ACL広州戦の鹿島柴崎に見た「Jクラブに足りないプレー」
※当ブログでは、中国1部リーグの呼称を中国で一般的に使われている「中超」に統一いたします。「中超」は中国語の「中国超級聯賽」(中国プレミアリーグ)の略で、日本でいうJ1に相当します。
また、香港プレミアリーグについては「香港超級聯賽」と記します。
ACL第3節 広州恒大4-3鹿島アントラーズ
前半9分の先制点が決まった時、そのあまりに見事なグラールのヘディングゴールに「こりゃこのゲームも広州の楽勝かな」と思った。しかし…試合内容は方々で報じられているので触れないが、この日の鹿島の戦いに、私はJクラブがACLで戦うに足りないものを見つけた気がした。それは「気迫」だ。
私はJリーグを単独で見ることが少なく、ACLで中超クラブと戦うときに見るくらいだが、いつも見ていて思うのは「勝つ気あるのかな?」ということ。テクニックやパス回しは中超クラブよりも見事できれいだが、それでも特にここ数年JクラブはACLで勝てない。勝ってもグループリーグは突破できていない。なんでだろう?といつも思うが、要するに行きつく先は「うまいけど勝てない」。「きれいなサッカーだけどゴール取れない」。「パスは回るけど球際は激しくない」。そして、「試合はしてるけど気迫がない」である。
それを昨日の鹿島に見た気がした。普段、鹿島のリーグ戦を見てないから、私には昨日の広州戦での鹿島のパフォーマンスがよかったのか、悪かったのか、わからない。鹿島のサッカーができていたのか、ミスが多かったのかも分からない。前半17分で小笠原を交代せざるを得なかった不運もあった。しかし、確かに感じたのは鹿島の「気迫」だ。上述したように、ここ数年のACLでのJクラブに見えなかったそれを、昨日の試合では見た。その気迫は球際の激しさやポイントポイントでの選手のプレーによく表れていた。
一番最初にそれを感じたのは前半25分の柴崎のプレー。この時のスコアは広州1-0鹿島。広州がボールを奪って、カウンター。左サイドのセンターライン付近で広州FWエウケソンがボールを受ける。エウケソンの特徴として、ここでボールをもらうとまずドリブルを仕掛ける。セーフティーに後ろへ下げることはしない。この日もエウケソンは左サイドを駆け上がろうとドリブルを開始。そこに飛び込んできた鹿島の選手。体を張ってエウケソンの突破を止めた。注目すべきはその激しさ。そこには「絶対に抜かせない」「前に行かせてたまるか」「絶対にボールを奪ってやる」という気迫が表れていた。見ている私にそう感じさせるプレーだったのだ。驚いた私は誰だろうと注視したところ、柴崎だった。いや、素晴らしい。こういうDFをしてくる選手がいるなら、今日の試合はたとえ広州のホームでも簡単にはいかないぞと感じた。冒頭に感じた「こりゃこのゲームも広州の楽勝かな」という楽観は消え去り、気を引き締めなおした。
すると、果たして…前半36分に鹿島が同点ゴール。1-1。やはり簡単にはいかないなと改めて思った。そして次の「気迫」プレーは前半42分。高崎選手のイエローカードの場面だ。高崎が自陣でトラップミス。そのボールを奪われてピンチに。高崎は思わず後ろから手で広州選手をつかんでファール。イエローカード。もちろん、後ろから手で相手選手をつかむプレーはいただけない。イエローも当然。だが、こういうプレーは理性でやるものではない。必死さが選手にそうさせるのだ。フェアプレーは大事。だが、いざというときに、本能的に「ここを突破されたら失点する!」と感じた瞬間は、選手は理性で頭が動くより身体が先に動くはずである。それがアスリートだ。もちろん、高崎選手は冷静で、わざと、イエロー覚悟であのプレーをしたのかもしれない。だが、いずれにしろ「必死さ」を伝わってくる。「何が何でもここはいかせてはいけない」「たとえ自分のミスが原因でも」「たとえイエロー食らっても」。実は、こういうプレーこそが「プレーはきれいだが勝てない」Jクラブに欠けているものだと私は個人的に感じているのである。泥臭くていい。笑われてもいい。事実、中国人解説者もこのプレーには苦笑い。でも、それでいいのだ。決定的ピンチを防いだのだから。(ファールを容認しているわけではない。そのメンタルを称賛するのだ)
柴崎に話を戻すと、72分にイエローをもらったプレーも激しかった。しかし、あれくらいの激しさは欧州のプレーを見るまでもなく「普通」のプレー。でもJの選手がやると「激しく」見える。柴崎選手は本当に素晴らしい選手だ。若くして名門鹿島のキャプテンマークを巻く柴崎選手を中国のサッカー解説者も絶賛していた。そして、球際だけではない、最後まであきらめない「気迫」。ロスタイムに2-4にされて、これで息の根を止めたと思ったらもう1点返してきた。決めたのは柴崎。取るべくして取った鹿島の3点目だと思った。
ここからは個人的見解だが、ハリルホジッチ監督の日本代表で柴崎はレギュラーに定着するのではないか。ハリルホジッチ監督が初めてJを視察したときの感想として「もう少し、やる気、力強さを見せてもらいたかった」という趣旨のことを語ったそうだが、柴崎にはそれがある。激しさや気迫を求める外国人監督の元では、重宝される選手になるのではないか。ハリルホジッチ体制での初の日本代表メンバー発表は今日。柴崎選手が選ばれているかどうか、個人的に注目している。
やはり、観衆を沸かせるのはゴールと気迫。きれいなパス回しも見事なテクニックももちろん「おぉ」となる。しかし、勝てなければ「小手先」感はぬぐえない。きれいなパス回し、見事なテクニック。その上に柴崎選手のような気迫、高崎選手のような泥臭いプレー。それこそが、JがACLで勝つために求められているものではないだろうか。
松本忠之(まつもとただゆき)
サッカーコラムニスト。
サッカー専門ブログ「BEE Football Spirit」アドバイザー、コラムニスト。
【略歴】
静岡生まれ。
小さい頃から地元の高校である清水商業(当時)や清水東、東海第一(当時)、静岡学園などの試合を見て育つ。Jでは清水サポ。大学卒業後に中国に渡り、日本代表やJリーグの観戦ができなくなるが、あふれるサッカー熱は抑えきれず中国サッカーの観戦及び取材を行うようになる。
【観戦経験】
英プレミア:マンU(香川在籍時)、チェルシー、マンチェスターC。
リーガ:バルセロナ
セリエ:ユベントス、ローマ。
ブンデス:ニュルンベルク(長谷部、清武在籍時)、ハンブルガーSV
欧州CL:バルセロナ、ベンフィカ。
【中国Cリーグ】
中国サッカーへの造詣が深く、山東魯能をはじめ上海申花や武漢卓アルといったクラブ関係者と交流があり、Jリーグのアジア枠設置に伴い、中国人選手がJリーグへ移籍する際の窓口の一つにもなっている。また、元中国サッカー協会会長の閻世鐸氏とは何度も会食している。
中国1部リーグに造詣が深い松本氏によるACL・広州恒大戦の観戦記である。
岳のことを中心に書かれておるが、彼は鹿島の気迫について強く感じたとのこと。
これは我らも感じたところ。
絶対的アウェイの地で、気迫で戦っていたと伝わって来た。
結果こそ残念であったが、力の限り戦っておった。
強い気持ちこそ鹿島の真骨頂である。
松本氏が記事に挙げた岳と源だけでなく、鹿島の選手は戦った。
そして、これからも気迫を込めて戦っていくのだ。
応援しておる。
※当ブログでは、中国1部リーグの呼称を中国で一般的に使われている「中超」に統一いたします。「中超」は中国語の「中国超級聯賽」(中国プレミアリーグ)の略で、日本でいうJ1に相当します。
また、香港プレミアリーグについては「香港超級聯賽」と記します。
ACL第3節 広州恒大4-3鹿島アントラーズ
前半9分の先制点が決まった時、そのあまりに見事なグラールのヘディングゴールに「こりゃこのゲームも広州の楽勝かな」と思った。しかし…試合内容は方々で報じられているので触れないが、この日の鹿島の戦いに、私はJクラブがACLで戦うに足りないものを見つけた気がした。それは「気迫」だ。
私はJリーグを単独で見ることが少なく、ACLで中超クラブと戦うときに見るくらいだが、いつも見ていて思うのは「勝つ気あるのかな?」ということ。テクニックやパス回しは中超クラブよりも見事できれいだが、それでも特にここ数年JクラブはACLで勝てない。勝ってもグループリーグは突破できていない。なんでだろう?といつも思うが、要するに行きつく先は「うまいけど勝てない」。「きれいなサッカーだけどゴール取れない」。「パスは回るけど球際は激しくない」。そして、「試合はしてるけど気迫がない」である。
それを昨日の鹿島に見た気がした。普段、鹿島のリーグ戦を見てないから、私には昨日の広州戦での鹿島のパフォーマンスがよかったのか、悪かったのか、わからない。鹿島のサッカーができていたのか、ミスが多かったのかも分からない。前半17分で小笠原を交代せざるを得なかった不運もあった。しかし、確かに感じたのは鹿島の「気迫」だ。上述したように、ここ数年のACLでのJクラブに見えなかったそれを、昨日の試合では見た。その気迫は球際の激しさやポイントポイントでの選手のプレーによく表れていた。
一番最初にそれを感じたのは前半25分の柴崎のプレー。この時のスコアは広州1-0鹿島。広州がボールを奪って、カウンター。左サイドのセンターライン付近で広州FWエウケソンがボールを受ける。エウケソンの特徴として、ここでボールをもらうとまずドリブルを仕掛ける。セーフティーに後ろへ下げることはしない。この日もエウケソンは左サイドを駆け上がろうとドリブルを開始。そこに飛び込んできた鹿島の選手。体を張ってエウケソンの突破を止めた。注目すべきはその激しさ。そこには「絶対に抜かせない」「前に行かせてたまるか」「絶対にボールを奪ってやる」という気迫が表れていた。見ている私にそう感じさせるプレーだったのだ。驚いた私は誰だろうと注視したところ、柴崎だった。いや、素晴らしい。こういうDFをしてくる選手がいるなら、今日の試合はたとえ広州のホームでも簡単にはいかないぞと感じた。冒頭に感じた「こりゃこのゲームも広州の楽勝かな」という楽観は消え去り、気を引き締めなおした。
すると、果たして…前半36分に鹿島が同点ゴール。1-1。やはり簡単にはいかないなと改めて思った。そして次の「気迫」プレーは前半42分。高崎選手のイエローカードの場面だ。高崎が自陣でトラップミス。そのボールを奪われてピンチに。高崎は思わず後ろから手で広州選手をつかんでファール。イエローカード。もちろん、後ろから手で相手選手をつかむプレーはいただけない。イエローも当然。だが、こういうプレーは理性でやるものではない。必死さが選手にそうさせるのだ。フェアプレーは大事。だが、いざというときに、本能的に「ここを突破されたら失点する!」と感じた瞬間は、選手は理性で頭が動くより身体が先に動くはずである。それがアスリートだ。もちろん、高崎選手は冷静で、わざと、イエロー覚悟であのプレーをしたのかもしれない。だが、いずれにしろ「必死さ」を伝わってくる。「何が何でもここはいかせてはいけない」「たとえ自分のミスが原因でも」「たとえイエロー食らっても」。実は、こういうプレーこそが「プレーはきれいだが勝てない」Jクラブに欠けているものだと私は個人的に感じているのである。泥臭くていい。笑われてもいい。事実、中国人解説者もこのプレーには苦笑い。でも、それでいいのだ。決定的ピンチを防いだのだから。(ファールを容認しているわけではない。そのメンタルを称賛するのだ)
柴崎に話を戻すと、72分にイエローをもらったプレーも激しかった。しかし、あれくらいの激しさは欧州のプレーを見るまでもなく「普通」のプレー。でもJの選手がやると「激しく」見える。柴崎選手は本当に素晴らしい選手だ。若くして名門鹿島のキャプテンマークを巻く柴崎選手を中国のサッカー解説者も絶賛していた。そして、球際だけではない、最後まであきらめない「気迫」。ロスタイムに2-4にされて、これで息の根を止めたと思ったらもう1点返してきた。決めたのは柴崎。取るべくして取った鹿島の3点目だと思った。
ここからは個人的見解だが、ハリルホジッチ監督の日本代表で柴崎はレギュラーに定着するのではないか。ハリルホジッチ監督が初めてJを視察したときの感想として「もう少し、やる気、力強さを見せてもらいたかった」という趣旨のことを語ったそうだが、柴崎にはそれがある。激しさや気迫を求める外国人監督の元では、重宝される選手になるのではないか。ハリルホジッチ体制での初の日本代表メンバー発表は今日。柴崎選手が選ばれているかどうか、個人的に注目している。
やはり、観衆を沸かせるのはゴールと気迫。きれいなパス回しも見事なテクニックももちろん「おぉ」となる。しかし、勝てなければ「小手先」感はぬぐえない。きれいなパス回し、見事なテクニック。その上に柴崎選手のような気迫、高崎選手のような泥臭いプレー。それこそが、JがACLで勝つために求められているものではないだろうか。
松本忠之(まつもとただゆき)
サッカーコラムニスト。
サッカー専門ブログ「BEE Football Spirit」アドバイザー、コラムニスト。
【略歴】
静岡生まれ。
小さい頃から地元の高校である清水商業(当時)や清水東、東海第一(当時)、静岡学園などの試合を見て育つ。Jでは清水サポ。大学卒業後に中国に渡り、日本代表やJリーグの観戦ができなくなるが、あふれるサッカー熱は抑えきれず中国サッカーの観戦及び取材を行うようになる。
【観戦経験】
英プレミア:マンU(香川在籍時)、チェルシー、マンチェスターC。
リーガ:バルセロナ
セリエ:ユベントス、ローマ。
ブンデス:ニュルンベルク(長谷部、清武在籍時)、ハンブルガーSV
欧州CL:バルセロナ、ベンフィカ。
【中国Cリーグ】
中国サッカーへの造詣が深く、山東魯能をはじめ上海申花や武漢卓アルといったクラブ関係者と交流があり、Jリーグのアジア枠設置に伴い、中国人選手がJリーグへ移籍する際の窓口の一つにもなっている。また、元中国サッカー協会会長の閻世鐸氏とは何度も会食している。
中国1部リーグに造詣が深い松本氏によるACL・広州恒大戦の観戦記である。
岳のことを中心に書かれておるが、彼は鹿島の気迫について強く感じたとのこと。
これは我らも感じたところ。
絶対的アウェイの地で、気迫で戦っていたと伝わって来た。
結果こそ残念であったが、力の限り戦っておった。
強い気持ちこそ鹿島の真骨頂である。
松本氏が記事に挙げた岳と源だけでなく、鹿島の選手は戦った。
そして、これからも気迫を込めて戦っていくのだ。
応援しておる。
素晴らしい着目点の文章と思います。
この試合の鹿島の気迫は、前日のミーティングや食事会場に貼られたセレーゾの言葉も大きかったでしょうね。
(モバイルのスタッフダイアリー参照)
カンナバーロの試合後コメントを読むと、広州恒大は予算の巨大さから常に大差をつけて勝つことを求められているようですね。
それがあの試合展開ですから、「鹿島は手強いチームだった」というのはお世辞ではなかったと思います。
中国のカンフーサッカーは褒められたものではありませんが、気迫は感じます。
韓国は代表、Kリーグともに強い気持ちを感じます。日本代表やJクラブだから一層なのかも知れませんけど。
でもそれをJリーグに求めるには島国ローカル転び得のレフリング基準を改善しないと。
前節湘南戦のPK判定など転び得の典型です。
田代などはファウルを受けたのに逆にファウルを取られたことがなんどあったことか。
サコを引っ張って転んだ槙野でなく、引っ張られたサコがファウルを取られる。
これでは転んだほうが得だと身体が反応してしまいます。
また、その気迫を見せてくれたのが、ずっと応援しているアントラーズだったのが凄く嬉しいです。
きっと彼らならやってくれると信じて、今年も彼らを応援したいと思います。
ただ、広州戦のような激しい戦い方をすれば、Jだと過保護判定連発でカード乱発になるのは必至。やはり審判部へのメスは必須ですよ。