新鋭校の台頭や人材の拡散が進む高校サッカー
“戦国時代”を迎えた選手権の新たな楽しみ方
2012年12月21日(金)
■伝統校も容易に勝ち進めない時代
抜きん出た選手がいなくなったという話もあるが、大津の植田をはじめ、J内定の注目選手も数多い【安藤隆人】
91回目の高校サッカー選手権が12月30日より開幕する。今年も常連校の地域予選での敗退が相次ぎ、あらためて現代の高校サッカーが、裾野の拡大に伴う“戦国時代”にあることを印象付けた。連続出場はわずか13校に過ぎず、そのうち10年以上連続して出場しているチームは星稜(石川)と青森山田(青森)の2校のみである。星稜も今年の県予選ではあわや敗退という土俵際まで追いつめられており、青森山田も準決勝では相手に先制を許して前半を折り返す苦しいゲームだった。どちらも決して余裕の突破ではなかった。
サッカーがメジャースポーツとしての地位を確立し、裾野が拡大していることに加えて、全国的な共学化の流れもあって、大会の参加校は少子化にもかかわらず増加傾向にある。私立新鋭校の台頭は全国各地で目覚ましく、これまでほかのスポーツに傾注していた高校がサッカーにも投資を始めたり、あるいは女子校から共学化したチームが男子生徒へのアピールの目玉としてサッカー部に注力するといった事例は珍しいものではなくなった。Jリーグ下部組織の拡大に伴う人材の流出は指摘されて久しいが、私立新鋭校の台頭に伴う人材の拡散も進んでいると言える。結果、伝統校の昔ながらのアプローチが通用しない時代になっているのは間違いない。
■J内定選手は10名近くで人材は豊富
ただその一方で、人材の“絶対量”も増えているという感覚もある。抜きん出た選手がいなくなったという指摘もあるが、それは選手のアベレージが向上していることの裏返しである。今年の高校選手権で言えば、FW浅野拓磨(四日市中央工→サンフレッチェ広島)、MF望月嶺臣(野洲→名古屋グランパス)、小塚和季(帝京長岡→アルビレックス新潟)、DF植田直通(大津→鹿島アントラーズ)ら10名近くの選手がJリーグへ進む。また、DF室屋成(青森山田→明治大進学予定)のように、J1クラブからオファーを受けながら、あえて進学という道を選ぶタレントもいる。FW宮市剛(中京大中京)、MF谷村憲一(盛岡商→モンテディオ山形)、渡辺夏彦(國學院久我山)、DF三浦弦太(大阪桐蔭→清水エスパルス)など多くの有力選手が予選で消えているにもかかわらず、タレント不足の大会という印象はない。何より、こういうときに名前の出てこない選手にも、「楽しみ」と思えるタレントはいるのだ。
選手権が「日本の育成年代の有力選手を総覧できる大会」でなくなっているのは確かだろう。拡散の結果として、予選でいなくなる有力選手、有力校が多くなりすぎたし、何よりJリーグの下部組織にその年代のトップ選手の過半が在籍していることは紛れもない事実である。この大会を見て日本の育成年代全体について語るのは無意味だとさえ言えるかもしれない。だがそれは、この大会から有望な選手がいなくなったということではない。そして、外野の人間が選手権を楽しむ動機付けが消えたということでもないだろう。
■選手権で見つける次の世代の“長友”
選手権は純粋に“寒い”大会である。試合は熱いが、気候としての寒さはいかんともし難い。真冬という屋外スポーツの観戦に全く向いていない時期に行われるのだから、そこで試合を楽しむには、ある種の動機付けが不可欠だ。
「どこのカードを見に行けばいいですか? お勧めは?」
この時期、そんな質問をよくちょうだいする。僕の答えは決まっていて、「何か縁があるチームを見に行くのが一番いいですよ」とまず勧める。父母や学友、OBといった当事者による選手権の楽しみ方は極めて明確であり、説明するまでもない。特別な熱気と一体感があるバックスタンドで、贔屓(ひいき)の高校を応援する楽しみは、何かに置換できるようなものではない。どこかのJクラブのサポーターであれば、入団してくる選手がいる高校を、やはりバックスタンドで見るのが一番だろう。その選手の能力とパーソナリティーが分かるし、どれだけ愛されて育ってきた選手かということも体感できる。いざプロデビューとなったときの感慨が違うはずだ。
逆に何の縁もない人、しかしサッカーが好きで好きでたまらないという方には「長友佑都を探しませんか?」という話をする。プロに行くことが決まっていて、メディアに大きく取り上げられている選手の話は自然と耳目に飛び込んでくるだろう。そうではなくて、扱いは小さいかもしれないけれど、「こいつ、化けるんじゃね?」と思える“ブックマーク選手”を見付けるのは、今日における選手権の一個の楽しみ方だ。
中学時代に名を成している早熟の選手のほとんどはJクラブが刈り取っているだけに、選手権に残っている未来の代表選手は“晩稲”タイプとみることができる。その典型が、今から8年前、東福岡のアンカーとして、市立船橋を相手に奮闘した長友だった。驚異的な運動能力は当時から際立っていて、大会前に小さな枠で注目選手として紹介記事も書いている。もちろんここまでの選手になるとは想像もつかなかった。ただ、「こいつ、面白ぇな」と感じた記憶は残っていて、彼の雄飛にはある種のカタルシスがある。高橋秀人(前橋商→東京学芸大→FC東京)や永井謙佑(九州国際大附属→福岡大→名古屋)などもそうだったが、こういう選手を探す楽しみというのは、今日の選手権にも確実にあるのだ。どちらかというと、サッカーファンの気質として、有名選手の品定め、場合によってはダメ出しが多いように思うのだが、“無印良品”の発掘も面白いと勧めておきたい。
■今後、飛躍が期待される選手がめじろ押し
今年の選手権で言えば、八千代(千葉)の大型DF柳育崇、正智深谷(埼玉)の怪物FWオナイウ阿道、仙台育英(宮城)の190センチのルーキーDF熊谷駿、青森山田の万能ビッグマンMF縣翔平、富山第一(富山)の高速アタッカー・貫場貴之、星稜の1年生ボランチ平田健人、帝京大可児(岐阜)のレフティーMF野倉大輔、作陽(岡山)の韋駄天(いだてん)MF平岡翼、鵬翔(愛知)の超高速ウイング中濱健太など、名前を挙げたくなる選手がめじろ押しだ。大津に至っては無印良品の宝庫のようなチームで、植田や同じく鹿島内定の豊川雄太だけを見るのは“もったいない”。なかでも中盤の野田卓宏、児玉卓也のプレーは必見だし、野口航、土肥大輝の両ドリブラーも素晴らしい素材だ。葛谷将平という“秘密兵器”の1年生もいる。友人の平野貴也記者は創造学園の2年生MF堂安憂を猛プッシュしているが、そういう自分だけの“ブックマーク選手”を探してみてはどうだろう。
もちろん選手権の楽しみ方は百人百様だろうし、それでいいと思っている。ただ個人的には、有名選手にダメ出しするよりも、無名の新しいタレントを探すほうが「百倍楽しい」という確信がある。今は粗削りでもキラリと光る個性があって、伸び盛り。そんな選手を見つけに行くのも、今日における選手権の楽しみ方。それは自信を持ってお勧めできる。
<了>
冬の風物詩・全国高校サッカー選手権のコラムである。
大物選手として大津高校の植田くんが挙げられておる。
特に秀でた選手が少ないとの評もあるようだが、特にレベルの低い選手が少なくなったことの現れではなかろうか。
サッカーが日本に根付き始めた良い傾向といって良かろう。
若年層からサッカーに親しみ、プレイする喜びを知って欲しい。
それが日本サッカー成長へと繋がるのだ。
ピッチに立ってボールを蹴る。
この楽しみを若き者からお年寄りにまで浸透させようではないか。
そのひとつの方策として全国高校サッカー選手権が盛り上がれば良いと感じる。
真冬のスタジアムは寒く苦しいが、機を見つけてスタジアムへ向かいたい。
“戦国時代”を迎えた選手権の新たな楽しみ方
2012年12月21日(金)
■伝統校も容易に勝ち進めない時代
抜きん出た選手がいなくなったという話もあるが、大津の植田をはじめ、J内定の注目選手も数多い【安藤隆人】
91回目の高校サッカー選手権が12月30日より開幕する。今年も常連校の地域予選での敗退が相次ぎ、あらためて現代の高校サッカーが、裾野の拡大に伴う“戦国時代”にあることを印象付けた。連続出場はわずか13校に過ぎず、そのうち10年以上連続して出場しているチームは星稜(石川)と青森山田(青森)の2校のみである。星稜も今年の県予選ではあわや敗退という土俵際まで追いつめられており、青森山田も準決勝では相手に先制を許して前半を折り返す苦しいゲームだった。どちらも決して余裕の突破ではなかった。
サッカーがメジャースポーツとしての地位を確立し、裾野が拡大していることに加えて、全国的な共学化の流れもあって、大会の参加校は少子化にもかかわらず増加傾向にある。私立新鋭校の台頭は全国各地で目覚ましく、これまでほかのスポーツに傾注していた高校がサッカーにも投資を始めたり、あるいは女子校から共学化したチームが男子生徒へのアピールの目玉としてサッカー部に注力するといった事例は珍しいものではなくなった。Jリーグ下部組織の拡大に伴う人材の流出は指摘されて久しいが、私立新鋭校の台頭に伴う人材の拡散も進んでいると言える。結果、伝統校の昔ながらのアプローチが通用しない時代になっているのは間違いない。
■J内定選手は10名近くで人材は豊富
ただその一方で、人材の“絶対量”も増えているという感覚もある。抜きん出た選手がいなくなったという指摘もあるが、それは選手のアベレージが向上していることの裏返しである。今年の高校選手権で言えば、FW浅野拓磨(四日市中央工→サンフレッチェ広島)、MF望月嶺臣(野洲→名古屋グランパス)、小塚和季(帝京長岡→アルビレックス新潟)、DF植田直通(大津→鹿島アントラーズ)ら10名近くの選手がJリーグへ進む。また、DF室屋成(青森山田→明治大進学予定)のように、J1クラブからオファーを受けながら、あえて進学という道を選ぶタレントもいる。FW宮市剛(中京大中京)、MF谷村憲一(盛岡商→モンテディオ山形)、渡辺夏彦(國學院久我山)、DF三浦弦太(大阪桐蔭→清水エスパルス)など多くの有力選手が予選で消えているにもかかわらず、タレント不足の大会という印象はない。何より、こういうときに名前の出てこない選手にも、「楽しみ」と思えるタレントはいるのだ。
選手権が「日本の育成年代の有力選手を総覧できる大会」でなくなっているのは確かだろう。拡散の結果として、予選でいなくなる有力選手、有力校が多くなりすぎたし、何よりJリーグの下部組織にその年代のトップ選手の過半が在籍していることは紛れもない事実である。この大会を見て日本の育成年代全体について語るのは無意味だとさえ言えるかもしれない。だがそれは、この大会から有望な選手がいなくなったということではない。そして、外野の人間が選手権を楽しむ動機付けが消えたということでもないだろう。
■選手権で見つける次の世代の“長友”
選手権は純粋に“寒い”大会である。試合は熱いが、気候としての寒さはいかんともし難い。真冬という屋外スポーツの観戦に全く向いていない時期に行われるのだから、そこで試合を楽しむには、ある種の動機付けが不可欠だ。
「どこのカードを見に行けばいいですか? お勧めは?」
この時期、そんな質問をよくちょうだいする。僕の答えは決まっていて、「何か縁があるチームを見に行くのが一番いいですよ」とまず勧める。父母や学友、OBといった当事者による選手権の楽しみ方は極めて明確であり、説明するまでもない。特別な熱気と一体感があるバックスタンドで、贔屓(ひいき)の高校を応援する楽しみは、何かに置換できるようなものではない。どこかのJクラブのサポーターであれば、入団してくる選手がいる高校を、やはりバックスタンドで見るのが一番だろう。その選手の能力とパーソナリティーが分かるし、どれだけ愛されて育ってきた選手かということも体感できる。いざプロデビューとなったときの感慨が違うはずだ。
逆に何の縁もない人、しかしサッカーが好きで好きでたまらないという方には「長友佑都を探しませんか?」という話をする。プロに行くことが決まっていて、メディアに大きく取り上げられている選手の話は自然と耳目に飛び込んでくるだろう。そうではなくて、扱いは小さいかもしれないけれど、「こいつ、化けるんじゃね?」と思える“ブックマーク選手”を見付けるのは、今日における選手権の一個の楽しみ方だ。
中学時代に名を成している早熟の選手のほとんどはJクラブが刈り取っているだけに、選手権に残っている未来の代表選手は“晩稲”タイプとみることができる。その典型が、今から8年前、東福岡のアンカーとして、市立船橋を相手に奮闘した長友だった。驚異的な運動能力は当時から際立っていて、大会前に小さな枠で注目選手として紹介記事も書いている。もちろんここまでの選手になるとは想像もつかなかった。ただ、「こいつ、面白ぇな」と感じた記憶は残っていて、彼の雄飛にはある種のカタルシスがある。高橋秀人(前橋商→東京学芸大→FC東京)や永井謙佑(九州国際大附属→福岡大→名古屋)などもそうだったが、こういう選手を探す楽しみというのは、今日の選手権にも確実にあるのだ。どちらかというと、サッカーファンの気質として、有名選手の品定め、場合によってはダメ出しが多いように思うのだが、“無印良品”の発掘も面白いと勧めておきたい。
■今後、飛躍が期待される選手がめじろ押し
今年の選手権で言えば、八千代(千葉)の大型DF柳育崇、正智深谷(埼玉)の怪物FWオナイウ阿道、仙台育英(宮城)の190センチのルーキーDF熊谷駿、青森山田の万能ビッグマンMF縣翔平、富山第一(富山)の高速アタッカー・貫場貴之、星稜の1年生ボランチ平田健人、帝京大可児(岐阜)のレフティーMF野倉大輔、作陽(岡山)の韋駄天(いだてん)MF平岡翼、鵬翔(愛知)の超高速ウイング中濱健太など、名前を挙げたくなる選手がめじろ押しだ。大津に至っては無印良品の宝庫のようなチームで、植田や同じく鹿島内定の豊川雄太だけを見るのは“もったいない”。なかでも中盤の野田卓宏、児玉卓也のプレーは必見だし、野口航、土肥大輝の両ドリブラーも素晴らしい素材だ。葛谷将平という“秘密兵器”の1年生もいる。友人の平野貴也記者は創造学園の2年生MF堂安憂を猛プッシュしているが、そういう自分だけの“ブックマーク選手”を探してみてはどうだろう。
もちろん選手権の楽しみ方は百人百様だろうし、それでいいと思っている。ただ個人的には、有名選手にダメ出しするよりも、無名の新しいタレントを探すほうが「百倍楽しい」という確信がある。今は粗削りでもキラリと光る個性があって、伸び盛り。そんな選手を見つけに行くのも、今日における選手権の楽しみ方。それは自信を持ってお勧めできる。
<了>
冬の風物詩・全国高校サッカー選手権のコラムである。
大物選手として大津高校の植田くんが挙げられておる。
特に秀でた選手が少ないとの評もあるようだが、特にレベルの低い選手が少なくなったことの現れではなかろうか。
サッカーが日本に根付き始めた良い傾向といって良かろう。
若年層からサッカーに親しみ、プレイする喜びを知って欲しい。
それが日本サッカー成長へと繋がるのだ。
ピッチに立ってボールを蹴る。
この楽しみを若き者からお年寄りにまで浸透させようではないか。
そのひとつの方策として全国高校サッカー選手権が盛り上がれば良いと感じる。
真冬のスタジアムは寒く苦しいが、機を見つけてスタジアムへ向かいたい。
学童・生徒諸君に向けて自分たちがプレーする時間、トレーニングする時間が大切なのも分かるけど、それだけで手一杯という青春の現状を意識して変えていくべきなんじゃないかと。
そのへんリーグやクラブが率先して全国レベルで啓蒙してくれると有難いんですが…地上波じゃ継続して視聴出来ないから厳しいかな。
スタジアムに足を運んでもらえればそれが一番いいんですが、まずは身近なプロサッカーをじっくり観戦して楽しむという習慣が日本に根付いて欲しい。
そして鹿島というクラブに憧れを持ってくれる子どもたちが日本に、全国に増えて欲しいです