鹿島アントラーズ原理主義

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凡戦コラム

2010年02月03日 | Weblog
凡戦の勝者は誰か?
日本代表 0-0 ベネズエラ代表

2010年2月3日(水)
■九石ドームの空席が意味するもの


06年W杯ドイツ大会・ブラジル戦以来の出場となった小笠原。右サイドの攻撃的MFでプレーした【Getty Images】
 ワールドカップ(W杯)イヤーとなる2010年。国内における日本代表のファーストマッチは、大分の九州石油ドームで開催された。対戦相手は、南米のベネズエラ代表。この試合については、かねてより心配していることがあった。それは日本代表のコンディションでも、相手チームの本気度でもなく、チケットの売れ行きが芳しくないことである。

 現地・大分では、試合前日まで、代表戦の告知CMが流れていたという。それも民放3局で「チケット、まだあります!」と宣伝していたのだから尋常ではない。私もホテルで執筆中にチラリと見たが、いかにもありものの映像素材をつなぎ合わせたような作りで、クライアントの慌てっぷりが手に取るように伝わってくる。ちなみに今回のチケットは、最も高いカテゴリー1が6000円、最も安いカテゴリー4が2010円(一般)。2~3年前に比べれば、かなり良心的な価格帯となっている。

 代表人気に陰りが見えるようになったのは、もちろん今に始まったことではない。だが、今年がW杯イヤーであること、そしてかつては地方開催であれば飛ぶようにチケットが売れたこと。以上2点を考えると、事態の深刻さを痛感せずにはいられない。
 もちろん、大分の人々が代表に冷淡であるわけではない。そうではなくて、代表戦のスタンドを埋め尽くすライト層に対して、今の日本代表が魅力的に映らない――そう、とらえるべきだろう。今年、W杯があるといっても、そして本大会で「ベスト4を目指す」といっても、そこに夢やロマンといった高揚感を覚える日本国民は、実はそれほど多くはない。かような現実が、代表戦での空席となって如実に表れているのである。

 九石ドームのスタンドは、キックオフ1時間前になっても、さらには30分前になっても、なかなか埋まることはなかった。代表サポーターが陣取るゴール裏はブルー一色になっていたものの、反対側のゴール裏とバックスタンドは見事なまでにスカスカ。最終的には「2万7009人」という数字が発表されたが(会場でのアナウンスはなかった)、空席の目立つ代表戦のスタンドは、およそ祝賀ムードからは程遠く、何やら代表の2010年の船出が、決して順風満帆ではないことを象徴しているかのようである。もちろん、単なる私の杞憂(きゆう)であればよいのだけれど。

■「黄金世代」に頼らざるを得ない日本の現状

 そんなわけで日本代表である。
 W杯イヤーの今年は、明けて間もない1月6日にアジアカップ予選となるアウエーのイエメン戦が組まれ、平均年齢20・9歳、代表キャップ数の合計が4という、実に初々しいメンバーで臨むこととなった。結局のところ、このイレギュラーな日程は、日本サッカー協会のAFC(アジアサッカー連盟)に対するネゴシエーション能力の欠如が招いたものである。それでも、図らずも新戦力の発掘ができたという意味では、まさに「けがの功名」であった。この時のメンバーからは、初代表ながらハットトリックを決めた平山相太、果敢なドリブルから得点チャンスに絡んだ乾貴士、そして金崎夢生の3名が、鹿児島・指宿での代表合宿に招集されることとなった(乾は追加招集)。

 こうしたフレッシュなメンバーに加えて、岡田武史監督は、かねてから待望論のあった小笠原満男の招集に踏み切る。その実力については、昨年のJリーグMVPに輝いたことからも、誰もが認めるところであろう。ここで考察すべきは、招集のタイミングとその役割である。指揮官は「(小笠原には)攻撃的MFとして期待している」とし、このポジションについては「若手も出てきているが、海外組を除くと意外と(選手層が)薄い」と語っている。確かに、中村俊輔、本田圭佑といった海外組が招集できない中、彼らに代わってバックアッパーとなり得る存在は、やはり小笠原以外には考えられまい。そして、本人の実績と性格を勘案するなら、若手のように呼んだり呼ばなかったり、ということは極力避けるべきだろう。だからこそ、このタイミングでの招集だったと見て間違いない。

 いずれにせよ、このベネズエラ戦と、続く東アジア選手権3試合は、5月中旬に発表される南アフリカ行き23名のリスト作りのための、今年最初のトライアルとなる。そこで岡田監督が選んだスターティングメンバーは、以下の11人である。
 GK楢崎正剛。DFは右から徳永悠平、中澤佑二、田中マルクス闘莉王、長友佑都。MFはディフェンシブに遠藤保仁と稲本潤一、オフェンシブに中村憲剛と小笠原。そしてFWは岡崎慎司と大久保嘉人(登録はMF)。

 注目は、何と言っても小笠原の復帰だろう。代表の青いユニホームに袖を通してピッチに立つのは、06年W杯のブラジル戦以来、実に4年ぶりのこと。と同時に、あらためて驚かされるのが、4人のMFのうち中村憲を除く3人が、いわゆる「黄金世代」であることだ。中盤の顔ぶれが、何やら4年前に戻ったかのような錯覚さえ受ける。海外組が呼べないエクスキューズがあったとはいえ、これだけ岡田監督が若手にチャンスを与えてきたのに「意外と(選手層が)薄い」。それゆえ「黄金世代」に頼らざるを得ない、というのは、これはこれで素直に喜べない日本サッカー界の現実であったりする。

■スコアレスドローは必然だった?

日本は後半の交代で攻撃が改善され、途中出場の平山(右)もゴール前で存在感を発揮した【Getty Images】
 はっきりいって、試合自体は「凡戦」であったと言ってよい。日本はボール支配率(63.8%)と、チャンスの数で相手を圧倒しながら、今年最初のホームゲームはスコアレスドローに終わった。特に不満が残ったのは前半である。ベネズエラ守備陣の徹底したプレッシャーに圧倒され、得意としていたサイドを起点とした攻撃が機能せず、散発的に遠めからのシュートを打つしかなかったからだ(もちろん、小笠原が16分に放ったミドルシュートは素晴らしかったが)。

 前半の日本の攻撃が機能しなかったのには、もちろん原因がある。
 まず小笠原にしても中村憲にしても、中央でプレーしたがるタイプの選手であったこと。「どうしても、こういうタイプの相手だと(攻撃が)詰まってしまう」とは岡田監督の弁。一方、当の小笠原は「(サイドバックに)もうちょっと出てきてほしいかな、というのはある。それとサイドチェンジをもっと狙ってほしい。鹿島では(サイドが)どんどん出てくるので」。それでは、サイドの人間の言い分はどうか。徳永は「満男さんは中に入ってキープして、タメて時間を作るという部分がある。そういう特徴を理解しながら上がるタイミングを計らないと」と語っている。これまで、不動の右サイドバックだった内田篤人が出場していれば、同じ鹿島所属の小笠原との連係ももっとスムーズだったかもしれない。だが、このところの体調不良のため、スタメンは徳永。指宿合宿では評価を高めていた徳永だったが、この日は思うようなプレーを見せるには至らなかった。

 攻撃に改善が見られたのは、後半14分の交代だった。長友と中村憲を下げて、駒野友一と平山を投入。駒野が右サイドに、そして平山が岡崎とツートップを組み、大久保は2列目に下がって左サイドに張りつく。すると、右の駒野からクロスが入ったり、左の大久保が起点となって、稲本や小笠原とのパス交換からサイドを崩すようになり、さらに折り返したボールを平山や佐藤寿人(後半30分に岡崎と交代で出場)が迫力あふれるプレーでシュートを放つ場面も見られるようになった。とりわけ、後半の大久保の活躍ぶりには目を見張るものがあった。玉田圭司が右内転筋を痛めたために、代わって前線での起用となったが、後半の左MFでの仕事が最も光っていた。いずれにせよ、トップでも中盤の中央でもサイドでも使える大久保は、今後も指揮官から重宝され続けることだろう。

 この日の日本にとっての収穫は、むしろ守備陣の充実ぶりを挙げるべきなのかもしれない。「ディフェンスに関してはほとんどピンチもなく、ロングボールの対処も、カウンターへの戻りも、非常に良かったと思っています」と岡田監督。センターバックの盤石ぶりと、久々にゴールマウスを守った楢崎の沈着冷静ぶりに加え、遠藤と稲本によるボランチコンビのフレキシブルな対応ぶりにも感心させられた。3人のボランチをそろえるベネズエラに対し、日本のダブルボランチは中盤で相手に数的優位を作らせないよう、状況に応じて縦のラインを作りながら味方の危機を未然に防いでいた。ちぐはぐな時間帯が長かった攻撃陣と、いつも以上に安定感があった守備陣。こうして考えると、この試合がスコアレスドローに終わったのは、ある意味、必然的であったように思える。

■大国を夢見るベネズエラの純真

 さて、この何とも評価のしにくい試合に、あえて救いを求めるとするならば、それは対戦相手であるベネズエラだったのかもしれない。敵将のセサル・ファリアスは、楢崎(33歳)とはたった3歳違いの36歳。4年後のW杯を見据えているチーム同様、指揮官もまた非常に若い。その前向きなスタンスは、試合後の会見からもうかがえる。
 ベネズエラが守備では互角以上の戦いをしていたのに、攻撃面で課題があったのはなぜか、という質問に対して、ファリアス監督の答えはこうである。

「日本には、国際経験が豊富なセンターバックを抱えていたが、われわれ(の攻撃陣)は17歳を含めた若い選手で構成されていた。特に17歳の選手は今日がデビュー戦だった。その意味で、彼らの、そしてベネズエラ代表の今後に向けて、大切な経験ができた」

 ちなみに17歳の選手とは、あのシジクレイ(元京都、G大阪など)に似たスキンヘッドの7番、アリスティギエタのことである。そのこと自体にも驚くが、それ以上に、A代表とユース代表の混成チームでありながら、今回のゲームに対してモチベーションが極めて高かったことにも、あらためて驚かされる。時差13時間、移動に40時間がかかる日本戦に向けて、ベネズエラは1週間前から合宿を行い、しかも時差を克服するために本国で日本時間に合わせた生活を送ってきたという。そこまでして、極東の島国との親善試合に臨んだ理由は何だったのか。ファリアス監督は続ける。

「(4年後のW杯に向けて)まず日本という国のあり方を学ぶことにした。日本は、非常に低いランクからスタートして、今では世界でも有数のサッカー大国となっている。この経験を、われわれの国に重ねることができるのではないか。われわれも、いずれはサッカー大国になり、W杯で戦えるくらいになれるのではないか」

 ベネズエラは南米サッカー連盟所属10カ国の中で、最も遅く加盟し(1952年)、サッカーよりも野球がナンバーワンスポーツの国であり、これまでW杯出場経験がない唯一の国である。かつては南米予選の草刈り場であったが、ここ数年は着実に力をつけており、今回のW杯予選ではボリビア、ペルーの上をいく8位。プレーオフから本大会出場を果たしたウルグアイとの勝ち点差は、わずかに2である。最終節、すでに南アへのチケットを得ているブラジルにアウエーで勝利していれば(結果は0-0)、ウルグアイに代わってベネズエラがコスタリカとのプレーオフに回っていた。その望みを断たれた時の彼らの絶望たるや、いかばかりのものであっただろうか。

 それでも、日本という存在を謙虚に仰ぎ見ながら、4年後の悲願達成に向けて一歩一歩、堅実に前進を続けようとするベネズエラ。何という純真だろうか。そんな彼らの姿を見ると、何の根拠のないまま「ベスト4」を喧伝(けんでん)し、寒空の中、40時間かけて来日した相手にスコアレスドローを演じてしまうわれらが代表が、何やら急に気恥しく思えてしまうではないか。してみると、この凡戦の勝者は、間違いなくベネズエラだったと言えよう。もっとも、シーズン前の初戦に、多くのものを求めるのも酷な話。われらが日本代表には、3日後から始まる東アジア選手権で、このモヤモヤした気分を払しょくするようなゲームを期待したいところである。


<了>
宇都宮徹壱


スポーツナビのコラムである。
ヴェネズエラ戦を凡戦と斬っておる。
しかしながら、この試合を凡戦と位置付けるのは些か安易では無かろうか。
これまでの代表の試合について考慮すれば、凡戦でない試合が有ったとは言えぬ。
大勝した香港戦なども十二分に凡戦であったと言えよう。
とはいえ、宇都宮氏の申すとおり、日本サッカーが黄金世代に頼らざるを得ない現実は事実であろう。
これは仕様のないことである。
それが歴史なのだ。
歴史をつく人材が一つの世代に固まることは良くあること。
まだ働ける黄金世代を追いやる必要はないのである。
逆に、ここまで目立った活躍をせぬ黄金ではない世代を無理して使う必要はないのである。
使えば育つというのはゲームの世界だけであり、経験は重要ではあるが、実力があれば出てくるのがスポーツの世界である。
黄金世代と言えども実力で押しのける人材が現れれば喜んで道を空けるというもの。
そうはなっておらぬから、現状があるのである。
南アフリカは黄金世代の集大成の場とするのが、宜しかろう。
であれば、大衆も納得すると言えよう。
代表不人気は地味な選手で組んでおることに問題があるのだ。
代表に花を咲かせ、黄金世代に花道を造ることも必要なのである。

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1 コメント

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Unknown (teru)
2010-02-03 18:30:40
凡戦かどうかはともかく、徳永は完全に空気でしたね。素早い判断もドリブルもできないものだから、相手に詰められ満足にクロスも上げられない。日本代表チームのためにも、篤人の回復が望まれますね。(もちろん、そんなことは抜きにしても、望んでいるのですが)
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