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ツバキ文具店


 小川糸      幻冬舎

 代書屋。小生のごとき上方落語ファンにとっては、先代桂米團治師匠作の落語を思い浮かべる。落語の代書屋は、字が書けない人のために、履歴書を書く噺。多くの上方落語家が演じている。代表的なところでは、3代目桂春團治師匠と、桂枝雀師匠だろう。
 枝雀師匠の「代書屋」に出てくる松本留五郎氏は、上方落語きっての名キャラクターだと思う。えもいわれぬ天然ボケで、留五郎氏のとんちんかんな受け答えが代書屋を困らせて爆笑を誘う。あ、いかん。これは「とつぜん上方落語」のカテゴリーではなかったな。「代書屋」はいつか「とつぜん上方落語」でネタにしなくてはいかんな。
 落語の代書屋は中年のおっさんだが、この本の代書屋は20代の若い女性。テレビドラマでは多部未華子が演じていたから、そういうキャラである。多部が原作の主人公雨宮鳩子のイメージに良くあっていた。だから、春團治師匠や枝雀師匠の顔をイメージしながらこの本を読むと混乱するかも知れない。
 古都鎌倉で古い文具店を営む雨宮鳩子は、看板は掲げてないが代書屋である。今どき字の書けない人はいないから、落語の代書屋とは違う。鳩子はお手紙を代わりに書く代書屋である。代書屋というよりコピーライターといった方がわかりやすいか。小生も、コピーライターの時、仕事でクライアントの社長の手紙の代書をしたこともあった。
 ワケありな人がワケありな手紙の代書を鳩子に頼みに来る。友人が大切にしていた「権之助さんが亡くなった」お悔みの手紙を書いてくれ。離婚する妻への別れの手紙。かって愛した女性へ幸せを願う手紙。親友への絶縁状。などなど。鳩子は、手紙の紙から筆記用具、文字の書体まで考え、文案を練り、封筒にはる切手まで吟味して、依頼主に変わり手紙を投函する。鳩子は自分が書く手紙で、人が不幸になることは決してしない。たとえ絶縁状であっても離縁状、借金の断り状のような手紙でも、双方に幸せがもたらされ、なおかつ依頼主の目的が果たせるような手紙を代筆する。
 鳩子が接するさまざまな人、代書屋の先代の祖母、隣の親友バーバラ夫人、パン作りが得意な先生パンティー、口が悪いおじさん男爵、鏡文字が得意な5歳の女の子で鳩子の友だちで最年少のQPちゃん。そしては鳩子はポッポちゃんと呼ばれる。登場人物は全員ニックネームで呼ばれる。このような人たちとの交友を通じて鳩子は成長していく。
 舞台は古都鎌倉。鎌倉の風景、文物、お店がいっぱい出てきて、鎌倉に行きたい気になる。登場人物が全員、ものすごく善意の人。人の善意がうれしい。ひと時の癒しを求める人はぜひ、お読みなればいい。
 
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トラキチ酒場せんべろ屋 第11回

「おもやん。ビールやビール」
「え、アテ。なんでもええ。おもやんにまかせる。じゃんじゃん持ってきて」
「きょうはええ気分やな」
「そやな。阪神、きょうはよう勝った」
「うん。広島も勝っとうから、きょう負けたら4ゲーム差。ちょっと追いつくのんはしんどいとこやった」
「2対2の同点。あとのピッチャー勝負やったな」
「そやな。この阪神のサヨナラ勝ちで、阪神のMAKDの強さがようわかったな」
「そやなJFKほど派手さはないが、MAKDの方が頼りになりそうやな」
「これで西武に勝ち越し。交流戦、大過なく過ごせそうやな」
「そやな。まことにめでたいな」
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