ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「検察官」

2022-11-07 10:21:56 | 芝居
11月1日俳優座劇場で、ニコライ・ゴーゴリ作「検察官」を見た(劇団1980公演、演出:ペトル・ヴトカレウ)。



文化庁芸術祭参加作品。演出家はモルドバ共和国のウジェーヌ・イヨネスコ劇場芸術監督。
コロナ禍で2年順延された公演の由。

ある地方の官吏たちが、たまたま旅行に来たペテルブルグの若い下級官吏を検察官と間違えて右往左往する。
皆、すねに傷持つ身だったのだ。その男は彼らの誤解をいいことに、思うさま賄賂を取りまくり、しまいに姿をくらます。

舞台にはスチールの網の張った箱をたくさん組み合わせた階段が正面に横向きに設置され、その中央に奇妙な狭い出入り口。
人々はいちいち階段を登って降りて中央の狭い戸口から登場する。
舞台奥には「影あるいはMr.N 」という役の男(堀之内真平)が仮面のような顔に終始皮肉な笑みを浮かべ、人々の様子を伺っている。

ペテルブルグの下級官吏フレスタコフ(田部圭祐)は、旅行中、父親からもらった金を使い果たし、宿の主人から、もうツケでは一切食事を出さない、と言われている。
従者オーシップ(戸谷昌弘)と共に腹ペコで弱り切っていて、何とか主人に食べ物を持って来てもらおうとする。
そんな時、彼を検察官と思い込んだ市長(柴田義之)がやって来る。
始め、二人はどちらもおびえているが、次第に落ち着きを取り戻し、市長は彼に言われるままに金を貸してやり、宿のツケも全額払ってやる。
フレスタコフは大喜びで上機嫌になる。
市長は自分の悪事が露呈せずに済むようだとわかり、ほっとして勢いに乗り、フレスタコフを自分の家に客人として泊めることにする。
市長の妻(上野裕子)と娘(光木麻美)はキテレツな衣装で登場するが、その知らせを聞くと、急いで着替えて競っておめかしする。

ここで市長の夢のシーンが長々と繰り広げられる!まさに悪夢。
大きなネズミたちが現れ、彼の妻と娘は処刑され、彼の前に自分の生首が運ばれてくる。
戯曲にはまったくないシーン(冒頭の市長のセリフにちょっと出てくるだけ)を丸々一つ作ったのにはびっくり!

<2幕>
翌朝、二日酔いのフレスタコフは女物のピンクの薄い下着姿であだっぽい。
昨夜の歓待を思い出して、ここはいいところだ、とひとり言を言っているところに、判事、郵便局長、病院長らが一人ずつ、おっかなびっくりやって来る。
フレスタコフは彼らをいいようにあしらい、みんなから300ルーブル、400ルーブルと金を巻き上げる。
田部圭祐が実にうまい。
最後にボブチンスキーがフレスタコフに頼み事をするシーンで、突然、歌舞伎調になる。
照明も変わり、彼にスポットライトが当たる。これがおかしい。

その後、市長の妻と娘がやって来ると、フレスタコフは二人に色目を使い、どちらもその気にさせてしまう。
だが結局彼は、娘の方と結婚したいと言い出し、市長は驚くが、二人を祝福する。
その直後にフレスタコフとオーシップは、すぐに戻るからとみんなを安心させておいて旅に出る。
市長と妻は、思いがけない成り行きに興奮し、娘が結婚したら自分たちもこんな田舎に住んでいないで、ペテルブルグに住もうかと語り合う。

ラスト、人々はフレスタコフに騙されたとわかると驚き、怒り狂い、誰が最初に彼を検察官だと言ったか、思い出す。
あの二人だ!人々はドブチンスキーとボブチンスキーを取り囲み、気がつくと、市長がその一人の首を絞めて殺していた。
さすがにギョッとして黙り込む人々。
すると電話が鳴り、天井から赤い受話器がぶら下がる。
市長がそれに向かって声をかけると、奥にいた謎の男・「影あるいはMr.N 」がこちらを向き、別の受話器を持って、最後の憲兵のセリフを語る。
「特命によりペテルブルグから到着された官吏の方が、即刻ご一同をお召しです」
今度こそ本物の検察官がやって来たのだった・・・!

この日は千秋楽だったので、演出家のあいさつがあった。
モルドバ語なのだろうか。ロシア語に似た響きがした。

音楽は、最初のうちシーンごとにいちいち短く入れるのが邪魔だと思ったが、後半、フレスタコフの元に役人たちが一人また一人とやって来る時の
コミカルな行進曲風の部分が素敵だ。実に楽しい。
原作の戯曲には冗長な部分もあるのでごっそりカットするのはわかるが、戯曲の流れが自然に感じられるセリフも多いので、それらがカットされているのが残念。
だが、演出家にはこの戯曲を使って表現したいことがはっきりとあり、そのためには、これくらい大胆に再構成する必要があったのだろう。
その強い意欲と情熱に胸を打たれた。

モルドバ共和国がどこにあるかも知らず、地図で確認したら、ウクライナの南に隣接する小さな国だった。
東欧の戯曲は、今までいくつか見てきたが、いずれも私たちの感性やメンタリティーとはいささか違うものだった。
例えばシェイクスピアの戯曲でも、1994年3月に見たルーマニアの劇団の来日公演「冬物語」など、我々とはとらえ方と表現方法が若干違うと感じた。
今回の公演でも、大国に挟まれた小国という地理的環境が民族にもたらす厳しいものが、彼らのメンタリティーを形成していると思った。
だが、その独特な世界観、独創性が、実に興味深く、また魅力的だ。

この日のために遅まきながら原作を読んだが、さすが名作の誉れ高い作品、そのストーリー展開のうまさ、至る所にきらめく機知と風刺に
圧倒された。
この戯曲が初めて印刷された時、植字工や校正係が笑いの発作のために仕事がなかなか進まなかったという有名な逸話が残っているという。



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