ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「デカローグ 9 ある孤独に関する物語」

2024-07-25 22:46:05 | 芝居
前回の続き。7月4日新国立劇場小劇場で、クシシュトフ・キェシロフスキ作「デカローグ 9 ある孤独に関する物語」を見た(演出:小川絵梨子)。



  性的不能と宣告された夫は妻に事実を告げる。
  夫を励ます妻だが実は妻には既に若い恋人がいた。
40歳の外科医ロマンは、同業の友人から性的不能になったと診断され、
若い妻であるハンカと別れるべきではないかとほのめかされる。
夫婦は診断結果を話し合い、お互いに別れる気はないことを確認するが、
実はハンカは若い大学生マリウシュと浮気をしていた・・・(チラシより)。

ロマン(伊達暁)は優秀な心臓外科医。
彼は友人の医者に診断結果を聞く。
医者は彼に質問する。
 これまで何人の女と寝た?
 8人・・・いや15人。
 じゃあ十分だ。奥さんと結婚して何年になる?
 10年。
 じゃあそっちも十分だ、と言って友人は診断書を見せる。
全く可能性がないと言われる。
 奥さんは魅力的?
 かなり。
 じゃあ離婚するんだな。
ロマンは酒の誘いを断って帰宅。

彼は妻ハンカに結果を報告し、「君はもっと若くて元気な男と・・・」
だが彼女は「私のこと、愛してる?」
「愛情は下半身だけじゃないわ」
彼女は夫を抱きしめて慰める。

夫が家に一人でいると電話がかかってくる。
出ると男の声で「ハンカいますか」
いないと言うと、名乗らずに切れた。
これが彼の疑惑の始まりだった。
妻が帰宅。
「君に電話あったよ。名乗らなかった」
そこにまた電話。
彼女の浮気相手のマリウシュからだった。
「会いたい」
そばに夫がいるのでハンカは何とかごまかす。

夫はもう一台ある電話機に細工して盗聴できるようにする。
彼はまた、車の座席の下に大学の教科書が落ちているのを発見する。
物理学科2年マリウシュ・・と書いてあった。
彼はハンカのバッグから手帳を出し、マリウシュの電話番号が書かれているのを見つける。

ロマンの病院に若い女性患者がいる。
彼女はロマンに話す。
「母は私に歌手になってほしいと言うけど、私はどうでもいい」
好きなのはバッハとマーラー、それから何やら長い名前の人だと言う。
二人共タバコを吸う。
医者は「よくない」と言いつつ。
娘「母は手術をしてほしいと言うけど」

ハンカとマリウシュは、ハンカの母が以前住んでいたアパートで逢引きしていた。
その母から電話が来る。
「もうあのアパート使わないし、引き払おうかしら」
「そのことは、また話しましょ」

ある日ハンカはロマンに「母の部屋に行って、傘と黒いショールを取って来て」と頼む。
夫と別れると、マリウシュにばったり会う。
彼が「お母さんの部屋宛てに絵葉書を送ったけど、もう読んでくれた?」と言うので慌てる。
すぐに母の部屋に電話すると夫が出たので、「あちこち触らないでね、郵便物もそのままにしておいてね」と言う。
ロマンは早速郵便受けを開け、マリウシュからの絵葉書を読む。
(やぶへびだった)
これで彼の疑いは確信に変わる。

もう家には電話しないで、と言っていたのに、またマリウシュは電話してくる。
ロマンは別室で盗聴。
逢引きの日、彼が母のアパートの階段の陰で待ち伏せしていると、二人が来る。
夫は若い男と逢引きする妻の姿を初めて見てショックを受ける。
その夜、家に電話し、手術で遅くなる、何時になるかわからない、と伝える。
帰宅した夫の様子がいつもと違うので、ハンカが「誰か亡くなったの?」と尋ねると、「うん、死んだ」。
ハンカが触ろうとすると「触るな!」と大声を出して離れる。
ハンカはマリウシュに電話する。
夫はまた盗聴。
翌日、またアパートに入る二人。
だがその前に、夫は部屋のクローゼットの中に隠れていた。
ハンカは早速服を脱ごうとするマリウシュを止め、「ここで会うのは今日が最後よ。もうやめましょ。
あなたは同じくらいの年の子とつき合うの」
 どうしたの?ご主人に何か言われたの?
 ううん、彼は何も知らない。これからも知ることはない。
ハンカは彼を追い出して座り込み、下を向いて悲しそう。
と、その時、泣き声が聞こえる。
クローゼットの中で夫が泣いている。
「出て来て!」とハンカは驚いて叫ぶ。
「出なさい!」
ハンカがカーテンを開けると、夫がよろよろ出て来る。
ハンカは怒り出す。
 ここで何してるの?私たちがセックスするのを覗き見しようとしたの?
 じゃあ昨日来ればよかったわね!
 来たよ、昨日。
 階段のところで聞いてた・・。
 僕には嫉妬する権利もない。
夫がこう言うのを聞くと、ハンカは彼を抱き寄せて「あるわ」。
その時ブザーが鳴り、ハンカがドアを開けるとマリウシュ「僕が卒業したら結婚しよう!」
(客席から笑い)
ハンカ慌ててドアを閉める。

ハンカ「あなたがこんなに苦しむなんて思ってなかった。
    前にあなた言ってたわよね。子供がいたら違ってたかもって」
「養子を取りましょうよ」。
そのためには彼が性的不能だという証明が必要だという。
   だが、1980年代末に書かれたという時代のせいだろうか、この点はおかしい。
   不妊に関しては、精子の数と活発さ、そして卵子の若さとかが問題ではないだろうか。
   そもそも、冒頭で性的不能を医者に診断してもらうというのが腑に落ちないけど・・。
   作者はそれをわかった上で、ある意味ファンタジーとして描いているのかも知れない。

 男の子は希望者が多くて長く待たされるので、女の子をもらうことにするが、それでも数か月かかると言われる。
 私たち、少し休みましょ。
 あなたはどこか保養地に行くの。
 いや、それより君がどこかに行った方がいい。
 でないと彼がここに来るかも・・。
 そうね。

こうしてハンカは雪山にスキーに行く格好で空港へ。
ところが彼女を見送ったロマンは、帰りに、妻と同じような格好をして空港に向かうマリウシュとすれ違う!

一方リゾート地でマリウシュとばったり会ったハンカは驚く。
彼はハンカの会社の同僚から、彼女が〇〇に行った、と聞いたんだ、と嬉しそうに言う。
ハンカはロマンに疑われると恐れたらしく、すぐに公衆電話で自宅に電話するが、ロマンはいるのに電話に出ない。
そこで、次にロマンの職場に電話しようとすると、後ろに並んでいる男に「2度はずるい」と言われる。
急ぎの用なの!と口論になるが、結局電話を譲り、イライラしながら待つ。
ロマンの職場にかけると、彼は今日は休みを取っていると言われる。
そこで、ロマンから電話があったら、私は今日のうちに自宅に戻ります、と伝えてくれ、と頼む。

ロマンはマリウシュの自宅に電話し、鼻をつまんで声を変え、「マリウシュいますか?」
彼の母親が出て「いません。〇〇に行ってます」
そこはハンカが向かったところだった。
ロマンはショックで帰宅。
病院に電話すると、あの娘が説得されて手術を受けることになったという。
担当はロマンだったが、今日は体がボロボロでできない、と断ると、何とかしよう、と言われる。
その後、彼は自転車を猛スピードで飛ばし、暗転。大きな音。

ハンカは帰宅し、電話にメモがはさんであるのを読んで泣く。
上手から、車椅子に乗り、全身包帯を巻かれたロマンがスタッフたちに付き添われて入って来る。
一人が、奥さんは今日中に自宅に戻られるそうです、と言うと、彼は驚いた表情を浮かべる。
口を動かすのが難しいので、話しにくそうに「で、ん、わ・・」と言う。
番号は?と聞かれ、自宅の番号をゆっくり言うと、スタッフはダイヤルを回してロマンの膝の上に電話機を置き、
受話器を彼の耳にあてがう。
ハンカが出る。
長い沈黙の後、
 ハンカ。
 あなた、そこにいるの?
 いるよ。
 いるのね!
 ああ、いるよ。
少しずつ言葉に力がこもって来る。
二人の顔が喜びに輝き出す。暗転。

~~~~~~~ ~~~~~~~

まだ30代のハンカにとって、夫が性的不能というのは耐え難いことだった。
彼女にとって、マリウシュはただのセフレだった。
浮気をしてはいたが、彼女は夫を深く愛していた。
彼女はいつも、夫の悩みを聞き、彼を慰め、彼の力になろうとしてきた。
彼を傷つけたことを知り、彼女は関係修復に向けてできる限りのことをする。
彼の誤解を招くような事態に陥ると、必死になって誤解を解こうともがく。
そのことが、ラストで救いをもたらす。

十戒の第9戒は、カトリックでは「隣人の妻を欲してはならない」。

3ヶ月にわたる連続上演の掉尾を飾る作品らしく、後味の良い戯曲だった。
誤解から自暴自棄になったロマンが、辛うじて死を免れ、愛する人と共に、再び生きる希望を取り戻したことを、
観客も二人と共に心から喜ぶことができたと思う。
マリウシュの若さ、楽観性がまぶしい。
彼は、一時的には傷つくかも知れないが、その若さ故にすぐに立ち直ることだろう。
この日、「デカローグ10」が先に上演されたのも、とても良い判断だったと思う。
10篇の作品すべてにおいて、人間というものを温かく見つめるまなざしが感じられる。
いつか、元となった映画をぜひとも見てみたい。

 

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