yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

佐伯著「たそがれ歌麿」は秀吉の醍醐の花見の浮世絵「太閤五妻洛東遊観之図」が鍵

2018年04月06日 | 斜読

book459 たそがれ歌麿 佐伯泰英 新潮文庫 2014
 喜多川歌麿(1753?-1806)は、美人画で知られる江戸時代の浮世絵師である。2017年、「北斎とジャポニズム展」、「ゴッホ展」を続けて見たが、19世紀のヨーロッパの若い画家・・後に印象派として名を残す画家たち・・が喜多川歌麿、葛飾北斎(1760-1849)らの浮世絵から大きな影響を受けたことがテーマになっていた。
 歌麿の浮世絵は見ていても、歌麿がどんな人物かは分かっていない。歌麿を知ろうと歌麿が登場する本を検索し、佐伯泰英著新・古着屋総兵衛シリーズ第9巻のこの本を見つけた。同氏の「ゲルニカに死す」(book430)は内容も深く、展開も劇的だった。新・古着屋総兵衛シリーズは第3巻「日光代参」(b353)を読んだことがある。大黒屋総兵衛勝臣の設定はユニークで、著者の構想力に感心した記憶がある。「たそがれ歌麿」も期待して読み始めたが、意外と静かな展開だった。

 歌麿は、・・背景を省略・・顔を中心とする構図を考案・・美人画の内面や艶を描き出し・・遊女、花魁、茶屋の娘などの美人画・・江戸幕府は文化元年1804年、豊臣秀吉の醍醐の花見を題材にした浮世絵「太閤五妻洛東遊観之図」を描いたのを咎められ・・捕縛されたのち釈放され・・1806年、52・3才で没している。

 この本では史実の「太閤五妻洛東遊観之図」が鍵になっている。
 第1章 夏の野分では、勝臣が表の顔である古着屋大黒屋と、裏の顔である隠れ旗本の頭領として鳶沢、池城、今坂、柘植の4族を統括していること、異国との交易で船隠しが欠かせないこと、入堀を挟んだ屋敷地を秘密裏につなぐため私財による栄橋の架け替えを願い出たこと、などがさりげない会話で紹介される。古着屋シリーズを読んでいなくても主人公大黒屋総兵衛がどんな人物でどんな活躍をしているか、だいたい察しが付いてくる。

 勝臣の表裏の顔を知っている大目付本庄義親が、勝臣と、南蛮骨董商で京都所司代、老中を務めた松平家の娘坊城麻子の娘桜子・・勝臣の許嫁・・を自宅に招く。同席したのが、本庄家に匿われていた喜多川歌麿である。
 勝臣は、歌麿の「更衣美人図」を見てp46・・女を観察する眼力の深さ・・艶が画面ににじんだ浮世絵・・気品すら漂っている・・と感じた。

 本庄家を辞し、桜子を駕籠に乗せ、東叡山寛永寺を過ぎ下谷御切手町に来たとき、夏羽織の武士と別の武士団に襲われる・・のちに小普請組前田家の用人と御側衆らしい武士と分かる・・。武士たちは、勝臣を見守っていた忍びの者に撃退される。
 ここまでが「たそがれ歌麿」の導入部だが、このあとはすさまじい野分=台風が江戸に上陸し、大きな被害を受け、大黒屋が救済に力を発揮する話に変わる。


 第2章 あと始末では、野分への備えや後始末を中心に、大黒屋の組織、力量、船隠しや秘密の部屋が紹介されていく。ここでは歌麿はほとんど登場しない。


 第3章 歌麿の正体では、大黒屋に訪れた本庄義親が栄橋の架け替えの秘密を見届けたあと、勝臣に歌麿が春画を残して消えたことを告げる。
 同時代の浮世絵師東洲斎写楽(生没不明)は、p177・・寛政6年1794年の10ヶ月のあいだに145点余の錦絵を出版し、忽然と姿を消した・・歌麿は写楽のような新しい画境を求め・・p179「絵本太閤記」は幕府から絶版させられ・・p180太閤五妻洛東遊観之図・・家斉を揶揄する・・と幕府から目を付けられた。
 歌丸を匿っていたことが露見すれば、本庄義親にも罰が下される。勝臣は部下とともに歌麿の隠れ家の一つ忍ケ岡御数寄屋町の画房に乗り込み、家斉らしき男の傍らに正室寔子らしき女と4人の側室らしい浮世絵の下絵を発見する・・p273で画題は「大尽五遊女北州享楽之図」と分かるが、この浮世絵は著者のフィクションである・・。このあとは歌麿探しの話が続く。

 第4章 手代の流連では、勝臣は、坊城麻子の情報網から、歌麿は浮世絵師の反骨心と後世に名を残したい野心から、家斉に似た旗本、寔子と4人の側室に似た北州・・吉原の別称・・の遊女をモデルに享楽之図を描こうとしたことを知る。
 同時進行で、新栄橋の秘密通路の構造や新たな仲間も紹介されていく。
 後半、裏の顔の大黒屋総兵衛勝臣に影である九条文女から、浜御殿中島東照宮への呼び出しが来る。浜御殿はかつて甲府御浜屋敷、西之丸御用屋敷と呼ばれた幕府直轄地である・・現浜離宮恩賜庭園で何度か行ったが、東照宮はない。焼失か?、著者のフィクションか?、現地を知っていると臨場感が増す・・。
 影様は勝臣に歌麿の始末を指図するが、勝臣は3日以内に大尽五遊女北州享楽之図を抹消し、歌麿を奉行所に差し出す策の了解を取る。
 ほどなく、小普請組前田家用人千草が現れ、前田家は家禄がわずか470石、娘亜紀を大奥にあげ再興をしたいが、歌麿描く側室のモデルの一人になった過去があり、歌麿を始末して過去を消したいと勝臣に話す。

 第5章 歌麿の迷いでは、歌麿の行方がようとして知れないが、探索を頼んでいた一人の元おこもの忠吉が、家斉のモデルとなった交代寄合4770石、朽木泰綱の家に勝臣を案内する。そこには用人千草もいて、二人は見張っていた勝臣、忠吉の目の前で毒殺されてしまう。
 御側衆が動いていると察した勝臣は、急がねばならない。配下の探索で、狐狸の棲む地と呼ばれた下谷箪笥町の歌麿の隠れ家を見つけ出す。勝臣は隠れ家とともに大尽五遊女北州享楽之図を焼き払い、歌麿を奉行所に引き渡して、一件落着する。


 ということで、歌麿と浮世絵について新たな知見を得たが、総兵衛勝臣の鋭い剣裁きや活劇、劇的な展開には物足りなさを感じた。 
2018.3)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2018.3 北斎「九段坂牛ヶ渕... | トップ | 2018.4 孫の付き添いで埼玉... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

斜読」カテゴリの最新記事