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浜本著「モノが語るドイツ精神」は紋章や蒐集物などのモノから精神文化を読み解いている

2018年03月19日 | 斜読

book453 モノが語るドイツ精神 浜本隆志 新潮社 2005
 2017年10月にドイツ黒い森を訪ねるツアーに参加するとき、予習にと本を探した。その一冊が「モノが語るドイツ精神」で、「モノ」「ドイツ精神」が気に入り、旅に持参した。飛行機やバス移動のときにパラパラ読んだが、著者がドイツ文化論を専門とする研究者で、p13・・本書の切り口は表層的なモノの紹介にとどまらずそこから精神文化を照射し奥底にあるモノまで見る・・という視点にこだわった本なので、旅のついでに読むような気楽な本ではなく、しっかり読んだのは帰国後になった。
 以下に目次を紹介する。目次で骨子はつかめる。どの事柄も表層的なモノについては常識の範囲だが、著者はモノをつくり出すドイツ人の精神を明らかにしようとしているから、椅子に座り、じっくり読むのがお勧めである。

第1章 シンボルから見たドイツ=1 サッカーと騎乗槍試合 サッカーのワッペン/トーナメント風景、2 紋章と歴史の連鎖 州と都市紋章/単頭のワシと双頭のワシ、3 指輪のコスモロジー 指輪伝説/結婚指輪/「ニーベルングの指輪」の循環構造、4 鍵が語る世界 鍵の文化圏/鍵と美術潮流/鍵と貞操帯

第2章 王侯のマニアックな蒐集物たち=1 アンブラス城の宝 珊瑚細工/死神とチェス、2 ルドルフ2世の異形の世界 バロックの迷宮とアルチンボルド/薬草マンドラゴラ、3 マイセン磁器の美学 ザクセン王とマイセン磁器/東洋からマイセンへ/マイセン磁器の美学、4 フリードリヒ大王の嗅ぎタバコ入れ

第3章 モノづくりと民衆のこころ=1 マイスターへの道 ツンフト制度/職人の遍歴修業、2 モノとドイツ精神 贈与とモノ/贖宥状(免罪符)への反乱/ルターと初期資本主義、3 コーヒーとプロテスタント・ビールとカトリック、4 ソーセージと「幸福の豚」 冬のソーセージづくり/「幸福の豚」/ブタとユダヤ人
5 魅惑のランプとドイツ人のこころ ランプの温もり/ランプの詩と芸術的なランプ/ソルトクリスタル・ランプ

第4章 郷土の伝統が生み出したモノ=1 テディベアの人気の秘密 シュタイフのテディベア/クマとドイツ人/プレゼントの慣習、2 「くるみ割り人形」の故郷ザイフェン チャイコフスキーの「くるみ割り人形」/ザイフェンの「くるみ割り人形」、3 オーデコロンはどこの「水」 元祖オーデコロン/オリジナル4711
4 ゾーリンゲン・ブランド ゾーリンゲンの剣/ゾーリンゲン・ブランドの成立、5 風車と風力発電のある風景 風車と粉文化/偏西風と風力発電

第5章 モノから見たグリム童話と伝説の世界=1 「白雪姫」と鏡  「白雪姫」の謎/シンボルとしての鏡/ヴェールに覆われた性の世界、2 「いばら姫」と糸つむぎの紡錘 「いばら姫」の欠落した場面/糸つむぎ部屋の習俗/カルヴァン派としてのグリム兄弟、3 ドイツ版「シンデレラ」とハシバミの木 「灰かぶり」と靴/ハシバミの木とゲルマンの樹木信仰、4 笛の魔力 「笛吹き男」伝説/笛の魔力/「笛吹き男」の正体/マクロコスモスとミクロコスモス、5 魔女狩りの虚像と実像 空を飛ぶ女神/「飛び軟膏」とホウキに乗る魔女/オルギアの幻想/スケープゴート/拷問と火あぶり

第6章 ドイツ最強・モノ語り=1 ツェッペリン伯号の夢 ツェッペリン伯号の浮上/ツェッペリン伯号の教訓/現代のツェッペリンNT号、2 ヒトラーと戦車 力の論理/ドイツ戦車、3 V2ロケットの軌跡 ロケットの開発/V2ロケットの威力、4 自動車王国ドイツ メルセデス・ベンツ神話/フォルクスワーゲン/天才ポルシェ、5 アウトバーンの思想 自動車王国をつくり出したアウトバーン/スピード無制限と秩序/アウトバーンと危機管理体制

 ヨーロッパを旅するとき、事前に都市ごとの歴史と紋章を調べるようにしている。第1章はまさに歴史と紋章から説き始めている。群雄割拠を繰り返しているところでは、日本も同じで、敵か味方かが歴史となり、敵味方の識別が紋章、家紋、旗印に表れる。
 p30にドイツの州の紋章が図示されている。p31・・ヨーロッパ紋章でよく用いられるモティーフ・・フィールドの分割は統合や合併をあらわす・・のように紋章はその地域の成り立ちをシンボル化していることが分かる。
 神聖ローマ帝国の紋章に用いられているワシは、p33・・ライオンなどと異なり天空を飛ぶ・・天使に翼があり天上と地上を往復できるようワシも超自然的な力・・鳥葬では死者の魂を鳥によって天上へ運んでもらうという葬送観・・ゴシックのもつ天上の神への志向とかかわる宗教思想・・を含み、次第にカリスマ性を持つようになった、そうだ。このように著者はモノからドイツ人の精神構造を明かしていく。


 第2章では、王侯の蒐集物からドイツ精神を説いている。p66・・チェスのルーツはインド・・ヨーロッパ中世の社会身分と対比されて、歩兵=農民、塔、騎士、司教、女王、国王・・ヨーロッパでは捕虜にこころをゆるすことができないから相手の駒をとっても使わない・・など、民族観の違いを指摘している。
 p84で嗅ぎタバコの作法が紹介されていて、p88にホーエンツォレン城が登場する。ドイツ黒い森ツアーでこの城を見学し、フリードリッヒ大王が嗅ぎタバコ入れを胸ポケットに入れていたとき銃弾に撃たれたが、嗅ぎタバコ入れに当たり命が助かった話を聞き、穴のあいた上着と銃弾でへこんだ嗅ぎタバコ入れを見せてもらった。見学では嗅ぎタバコ入れで命が助かったというエピソードで終わったが、この本で嗅ぎタバコの作法や贈り物の習慣が分かった。
 どの本でもそうだが、知識を連鎖させ、点と点がつながり、線となり、面になり、新たな知識欲を醸成する効用がある。


 第3章のモノづくりではツンフト制度を取り上げ、p94・・聖霊教会の壁に刻まれたブレッツェル・・を紹介している。壁に刻まれたパンはドイツ黒い森ツアーで見たが、この本で背景のツンフト制度、さらにドイツの職人制度とドイツ精神が理解できた。

 第4章のくるみ割り、ゾーリンゲンや第5章のグリム童話でも、モノの背景にあるドイツ精神が説かれている。ドイツを旅する人、ドイツをもっと理解したい人にお勧めである。

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