yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

2020.1シチリアの旅 2 パレルモへ+シチリア略史 

2021年02月24日 | 旅行

 2020.1 シチリアの旅 2 ローマからパレルモへ+シチリア略史

 シチリアの旅2日目、朝5:00=日本時間13:00ごろ、ホリディ・イン・ローマで目が覚める。外はまだ暗い。温湿度計を窓の外に出したら5℃、58%だった。ローマは北緯42度に近い。日本では函館より北になる。地中海気候は教科書通り温暖なようだ。
 体がイタリア時間になれていないためか、夜中に何度か目が覚めた。室内は24℃、33%だったから、乾燥のせいかもしれない。

 スーツケースをまとめ、7:00に朝食を取る。ビュッフェスタイルで、食材が多い。野菜、ハム、ソーセージ、チーズ、フライドエッグ、クロワッサン、ヨーグルト、果物などを皿にのせる。
 日本では毎朝、煮大豆、大根おろし、野菜、納豆、フライドエッグ半分、肉か魚、ご飯、味噌汁、ヨーグルトが定番だから、趣が変わった。食事もだいじな異文化体験である。仕上げにエスプレッソを飲み、ミルクで苦みを抑え、朝食を終える。

 7:45出発予定ので、10分ほど前にバスに格納されたスーツケースを確認する。昨晩、スーツケース行方不明を体験したばかりなので、一安心する。
 ホリディ・イン・ローマは機能性を重視した設計で、外観も簡潔にデザインされている(写真)。
 空港に近い立地なので、ビジネスやフィウミチーノ空港で乗り継ぐ場合は便利であり、機能性重視の方が好まれるようだ。

 ホテルからローマ・フィウミチーノ空港まで15分もかからない。笠の大きい松や糸杉の風景を見ているうちに空港に着いた。
 空港入口に巨大なレオナルド・ダ・ヴィンチ像が置かれている(写真)。レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)は、フィレンツェ郊外のダ・ヴィンチ村で生まれたルネサンス期を代表する芸術家である。ダ・ヴィンチは万能の才能に恵まれ、ハングライダーやヘリコプターのような飛行器具も提案している。

 フィウミチーノ空港は、イタリアを代表する天才芸術家+科学者にちなみレオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港と別称されている。
 空港ロビーにはダ・ヴィンチが提案した飛行器具の実物大模型が展示され、ダ・ヴィンチの図解入り手稿が巨大なパネルで展示されていた。
 ダ・ヴィンチの展示に目をきょろきょろさせながら、アリタリア航空カウンターでパレルモ行きにチェックインする。
 10:00ごろ、満席のパレルモ行きAZ1785が離陸する。雲一つなく見通しがいい。機体が傾いたとき、沿岸に設けられた養殖の生け簀?が見えた(写真)。地中海沿岸は漁業も盛んである。シチリアでは海鮮が楽しめそうだ。
 アリタリア航空では軽食がサービスされた。朝食をしっかり食べてきたのでコーヒーだけにし、地中海を眺めているうち、着陸態勢に入った。ローマ-パレルモの近さを実感する。
 11:00過ぎ、快晴のパレルモ・プンタ・ライ空港に着陸する。

 シチリアSiciliaを予習する。
 イタリア半島はよくブーツに例えられる。ブーツのつま先の少し先、幅わずか3kmのメッシーナ海峡を挟んだ地中海に浮かぶ島がシチリア島である。
 シチリア島のさらに南西に、幅145kmのシチリア海峡を挟んでアフリカ・チュニジア共和国が対面する。
 イタリア半島+シチリア島が地中海を東と西に二分しているんである。地中海を往来する船はメッシーナ海峡かシチリア海峡を通らなければ行き来ができない。
 見方を変えれば、シチリア島がイタリア半島とアフリカをつないでいる。ヨーロッパとアフリカを行き来するにはシチリア島を通らなければならない。
 この位置関係が激動的なシチリアの歴史を作りだした。

ギリシアの植民・カルタゴの支配  
 元々シチリア島には、西部にエリミ人、中部にシカニ人、東部にシケル人が住んでいた。紀元前8世紀からギリシア人の植民が開始され、植民都市が建設された。ギリシャの学者として有名なエンペドクレスやアルキメデスはシチリア島の出身である。ギリシャ人はそのころシチリアをシケリアと呼んでいた。
 紀元前480年以降、カルタゴ(現チュニジア共和国の海岸沿いのフェニキア人国家)とのあいだで戦争が繰り返される。シチリアにはカルタゴの植民都市もあった。
 紀元前311年、カルタゴはシラクーサとメッシーナが支配する島の東部を除いたシチリア島を支配下においた。 

ローマ属州
 紀元前256年、カルタゴがシラークサに侵攻、メッシーナはローマに救援を求め、第一次ポエニ戦争が起きる。ローマはシチリア島全域を占領、紀元前242年の第二次ポエニ戦争でカルタゴは撤退し、シチリアはローマのシキリア属州となる(この戦いの最中にアルキメデスが戦没する)。ローマ帝国の属州時代、シチリア島の農作物はローマの重要な食料供給源になった。
ヴァンダル王国・東ゴート王国
 440年、ゲルマニアから北アフリカに移住したヴァンダル王国がシチリア島を併合する。続いてゲルマン人の一派である東ゴート人がイタリア半島、シチリアを支配下に置き東ゴート王国を興す。
東ローマ帝国
 552年、東ローマ帝国が東ゴート王国を破り、シチリア島は東ローマ帝国領となる。・・7世紀、北アフリカに進出したイスラム勢力とローマ帝国アフリカ総督府との衝突が続く。

シチリア首長国

 827年、北アフリカ・カイラワーン(ケルアンとも呼ばれる)から侵入してきたアラブ人にシチリア島は征服され、シチリア首長国(831~1072)が成立する。
シチリア王国
 11世紀、イタリア半島南部を席巻したノルマン人がシチリア島を征服、1130年、シチリア伯ルッジェーロ2世がシチリア王位に就き、シチリア島とイタリア半島南部を統治するノルマン・シチリア王国が成立する。当時、イスラム教のアラブ人、ギリシア正教のギリシア人、カトリックのラテン系の人びとが共存していた。
 1194年、神聖ローマ皇帝ハインリヒ6世がシチリア王位を奪った。1197年よりハインリヒ6世の子フェデリーコ1世=のちのフリードリヒ2世がシチリア王となり、1215年よりフリードリヒ2世が神聖ローマ皇帝位を兼ねた。 
 1266年、神聖ローマ帝国と教皇の紛争により、フランスの王族であるアンジュー伯シャルル1世がシチリア王国を征服、シチリア王カルロ1世として即位した。 

シチリア王国の分裂
 1282年、フランス・アンジュー家の圧政にシチリア住民が反乱を起こし(シチリアの晩祷)、アラゴン王ペドロ3世が介入してシチリア島を支配下に置く。シチリア王国はカルロ1世の大陸側ナポリ王国とシチリア島側の王国に分裂する。シチリア島はアラゴン王家が支配し、スペイン王国の成立後はスペイン・ハプスブルク家によって支配される。
スペイン継承戦争
 1700年にスペイン・ハプスブルク家が断絶するとフランス・ブルボン家とオーストリア・ハプスブルク家とのあいだでスペイン継承戦争が始まる。トリノ出身のサヴォイア公ヴィットーリオ・アメデーオ2世がシチリアの王位を得る。 
四カ国同盟戦争
 四カ国同盟戦争(1718~1720)が終わり、ヴィットーリオ・アメデーオ2世はオーストリア・ハプスブルク家のカール6世と、シチリアとサルデーニャを交換する。以後シチリア島はオーストリア・ハプスブルク家の支配下に入る。 
ポーランド継承戦争
 ポーランド継承戦争が勃発すると、1734年、スペインがナポリ・シチリアを奪回し、スペイン・ブルボン家出身のパルマ公カルロがナポリとシチリアの王位に就いた。以後、シチリア王国、ナポリ王国はスペイン・ブルボン家の分家であるブルボン=シチリア家によって統治される。 

ナポレオン戦争と両シチリア王国
 ナポレオン戦争中、ナポリはフランス軍によって占領されるが、シチリア王フェルディナンド3世はパレルモに逃れ、シチリア島を確保する。ナポレオン戦争後の1816年、シチリア王国とナポリ王国は統合されて両シチリア王国となり、シチリア王フェルディナンド3世が両シチリア王フェルディナンド1世となる。 

イタリア統一運動・シチリアはイタリア王国に統合
 19世紀のころ、イタリアは両シリア王国を始め、教皇国家、トスカーナ大公国、サルデーニャ王国、パルマ王国、モデナ王国、ロンバルド=ヴェネト王国、ルッカ公国などの小国に分裂していた。イタリアの統一と封建制度打破を目指した革命運動が起き、1860年、ジュゼッペ・ガリバルディ率いる千人隊はシチリア島を占領し、ついで両シチリア王国の首都ナポリを奪取した。ガリバルディは占領地をサルデーニャ王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世に献上し、1861年に成立するイタリア王国にシチリア島は統合された。

マフィア、移民、ゴッドファーザー
 イタリア統一後、イタリア北部の都市化が進むが、シチリア島は産業の発達から取り残された。ファッシ・シチリアーニと呼ばれる労働者の運動が激化する。政府の弾圧でシチリア島から多くの移民が流出した。
 シチリアでは、19世紀にマフィアとして知られる犯罪組織が暗躍していた。マフィアがアメリカ移民に紛れ、19世紀後半、アメリカの大都市で勢力を拡大していった・・ゴッドファーザーの世界である。 
世界大戦後イタリアの自治州
 シチリアは、イタリア本土とともにはファシスト政権に制圧されていたが、1943年の連合国によるシチリア島上陸作戦によって解放される。 
 1946年、シチリアはイタリア共和国の自治州となる。
 シチリア島は地中海の東と西を結び、ヨーロッパとアフリカをつなぐ交通、交易の要衝であり、列強国がシチリア島を支配しようとしたことが、歴史を概観しただけでも理解できる。

 シチリア島が三角形であることから、ギリシャ植民時代、三脚巴=トリナクリアtrinacria(三角の意味)がシチリアの象徴とされた(シチリア州旗参照、中央の三脚巴)。
 三脚巴の中央のメデューサの頭は、蛇ではなく稲穂が伸びている。シチリア島が肥沃であり、メデューサを大地の恵みの神として崇めていたとの説もある。
 州旗の赤と黄色は、1282年のフランス・アンジュー家の圧政に対する反乱(シチリアの晩祷)で、最初に立ち上がったパレルモPalermoとコルレオーネCorleoneの勇気を称え、パレルモの赤とコルレオーネの黄色を地にしたとの説もある。
 州旗からもシチリアの歴史をうかがうことができる。 (2021.2)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2021.2 2020年分e-Tax送信

2021年02月20日 | よしなしごと


2021年のe-Taxは順調に作成が進み、事前準備を含めて1時間半ほどで送信


 一昨年までのe-Taxはインターネットエクスプローラ上で確定申告書を作成し、送信した・・2019年2月23日ブログ「2019.2 源泉徴収票、保険料控除証明書、医療領収書などを準備、2時間ほどでe-Tax送信完了」・・。

 昨年は、マイクロソフトエッジ上で作成し、送信した・・マイクロソフトエッジのバージョンアップでドタバタしたが、2020年2月29日ブログ「2020.2 今年のe-TAXも送信エラーHJSO426Eやe-TAX Edge用APでドタバタしながら電子送信完了」・・。

 2021年は、例年通り1月中旬、国税庁からe-Taxによる国税電子申告のメイルが届いた。
① 国税庁の確定申告書等作成コーナーを開き、右の「メッセージボックスの確認」蘭の「確認する」をクリック→「受付システムログイン」画面に移る。
 Sony・PaSoRiの「ICカードリーダライター」をパソコンに接続し、「マイナンバーカードの読み取りへ」をクリック→マイナンバカードの「利用者証明用電子証明書のパスワード」を入力する。
 続いて下欄のe-Tax用「利用者識別番号」と「パスワード」を入力し、ログインをクリックすると、国税庁から届いたメッセージを確認することができる。

② 2月中ごろ、2020年分の公的年金や雑所得などの源泉徴収票、社会保険料や生命保険料の控除の通知、医療費控除用の領収書類を整理した。これは例年通りなので15分ほどで済む。・・日ごろ、医療費領収書や年末に届く源泉徴収書などを種類別に分類し、保管しておく。
③ 2月19日夕方、試しに「国税庁確定申告書等作成コーナー」を開く。「作成開始」と「保存データを利用して作成」が並んでいる。
 「作成開始」をクリックすると④に進む。
 「保存データを利用して作成」は昨年の申告票を下敷きに進められる利点がある。昨年の申告票を利用するときは、「保存データを利用して作成」をクリックする。次画面に「新規作成」と「作成再開」が並んでいるので「新規作成」をクリックし、④に進む。
   ・・申告書の入力途中で一時保存した場合は、「保存データを利用して作成」をクリック、「作成再開」をクリックすると再開できる・・。

④ 次の画面は提出方法の選択で、「e-Tax提出 マイナンバーカード方式」をクリックする。  次のe-Tax画面で「事前準備セットアップ」をクリックする→環境チェック結果が現れ、chroma拡張機能インストールが要求された。
 こりゃなんだ?、ここで少しまごつくが「拡張機能インストール」をクリックし、次画面「e-TaxAP」で右上の「chromaに追加」をクリックする。
 ・・たぶん「MPASetup_choromiumu Edge」がインストールされ、e-TaxAPにchromaに追加されたらしい・・何のことかはほとんど分かっていないが、作業に支障はない・・。

⑤ 申請者確認画面=「マイナンバーカードの読み込み」が表示されるので、Sony・PaSoRiの「ICカードリーダーライター」をパソコンに接続し、「マイナンバーカード」を乗せ、マイナンバーカードの「利用者証明用電子証明書のパスワード」を入力する。
 続いて下欄のe-Tax用「利用者識別番号」と「パスワード」を入力し、ログインをクリックする。
⑥ PC環境の確認画面に変わる。すべて正常を確認し、閉じるをクリックすると、事前セットアップ画面に移るので、「事前準備セットアップファイルのダウンロード」をクリックする。「jizen_setup」がインストールされる。ここまでが準備作業である。
⑦ 「利用規約に同意して次へ」をクリック→「検索完了画面」で「OK」を選び、「申告書等を作成する」をクリックする。

⑧ 「令和2年分の申告書等の作成」をクリック→「所得税」をクリック→次の画面に「マイナポータルと連携する」・「マイナポータルと連携しない」が現れる。国税にからむマイナポータルは利用していないので、「マイナポータルと連携しない」をクリックする。
⑨ 「作成開始」に移り、内容を確認し、質問に答え、「次へ進む」をクリックする。 予行演習のつもりだったが順調に進んでいるので、作成画面に入力することにした。

⑩ 「収入金額・所得金額入力」画面で、公的年金、雑を選び、源泉徴収書などを見ながら入力し、「入力終了(次へ)」をクリックする。
⑪ 「所得控除入力」画面で、社会保険料控除、生命保険料控除を記入する。
 医療費控除をクリックし→次の画面で「医療費控除を適用する」をクリック→次の画面で「医療費集計フォームを読み込んで、明細書を作成する」を選ぶ。
 ・・当初は医療費明細の記入に時間がかかった。医療費集計フォームを利用すると、前の年のフォームを下敷きにして記入することができ、時間の節約になるが、医療費フォームがバージョンアップされ、前の年のフォームが使えなくなったこともあった。
 今年の医療費フォームは昨年と同じだったので、昨年のフォームを下敷きにして記入し、スムーズに医療費控除の記入を終えた→「入力終了(次へ)」をクリックする。

⑫ 次の画面の「税額控除・その他の項目」は該当しないので「入力終了(次へ)」をクリック→「計算結果」の画面になり、「納付する(還付される)金額」が表示される。
⑬ これで2020年分の申告票作成は終了になる。
 納付・還付金額を確認し、「次へ」をクリック→住民税等入力画面に移り、そのまま「入力終了(次へ)」をクリック→次の画面で銀行口座、氏名・住所等、税務署を確認し→「次へ進む」をクリック→次の画面でマイナンバーを入力し「次へ進む」をクリック→申告内容確認画面で「帳票表示・印刷」をクリックして、送信前の申告内容確認票を印刷する。

 ・・途中のどの段階でも右下の「入力データの一時保存」をクリックし、入力データをパソコン内に保存することができる。データを保存したあとはパソコンを終了しても支障ない。
 今年は順調に申告票の作成を終えることができたが、送信前に申告内容を確認するため、入力データをパソコンに一時保管する。
 マイクロソフトエッジのお気に入りバーに「確定申告書等作成コーナー」を登録し、パソコンを終了にして、いったん夕食にする。晩酌を傾けながら昨年と今年の申告票を見比べながら内容を確認する。

⑭ 夕食+晩酌後に、パソコンを立ち上げ、お気に入りバーから「国税庁確定申告書等作成コーナー」を開き、「保存データを利用して作成」をクリック→「作成再開」をクリック→「保存データ読み込み」画面で「ファイルの選択」をクリックし、パソコン内に保存したデータをクリック→データを読み込む→次の画面で所得税の確定申告書の「作成再開」をクリックすると、保存しておいた申告内容の画面が現れる。

⑮ 申告内容確認画面の「次へ進む」をクリック→送信準備画面→「次へ進む」をクリック→「マイナンバーカード読み取り」をクリック→「署名用電子証明書パスワード」を入力する。
⑯ 再度「マイナンバーカード読み取り」が現れるのでクリック→「利用者証明用電子証明書パスワード」を入力し→「送信する」をクリックして、無事送信が完了した。

 作成開始から送信まで1時間ほど、事前の準備を含めても1時間半ほど、今年は快調に作業を終えることができた。
 「確定申告書等作成コーナー」のトップ画面に戻り、右の「メッセージボックスの確認」蘭の「確認する」をクリックし、「ログイン」して、送信した申告票が着信されていることを確認する。
 すべて終了、パソコンをシャットダウンする。北斗七星を見上げながら、自分にお疲れさんと、甘口のドイツ産・リースリングを傾ける。
  (2021.2)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2020.1シチリアの旅 1 家から22時間かけローマへ

2021年02月18日 | 旅行

 2020.1 シチリアの旅 1 羽田からロンドンを経てローマへ

シチリア再訪
 1997年2月、南イタリアを旅した。イタリアは初めてだが、ローマから列車でアルベロベッロに移動し、ナポリを経て5日目にパレルモに飛び、6日目にパレルモ、アグリジェントなどを見学し、7日目にローマに戻って、8日目に帰国した。イタリアの知識が不十分だったが、あえてアルベロベッロとシチリアに重点を置いた。
 費用を抑えるため、添乗員も現地ガイドも頼まなかった。頼りはガイドブックだけである。シチリアではパラティーノ礼拝堂、ノルマン王宮、モンレアーレ、アグリジェントの神殿・・・・に圧倒された。ガイドブックだけでは、圧倒する異文化のデザインの背景まで理解が及ばなかった。その後、シチリアでの圧倒する異文化デザインを思い出すことがあったが、そのまま22年が過ぎた。

 2019年の秋、偶然、NHK「旅するイタリア語」が映った。俳優の小関裕太が、シチリアを舞台にしてイタリア語に挑戦する番組である。イタリア語は棚に上げ、パレルモを懐かしく見ているうちシチア再訪に火がついた。
 定期的に届く旅行社のパンフレットを調べ、2020年1月、文明の十字路シチリア島周遊10日間JALパックツアーが気に入った。初日はローマまでの移動、最終日は機内泊なので正味は8日間だが、パレルモ、シラクサ、タオルミーナにそれぞれ2連泊する(行程図)。ゆったりした行程もこのツアーを選んだ理由である。

 ・・2019年の年末に中国・武漢で新型コロナウイルスが発症したといった報道があったが、2020年早々の世界は何ごともないように通常通りに動いていた。ツアーは予定通り実施され、1月中旬の帰国のときも次の海外旅行が話題になっていた。
 しかし、ほどなく世界は新型コロナウイルスの感染が急速で強力であることを思い知らされた。その後、緊急事態宣言が発出され、海外旅行は中止になり、国内旅行も自粛が要請されている。
 記憶を紡ぎ、イメージでシチリアを旅し、気分を前向きにしたい。

羽田からロンドンを経てローマへ
 シチリアの旅1日目は、日本航空で羽田空港からロンドン・ヒースロー空港、ブリティッシュ航空でローマ・フィウミチーノ空港への移動日である。
 朝5:00に起きる。納豆で朝食を済ませ、7:30ごろ家を出る。通勤時間帯のラッシュにもまれながら、9:00過ぎ、羽田空港に着く。海外へ行く人、海外から着いた人でごった返していた。
 宅配で送ってあったスーツケースを受け取り、9:30ごろ日本航空カウンターでチェックインを済ませる。出国手続きを終えて、10:15ごろサクララウンジに落ち着く。ラウンジは改装工事で席が少なく、混みあっていた。オリンピックに備えた改装のようだ。

 ・・今回はプレミアムエコノミー席にした。往路はまだ元気なので横になって休まなくても支障ないし、復路の11時間は窮屈だが寝不足は帰宅後に休むことにして、ビジネス料金を節約することにしたためである・・。
 日本航空プレミアムエコノミーはサクララウンジを利用できる。幸先を祝いシャンパンをいただく。鯖の刺身があったので日本酒も少しいただく。

 11:00過ぎにJL043ロンドン行きに搭乗したが、遅れた乗客を待って離陸は12:00過ぎになった。ほぼ満席だった。
 13:00ごろ、ランチの準備が始まる。食前酒にシャンパンvollereauxをいただく。ヴォレローは初めて飲む。すっきりした味わいだった。料理は料理人コンペティションのファイナリストによる監修の牛肉と野菜の旨煮+ミモザ風蒸し鶏ほかを選んで、赤ワインを合わせた。日本航空便は優れた料理人による創意工夫がこらされていて、食事を楽しめる。

 ロンドン=グリニッジ標準時と日本の時差は-9時間である。私の時計はワールドタイム型なのでロンドンを選び、サマータイムをオフに設定する。アナログ式の短針・長針はイギリス冬時間になり、小窓のデジタル式が日本時間になる。時差を計算しなくていいので便利である。
 ロンドンまでの飛行時間は13時間弱、準備してきた資料に目を通したり、新着映画を見たり、持参の本を読んだり、白ワインや日本酒をいただいたりして過ごす。
 イギリス時間9:00ごろ=日本時間18:00ごろ、ビールとカップ麺「うどんですかい」を頼む。うどんですかいは日本航空と日清食品の共同開発だそうだ。日ごろカップ麺は食べないので、カップ麺は前回の海外旅行以来になる。いい味に工夫されていて感心する。

 イギリス時間13:00ごろ=日本時間22:00ごろ、到着2時間前にAir Dean & Delucaの軽食が出る。ディーン&デルーカの店やバッグを見かけたことはあるが食べるのは初めてである。これもおいしい味に工夫されていた。コーヒーを飲み終わって間もなく、着陸の案内があった。
 15:40ごろ、ロンドン・ヒースロー空港に着陸した。曇り空で、10℃の表示が出ていた。
 
 次のローマ便まで1時間ほどの自由時間になった。ブリティッシュ航空の機内ではすべて有料だそうだ。2時間半ほどの飛行であり、うどんですかい、ディーン&デルーカを食べているので食事は心配ない。ミネラルウォーターを購入し、ホップの効いたイギリスビールを飲んだ。イギリスの通貨はポンドである。ユーロも使えるがお釣りがポンドになってしまうので、カード払いにする。

 16:00過ぎにゲートに集合、17:00過ぎBA558ローマ行きに搭乗する。満席で、ヨーロッパ人は体が大きいから狭苦しく感じる。
 18:20=日本時間3:20ごろ離陸する。イタリアは中央ヨーロッパ時でロンドンとの時差は+1時間=日本とは-8時間、ワールドタイムでパリを選び、サマータイムをオフにする。外は真っ暗、日本は真夜中、すぐに夢のなかになった。
 イタリア時間22:00=日本時間6:00ごろ、ローマ・フィウミチーノ空港に着陸する。夜遅いためか、閑散としていた。

 Baggage claim=荷物のターンテーブルでスーツケースを探す。同行の皆さんのスーツケースはすべて出そろったが、私たちのスーツケースが出てこない。ターンテーブルには荷物がなく、止まってしまった。万事休す!!。
 スーツケースの行方不明は以前にも体験したことがある。まずは荷物のオフィスを探さなければならない。ツアーコンダクターのHさんはフィウミチーノ空港に詳しいばかりか、イタリア語もできる。オフィスを見つけ、係と粘り強く交渉してくれ、奥に保管されていた私たちのスーツケースを見つけてくれた。
 なんと、タグはパレルモ行きになっていた。羽田の日本航空カウンターのミスである。Hさんによれば、海外では融通の利かない係りも少なくないそうだ。eチケット控え、航空券、パスポートを見せ、スーツケースを受け取ることができた。
 私たちのミスではないが、同行の皆さんに迷惑をかけてしまった。陳謝する。

 空港から東に8kmほどのホリディ・イン・ローマに着いたのは23:00ごろになってしまった。7階の部屋から眺めると、空港近くの郊外のためか灯りは少ない(写真)。朝5:00ごろに起きてからホテルに落ち着くまでのべ22時間経っている。スーツケース行方不明のおまけもついた。
 ロビー階のバーで買ってきたビール(8ユーロ=1000円)を飲みながら、スーツケースを開け安堵する。
 24:00=日本時間8:00ごろベッドに入り、シチリアの旅初日を終える。  (2021.2)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロバート.P.パーカー著 スペンサーシリーズ第1作「ゴッドウルフの行方」

2021年02月14日 | 斜読

book525 ゴッドウルフの行方 ロバート・B・パーカー ハヤカワ文庫 1986   
 図書館でたまたま手にしたR.P.パーカー(1932-2010)著2003年出版の「真相」(book524)は、私立探偵スペンサーが積極的な行動で真相を解き明かし、思い切った戦術で解決する展開だった。
 スペンサーシリーズ第1作は1973年出版の「ゴッドウルフの行方」で、スペンサーシリーズは著者没までに40作も出版されているから、第1作から好評だったことがうかがえる。
 第1作は「真相」より30年前の出版、パーカーは41歳ぐらい、主人公スペンサーは37歳の設定、著者も主人公も血気盛ん、働き盛りだから、第1作ではスペンサーはどんな活躍をしたのか興味を持ち、「ゴッドウルフの行方」を読んだ。
 原題のThe Godwulf Manuscriptはゲルマン神話を描いた彩飾写本を意味するらしい。彩飾写本は海外の教会博物館で何度か見たことがある。壮麗な体裁で、風格のある文字で手書きされ、彩色の図版が挿入されていた。ゴッドウルフ写本は、p9・・14世紀の貴重な彩飾写本、p10・・ラテン語で書かれ、p11・・歴史的、文学的価値しかない、そうだ。
 その写本が大学の図書館稀覯書室から盗まれ、大学内組織代表者と名乗る者から10万ドルが要求された。その写本探しがスペンサーに依頼され、物語が始まる。

 「真相」では数ページずつで区切られた65節のシーンが展開したが、「ゴッドウルフ」では10ページ前後の複数のシーンが含まれた25節で構成されている。「真相」は会話形式を主体に物語が展開したが、「ゴッドウルフ」は会話を主体にしながらスペンサーの心理や行動の描写が少なくない。30年・30作のあいだに、読み手を楽しませる物語構成が工夫されたようだ。
 「真相」、「ゴッドウルフ」ともに建物デザイン、室内の調度、登場人物の服装や体型、街や通りの様子、レストランやカフェなどが、細かに描写されている。パーカーの観察眼は鋭い。
 舞台はボストンで、私は訪ねたことがないが、本を読むだけで街の雰囲気、人々の階層、暮らしぶりが想像できる。
 どちらにもギャング、麻薬、ヒッピー、銃器、自由な男女関係が描かれている。パーカーは現実の社会を忠実に描こうとしたようだ。

 大学警備主任タワーは、容疑者は極左的革命主義組織SCACEとにらんでいて、組織の書記はテリイ・オーチャドで、テリイは以前友人のキャザリン・コネリイと一緒に住んでいたが、いまはSCACEの役員デニス・パウエルと同棲している、とスペンサーに話す。
 スペンサーはテリイの授業の終わったあと、パブで話しを聞く。
 その日の深夜、テリイから助けを求める電話があり、スペンサーがアパートに駆けつけるとデニスが銃で殺されていた。薬を飲まされていたテリイは、2人組がテリイの銃でデニスを撃ったあと、テリイに銃を握らせデニスを撃たせた、と話す。スペンサーはプロの仕業と直感する。

 スペンサーからの連絡で、ボストン市警察殺人課長マーティン・クワーク警部補・・「真相」では警部に昇進していた・・、ベルソン刑事部長たちが到着する。ベルソンはクワークに、スペンサーはサフォク郡地方検事の下で働いていたがくびになったと話す・・あとでスペンサーの命令不服従が原因と分かる・・。
 警察の事情聴取でテリイはデニスと教授の誰かが写本の盗難に関係しているらしい、と話す。・・写本盗難で殺される?、まだ事件が見えない。

 スペンサーにテリイの父で会社経営のロゥランド・オーチャドから電話があり、金持ちが住む住宅街の屋敷に向かう。マリオン夫人が迎える。ロゥランドはスペンサーに真相の捜査を依頼する。
 スペンサーは、仮釈放されたテリイからチョーサーの講義のある月曜の朝、デニスが電話で相手に休講したらいい、おれは必ずやる、と話していたこと、デニスはSCACEの政治顧問マーク・ティパーと仲がよかったことを聞く。
 
 スペンサーは、デニスと同じ部屋に2年住んでいたマークのアパートを訪ねる。マークはとぼけて何も知らないと言う。スペンサーは腕ずくで聞くのは後回しにして引き下がる。
 次に、学生新聞編集者アイリス・ミルフォドに会い、SCACEは麻薬売買の噂があること、変わり者の英文学教授ロゥエル・ヘイドンがチョーサーを教えていたことなどを知る。
 家に戻ったスペンサーはこれまでの捜査を整理し、作業仮説を立てる。
 ・・スペンサーは向こう見ずで荒っぽいが、疑問を一つ一つ訪ね歩き、点と点をつなぐ糸を推理しようとする。そうした展開が読み手に共感を覚えさせるようだ。料理も得意そうで、しばしば手料理を楽しんでいる。これも読み手に親しみを感じさせる。

 スペンサーは、直接ヘイドンに会ってテリイ、デニス、写本を話題にするが手がかりはつかめない。
 オフィスに戻ると、ギャングのジョウ・ブロズの手下であるソニイとフィルが待ち構えていて、ブロズのオフィスに連れて行かれる。ソニイがスペンサーを痛めつけようとするが、スペンサーは逆にフック2発、ジャブ3発で倒す。
 ブロズは、写本から手を引けと脅し、写本は戻っていると話す。
 スペンサーがオフィスに戻り、誰がブロズに連絡したのか、そもそもギャングが写本を盗むはずがない、SCACEの麻薬とギャングはつながりそうだが写本は?などを推理していると、マリオン夫人からテリイがいなくなったと電話がかかる。
 スペンサーはオーチャドの屋敷に向かう。部屋着の夫人の誘惑に乗り関係をもったあと、テリイはモレクの儀式のグループにいることを夫人から聞く。・・夫人はスペンサーを誘惑したかったようだ。

 翌日、スペンサーはモレクの儀式のグループのアパートに向かい、全裸で縛られたテリイを救い出す。スペンサーの部屋で元気を取り戻したテリイはスペンサーがもっとも信頼できると言いながら、愛してとしがみついてくる。・・テリイには信頼できる家族、友人がいなかったようだ。アメリカ上流社会の断片であろう。・・母の次に娘と関係する第1作のスペンサーは、独身で37歳のせいか奔放である。これもアメリカ社会の断片か?。

 スペンサーはキャザリン・コネリイのアパートを訪ねる、呼び鈴に応答がない。
 オフィスに戻るとクワーク警部補が待ち構えていて、上からの圧力でクワークは事件から外され、直接指揮を執ることになったイエイツ警部がテリイを犯人と断定したこと、写本が戻ったことを伝える。・・スペンサーは市民を守るには上からの圧力に屈するのではなく事実を積み重ねることと話し、クワークは賛同し、証拠が必要と応える。
 ・・「真相」でもクワークが担当を外され、スペンサーが事件解明に奔走した。パターンは似ている。・・圧力で担当を外されるのもアメリカ社会の断片らしい。

 スペンサーはキャザリンのアパートの裏口から侵入する。キャザリンの部屋のドアを蹴破ると、キャザリンは頭から血を流し、浴槽で死んでいた。不自然なことが多すぎるとスペンサーは駆けつけたクワーク、イエイツ、ベルソンに話すが、イエイツは事故死と断定する。
 夜になってスペンサーはキャザリンの部屋に忍び込み、タンスの引き出しからモーテルの便せんを使った「愛する君よ・・君はクラスを休んでも欠席にしない・・」と書かれた手紙を見つける。
 手紙にはサインがないが、筆跡を調べるとヘイドンと一致した。

 ヘイドンの家を訪ねると、夫人のジュディ・ヘイドンがスペンサーを冷たく追い返す。
 家の外で見張っていると、ヘイドンが出てきて、「おまえを殺させてやる」と脅す。・・ブロズのことか?。ブロズとヘイドンをつなぐのは何か?。
 スペンサーはマークを訪ね、力尽くで話しを聞く。・・ヘイドンとデニス、写本がつながる・・。
 スペンサーは連日ヘイドンを見張っていて、男2人がヘイドンの車に乗り込むのを見つけ、尾行する。2人がヘイドンに銃を突きつけたので助けようとしてスペンサーは撃たれるが、二人の男を倒す。
 スペンサーは重傷を負って病院に運ばれたが抜けだし、ヘイドンの家に行く。ヒステリー状態のヘイドン夫人を説得し、ヘイドンの隠れているホテルに向かう。
 この先で私の予想しなかった結末になり、事件の全容が判明する。
 パーカーが仕掛けた結末は読んでのお楽しみに。

 著者パーカーは大学で英文学博士を取得していて、たぶん彩飾写本に詳しかったのではないだろうか。偏執狂気味の英文学教授や彩飾写本の盗難、ボストンの街の細かな描写はパーカーの体験から構想されたと思える。
 スペンサーの積極的な疑問解明の行動が積み重なり、点と点が結びついて事件が解決される展開は読み手を十分に楽しませる。スペンサーシリーズ40作まで続いたのも納得できる。ただ「真相」が出版されたのは30年後、単純計算ではスペンサーは67歳になるが、「真相」のスペンサーは40代、50代に感じる。パーカーは活躍しやすい年代を設定したようだ。  (2021.2)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ダン・ブラウン著ラングドンシリーズ5作「オリジン」

2021年02月10日 | 斜読

book518 オリジン上下 ダン・ブラウン 角川書店 2018  
 ダン・ブラウン(1964-)の作品は、宗教、歴史、芸術、科学、未来などをテーマにして、パリ、ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィア、セビーリャ、ワシントンなどを舞台に、最後の晩餐、神曲、ベルニーニ、フリーメイソンなどを織り込み、ドラマティックに息も切らせず展開し、予想外の決着で幕が下りる。読み応えもあり、私好みである。
 すでにb128「ダ・ヴィンチコード」、b131「天使と悪魔」、b207「デセプション ポイント」、デビュー作b223「パズル パレス」、b393「ロスト・シンボル」、book457「インフェルノ」を読んだ。
 「オリジン」はラングドンシリーズの5作目で、日本語版が2018年に出版されたが図書館予約を待っていて・・緊急事態宣言で図書館の閉館も重なり・・、読んだのは2020年8月になった。

 上巻の表紙はサグラダファミリア・生誕の門、下巻表紙はサグラダファミリア・螺旋階段、上巻扉絵にビルバオ・グッゲンハイム美術館、パピー彫像、ゴーギャン「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」、カサ・ミラ外観・屋上、下巻扉絵にサグラダファミリア内観・ステンドグラス、ウィリアム・ブレイク「日の老いたる者」が挿入されている。ダン・ブラウンの壮大な物語を予感させ、読み手を興奮させる。

 物語は、プロローグ、105節、エピローグで構成されている。105節は長い短いがあるが平均6ページほどで、節ごとにシーンが変わりながら進行していく。いくつかのシーンが交互に進行すると、複数のモニター画面で別々の事件が展開するのを同時に眺めるような緊張感を感じさせる。
 読み手はAモニターを見ながら想像力をたくましくしてBモニターとの関連を見つけようとし、Cモニターで新たな事態が発生して目を取られていると、Dモニターで一見関連なさそうな動きが起きる。次第に別々のシーンが関連づき、やがてそれぞれが絡み合い、ついにすべてが収れんしていく。読み手はシーンごとの流れと同時に、シーンとシーンとの関連も予測し、いつの間にかダン・ブラウンの術にはまってしまう。

 
 プロローグは、40歳のコンピュータ科学者・未来学者エドモンド・カーシュがカタルーニャのモンセラット修道院を訪ねるシーンから始まる。迎えるのはスペイン国王の信頼が厚い保守的なカトリック司教バルデスピーノで、イスラム教法哲学博士アル=ファドルとユダヤ教ラビのケヴェシュが同席する。
 カーシュは、47文字のパスワードを入れたスマートフォンで、近々発表予定の「われわれはどこから来たのか、われわれはどこへ行くのか」=世界の宗教を粉々にする衝撃的な映像の未編集版を3人にプレゼンテーションする。

 前半の物語の主たる舞台はフランク・O・ゲーリー設計のスペイン・ビルバオ・グッゲンハイム美術館、後半はガウディ設計のスペイン・バルセロナのカサ・ミラとサグラダ・ファミリアで、マドリード王宮や戦没者の谷などのシーンが織り込まれる。
 ・・サグラダ・ファミリアは工事中の1994年と聖堂の全容が分かる2015年に訪ねガウディの残した空間で瞑想した。グッゲンハイム美術館は訪ねていないが、斬新な空間造形は耳目を集めている。
 巧みな舞台選定も物語の展開を劇的にしている。読んでいるうちにサグラダ・ファミリアの実空間を思いだし、臨場感が高まった。未訪問のグッゲンハイム美術館などは体験したくなってくる。

 1節グッゲンハイム美術館に、教え子だったカーシュのプレゼンテーションに招待された主人公のハーヴァード大学教授・宗教象徴学者ロバート・ラングドンが現れる。宗教対科学の導入が語られる。
 3節ラングドンが骨伝導のヘッドセットを装着すると、カーシュが開発した人工知能のウィンストンが話しかけてくる。
 8節カーシュがラングドンを出迎え、9節カーシュはモンセラット修道院での会談を伝え、宗教は集団的幻想に過ぎない、「われわれはどこから来たのか=人類の起源、われわれはどこへ行くのか=人類の運命」の明快な答えを見つけた、とプレゼンテーションの骨子を話す。・・タイトルのOrigin=起源がこの本のテーマである。

 2節は重要人物であるルイス・アビラ提督63歳に変わる。5年前、セビーリャ大聖堂で爆破があり、妻子を失った惨事を回想する。
 宰輔の指示でグッゲンハイム美術館に向かう・・宰輔の正体は104節で明かされる。予想外の事実にラングドンも衝撃を受ける・・。
 7節前半でアビラは招待者として美術館に入館する。・・アビラは突然の追加で招待者に加えられた。誰が指示したのか?。

 10節前半はマドリードのアルムデナ大聖堂で、ミサ聖祭を下級司祭に任せたバルデスピーノ司教がノートパソコンを見入るシーン、 10節後半はグッゲンハイムのアトリウムに入り込んだアビラが宰輔から最後の指示を待つシーンになる。

 14節グッゲンハイム美術館長アンブラ・ビダルが演壇に登場する。アンブラはスペイン国王太子フリアンと婚約したばかりだが、カーシュのプレゼンテーションの準備に没頭していた。
 17節カーシュがプレゼンテーションを始める。「・・混沌を軽蔑せよ。秩序を生み出せ。・・信仰とは説明できないことを信じ、受け入れるが、科学は未知の事柄や説明されていない事柄の物的証拠を見つけようとする試み・・」・・プレゼンテーションの導入部分だが、この物語のテーマであり、説得力がある。

 19節アビラが拳銃を確かめ、20節ウィンストンからラングドンに危機が知らされるが、21節カーシュはアビラに銃撃され、命を落とす。会場は大混乱となり、アンブラの警護をしていた2人の近衛隊員がアンブラ、ラングドンに駆け寄る。
 
 話は前後する。7節後半でスペイン人によりドバイの砂漠に置き去りにされたアル=ファドルは、13節で遺体で見つかる。
 5節でブダペストに戻ったケヴェシュに16節でバルデスピーノからアル=ファドルの訃報が伝えられ、24節でプレゼンテーションについて黙秘が要請され、31節では公開するよう見知らぬ電話があり、40節でシナゴーグに避難するが、43節で暗殺者に殺される。
 ・・カーシュのプレゼンテーションを知っているための口封じか?。これも予想外の結末で仕掛け人が浮かび上がる・・。

 4節 18節 34節 46節 58節 62節 68節 78節 82節 85節 89節 101節にはインターネット上に公開されたコンスピラシーネット・ドットコムの速報が挿入される。・・この仕掛け人も結末で明らかになる。

 フリアン国王太子の動向、バルデスピーノ司教の行動と近衛部隊司令官ガルサとの確執、ITを駆使した王宮職員の動き、スペイン王がフリアンに「過去を思い出し、学ぶ場として戦没者の谷を残せ」と話す場面などが、物語の展開に絡めて描かれていく。

 27節ラングドンはカーシュの遺体からスマートフォンを抜き取り、ウィンストンの的確な戦術に助けられ、28節アンブラとともに会場を抜け出す。32節・35節水上タクシーに乗り、38節・39節空港に待機していたカーシュのプライベートジェット機に乗り込む。47節バルセロナに着陸し、カーシュの自家用車テスラでカサ・ミラに向かい、最上階のカーシュの部屋に入る。47文字のパスワードを見つけ、カーシュのプレゼンテーションを世界に発信するためである。

 狙撃を成功させたアビラは22節・29節ウーバーのタクシーを使い逃走する途中、36節宰輔からバルセロナ行きを指示される。バルセロナに向かいながら、48節・57節でローマ教会と対抗しているパルマール・カトリック教会教皇との出会いが回想される。66節アビラがサグラダ・ファミリアに着く。

 52節・53節カーシュの部屋でラングドンとアンブラは、カーシュが膵臓癌で余命残り9日だったことを知る。59節展示された絵画、膨大な蔵書を調べていて、ラングドンは空のブレイク全集の中からカードを見つける。60節アンブラは王宮上層の命令で追ってきた2人の近衛隊員のヘリコプターを見てよろめき、スマートフォンを落とす。一瞬のうちにウィンストンが消えてしまう。
 61節・63節近衛隊員は未来の王妃アンブラの命令で、二人をヘリコプターに乗せサグラダ・ファミリアに向かう。65節カーシュはサグラダ・ファミリアにウィリアム・ブレイク詩集を寄贈していて、カーシュの寄贈条件により163ページを開いて地下礼拝堂に展示されていた。
 69節・70節ラングドンとアンブラが163ページの謎を解くあいだに、近衛隊員の1人が殺される。73節ラングドンはブレイクの46文字の詩句にかけられた暗号を解き47文字のパスワードを見つける。74節もう1人の近衛隊員が銃で撃たれる。75節螺旋階段に逃げたラングドンをアビラが追い、激闘になる。・・私は1994年も2015年も螺旋階段を降りた。狭く、手すりがないので危険を実体験した。
 ラングドンは捨て身の投げで負傷し、アビラは墜落死する。

 77節・80節ラングドンとアンブラはカーシュのハイテク研究所であるスーパー・コンピューティング・センターに向かう。83節ウィンストンの声に再会、84節・87節・88節・90節2階建ての巨大コンピュータに47文字のパスワードを入れる。
 「宗教の時代は終わり、科学の時代へ」、2億人の視聴者にプレゼンテーションの配信が始まる。
 91節・92節・93節・95節・96節に「われわれはどこから来たのか、われわれはどこへ行くのか」が詳述されている。人類の起源と進化、未来における人類とテクノロジーの融合といったこの本の主張であるダン・ブラウンの論理展開は明快で、一気に読み通した。
 
 圧巻の「われわれはどこから来たのか、われわれはどこへ向かうのか」の詳述、カーシュ殺害を始めとする謎めいた事件の仕掛け人、アンブラと婚約者であり次期国王フリアン、スペイン王とバルデスピーノ司教のその後、などなどは読んでのお楽しみに。

 誰も「どこから来たのか、どこへ行くの」かという謎、不安を抱えている。ダン・ブラウンは、科学によってその答えに迫ろうとした。それがこの本のテーマである。少し先の未来は人類とテクノロジーの融合のようである。 (2020.8)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする