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著者内田氏も登場する「イタリア幻想曲 貴賓室の怪人Ⅱ」は浅見光彦がトスカーナで謎解き

2020年10月04日 | 斜読

book515 イタリア幻想曲 貴賓室の怪人Ⅱ 内田康夫 講談社文庫 2011  斜読・日本の作家一覧>  

 図書館で、トスカーナを舞台にした内田康夫氏(1934-2018)著・浅見光彦シリーズの「イタリア幻想曲」を見つけた。巻頭の地図にはシエナ、フィレンツェ、ピサなどが記されている。2004年のイタリアツアーでシエナ、ピサに寄ったあとフィレンツェに2泊した。2014年の中部イタリア・ルネサンス芸術めぐりツアーでもフィレンツェに2泊し、トスカーナを楽しんだ。訪問地が物語に登場すると臨場感が増す。
 内田氏の本には物語の舞台にかかわる知見が織り込まれていて、知識欲が刺激されるばかりでなく、かつての旅を思い出させ、次の旅の動機づけにもなる。

 副題は「貴賓室の怪人Ⅱ」である。「貴賓室の怪人Ⅰ」は飛鳥での世界一周に出かけた浅見光彦が船上で事件を解決する物語だそうだが、Ⅱだけ読んでも違和感はない。
 この本には内田夫妻も登場し、内田氏の老獪な仕掛けに浅見光彦が乗せられた展開になっている。劇中劇ではないが、内田氏は新たな物語構成に挑戦したようだ。
 
プロローグは光彦の兄・浅見陽一郎の話である。陽一郎は20歳の記念にヨーロッパ旅行に出かけた・・光彦5才のころか・・。陽一郎はパリでポンコツ寸前のアルファロメオを買い、皿洗いなどをしながら博物館、美術館めぐりをし、イタリアに入り、カッラーラの大理石採掘場に向かう。
 陽一郎は湖を見下ろすリストランテで陽一郎より10才年長の芸大出らしい久世寬昌に会い、カッシアーナ・アルタ村のローマ貴族の館オルシーニの様子を見て欲しい、日本に帰ったら横浜市緑区の堂本修子に指輪の入った茶封筒を届けて欲しいと頼まれる。
 陽一郎はオルシーニ館が廃墟になっていることを伝えようと久世に電話したところ、電話に出たのは警察で久世は事故死したという。
 帰国した陽一郎は堂本家を訪ね、25~6才の修子に封筒を渡し、久世が事故死したことを話す。修子は久世の妹であり、夫を亡くしたばかりで、ほかに姉がいることを知る。・・浅見光彦シリーズでありながら30年近く昔の兄の話がプロローグだから、伏線が散りばめられていると分かっても、まだ展開が読めない・・。

第1章 貴賓室の怪人  およそ30年後、警察庁刑事局長の要職に就いている陽一郎の家族のもとに、飛鳥で世界一周の旅に出ている光彦宛ての速達が届く。手紙はヴィラ・オルシーニを経営しているハンスの息子バジルの嫁・若狭優子からで、日本人グループの予約が入って間もなく「貴賓室の怪人に気をつけろ」という手紙が届き、続けて届いた手紙に「浅見光彦に頼め」と書かれていたので、光彦に助力をお願いしたいという内容だった。
 ヴィラ・オルシーニに予約した日本人グループは、飛鳥で世界旅行中の7人である。光彦は飛び入りの観光を理由に、リーダー格で美術商の牟田夫妻、石神、入澤夫妻、萬代、永畑の7人と、世話係の堀田久代に同行する。ヴェネツィアで飛鳥を下りた7人と堀田、光彦は、通訳のフィレンツェで美術品修復を学んでいる野瀬真抄子とともに小型バスでカッシアーナ・アルタに向かう。
 話は若狭優子に移り、義父ハンスが義母ピアの猛反対にもかかわらずオルシーニ館を勝手に買い取り、自力でホテルに改修するいきさつが語られる。優子はまだ手つかずの地下室に不気味さを感じている・・これは伏線か・・。
 オルシーニ館のリストランテには、すぐ近くの教会の裏の老人ホームに住み込んでボランティアをしながら年老いた女性を描いているダニエラの作品が飾ってあった。・・これも伏線、読み終わらないと事件解決の伏線か伏線もどきかは分からない。内田氏はあちこちに伏線を散りばめ、推理好きの読者を煙に巻く・・。

第2章 大理石の山  オルシーニ館2日目、一行はピサに寄ったあと、カッラーラの大理石採掘場のリストランテに入る。老マスターが光彦を見て、30年ほど前、アルファロメオに乗った青年に封筒を渡したクゼが事故死し、地元警察ではなくトリノ警察の刑事が調べに来たことを話す。・・なぜトリノから、これも伏線か?・・。
 カッラーラ市街の美術学校特別展に寄ると、出品している石渡章人と牟田氏が商談?を始めた。石渡は日本を離れてから30年近いという。浅見の名を聞いて驚く。・・石渡が怪しい?・・。
 
第3章 聖骸布の謎  オルシーニ館3日目、フィレンツェでランチをとったあと、一人で出かけた牟田が全員集合の5時になっても戻って来ない。一行を先に帰して残った真沙子と光彦に、9時過ぎ牟田から連絡が入る。タクシーでオルシーニ館に帰る途中、牟田はフェルメールの偽物とレオナルド・ダ・ヴィンチが描いたとされる聖骸布のことで話がこじれ遅れたと話す。牟田の話では、1973年にトリノで聖骸布をテレビ公開したが、そのとき偽物とのすり替えが行われた可能性があるらしい。・・内田氏は聖骸布にも詳しいようで、レオナルド・ダ・ヴィンチが放射線を投影させて布に像を描いた話を紹介している。
 ・・聖骸布が事件の鍵か?、それともフェルメールの贋作が本命か?、読者は伏線、伏線もどきを次々と手品のように見せられるが、事件の全容が予測できない、内田氏の筆裁きの妙である・・。
 オルシーニ館に着くと、ピアが飼い犬のタッコを乗せて車を走らせていたら教会の前あたりでタッコが吠え、驚いたピアが運転を誤って怪我をし、病院に運ばれていた。・・この事故もきな臭い・・。

第4章 トスカーナに死す  オルシーニ館4日目、光彦はパトカーのサイレンで目が覚める。教会からの坂道の草むらで石渡の他殺体が発見されたのだ。警察は、石渡の自宅から浅見光彦、陽一郎の名と住所の書かれたメモを発見する。
 ・・なぜ石渡のメモに陽一郎が?、30年前、陽一郎は久世に会っているが石渡とはどこでつながるのか?、なぜオルシーニ館近くで殺されたのか?。内田氏は伏線のあやとりをからませていく・・。
 光彦は優子と教会の隣の病院に入院中のピアを見舞ったとき、ピアからハンスの白血球が異常に増えていると聞かされる。
 光彦と優子は事故現場の検分中に水が涸れた古井戸を見つける。
 光彦と優子は老人ホームに間借りしている画家のダニエラを訪ねる。ダニエラのテラスから、古井戸越しにオルシーニ館が見える。
 ・・光彦の行動は核心に迫ろうとしているらしいが、読者は絡み合った伏線と伏線もどきに五里霧中となる・・。
 そこへ、内田氏は興に乗り、物語中に内田夫妻が登場する。
 
第5章 浅見陽一郎の記憶  陽一郎の電話で、石渡章人は1974年に起きた三菱重工ビル爆破事件の容疑者であり、直後に出国したことが分かる。・・関連して後ほど、東大紛争、さらにはパリのカルティエ・ラタンなども紹介される。
 陽一郎の次の電話では、牟田は画商で若い画家へ資金援助していたことが分かる。
 ・・少しずつ登場人物の姿を明らかにしているが、物語中の役どころがまだ見えない・・。
 光彦、牟田夫妻、真沙子は警視ともう一人からの事情聴取で残ることになる。ほかの一行と内田夫妻は飛鳥に乗船するため出発する。
 光彦の推理が本格化する。

第6章 湖底の村  警視とともに光彦、牟田に事情聴取するのは聖職者だった。・・となればトリノの聖骸布が核心と予想できるが・・。
 聖書者への光彦からの質問で、1976年の久世の事故死はヴァッリ湖の廃屋での水死で、イタリア人の画家もいっしょに水死していたことが分かる。
 ここまでで事件関係者がすべて登場した。うち4人が死んでいる。それが「十字架を背負った人々」を指すが、絡み合った人間関係はエピローグでようやく証される。・・これ以上書くとネタバレになるので、あとは読んでのお楽しみに。
 ・・光彦は事件を時系列にして推理していたが、私は人間関係図をつくって内田氏の仕掛けを解こうとした。この本ではどんでん返しはないが、第7章 十字架を背負った人々エピローグで内田氏は読者の予想できない結末へと運び、最後に「貴賓室の怪人」「浅見光彦に頼め」の謎を明らかにしている。 (2020.6)

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