【2012Jリーグプレシーズンマッチ 水戸 vs 鹿島】レポート:鹿島が“したたかさ”を見せて手堅く勝利。互角の展開に持ち込みながらも水戸は“少しの勇気”が足りなかった(12.02.26)
冷たい雨が降り注ぐ中行われた第8回いばらきサッカーフェスティバル。試合は、60分に右CKを中央で中田浩二が合わせて決めた1点を鹿島が守り抜き、水戸を1対0で下した。これで鹿島の8連勝。“茨城の盟主”の座を今年もしっかりと手にすることとなった。
水戸にとっては絶好の勝利のチャンスであった。鹿島は代表組5人を欠く陣容。さらに、J2が3月4日開幕なのに対し、J1の開幕は3月10日。それだけにコンディション的に水戸の方が有利の状態にあった。勝利のチャンスであったし、「J1昇格」を目標に掲げるチームとしては絶対に勝利が求められる試合であった。
しかし、突然のアクシデントが水戸を襲った。試合前日、鈴木隆行がB型インフルエンザにかかっていることが判明。急きょ欠場を余儀なくされた。攻撃の軸であり、チームリーダーである鈴木隆の突然の不在がチームに大きな影響を与えることとなった。「(前線で)ボールがおさまらず、なかなか前に押し上げていくことができなかった」と柱谷監督が言うように、いつもなら絶対的な強さを発揮する鈴木隆が作るはずの前線の起点が作れない。ゆえに、なかなか前に出られない状態が続いた。
それでも水戸は時間とともに互角の展開に持ち込んだ。特に目立ったのが、右サイドの市川大祐の動きであった。序盤こそ対面の17歳鈴木隆雅に押し込まれる場面もあったが、時間とともに質の高い動きで右サイドを制圧すると、小澤司と息の合った連係を見せて、鹿島の左サイドにできた穴を広げていき、チャンスを作り出した。37分には、右サイドの市川がペナルティエリア内の岡本達也にボールを送る。岡本が落としたボールを中央に切り込んだ小澤が受けて、シュートを放つ。惜しくもミートせず、GKにセーブされるものの、市川がチームに新たなパワーをもたらすことを証明するシーンであった。
拮抗した展開のまま進んだ試合。勝負を分けたものは、“したたかさ”だ。隙を作らず、隙を突く。鹿島の伝統とも言える“勝負強さ”に水戸は屈することとなった。60分、塩谷司の軽率なプレーでボールを奪われて与えたCK、遠藤康が蹴ったボールを中田が合わせて先制する。それまでなかなか水戸の守備組織を崩せなかったものの、相手のミスに付け込み、確実に点を取るあたりはさすがであった。
そして、その直後のプレーが印象的であった。鋭いプレスで鹿島からボールを奪った水戸がカウンターに出ようとした瞬間、スペースに抜け出そうとした橋本晃司のコースの前に、それまで前線にいた小笠原満男が素早く戻って、体でブロック。献身的な動きで水戸の攻撃の芽を摘んだ、隠れたファインプレーであった。
そうした地味ながらも貢献度の高い動きを鹿島の選手たちの多くは見せていた。ゴール前ではDF陣が体を張り、ボランチの青木剛も高い危機察知能力を発揮して、鹿島ゴールを果敢に狙おうとする水戸の攻撃を跳ね返し続けた。開幕2週間前ということで、まだコンディションが万全でない状況の中でも勝利に対する強い執念を発揮して、水戸を下したのであった。試合終了間際、ロメロ フランクのスルーパスから抜け出し橋本がGKと1対1の場面を迎えるも、橋本が放ったシュートをGK佐藤昭大が左足を伸ばして止めてみせた。
「これまで戦った中で一番力の差がなかった」と本間幸司が言うように、過去に例のない拮抗した試合展開であり、水戸の成長ぶりをうかがわせる内容であったのは事実だ。だが、今季の水戸はそこで満足するわけにはいかないのだ。「J1昇格」という目標を掲げる限り、やはりどんな内容であれ、結果にこだわらなくてはいけない。相手が鹿島だろうと、鈴木隆が欠場しようと、勝たなくてはいけないのが今季の水戸の宿命だ。
何が足りなかったのか。様々な要因があるだろう。その中で挙げたいのが、“少しの勇気”だ。印象的なプレーを挙げると、87分の場面。水戸が中盤でボールをキープしている時、鹿島の右サイドに膨大なスペースが存在した。そこに輪湖直樹が走り込めば、ビッグチャンスになったであろうシーンがあった。だが、輪湖はバランスを取るために、最終ラインから離れなかった。決して輪湖が悪いのではない。周囲が輪湖を押し出すことが必要だったのではないだろうか。「後ろは任せろ。前に行け」。塩谷や村田翔あたりがそう言えるようになると、もっと水戸は強くなるはずだし、塩谷と村田もさらにレベルアップすると思われる。その後に西岡謙太が同様の場面を迎えたが、西岡も中盤に戻ってしまった。
バランスを保ちたい気持ちは分かる。だが、そこでリスクを負ってでも前に行く“勇気”がなければ、相手の守備をこじ開けることはできない。チームの土台は築かれ、90分通して安定した戦いを見せることができるようになっている。だが、勝利をつかむためにはプラスアルファが求められる。残り1週間、水戸が培うべきは“少しの勇気”と、それを支える“サポートの精神”。リスクを冒しながらもバランスを保つ。それが本当の組織なのではないだろうか。今季の水戸ならば、そこにトライできるはず。リーグ開幕戦、勝利のために果敢にトライする姿を見せてくれることを信じたい。
「この悔しさを忘れずに開幕を迎えたい」と橋本は力強く語った。最後の“レッスン”が終わり、「J1昇格」を現実的に見据えた戦いが、いよいよ1週間後に幕を開ける。
以上
2012.02.26 Reported by 佐藤拓也
水戸担当の佐藤氏によるレポートである。
もう少し何かが足りず、鹿島に惜しい敗戦とのこと。
そこにある隔たりは、ちょっとしたもののように映ったのであろう。
しかしながら、それはそう埋まるものではない。
それは、ここまで築き続けた我等はよく知っておる。
そして、鹿島は更に新化する。
楽しみにしたい。
冷たい雨が降り注ぐ中行われた第8回いばらきサッカーフェスティバル。試合は、60分に右CKを中央で中田浩二が合わせて決めた1点を鹿島が守り抜き、水戸を1対0で下した。これで鹿島の8連勝。“茨城の盟主”の座を今年もしっかりと手にすることとなった。
水戸にとっては絶好の勝利のチャンスであった。鹿島は代表組5人を欠く陣容。さらに、J2が3月4日開幕なのに対し、J1の開幕は3月10日。それだけにコンディション的に水戸の方が有利の状態にあった。勝利のチャンスであったし、「J1昇格」を目標に掲げるチームとしては絶対に勝利が求められる試合であった。
しかし、突然のアクシデントが水戸を襲った。試合前日、鈴木隆行がB型インフルエンザにかかっていることが判明。急きょ欠場を余儀なくされた。攻撃の軸であり、チームリーダーである鈴木隆の突然の不在がチームに大きな影響を与えることとなった。「(前線で)ボールがおさまらず、なかなか前に押し上げていくことができなかった」と柱谷監督が言うように、いつもなら絶対的な強さを発揮する鈴木隆が作るはずの前線の起点が作れない。ゆえに、なかなか前に出られない状態が続いた。
それでも水戸は時間とともに互角の展開に持ち込んだ。特に目立ったのが、右サイドの市川大祐の動きであった。序盤こそ対面の17歳鈴木隆雅に押し込まれる場面もあったが、時間とともに質の高い動きで右サイドを制圧すると、小澤司と息の合った連係を見せて、鹿島の左サイドにできた穴を広げていき、チャンスを作り出した。37分には、右サイドの市川がペナルティエリア内の岡本達也にボールを送る。岡本が落としたボールを中央に切り込んだ小澤が受けて、シュートを放つ。惜しくもミートせず、GKにセーブされるものの、市川がチームに新たなパワーをもたらすことを証明するシーンであった。
拮抗した展開のまま進んだ試合。勝負を分けたものは、“したたかさ”だ。隙を作らず、隙を突く。鹿島の伝統とも言える“勝負強さ”に水戸は屈することとなった。60分、塩谷司の軽率なプレーでボールを奪われて与えたCK、遠藤康が蹴ったボールを中田が合わせて先制する。それまでなかなか水戸の守備組織を崩せなかったものの、相手のミスに付け込み、確実に点を取るあたりはさすがであった。
そして、その直後のプレーが印象的であった。鋭いプレスで鹿島からボールを奪った水戸がカウンターに出ようとした瞬間、スペースに抜け出そうとした橋本晃司のコースの前に、それまで前線にいた小笠原満男が素早く戻って、体でブロック。献身的な動きで水戸の攻撃の芽を摘んだ、隠れたファインプレーであった。
そうした地味ながらも貢献度の高い動きを鹿島の選手たちの多くは見せていた。ゴール前ではDF陣が体を張り、ボランチの青木剛も高い危機察知能力を発揮して、鹿島ゴールを果敢に狙おうとする水戸の攻撃を跳ね返し続けた。開幕2週間前ということで、まだコンディションが万全でない状況の中でも勝利に対する強い執念を発揮して、水戸を下したのであった。試合終了間際、ロメロ フランクのスルーパスから抜け出し橋本がGKと1対1の場面を迎えるも、橋本が放ったシュートをGK佐藤昭大が左足を伸ばして止めてみせた。
「これまで戦った中で一番力の差がなかった」と本間幸司が言うように、過去に例のない拮抗した試合展開であり、水戸の成長ぶりをうかがわせる内容であったのは事実だ。だが、今季の水戸はそこで満足するわけにはいかないのだ。「J1昇格」という目標を掲げる限り、やはりどんな内容であれ、結果にこだわらなくてはいけない。相手が鹿島だろうと、鈴木隆が欠場しようと、勝たなくてはいけないのが今季の水戸の宿命だ。
何が足りなかったのか。様々な要因があるだろう。その中で挙げたいのが、“少しの勇気”だ。印象的なプレーを挙げると、87分の場面。水戸が中盤でボールをキープしている時、鹿島の右サイドに膨大なスペースが存在した。そこに輪湖直樹が走り込めば、ビッグチャンスになったであろうシーンがあった。だが、輪湖はバランスを取るために、最終ラインから離れなかった。決して輪湖が悪いのではない。周囲が輪湖を押し出すことが必要だったのではないだろうか。「後ろは任せろ。前に行け」。塩谷や村田翔あたりがそう言えるようになると、もっと水戸は強くなるはずだし、塩谷と村田もさらにレベルアップすると思われる。その後に西岡謙太が同様の場面を迎えたが、西岡も中盤に戻ってしまった。
バランスを保ちたい気持ちは分かる。だが、そこでリスクを負ってでも前に行く“勇気”がなければ、相手の守備をこじ開けることはできない。チームの土台は築かれ、90分通して安定した戦いを見せることができるようになっている。だが、勝利をつかむためにはプラスアルファが求められる。残り1週間、水戸が培うべきは“少しの勇気”と、それを支える“サポートの精神”。リスクを冒しながらもバランスを保つ。それが本当の組織なのではないだろうか。今季の水戸ならば、そこにトライできるはず。リーグ開幕戦、勝利のために果敢にトライする姿を見せてくれることを信じたい。
「この悔しさを忘れずに開幕を迎えたい」と橋本は力強く語った。最後の“レッスン”が終わり、「J1昇格」を現実的に見据えた戦いが、いよいよ1週間後に幕を開ける。
以上
2012.02.26 Reported by 佐藤拓也
水戸担当の佐藤氏によるレポートである。
もう少し何かが足りず、鹿島に惜しい敗戦とのこと。
そこにある隔たりは、ちょっとしたもののように映ったのであろう。
しかしながら、それはそう埋まるものではない。
それは、ここまで築き続けた我等はよく知っておる。
そして、鹿島は更に新化する。
楽しみにしたい。