ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「平和の日」

2023-04-20 21:45:10 | オペラ
4月8日オーチャードホールで、リヒャルト・シュトラウス作曲のオペラ「平和の日」を見た(指揮:準・メルクル、オケ:東フィル)。





ピンぼけですみません💦

日本初演。セミステージ形式。
<あらすじ>
17世紀半ばのドイツ。30年戦争末期の頃、城塞に駐留する兵士に守られたカトリックの街は、ホルシュタインからやって来たプロテスタント軍に
包囲されてもなお抵抗していた。飢餓状態にあった市民たちは、城壁の門を開け、降伏するよう兵士を説得する。
しかし司令官は市民の声に耳を貸さず、どんな犠牲が出ても街を維持することが皇帝陛下からの勅命だと譲らない。
だが、自軍の兵士が市民の肩を持つのを見て、正午に停戦の合図を出すと約束する。
しかし、司令官の本当の計画は、自分と兵士で城塞を爆破することだった。
やがて、司令官の妻マリアが城壁に現れ、太陽に象徴される平和を待ち望む。
その場に戻った夫・司令官の戦意を、マリアは何とかなだめようとするが、街の陥落と運命を共にしようとする彼の決意は変わらない。
やがて大砲の音が鳴り響き、待ちに待った戦いの始まりだと思った司令官は、兵士たちに戦いの準備をさせる。
ところが街じゅうの教会から鐘が鳴り響き、敵兵が武器に花輪をつけ、白旗を掲げて近づいてくる。
敵兵は街の中に迎えられ、停戦が実現したことが報告される。
司令官は敵の策略だと信じようとせず、ホルシュタイン軍の司令官がやって来ても、剣に手をかける。
マリアが二人の間に割って入り、皇帝よりも偉大なものを祝うよう司令官に呼びかける。
司令官はようやく敵兵を受け入れ、誰もが永遠に続く輝かしい平和を賞賛する。 (パンフレットより)

<成り立ちと背景>
リヒャルト・シュトラウスは、長年タッグを組んできたホフマンスタールが亡くなった後、シュテファン・ツヴァイクと共同作業を始めた。
だがシュトラウスは息子の嫁がユダヤ人であり、孫二人はユダヤ人との混血であるため、家族と自分自身とをナチス政権の迫害から守るため、
ナチス政府からの作曲依頼、式典出席依頼を断れない状況に陥った。
ゲッベルスの側も、シュトラウスにはドイツ音楽界を代表する宣伝塔としての役割があると認識していた。
1936年に作曲したこのオペラは、ツヴァイクのアイディアおよび草稿を元にしており、明らかに反戦的な内容を含んでいた。
この時期、すでにツヴァイクはシュトラウスと直接の交渉を持つことを拒否しており、この作品の完成を、ヨーゼフ・グレーゴルに託した。
1938年にオペラ「平和の日」は初演された。
原作者、作曲者の意図がどうあれ、ナチス政府はこの作品を、来たるべき(自分たちによる)ヨーロッパ統一のシンボル的作品とみなし、
第二次世界大戦が激化する直前まで、ドイツ国内で98回もの上演を重ねている。
平和主義者にとってもナチス党員にとっても都合のよい作品としての運命を担わされた本作は、戦後、負のイメージがまとわりついたために
上演機会が極端に減ってしまった。
シュトラウスの作品なのに日本で上演されたことがなかったという驚くべき事実の背景には、こうした不幸な事情があった(広瀬大介氏の解説より)。

舞台後方の上部に巨大なスクリーンが設けられ、そこにさまざまな映像が映し出される。
武器、バラの花、西洋の街並を上空から眺めた光景、石造りの建物、教会の塔の鐘・・・。
司令官(清水勇磨)とその妻マリア(中村真紀)が対峙する。
何しろ時代は30年戦争末期なので、若い兵士たちは生まれた時から戦争の中にいて、平和というものを経験したことがない。
兵士たちは口々に言う、「平和って何だ・・」。

字幕の意味が時々よくわからない。そのため、妻と夫が長い議論の末にしっかと抱き合った時、流れについて行けず唐突に感じられた。残念。
ラストはベートーヴェン風の堂々たる C dur で、平和の尊さを歌い上げる。
背後のスクリーンにドイツ語の髭文字 Friede (平和)が現れ、しばらくすると、英語の peace など各国語が表示される。
音楽の高まりと相まって胸が締めつけられるほど感動的。
こうして圧倒的な平和賛歌のうちに終わる。
この曲がウクライナで、ロシアで、パレスチナで演奏されたら、と思った。

かつてロナルド・ハーウッド作の芝居「コラボレーション」を見たことがある(2011年加藤健一事務所公演、日本初演と、2014年劇団民藝公演)。
それは、これより少し前、リヒャルト・シュトラウスが、ツヴァイクと共にオペラ「無口な女」を作る頃の話だった。
時代の荒々しい波に押し流されそうになりながら、何とかそれに立ち向かっていこうとするシュトラウスの姿が描かれていて、今回のオペラ誕生の背景理解
にも大いに役立った。
この作品は「サロメ」のように劇的でなく、「ばらの騎士」のように官能的でもなく、「影のない女」のように陰影に富んでいるわけでもないが、
やはりシュトラウス独特の美しさが素晴らしく、胸を打たれた。
ようやく迎えた日本初演の時に、その場に立ち会えたことに感謝したい。

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