松江市の松江しんじ湖温泉駅から一畑電車北松江線に乗ること15分。
2001年7月に開業した松江フォーゲルパーク駅に着きます。
駅の真ん前には広い駐車場と平屋の地味な建物があります。
右の稜線の上には展望台、正面の白い屋根の下は花の大温室があります。
今回の旅の目的の一つがここを訪れることでした。
ちなみにフォーゲルパークのフォーゲルとは、ドイツ語で鳥の意。
この公園の造成に関与したのは1997年から1998年にかけての広島勤務時代。完成を見ることなく名古屋へ転勤の辞令が発令されました。
高低差のある尾根と谷を利用して年間を通して鳥と花に囲まれた公園を建設しようというのが目的でした。聡明な皆様はもうお気づきでしょうが、最大の目的は一畑電車の乗降客増です。
テーマと導入施設は当時の事業主体と一畑電車側で概ね決められておりましたが、課題は高低差をどう埋めるか、移動の自由度をどう確保するかでした。
現地形を生かしながら、花の好きなお年寄りと動物好きの子供と家族、さらには移動の自由度が低い人々にも楽しんでいただきながら、できるだけ安価な施設計画を検討、提案する業務に携わったというわけです。
これが実際に運用されている長さ140ⅿの動く歩道です。
日本では、1983年に「公共交通ターミナルにおける身障者用施設整備ガイドライン」1985年に「視覚障害者誘導ブロック設置方針」が定められ本格的なバリアフリーの取り組みが始まったとされており、2006年にバリアフリー法が施行されました。
これに先立ち、この高低差を埋める移動手段と移動手段補助の仕組みの導入を決定いただいた関係者の皆様の先見性と決断力に頭が下がります。
その全体像がこちらです。
車いすが無料で利用でき、車いす移動では危険な動く歩道、移動が難しい下りの園路などは移動をお願いすれば車で無料移動可能なサービスがあります。
送迎車乗り場と降り場が明示されています。実は同行者の希望によりきわめて健常な私も付き添いとして利用させていただきました。
動く歩道を周辺の鳥や植物を見ながら登ると展望点の高さ標高54mほどのくにびき展望台に到着。
これは松江城の天守閣の窓の標高とほぼ同じなのですね。
展望台から松江城の先に見えるはずの大山は雲の中でした。
さらに訪問の強いモチベーションとなったのがあの動かない鳥「ハシビロコウ:フドウ君」の動く姿を見るという事。
このハシビロコウ、日本には12羽しかいない絶滅危惧種Ⅱ類で、現在6か所で飼育されているそうな。
にらめっこしていたら動きました。後頭部の寝ぐせ風髪型がおしゃれです。
これがエントランス近くにある約8,000平方メートルの国内最大級の花の展示温室。
ただベゴニアやフクシアなどこれだけの花が咲いているのに、花の香りがなく昆虫が一匹もいないのが不思議な世界でした。
さて、その効果ですがコロナ禍の2020年の入園客は95,000人。1日平均の乗降人員31人/日。年間11,000人。鉄道利用率12%弱。
2年後の2022年には2倍近い183,000人まで入場者が増えました。(指定管理者運用状況報告=松江市=より)
私の乗車した午前11時台の電車の降車客は6人程。うち4人はインバウンドでした。恐るべしインバウンド。
ハシビロコウとのにらめっこで勝てたと思わされたのがうれしい。