リーグ制度変更の問題点
2ステージ制を採用している国のリーグに対して偏見があるわけではなく、Jリーグがこのシステムを用いていた数年間も十分に楽しむことはできていた。時々アルゼンチンやメキシコのリーグを見ることもあるし、見ていて何も問題があるわけではない。日本のサッカーが成功するために、必ずしも欧州のリーグを模倣しなければならないと考えているわけでもない。
さらに言えば、開幕からの最初の20年間を通して、Jリーグを生み出して育て上げてきた人々には本当に心から感謝している。私にとっては世界中で最も大好きなリーグであり、人生の中で大きな部分を占めているものだ。だからこそ、自分なりの意見を広く共有したいと思う。
現時点で、2ステージ制は日本のサッカーにとって正しい選択肢ではないのではないかと考える理由はいくつかある。
最初の理由はごくシンプルに、それが「フェア」な制度ではないからだ。
サッカーは少ない点数で争われるゲームであり、その本質からして少しばかり「アンフェア」なスポーツだ。90分間を通して勇敢に攻め続けたチームが、1本の不運なカウンターアタックや、場合によっては審判のミスで試合を落としてしまうこともある。
そういうことが起こり得るのは誰もが知っているし、ある意味ではそれを受け入れている。それもまた、サッカーの素晴らしさの一部だからだ。
他のチームスポーツ、たとえばバスケットボールや野球やバレーボールでは、試合自体がより多くの点数で争われるのに加えて、数試合による「ファイナルシリーズ」が行われ、結果的には最も強いチームが優勝できるようなシステムとなっている。
一方サッカーにおいては、1試合に一度しか相手ゴールにシュートを打たないような戦いをしていたEURO2004のギリシャや、チーム消滅の時が迫っていた98年天皇杯の横浜フリューゲルスのように、まったくの予想外のチームがトロフィーを掲げるようなことも起こってきた。
こういった意外性や不確定要素があるからこそ、サッカーは人生の縮図だと言われることもある。地道な努力が必ずしも成功に結びつくとは限らないからだ。
だがサッカーには、2つのタイプの大会がある。ひとつは、例に挙げたギリシャや横浜フリューゲルスの場合もそうだったように、非常にエキサイティングな展開となることが多いノックアウト方式の大会。偶然性の要素が強調される方式であり、予想外のチームの優勝や、「ジャイアントキリング」の可能性が十分にある。
もうひとつのタイプが存在するのは、クオリティーの高いチームはそれ相応の報いを受けられるべきだし、良い仕事をする者には経済面でもそれに見合う見返りが保証されるべきだからだ。各チームがそれぞれ2度ずつ対戦するような、リーグ方式の大会がそれだ。広く受け入れられている標準的なリーグ戦では、30試合以上を戦うことが保証され、幸運や不運が全体的にはおおむね均等化されることで、タイトル獲得に最もふさわしいチームがタイトルを手にすることができる。
Jリーグの優勝決定戦をノックアウト方式に変更するのは、事実上、シーズンを通してどのクラブが最も良い仕事をしていたかを決める機会が日本のサッカー界から失われてしまうことを意味している。これは事実だ。私の意見としては、憂うべき事実だと思う。
たとえば、第1ステージで2位に終わったチームが幸運な形で最後の2試合に勝利し、「日本の王者」と呼ばれることになってほしいとはまったく思わない。たとえそれが、自分の応援するチームであったとしても同じことだ。
ノックアウト方式の興奮が味わいたいのなら、すでに2つのカップ戦が存在している。天皇杯とヤマザキナビスコカップは、さらに改善することも可能だろうし、今でもすでに一発勝負の興奮を保証してくれる大会ではないだろうか?
2ステージ制採用を支持しないもうひとつの大きな理由は、観客数の減少という問題に対して、これが的外れな対応策ではないかという不安があるためだ。新制度導入の背景にある根拠は、それが観客増加につながるという期待だろう。
私としては、2011年以降の観客減少は、2つの単純な理由によるものだと考えている。まずは3月11日の自然災害と、それに続く社会的・経済的問題の影響が今でも色濃く残っていること。2つ目は、人気と実力面で日本の最高クラスである30人ほどの選手たちが欧州へと旅立ち、全体的なクオリティーが引き下げられていることだ。
Jリーグには一定数の固定ファンがおり、彼らは応援するクラブの結果がどうであれ必ずスタンドに姿を見せてくれる。だがスタジアムの来場者数をさらに増やしたいのであれば、世界中で共通するごくシンプルなルールは、試合のレベルをできる限り高く保たなければならないということだ。
観客は、優れた選手たちを見るために試合に来るものだ。マンチェスター・ユナイテッドが日本に来たらどうなるかを考えてもいいし、単純にサムライブルーの試合のことを考えてみてもいいだろう。
リーグのクオリティーを高めるには多くの手段があるが、最もシンプルで手っ取り早いやり方のひとつは、Jリーグのファンにはお馴染みのものだ。優れた外国人選手たちを連れて来ることが、1993年当時に日本でサッカーの人気を高めたという事実がある。
20年を経た今、なぜJリーグにはほとんどブラジル人選手と韓国人選手しかいないのだろうか? 世界の中でも特に成功しているリーグでは、多様性を持つことがプラスに働いているのが明白であるにもかかわらず、である。多様性はプレーのクオリティー向上や、国際レベルでファンやスポンサーにアピールすることへとつながっている。
確かに、リーグの価値を高めてくれるような選手を手に入れるためにはちょっとした想像力と勇気が必要になるかもしれないが、できないことではないはずだ。たとえば、コンフェデレーションズカップでも活躍を見せたエマヌエレ・ジャッケリーニを一例とすれば、彼の昨シーズンのユヴェントスでの年俸は60万ユーロでしかなかった。
2ステージ制に話を戻せば、導入に疑問を持つ最後の理由はごくシンプルなものだ。サポーターの大部分が、その導入に強く反対しているという事実である。私はこれまで60カ国以上を訪問してきたが、顧客サービスという点において日本に勝る国はどこにもない。現時点で存在している顧客の大部分から反感を買いながら、その顧客の数を増やすことを期待するというのは理解に苦しむと言わざるを得ない。
こういった意見を述べる上ではっきりさせておきたいのは、何が起ころうとも私の日本サッカーへの愛情が変わることはないということだ。どういう形になったとしても、全力でサポートし続けることに変わりはない。
だが、96年の1ステージ制への移行が早すぎたのと同じように、また元に戻すにはあまりにも遅すぎると本気で信じていることもまた確かだ。深刻な問題の数々を未解決のまま残すことになるし、あまりにも多くのファンに不満を抱かせることにもなってしまう。
今は21世紀であり、バーチャルとリアルのコミュニティーが共存する時代だ。そこでは情報も感情も、あっという間に広がって、共有されることになる。2011年に日本の人々を団結させるのに、サッカーがどのような役割を果たしたかを思い出してみよう。
Jリーグの観客数が落ち込んだとしても、この国には独特の団結力を持った、健全で活発なサッカーコミュニティーが存在していることに変わりはない。ピッチ上でも、この20年間で日本ほど急速に成長してきた国は世界のサッカー界に他に見当たらない。
それでもまだ不十分だと言うのなら、一緒に頑張って、さらに良くしていけばいいだろう。だがそうする上では、どんな声も議論の一部として受け止められることが必要だ。
文/チェーザレ・ポレンギ
GOAL JAPAN編集長。今季は毎週水曜日午後10時よりJスポーツ2『Foot!』にてセリエAの試合の分析を行う。ツイッターアカウントは@CesarePolenghi
Jリーグの2ステージ制移行に関するGOAL.comのコラムである。
冷静に分析を述べておる。
同様に多くのサポーターも一時の感情で反対意見を発しておるわけではないのだ。
2015年シーズンについて決定するには、まだ時間がある。
ここでJリーグの良心を見せて欲しい。
心の叫びである。