30年前に刊行された推理小説をもとに東京の掘割や水路を語る
・・・という目論見で始めた連載だったが、
ただの東京お散歩ブログに終わったという反省がないでもない。
乱歩作品を下敷きに1920年代の東京の都市文化をひも解いた
松山巌氏の名著「乱歩と東京」を目指したが、むろん遠く及ばない。
ただ、「火刑都市」文庫版の巻末にある評論家・新保博久氏の解説文には
以下のような趣旨の一文がある。
ここに記された東京も一時期のもの。やがては東亰と同じく幻になるのかも
確かに、浅草から仁丹塔や東京クラブが消え、飯田堀にはラムラが建ち、
日本橋の水天宮は地下鉄半蔵門線と直結し、社殿も建て直された。
連載を通して、80年代からの東京の変貌ぶりを少しは紹介できたかなと思う。
一方で、この連続放火が起きることに現在の東京で現実味を感じるかと問われたら、
答えはノーになる
ビルやマンションへのオートロックの普及で、侵入自体が大変になったうえ、
都心の建物や路地には防犯カメラが増えた。
この小説において、菱山は「密室への放火」を実行するため、
ある特徴的な格好を強いられている。映像の照合で足がつくおそれが高い。
少なくとも、都心で10カ所もの連続放火は難しいだろう。
「地の水を取り戻せ」という勇ましい「火刑宣言」も
「江戸時代もお堀の水で消火なんかしてねーよ」とネットで「炎上」しそうだ
<江戸の消火は火消しによる家屋破壊&延焼防止というのが防災史の常識(注)
注・竜吐水という手押しポンプはあったが、水鉄砲に毛が生えたようなシロモノ。火事場装束を濡らす道具だったらしい
ただ、大地震やテロの危険が増す一方で、築地市場移転や五輪会場の諸問題と、
どんなに迷走を続けても、東京は変貌を止めない。
同時に、東京は「火刑都市」とはまた違った都市犯罪小説を生み出すことも
止めはしないだろう。そのように感じた今回の連載だった。(おわり)