ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

バーンスタイン作曲「キャンディード」

2010-08-21 19:26:55 | オペラ
8月6日オーチャードホールで、バーンスタイン作曲のオペラ「キャンディード」を観た(演出:ロバート・カーセン、指揮:佐渡裕)。

原作は18世紀の思想家ヴォルテールの同名小説。かの「ウエスト・サイド・ストーリー」の作曲家バーンスタインがそれに素晴しい曲をつけた。これはミュージカルともオペラともオペレッタともつかない超ジャンル的な内容の作品だが、天才と呼ばれるカナダ人演出家ロバート・カーセンが画期的な舞台を作り上げ、世界中で圧倒的な成功を収めている。

舞台には旧式のテレビ画面を模した枠がしつらえられており、その枠の中ですべてが演じられる。
序曲の間、アメリカの様々な映像が映し出される。幸せそうな家族、買い物する人、家庭での食事風景、海水浴・・ケネディ大統領夫妻・・・。そう、この作品が誕生し初演されたのは、こういう1950年代だった。

純朴な青年キャンディードは領主の城で令嬢クネゴンデと子息マクシミリアンと共に仲良く暮らしていた。彼らの教師パングロスは彼らに楽観主義を説く。しかしある時キャンディードはクネゴンデと身分違いの恋に落ち、城から追放される。
かくして波乱万丈の放浪の旅が始まる。ある時は兵士になり、脱走の罪で処刑されそうになり、またある時は乗った船が沈没、さらに大地震に見舞われ、戦争が起こり・・・。

キャンディード役のジェレミー・フィンチとクネゴンデ役のマーニー・ブレッケンリッジが素晴しい。海外から招聘された歌手たちはみな芸達者ぞろいで、観客は一瞬たりとも目が離せない。特にフィンチの声量のすごさには参った。ブレッケンリッジのコケティッシュな演技も最高。
作者ヴォルテール役と家庭教師パングロス役とを兼ねるのは英国の名優アレックス・ジェニングズ。この人は本来歌手ではないはずだが、歌もちゃんと歌っているし、何よりその名演技が楽しい。後半は自分で衣裳を替えたりして二役をこなす。

主人公とその恋人とが初めて愛に目覚め、「結婚しよう」と歌う所で、二人の歌は全くかみ合っていない。男は二人仲良くつつましい暮らしを、女は限りなく豪奢な日々を夢心地に歌い上げ、聴いている我々は唖然とするが、二人は全くそのことに気がつかない。極端ではあるが、恋する者たちを見つめるほろにがい眼差しがある。加えて、二人の前途に待ち構える困難と暗雲の予感・・。

ここでは男は一途で極端に生真面目。他の女には目もくれない。女は元々がお嬢様育ちな上に、戦争で酷い目にあって、生きてゆくためにすっかりしたたかになってしまい、とにかく金のことしか頭にない。この二人の相性はどうなのか。しかし最後に二人は、ようやく(遅まきながら)現実(相手の性格)を認識し、それでも何とかこれから歩み寄って一緒にやっていこうとする。
この世は戦争や大地震などの不条理に満ちているが、それでも絶望せず「自分の畑を耕す」、つまり自分のなすべきことをすることに意味を見出す・・主人公が最後に抱く思いはこれだ。一応ハッピーエンドではあるが、多くのものを孕んでいる。






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