-1967)の本は20代に「樅ノは残った(1958)」を読んだ。仙台藩伊達家のお家騒動が主題で、武士の壮絶な生き様が描かれていた。続けて周五郎の本を数冊読んだ記憶がある。20代のころを思い出しながら、久しぶりの周五郎を読むことにした。
 「白石城の死守」には「与茂七の帰藩(1940)」「白石城死守(1943)」「豪傑ばやり(1940)」「矢押の樋(1941)」「菊屋敷(1945)」の中短編が収められている。

 「白石城死守」は、秀吉没後の石田三成と徳川家康の勢力争いが背景になる。家康軍は北の脅威である会津征伐に動き出す。呼応して伊達政宗がかつては自領でいまや上杉軍の最前線となっている白石城を落とし、片倉影綱を城主に置く。
 会津藩上杉景勝は石田三成と手を結んでいて、三成軍が家康の居城だった伏見城を落とす。家康軍が江戸を留守にして京に向かえば、その隙に上杉軍が白石城を奪還し、伊達軍を足止めしたうえで、江戸への進撃をうかがう作戦のようだ。
 家康は伊達政宗に白石城から撤退し、岩手沢に伊達軍を集結させ、上杉軍が江戸へ動いたら追撃する作戦をたてた。そこで、伊達政宗に家康から白石城撤退の密命が来る。
 ここから物語が始まる。伊達政宗は本軍を岩見沢に、白石城主片倉影綱は軍勢を引き連れ17里離れた北目城に待機し、白石城には浜田治部介以下51人が籠城する。
 この本では触れていないが、縄張図を見ると白石城はまわりを沼と堀で囲み、高台を本丸とし、本丸に三階櫓、巽櫓、未申櫓を配置し、大手門に枡形を設けていたようだ。
 伊達軍撤退後、危険を察知した町民が逃げ出し、ほどなく総勢2000の上杉軍の攻撃が始まる。浜田治部介は反撃せず、死を覚悟した最終決戦を待つ。
 ・・・上杉軍の猛攻が始まるなか、北目から戦況の偵察のため一人が走ってきたが、銃撃を受け倒れる。なんと治部介の妻奈保だった。治部介は武士の妻らしく死を賭した働きの奈保を猿滑の樹の下に埋める、といった展開である。
 武士の生き様、武士の妻の生き様が描かれている。
 復元された白石城(写真は復元された三階櫓=天守)を見学し片倉家の説明は見たが、浜田治部介・奈保については触れていなかった。治部介・奈保は周五郎の創作らしい。

 「与茂七の帰藩」の舞台は彦根藩になる。かつて野牛とあだ名された斉藤与茂七という武士がいた。手がつけられないほど乱暴だったので江戸に出されていた・・この話は中段に語られる・・。冒頭は、与茂七のいないあいだに彦根藩士400石に婿入りした金吾三郎兵衛で、白い虎と呼ばれるほど粗暴だった話から始まる。
 江戸から戻った与茂七に三郎兵衛が試合を挑む。肩を怒らせ、おごり高ぶった三郎兵衛を見た与茂七は試合をせず立ち去る。
 ・・・三郎兵衛は妻と離縁してまで与茂七に戦いを挑もうとする。与茂七は江戸で柳生の秘手を会得していて、三郎兵衛は身動きができない。与茂七は三郎兵衛を組み敷き、・・心おごった様はかつての自分の姿だった・・自分では分からなかったが三郎兵衛を見て眼が覚めた・・と語る。現代にも通じる人生訓の話である。

 「笠折半九郎」の舞台は紀伊藩、300石の半九郎と250石の小次郎の若い武士が主役である。仲が良かった二人だが、些細なことで果たし合いをすることになる。ところが城外の出火が強風で燃え広がる。半九郎は火を浴びながらも宝庫から宝物を運び出し、17人の番士とともに櫓への延焼を食い止めた。  藩主頼宣は防火をねぎらい、番士たちに恩賞を与えたが、半九郎には防火の働きへのねぎらいも恩賞もなかった。
 ・・・ひがみ込んでいる半九郎を小次郎が励まそうとするが、些細なことで果たし合いが再燃する。果たし合いの場に、藩主頼宣が現れ、半九郎に命を冒して宝を守ったことはあっぱれだ、しかし、城は焼けても再び建てることができるが、死んだ人間は呼び戻せない、もしその働きを賞賛し恩賞を与えたら、家臣は防げぬ火災でももっと危険を冒すようになる、と真意を明かす。これも人生訓である。

 「豪傑ばやり」は奥州三春城を舞台にし、浪人を主人公にした人生訓、「矢押の樋」は羽前・向田藩を舞台にし、命を賭して農民と藩を救う侍の生き様、「菊屋敷」は松本藩に舞台を移し、健気に生きる儒官の娘の心模様を描いている。
 周五郎らしさにあふれた中短編だった。(
2019.4)

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2019.3 プラザノースで子ども連れでも気軽に立ち寄れるぶらっと・コンサート「ほりほりオーケストラ」を聴いた

2019年04月24日 | よしなしごと

2019.3  ノース・ぶらっとコンサート~ほりほりオーケストラ   

 さいたま市北区の複合施設プラザ・ノースで、3月の土曜・午後2時開演のほりほりオーケストラを聴いた。
 この企画のポイントは、小さな子どもづれでも「ぶらっと」立ち寄れ、気軽に生の演奏を楽しめることである。
 小さな子どもがいると迷惑になると思い、若いパパ・ママは生演奏を楽しめない。ほりほりオーケストラは若いパパ・ママの救世主ともいえる。
 小さな子どもも生の演奏をじかに聴けば音楽の感性が豊かになろうし、さまざまな楽器の音色の違いを目と耳で確かめられ、音楽への興味が増すと思う。
 加えてこの企画は無料である。「気軽に」が徹底している。

 ほりほりオーケストラはそこまで深読みしていて、最初に金管楽器、次に木管楽器、続いてピアノを含めた小編成、休憩をはさんで弦楽器、最後にオーケストラ編成での演奏であった。    
 最初の金管楽器演奏は、トランペット2人、ホルン、トロンボーン、チューバ各一人の計5人で、まず別々に音を鳴らし、音色の違いを紹介してくれた。
 いつも不思議に思うが、どうしてこんな形を考えたのだろうか。トロンボーンはとてもシンプルな形だが、ホルンは内蔵を連想させる。トランペットとチューバの形は似ているが、大きさが違う。楽器の形と音色を比べるだけでも面白い。
  金管楽器では、 1 フレールジャック/ジョン・アイブソン編曲 2 4つのスイスのメロディーよりチューリッヒマーチ/エルガー・ホワース編曲 3 ふるさと/岡野貞一 4 童謡メドレー/平田瑞貴編曲 5 となりのトトロメドレー/久石譲 6 情熱大陸/葉加瀬太郎 が演奏された。

 次に木管楽器演奏はフルート、オーボエ、ファゴット、クラリネット各1人にホルンを加えた5人編成で、同じく木管楽器の音色の違いが紹介された。木管楽器は縦笛、横笛の違いはあるが、形は似ている。金管楽器に比べ音色が柔らかいことが分かる。
 曲目は 7 ノヴェレッテ/プーランク 8 嵐・Happiness/岡田実音 だった。

 続いて、ピアノ、コントラバス、ヴィオラ、トロンボーン、ドラム各1人、チェロ2人、ヴァイオリン4人の編成で
9 トレイントレイン/真島昌利 10 いとしのエリー/桑田佳祐 11 踊るポンポコリン/織田哲郎 が演奏された。

 休憩後に、ヴァイオリン11人、ヴィオラ3人、チェロ3人、コントラバス2人の弦楽器演奏である。
 この4つの弦楽器は形が類似する。一番小さいヴァイオリン、次のヴィオラはあごにはさんで演奏するが、大きくて重いチェロは床に立て、さらに大きいコントラバスは高椅子に座って演奏する。持ち運びも大変そうだ。
12 弦楽セレナーデより第1楽章/ドヴォルザーク 13 セントポール組曲より第4曲フィナーレ/ホルスト 14 崖の上のポニョ/久石譲 15 ゴジラよりメインタイトル/伊福部昭 の4曲が演奏された。

 最後はオーケストラ34人編成で 
16 交響曲第5番運命より第1楽章/ベートーヴェン 17 ハンガリー舞曲第5番/ブラームス が演奏された。

 ほりほりとは、埼玉大学管弦楽団OB・OGを中心に発足し、団長、副団長がほりうち・ほりただったことからほりほりと名付けたそうだ。
 楽器や曲目についてのトークもうまいが、演奏曲目からも想像できるように馴染みのある身近な曲を選んでいて、子どもの馴染みのある曲やパパ・ママと同世代の曲お中心に、本格的なクラシックも加え、誰でも気軽に楽しめる演奏をめざしている。
 演奏のあいまに赤ちゃんの声がかかることもあるが、まったく気にはならない。むしろほほえましく感じた。子育てパパ・ママのための企画を今後も期待したい。(2019.4)

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東野圭吾著「祈りの幕が下りる時」は伏線が錯綜し読み手はなかなか真相にたどり着けない

2019年04月22日 | 斜読

book487 祈りの幕が下りる時 東野圭吾 講談社文庫 2016  (斜読・日本の作家一覧)
 2019年4月に仙台を訪ねる計画を立て、予習に仙台を舞台にした本を探してこの本を見つけた。ところが、仙台は話の発端とその後の聞き取りで登場するだけで、主たる舞台は東京だった。
 物語は29話で構成されていて、一話ごとに舞台が変わり、主役も変わる。登場人物も多く、物語を通した主人公がなかなかつかめない。犯行の元となっているのは貧しさであり、人間関係のもつれ、精神のゆがみがからんでいて、正義の裁きといった痛快さはない。
 しかし、とりつかれたように頁をめくってしまうのは、東野圭吾氏の巧みな筆さばきと話の途中で次の話に移る展開の妙であろう。

 1話で最初に登場する仙台のスナック経営者である宮本康代は、その後の証言者で数度登場するが、主役ではない。
 宮本康代のスナックに雇われた田島百合子も主役ではないが、物語の鍵を握る重要人物である。田島百合子は12才になる男の子がいたが、親戚づきあいに行き詰まり息子を警察官の夫に残して家を飛び出す。
 百合子は、スナックの客で電力関係の仕事で点々とする綿部俊一とつきあいだしたが、スナックに勤めてから16年経ったころ仙台のアパートで病死する。宮本康代は百合子の携帯から綿部に百合子が病死したことを伝えるが、綿部は顔を見せない。宮本康代が百合子の葬儀をすませ、遺骨を預かる。
 しばらくしてから、綿部は百合子の一人息子が警視庁捜査一課の加賀恭一郎だったことを連絡してきた・・どうして警察官の住所を調べたかが、その後、恭一郎の疑問になり、真相に迫る糸口になるが、この時点では予想できない・・。
 宮本康代は恭一郎に百合子の死を伝える。そして、百合子の遺骨と遺品を受け取りに来た恭一郎に、百合子から恭一郎が剣道の稽古に励んでいたこと、夫が警察官だったこと、綿部が日本橋によく出かけていたことなどを聞いたと話す。
 その後、東日本大震災が起き、宮本康代は引退し、10年ほどが経ったある日、東京で女性の他殺死体が見つかったニュースを知る。
 東野氏のテンポは軽快である。注意しながら読んだが、重要な伏線に気づかなかった。

 2話は、警視庁に舞台を移す。他殺された女性は滋賀県彦根署に捜索願が出されていた押谷道子と判明する。押谷道子は東京葛飾区小菅の越川睦夫名義のアパートで発見されていたが、越川は所在不明で、手がかりが見つからない。
 同時期に、新小岩の河川敷でホームレスの焼死体が見つかっていた。警視庁の捜査員の一人が松宮で、加賀恭一郎のいとこになり、このあと恭一郎と協力しあう。
 2話も事件全体の伏線になる。東野氏の物語構成は複雑、輻輳しているが、松宮に二つの事件につながりがあると直感させている。

 3話では松宮たちが彦根に向かう。押谷道子の外回り先で聞き取りをしていて、押谷道子と中学で仲の良かった浅井博美に会いに行ったこと、浅井博美は角倉博美という名で明治座の「異聞・曽根崎心中」の演出をしていること、初演の3月10日と被害日が重なることなどが分かってくる。
 東野氏は事件解明の材料をあちらこちらに伏せているらしいが、どれとどれがどのように結びつくのかを上手に紛らしている。
 聞き取り中、松宮たちは老人ホームで201と呼ばれている疫病神のような女性に会う。この女性も主役ではないが、事件にかかわる人物らしいことが想像できる。
 曾根崎心中は近松門左衛門の浄瑠璃で、相愛のお初と徳兵衛が心中する物語だが、28話でお初・徳兵衛の再現イメージが描かれる。

 4話は、浅井博美と押谷道子の事件前の対面場面である。201は実は浅井博美の母でかなりふしだらだったこと、父・忠雄は借金取りに追われていたことが回想される。
 中学2年の担任・苗村の名が出る。忠雄、苗村は事件の中心人物であるが、ここではまだ物語の中での役割が見えてこない。
 5話で加賀恭一郎が登場する。いとこの松宮と人形町で飲みながら、事件について意見を交わす。
 7話で、越川睦夫の似顔絵が出来上がる。越川睦夫の部屋に残されたカレンダーの1月に柳橋、2月に浅草橋、3月に左衛門橋、4月に常盤橋、5月に一石橋、6月に西河岸橋、7月に日本橋、8月に江戸橋、9月に鎧橋、10月に茅場橋、11月に湊橋、12月に豊海橋の書き込みが見つかる。
 DNA鑑定で、新小岩の焼死体が越川睦夫であることが判明する。少しずつ核心に近づきそうな展開だが、点と点がまだつながっていかない。
 8話で、恭一郎の母・田島百合子のメモにも1月~12月の同一の橋の名が書かれていたことが分かる。
 田島百合子は綿部とつきあっていて、仙台のスナックにも来ていたから、宮本康代に似顔絵を確認してもらうと、越川睦夫が綿部俊一であることが判明する。

 ここまでで、浅井博美=角倉博美の同級生押谷道子が小菅にある越川睦夫の部屋で殺されていて、越川睦夫は新小岩の河川敷で発見された焼死体だった、越川睦夫は綿部俊一と名乗っていて、恭一郎の母・田島百合子とつきあっていた、ことが分かった。
 これからどんな事件展開を想像できるだろうか。あとは読んでのお楽しみに。
 東野氏は、警察の地道な捜査の蓄積と直感する力、原発作業員の過酷さ、人間関係の軋轢やストレスが人間を変えてしまうことも織り込んでいる。
 そして終盤、犯人に・・父の人生を犠牲にしながら生きた・・その父が大事にした女性の息子に会っておきたかった・・ことや、曾根崎心中の・・お初は心の底から惚れた男に殺されたい、それを察した徳兵衛は命がけで惚れた女の夢をかなえようとお初を刺す・・というイメージに重ねた自分の思いを独白させて、物語の幕を下ろしている。(
2019.4)

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2019.1 ティータイム・コンサートで島田彩乃氏のピアノリサイタル「ライプツィヒを巡る音楽の旅」を聴く

2019年04月19日 | よしなしごと

 2019.1 島田彩乃 ピアノ・リサイタルを聴く         

  マンションから西の2区画目に区役所、図書館、ホールなどの複合施設さいたま市プラザ・ノースがある。ホールは1階、2階あわせ400席ほどなので、舞台を身近に感じることができる。催し物は多彩で、稼働率も高い。
 2019年1月に、第15回ノース・ティータイム・コンサートが開かれた。この企画の入場料は500円・・これ自体も格安・・で、1区画目のショッピングモールにある珈琲館の割引券をくれるので、お得である。平日の13:30開演にもかかわらず満席に近い。気軽にコンサートを楽しむ企画が成功している。
 今回は「島田彩乃 ピアノ・リサイタル」である。島田彩乃氏は桐朋女子校音楽科首席卒業、パリ国立高等音楽院、エコールノルマル音楽院修了、ライプツィヒ音楽大学で研鑽の経歴があり、国内外のコンクールで優勝・入賞し、長く欧州で活動していたそうだ。
 今日は島田氏が音楽を研鑽し、欧州での演奏活動の出発点ともなったライプツィヒにちなみ、「ライプツィヒを巡る音楽の旅」と題して6曲が演奏された。

バッハ インベンション 第1番ハ長調BWV772
 教科書で「音楽の父」として習うヨハン・セバスチャン・バッハ=J.S.バッハ(1685-1750)は、現ドイツ・アイゼナハの生まれである。
 2015年5月のドイツツアーでアイゼナハを訪ね、改修工事中の「バッハの家」を見た・・実際の生家は壊れてしまったから復元?・・。
 バッハ一族には音楽家が多く、父もアイゼナハの町楽師だそうだ。アイゼナハ周辺にはバッハ姓が多く、同姓同名もいたようだが、バッハといえば「音楽の父」バッハを思い浮かべる。
 バッハが音楽学習のために作曲した「インベンションとシンフォニア」という30曲の小品集があり、そのうちの一つ「インベンション 第1番ハ長調BWV772」が最初の演奏である。

メンデルスゾーン ロンド・カプリチオーソ ホ長調Op14
 フェリックス・メンデルスゾーン(1810-1856)は現ドイツ・ハンブルクの富裕な銀行家の家に生まれ、早くから神童といわれたほど音楽の才能に恵まれていたらしい。34才のとき、ライプツィヒ音楽院を設立し、院長となり、教授にシューマンを招へいしている。残念ながら、38才で急逝する。
 「ロンド・カプリチオーソ ホ長調Op14」は初恋の女性のために作曲され、メンデルスゾーンの作品のなかでは広く親しまれている一つだそうだ。

シューマン ピアノ作品集「子供の情景」Op15より「トロイメライ」
 ロベルト・シューマン(1810-1856)は、現ドイツ・ツヴィッカウで生まれた。父は本屋・出版業を営んでいた。音楽家の環境ではなかったが、7才のころベートーヴェンの交響曲に感動して作曲を始め、たいへんな評判になったそうだ。天分なのであろう。ベートーヴェンやシューベルトの後継者として位置づけられるほど、交響曲や合唱曲など幅広い作品を残した。
 ピアノ作品集「子供の情景」の第7曲となる「トロイメライ」は夢想、空想といった意味だそうだ。よく知っている曲である。

ブラームス バッハのシャコンヌ(左手のための)
 ヨハネス・ブラームス(1833-1897)は、現ドイツ・ハンブルク生まれで、コントラバス奏者の父から音楽を鍛えられたらしい。早くから才能を発揮し、ドイツを代表する作曲家、ピアニスト、指揮者になった。バッハ、ベートーヴェン、ブラームスがドイツ音楽3大Bと称されたことは授業で習った記憶がある。
 バッハの「シャコンヌ」のピアノ編曲番はマゾー二の「シャコンヌ」も有名だが、シューマンの妻クララが右手を痛めたので左手だけで演奏できるようにとブラームスが編曲したのが「左手のためのシャコンヌ」だそうだ。シューマン・クララとブラームスの親密さがうかがえる。
 島田氏も左手だけで演奏をこなした。

ブラームス 6つの小品Op118第2番間奏曲イ長調
 ブラームス晩年の作品で、穏やかな哀愁に満ちた旋律の名作だそうだ。

バッハ 平均律第1巻より第1番」ハ長調BWM846プレリュード
 バッハが鍵盤楽器のために作曲した平均律クラヴィーア曲集というのがあり、有名な指揮者ハンス・フォン・ビューローがピアニストの旧約聖書と称したほど、音楽史上重要な曲集の一つとされるそうだ。そのうちの一曲の演奏である。

 一曲ごとに島田氏が曲の解説やエピソード、島田氏の滞在中の思い出を語りながら、演奏してくれた。素人鑑賞者には馴染みの薄い曲もあったが、島田氏のピアノ演奏+話で気分転換になった。ピアノを習っている生徒、学生、かつてピアノを習ったが暮らしに追われてピアノから遠ざかっている方には刺激になったのではないだろうか。
 なんと、アンコールにも応えてくれて、フランス人のクロード・ドビッシー(1862-1918)作曲「亜麻色の髪の乙女」を演奏してくれた。ライプツィヒを巡る6曲とは雰囲気が異なる軽快な感じに聞こえた。ドイツとフランスの気質の差だろうか。素人には十分に楽しめた。大きな拍手で感謝を伝え、さわやかな気分で家に戻った。(2019.4)

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