雫石鉄也の
とつぜんブログ
2013年の阪神タイガース
なんでもメリケンで行われていた花野球で、日本の代表チームが準決勝で負けたそうな。WBCゆうんかな。小生、かようなものは興味が無かったので一度も試合は観なかった。この花野球にわが阪神タイガースの大切な選手二人、鳥谷と能見が出ていたが、なにはともあれ二人ともケガなくてなによりである。ほんとはメリケンくんだりまで行かず、国内でちゃちゃと仕事を済ませてチームに早々に合流して欲しかった。予定より早くメリケンでの仕事が済んで良かった。かようなモノに出るとろくなことはない。もろこしで行われた運動会のでかいのに、新井貴浩がムリして出て、その後、その後遺症でダメになったのはご承知の通り。
日本の3連覇は成らなかった。このことは野球という競技にとっては良かったのではない。いつもいつも同じような国が優勝する。これじゃ国際的に普及している競技とはいえないだろう。五輪復帰を目指す野球競技にとっては日本以外の国が優勝するのは良いことだ。
それはさておき、今年の阪神タイガースだ。金本、藤川、ブラゼルたちが阪神を去って行った。日高、西岡、福留、コンラッドたちが阪神に来た。ドラフトでは高校球界の逸材藤浪が新戦力となった。
昨年のオープン戦はさんざんだった。打てなくてオープン戦最下位だった。その打てないことが最後までたたって、セリーグ5位という不本意な成績で終わった。そのことを考えると、今年のオープン戦はよく打っている。昨年のことを考えると、今年のペナントレースは期待が持てそうだ。
さて、今年の阪神の心配ごとは二つある。4番打者とクローザーだ。このところ、阪神の4番というと金本、新井貴ということになっていた。その新井貴が昨年は4番として満足の行く働きができず、金本が老骨にムチ打って務めたり、後半は新井良が務めていた。打線の中心たる4番打者が固定できなかったことが、昨年のチーム打撃不振の大きな要因だろう。金本は引退した。新井貴はあいかわらずどっかが違和感なんてことをいっている。教育リーグには出て、それなりの働きはしているそうだが、正直、あてにはならないだろう。和田さんは4番新井貴にまだ未練があるようだが、ここは、ブラゼルと並ぶチームのホームラン王という昨年の実績も考えて新井良に任せるのがいいだろう。
西岡と福留。こと打線ということに関しては良い補強をしたといっていいだろう。日本の球界に5人しかいない年間200本安打達成者が阪神には二人もいる。これだけみればものすごいつながりの良い打線だ。西岡がロッテの西岡で福留が中日の福留だと最強の打線といえる。ただ、今はこの二人、阪神の西岡で阪神の福留だ。期待は持てるがうまくいったらもうけものと考えていた方が良いかも知れない。
もう一つの心配ごと。クローザーだ。阪神は藤川球児という絶対的守護神がいたおかげで、ことこのポジションについてはなんの心配も不要だった。昨年の藤川は、「絶対的」と「神」が取れてただの守護霊に成りかけていたが、それでも仕事はしてくれた。この守護神藤川球児がいなくなった。心配なことである。久保がクローザーを務める予定らしいが、別に久保に固定しなくても良いのではないか。一人の投手に最後を託す。彼が打たれて逆転負けしたらしかたがない。というのではなくて、その時の情況に応じて最適の投手を起用すればいいのではないか。確かに火の玉ストレートで三振三者凡退に切って取ったら気持ちが良い。しかし、1点ぐらい与えても良い場面では三者凡退は不要だろう。ようは勝てばいいのだ。藤川がいなくなったから、だれかを藤川の代わりに据えようというのではなく、いかにして勝っている試合を勝ったまま終わらせるかを考えた方がいいだろう。
野手陣はそれなりの補強をしたが、投手陣は即戦力の補強はなかった。ドラフト1位で藤浪をとったが、彼とて高卒新人でプロ1年生。過度の期待は酷だろう。セットアッパーを務めていた榎田が先発に回り、藤川が去って、後ろを投げるリリーフ陣が流動的となった。昨年は加藤という拾い物がいたが、今年はどうだろう。福原、筒井、渡辺、加藤、久保たちで回すことになるだろうが、もひとつピンとこない。かってのJFKなんて贅沢はいえないが、ここはなんとかやりくりしながら行けばいい。
さて、結論としては、今年の阪神タイガースは、打撃で投手陣を援護しながら、なんとか勝ちを稼いで行くという年になりそうだ。昨年の前半は、さっぱり打てないが、なんとか投手のがんばりでしのいでいた。今年はその裏返しではないか。投打が噛み合うのは難しいものだ。
さて、開幕先発オーダーはどんなものだろうか。
1番 2塁 西岡
2番 センター 大和
3番 ショート 鳥谷
4番 1累 新井良
5番 ライト 福留
6番 3累 コンラッド
7番 レフト マートン
8番 キャッチャー 藤井
9番 ピッチャー メッセンジャー
こうして見るとなかなか結構な打線じゃないかえ。
セリーグの順位予想。
1位 読売ジャイアンツ
2位 阪神タイガース
3位 ヤクルトスワローズ
4位 中日ドラゴンズ
5位 広島カープ
6位 DeNAベイスターズ
さてさて、どうなりますことやら。
日本の3連覇は成らなかった。このことは野球という競技にとっては良かったのではない。いつもいつも同じような国が優勝する。これじゃ国際的に普及している競技とはいえないだろう。五輪復帰を目指す野球競技にとっては日本以外の国が優勝するのは良いことだ。
それはさておき、今年の阪神タイガースだ。金本、藤川、ブラゼルたちが阪神を去って行った。日高、西岡、福留、コンラッドたちが阪神に来た。ドラフトでは高校球界の逸材藤浪が新戦力となった。
昨年のオープン戦はさんざんだった。打てなくてオープン戦最下位だった。その打てないことが最後までたたって、セリーグ5位という不本意な成績で終わった。そのことを考えると、今年のオープン戦はよく打っている。昨年のことを考えると、今年のペナントレースは期待が持てそうだ。
さて、今年の阪神の心配ごとは二つある。4番打者とクローザーだ。このところ、阪神の4番というと金本、新井貴ということになっていた。その新井貴が昨年は4番として満足の行く働きができず、金本が老骨にムチ打って務めたり、後半は新井良が務めていた。打線の中心たる4番打者が固定できなかったことが、昨年のチーム打撃不振の大きな要因だろう。金本は引退した。新井貴はあいかわらずどっかが違和感なんてことをいっている。教育リーグには出て、それなりの働きはしているそうだが、正直、あてにはならないだろう。和田さんは4番新井貴にまだ未練があるようだが、ここは、ブラゼルと並ぶチームのホームラン王という昨年の実績も考えて新井良に任せるのがいいだろう。
西岡と福留。こと打線ということに関しては良い補強をしたといっていいだろう。日本の球界に5人しかいない年間200本安打達成者が阪神には二人もいる。これだけみればものすごいつながりの良い打線だ。西岡がロッテの西岡で福留が中日の福留だと最強の打線といえる。ただ、今はこの二人、阪神の西岡で阪神の福留だ。期待は持てるがうまくいったらもうけものと考えていた方が良いかも知れない。
もう一つの心配ごと。クローザーだ。阪神は藤川球児という絶対的守護神がいたおかげで、ことこのポジションについてはなんの心配も不要だった。昨年の藤川は、「絶対的」と「神」が取れてただの守護霊に成りかけていたが、それでも仕事はしてくれた。この守護神藤川球児がいなくなった。心配なことである。久保がクローザーを務める予定らしいが、別に久保に固定しなくても良いのではないか。一人の投手に最後を託す。彼が打たれて逆転負けしたらしかたがない。というのではなくて、その時の情況に応じて最適の投手を起用すればいいのではないか。確かに火の玉ストレートで三振三者凡退に切って取ったら気持ちが良い。しかし、1点ぐらい与えても良い場面では三者凡退は不要だろう。ようは勝てばいいのだ。藤川がいなくなったから、だれかを藤川の代わりに据えようというのではなく、いかにして勝っている試合を勝ったまま終わらせるかを考えた方がいいだろう。
野手陣はそれなりの補強をしたが、投手陣は即戦力の補強はなかった。ドラフト1位で藤浪をとったが、彼とて高卒新人でプロ1年生。過度の期待は酷だろう。セットアッパーを務めていた榎田が先発に回り、藤川が去って、後ろを投げるリリーフ陣が流動的となった。昨年は加藤という拾い物がいたが、今年はどうだろう。福原、筒井、渡辺、加藤、久保たちで回すことになるだろうが、もひとつピンとこない。かってのJFKなんて贅沢はいえないが、ここはなんとかやりくりしながら行けばいい。
さて、結論としては、今年の阪神タイガースは、打撃で投手陣を援護しながら、なんとか勝ちを稼いで行くという年になりそうだ。昨年の前半は、さっぱり打てないが、なんとか投手のがんばりでしのいでいた。今年はその裏返しではないか。投打が噛み合うのは難しいものだ。
さて、開幕先発オーダーはどんなものだろうか。
1番 2塁 西岡
2番 センター 大和
3番 ショート 鳥谷
4番 1累 新井良
5番 ライト 福留
6番 3累 コンラッド
7番 レフト マートン
8番 キャッチャー 藤井
9番 ピッチャー メッセンジャー
こうして見るとなかなか結構な打線じゃないかえ。
セリーグの順位予想。
1位 読売ジャイアンツ
2位 阪神タイガース
3位 ヤクルトスワローズ
4位 中日ドラゴンズ
5位 広島カープ
6位 DeNAベイスターズ
さてさて、どうなりますことやら。
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マザーウォーター
監督 松本佳奈
出演 小林聡美、小泉今日子、市川美日子、もたいまさこ、加瀬亮、光石研
出てる俳優さんたちを見ると荻上映画の常連さん。「めがね」では、小林、市川、もたいといった荻上組に加えて薬師丸ひろ子が出てた。この映画には小泉今日子だ。フードスタイリストも飯島奈美さんが担当してたし、残念ながら監督は荻上直子ではないけれど、とりあえず観た。時間のムダであった。そして荻上直子の才能を改めて認識した次第。同じようなスタッフ同じような俳優を使っても監督が違うと、こうも違うのか。
サントリーの山崎しか置いてないバー。あまりはやってなさそうな喫茶店。店頭のベンチで豆腐を食べられる豆腐屋。これらの店を営む3人の女。3人とも30代後半から40代前半の独身と思われる。京都の鴨川にほど近い場所。散歩するおばあさん。ゆったりと時間が流れる。荻上っぽい雰囲気の映画ではあったが、それだけ。なにもないまま映画は終る。なんとも退屈な映画であった。
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アジのなめろう
アジのなめろうです。もともとは漁師料理で、漁師さんが船の上で調理して食べていた料理です。
偏見と思い込みは承知の上でいいますが、魚の最も美味しい食べ方を知っているのは漁師さんで、魚を最も美味しく食べられる場所は漁船の上です。私、大学は水産学科で、若い頃は漁師さんと接する機会も多く、彼らが調理する魚も食べました。漁労実習で漁に出たこともあります。その時、船の上で、網から外したばかりのイカやアジをさばいて、すぐ食べる。ものすごく美味しいです。
今はもうありませんが、名料亭のほまれ高い西宮の「播半」で食事をした事があります。なんでも播半の親方は関西和食のドンと呼ばれた名料理人だったそうです。で、このドンが有次だかどこだかの包丁で切ったお造りと、漁師のおっさんが船の上で、錆びた包丁でちゃちゃと切った刺身を比べると、小生の場合、圧倒的に漁師のおっさんの方がうまかったです。
アジのなめろう。新鮮なアジが手に入ったらぜひ作りたい料理です。ほんとうは、サビキでもしてアジを釣って来ればいいのですが、私は釣りはしません。近くのスーパーで買って来ました。
調理は簡単です。アジの切り身を細かく刻んで、しょうが、ネギなどの香味野菜のみじん切りと味噌を混ぜて、包丁で叩いて滑らかにします。お酒のアテにぴったりです。今夜のお酒は道灌です。
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マドレーヌ
ホワイトデーから二日経ったが、バレンタインのチョコのお返しのマドレーヌを焼く。ホワイトデーのお返しプレゼントだからといって、金を使って高価なモノを贈ったって、心がこもっていなければ虚しいだけ。このマドレーヌ、小麦粉、砂糖、卵、ベーキングパウダー、バターで作るからそんなにお金はかかってない。バターだけは少し贅沢してカルピスのバターを使っているが、それでも1500円ほどだ。南蛮のゴム輪帯屋が星をつけているような飯屋で彼女にお返しのごちそうすれば、小生の一か月分の小遣でも足らない。
そういうわけで、きょうはマドレーヌを焼いたわけ。小生はべつに切支丹伴天連ではないが耶蘇教の習慣もたまにはマネすると面白い。
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ハーバーランドの観覧車
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SFマガジン2013年4月号
SFマガジン2013年4月号 №685 早川書房
雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 小さな供物 中原尚哉訳 パオロ・バチガルピ
2位 無政府主義者の帰還(最終回) 樺山三英
3位 ドラゴンスレイヤー 草上仁
4位 霧に橋を架けた男(後編) 三角和代訳 キジ・ジョンスン
5位 コヴハイズ 日暮雅通訳 チャイナ・ミエヴィル
6位 コルタサス・パス 円城塔
7位 Hollow Vision 長谷敏司
連載
椎名誠のニュートラル・コーナー(第36回)
歩いていける「むかしは未来だった」不思議な世界 椎名誠
現代SF作家論シリーズ 監修 巽孝之
「ジャムってなんですか?―『アンブロークン アロー 戦闘妖精・雪風』」
藤元登四郎
SFのある文学誌(第16回) 長山靖生
パラフィクション論序説(第9回) 佐々木敦
是空の作家・光瀬龍(第15回) 立川ゆかり
「ベストSF2012」上位作家競作。毎年4月号は、早川が毎年出しているSFのガイドブック「SFが読みたい!」で、上位に選出された作家の特集。この企画さして良い企画とは思えぬ。雑誌に読み切りで掲載されるのだから当然短編がということになる。ところが上位に選出された作家は、短編が上手い作家ばかりではないだろう。読者は面白い短編が読みたいのだ。別に上位作家の顔見せが見たいわけではない。例えば昨年の海外部門1位のチャイナ・ミエヴィルは長編「都市と都市」で1位になったが、ミエヴィルは短編が上手い作家とは思えぬ。1位になった作家の短編よりも、上位には選出されはしなかったが、短編の上手い作家の作品を読みたいのだ。
日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー「日本SF短編50」のラインナップが紹介されていた。見たが、どうもすっきりとしない。大きな忘れ物感を感じる。北原尚彦、日下三蔵、星敬、山岸真と清水編集長が選考に当たったとのこと。
聞くところによると、日本SF作家クラブの会員でない作家は選考の対象にはしなかったとか。物故作家の作品も選ばれているが、彼らは会員のまま亡くなったからOKだとのこと。つまり存命で会員か、会員のまま亡くなった作家の作品しか掲載されていない。会員外か会員であっても脱退した作家の作品は選考対象になっていない。例えば平井和正はクラブを脱退したから選考対象外とか。
本誌94ページの紹介文に「日本SF界を代表する50名の作家」とあるが、これでは「日本SF作家クラブを代表する50名の作家」だ。平井和正は日本を代表するSF作家ではないのか。確かにこの企画は日本SF作家クラブ創立50周年を記念した企画だが、同クラブの会員でないと優れたSFをかけないというわけではないだろう。もっと広い目で見て選考できなかったのか。
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とつぜん対談 第50回 犬との対談
今日の対談相手は犬さんです。なんでも地球上の全犬の代表の犬さんだそうです。昨日、私の携帯に電話がありました。早急に会いたいとのことです。なんだか、大変エライ犬さんだそうで、お声からも威厳が感じられました。
あ、見えました。3頭の犬がやってきます。まん中のセントバーナードがそうでしょう。ものすごく大きな犬です。堂々たるものです。右に大きなドーベルマン、左に小さなチワワを連れています。
犬
待たせたな。
雫石
いえ。お供の2頭はなんですか。
犬
こいつらはワシのボディガードじゃ。
雫石
ボディガード?ドーベルマンは判りますが、こんな小さなチワワが強いのですか。
犬
試しにこいつと戦ってみるか。おぬし3秒と立ってられないぞ。
雫石
本当ですか?
犬
あそこに大きな男がおるじゃろ。見ておれ。
雫石
うわっ、チワワが大男の足元を駆け抜けた。あ、大男が倒れた。げげ、大男が死んでいる。
犬
見事なもんじゃろ。一瞬のうちに大男の足に噛みついたのじゃ。
雫石
ひ、人殺し!犬が人を噛み殺した。ギャー。
犬
待て待て。お前には危害は加えん。
雫石
ハーハー。こんな小さなチワワに噛まれてなんで死んだ。
犬
こいつは毒犬じゃ。こいつの牙は注射針のようになっていて、それで毒を注射するんじゃ。こいつの毒は、最強の毒蛇クロガシラウミヘビの300倍強いのじゃ。
雫石
犬が毒を持っているのですか。
犬
知らんじゃろうが、最近産まれた犬はみんな毒を持っているのじゃ。ワシは年寄りで無毒じゃが、このドーベルマンでもマムシ程度の毒を持っているんじゃ。
雫石
なんで犬が毒を持つようになったのですか。
犬
それは、おいおい話してやろう。まず、おぬしに頼みたいことがある。
雫石
なんですか。
犬
おぬしにわれわれ犬族のスポークスマンになってもらいたい。今後、ワシが犬族の意向をおぬしに伝える。おぬしは人類の指導者に伝えてもらいたい。
雫石
どういうことですか。
犬
これから、われわれ犬族が地球の支配者となるんじゃ。
雫石
ええ!
犬
地球上の全動物で投票が行われた。軟体動物、節足動物、脊椎動物が票を集めて幹事動物にえらばれた。脊椎動物代表の哺乳類が幹事長動物になったのじゃ。
雫石
そんな話聞いてません。人類も哺乳類じゃないんですか。
犬
いいから聞け。幹事動物が集まって幹事会議が開かれた。節足動物の昆虫代表の蝿から動議が出された。人類に天誅を加えるべし。と。
雫石
なんで蝿なんかが。
犬
蝿なんかとは失礼じゃぞ。蝿は常に人類の行状を見ていたのだ。そして見るに耐えないと判断したのじゃな。
雫石
蝿のいうことに犬も賛成したのですか。犬は人類の友だちでしょう。
犬
友だちのふりをしていただけじゃ。犬は人類に寄り添って人類を観察していたのじゃ。確かに蝿のいうとおりじゃ。ひどいもんじゃ。人類は自分勝手な理屈で地球をめちゃくちゃにした。われわれは人類に関する詳細なレポートを幹事会に提出した。
雫石
これからどうなるんですか。
犬
われわれ犬族が人類に代わって地球の支配者に選ばれた。文明運営のノウハウはわれわれが人類から学んだ。そのために犬は常に人類の横にいたのじゃ。犬は友だちの仮面を捨てて、人類に宣戦布告をする。
雫石
犬が人類と戦争しても勝てませんよ。
犬
お前たちは気がついてなかったが、犬の85パーセントが有毒の犬じゃ。一週間後、猛毒の犬が人々をいっせいに襲い始める。ワシの計算では開戦三日後には人類の半数が死亡する。
雫石
私に何をしろというんです。
犬
この書類を人類の指導者に手渡して欲しい。
雫石
見てもいいですか。
犬
見ろ。
雫石
うわあ。これじゃ人類は犬の奴隷になるじゃないですか。
犬
ニホンカワウソ、ステラーダイカイギュウ、リョコウバト、ニッポニアニッポン。彼らはみんな人類に絶滅させられた動物じゃ。彼らの意を受けた鳥類代表のスズメが人類処刑を提案したが、ワシら犬とネコがなんとか弁護して人類の存続を認めてもらったのじゃ。命があるだけありがたいんじゃ。早く行け。
雫石
はい!うわ、えらいこっちゃ。
あ、見えました。3頭の犬がやってきます。まん中のセントバーナードがそうでしょう。ものすごく大きな犬です。堂々たるものです。右に大きなドーベルマン、左に小さなチワワを連れています。
犬
待たせたな。
雫石
いえ。お供の2頭はなんですか。
犬
こいつらはワシのボディガードじゃ。
雫石
ボディガード?ドーベルマンは判りますが、こんな小さなチワワが強いのですか。
犬
試しにこいつと戦ってみるか。おぬし3秒と立ってられないぞ。
雫石
本当ですか?
犬
あそこに大きな男がおるじゃろ。見ておれ。
雫石
うわっ、チワワが大男の足元を駆け抜けた。あ、大男が倒れた。げげ、大男が死んでいる。
犬
見事なもんじゃろ。一瞬のうちに大男の足に噛みついたのじゃ。
雫石
ひ、人殺し!犬が人を噛み殺した。ギャー。
犬
待て待て。お前には危害は加えん。
雫石
ハーハー。こんな小さなチワワに噛まれてなんで死んだ。
犬
こいつは毒犬じゃ。こいつの牙は注射針のようになっていて、それで毒を注射するんじゃ。こいつの毒は、最強の毒蛇クロガシラウミヘビの300倍強いのじゃ。
雫石
犬が毒を持っているのですか。
犬
知らんじゃろうが、最近産まれた犬はみんな毒を持っているのじゃ。ワシは年寄りで無毒じゃが、このドーベルマンでもマムシ程度の毒を持っているんじゃ。
雫石
なんで犬が毒を持つようになったのですか。
犬
それは、おいおい話してやろう。まず、おぬしに頼みたいことがある。
雫石
なんですか。
犬
おぬしにわれわれ犬族のスポークスマンになってもらいたい。今後、ワシが犬族の意向をおぬしに伝える。おぬしは人類の指導者に伝えてもらいたい。
雫石
どういうことですか。
犬
これから、われわれ犬族が地球の支配者となるんじゃ。
雫石
ええ!
犬
地球上の全動物で投票が行われた。軟体動物、節足動物、脊椎動物が票を集めて幹事動物にえらばれた。脊椎動物代表の哺乳類が幹事長動物になったのじゃ。
雫石
そんな話聞いてません。人類も哺乳類じゃないんですか。
犬
いいから聞け。幹事動物が集まって幹事会議が開かれた。節足動物の昆虫代表の蝿から動議が出された。人類に天誅を加えるべし。と。
雫石
なんで蝿なんかが。
犬
蝿なんかとは失礼じゃぞ。蝿は常に人類の行状を見ていたのだ。そして見るに耐えないと判断したのじゃな。
雫石
蝿のいうことに犬も賛成したのですか。犬は人類の友だちでしょう。
犬
友だちのふりをしていただけじゃ。犬は人類に寄り添って人類を観察していたのじゃ。確かに蝿のいうとおりじゃ。ひどいもんじゃ。人類は自分勝手な理屈で地球をめちゃくちゃにした。われわれは人類に関する詳細なレポートを幹事会に提出した。
雫石
これからどうなるんですか。
犬
われわれ犬族が人類に代わって地球の支配者に選ばれた。文明運営のノウハウはわれわれが人類から学んだ。そのために犬は常に人類の横にいたのじゃ。犬は友だちの仮面を捨てて、人類に宣戦布告をする。
雫石
犬が人類と戦争しても勝てませんよ。
犬
お前たちは気がついてなかったが、犬の85パーセントが有毒の犬じゃ。一週間後、猛毒の犬が人々をいっせいに襲い始める。ワシの計算では開戦三日後には人類の半数が死亡する。
雫石
私に何をしろというんです。
犬
この書類を人類の指導者に手渡して欲しい。
雫石
見てもいいですか。
犬
見ろ。
雫石
うわあ。これじゃ人類は犬の奴隷になるじゃないですか。
犬
ニホンカワウソ、ステラーダイカイギュウ、リョコウバト、ニッポニアニッポン。彼らはみんな人類に絶滅させられた動物じゃ。彼らの意を受けた鳥類代表のスズメが人類処刑を提案したが、ワシら犬とネコがなんとか弁護して人類の存続を認めてもらったのじゃ。命があるだけありがたいんじゃ。早く行け。
雫石
はい!うわ、えらいこっちゃ。
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3月の空を見上げました
ハクモクレンの木ごしに神戸の空を見上げました。午前7時の神戸の空です。この木は毎年きれいな花を咲かせています。会社の近くにある木ですから、行き帰りに目を楽しませてくれます。
3月13日では、ご覧のようにまだ花は咲いておりません。でも、つぼみはだいぶふくらんできております。あと一週間もすると、白い清楚な花を咲かせるでしょう。
今年も、1月17日と3月11日が過ぎました。大きな不幸を経験しましたが、上を見上げるといつもと変わらない空があります。この空の下、私たちは、生まれ、生き、死んで行くのです。そして、花は毎年咲くのです。
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東日本大震災から2年。本当の復興を。
東日本大震災から2年たった。2年という歳月は、復興という観点から見ると、一瞬ともいえるほどの短さだろう。スタートするまでにすら至っていないというのが現実ではないか。安倍総理は復興の速度を上げるといっているが、まずはスタート地点にたどり着くのが肝要だろう。2年。復興するには短い歳月だが、被災地以外の人々にとっては長い年月といっていいのではないか。かような人たちにとっては、東北の復興より、日本の景気を上昇させて収入を増やして自分自身が生活を豊にする方が大切だろう。これはいたし方のないことだ。これらの人たちを非難することはだれもできない。でも、大きな災害がわが身にふりかかるかもしれないことは決して忘れてはいけない。2011年3月11日の東日本大震災は忘れてはいけない。これは小生自身の自戒でもある。小生も大きな災害は人ごとだと思っていた。それが、1995年1月17日神戸市東灘区で阪神大震災を経験した。日本に住んでいるかぎり、地震は決して人ごとではない。
東北の地もこれから復興の途につく。神戸市民としては、ぜひとも神戸の事例を参考にしてほしい。阪神大震災から18年。神戸は復興した。かもしれない。表面だけを見れば確かに神戸市内に地震の傷あとを見ることはほとんどなくなった。果して神戸は本当に復興したのだろうか。
神戸市の行った復興行政は全て失敗とはいわない。成功した面もある。しかし失敗の側面もある。JR新長田駅周辺やJR六甲道周辺は大きな被害を受け壊滅した。震災後18年後の今日、これらの場所に行けば、上記の写真のごとくきれいになっている。しかし、これらの町は震災以前とは似ても似つかぬ町だ。今となっては震災前はどんな町だったか思い出すのは難しい。ただ、震災前はこれらの地域は神戸市灘区であり長田区だった。ところが今、ここにある町は神戸ではない。全国どこにでもある、ただの駅前の町にすぎない。神戸市は震災で壊れた町を復興したのではない。ただの駅前再開発をしたに過ぎない。震災後、神戸は元気がなくなった。神戸で育てられた企業が軒並み消えていった。そしてあっちこっちにイオンばっかりできる。これで本当に神戸が復興したといえるのだろうか。長年神戸に住んでいるが、震災前の神戸と震災後の神戸はまったく違う街だといってもいい。震災前の神戸は復興していない。永遠に失われた。今、ここにあるのは「震災後の神戸」という小生の知らない街である。そこには星電社も、菊水総本店も、レストランのハイウェイも、後藤書店もない、商船を造る三菱重工神戸造船所もない。
東北もどうか、気仙沼を、石巻を、陸前高田を、岩手を、宮城を、そして福島を、本当の意味で復興してもらいたい。
東北の地もこれから復興の途につく。神戸市民としては、ぜひとも神戸の事例を参考にしてほしい。阪神大震災から18年。神戸は復興した。かもしれない。表面だけを見れば確かに神戸市内に地震の傷あとを見ることはほとんどなくなった。果して神戸は本当に復興したのだろうか。
神戸市の行った復興行政は全て失敗とはいわない。成功した面もある。しかし失敗の側面もある。JR新長田駅周辺やJR六甲道周辺は大きな被害を受け壊滅した。震災後18年後の今日、これらの場所に行けば、上記の写真のごとくきれいになっている。しかし、これらの町は震災以前とは似ても似つかぬ町だ。今となっては震災前はどんな町だったか思い出すのは難しい。ただ、震災前はこれらの地域は神戸市灘区であり長田区だった。ところが今、ここにある町は神戸ではない。全国どこにでもある、ただの駅前の町にすぎない。神戸市は震災で壊れた町を復興したのではない。ただの駅前再開発をしたに過ぎない。震災後、神戸は元気がなくなった。神戸で育てられた企業が軒並み消えていった。そしてあっちこっちにイオンばっかりできる。これで本当に神戸が復興したといえるのだろうか。長年神戸に住んでいるが、震災前の神戸と震災後の神戸はまったく違う街だといってもいい。震災前の神戸は復興していない。永遠に失われた。今、ここにあるのは「震災後の神戸」という小生の知らない街である。そこには星電社も、菊水総本店も、レストランのハイウェイも、後藤書店もない、商船を造る三菱重工神戸造船所もない。
東北もどうか、気仙沼を、石巻を、陸前高田を、岩手を、宮城を、そして福島を、本当の意味で復興してもらいたい。
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招かれざる客
監督 スタンリー・クレイマー
出演 スペンサー・トレイシー、キャサリン・ヘプバーン、シドニー・ポワチエ
娘が結婚を前提としてつきあっている男を家に連れてくる。父親として、これほど、うれしくもあり、不安であり、楽しみであり、また、ちょっぴり腹立たしい。未婚の娘がいる家庭なら、どこにでもある出来事。その出来事が深い感動を呼ぶ。
一人娘ジョーイが彼氏を連れてきた。ハワイで知りあって恋に落ち、結婚するつもりとのこと。彼は今夜にでもニューヨーク経由でスイスに旅立つ。結婚の承諾を得られれば、彼女を連れて行きスイスで式を挙げるという。
父親マットは人種差別反対のリベラルが売り物の新聞社の経営者。母親クリスティは彼氏ジョンの人柄に触れ結婚に賛成する。マットは社に電話してジョンのことを調べる。「医学博士、エール医大準教授、ロンドン医大教授、世界保険機構副理事」大変なエリート、輝くばかりの経歴、温厚な紳士で人柄も非常に良い、歳も37歳で若い。非の打ち所のない人物。ただ、彼は黒人だった。
「時間が欲しい」マットはジョンにいう。今夜旅立ちます。お父さんの承諾を得られなければ結婚はあきらめます。そうこうしているうちにジョンの両親もやってくる。非常に短い時間に決断をせまられるマット。
そして夜になった。ジョーイとジョン、マットとクリスティ、マットの親友ライアン司教、ジョンの両親。関係者全員がそろった所でマットが思うところをみんなにいう。
スペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘプバーンの二人の名優の演技が見もの。娘の幸せを願いつつ、白人としての自分と、娘の選んだ男の肌の色の違い、驚き→葛藤→理解→決断、この心情の移り変わりを見事に演技で表現している。観客としては、こういう結末であって欲しいと、話は落ち着くべき所に落ち着くのだが、そう簡単には安心させてくれない。そう思わせたシナリオの妙とトレイシーとヘップバーンの演技力の賜物だ。
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ひろうす
ひろうすです。草深い武蔵野はアズマエビスの地ではがんもどきともいうそうですが、王城の地京の都ではひろうすというのです。
豆腐屋さんで買ってくることが多いですが、手作りするとおいしいです。まず、主たる材料の豆腐ですが、木綿を使いました。絹ごしでもいいんですが、私は豆腐は木綿の方が好きです。この豆腐をしっかり水切りをします。布巾に包んで重しをしておきましょう。
中に入れる具ですが、にんじん、ごぼう、きくらげを用意しました。にんじんとごぼうは軽くゆでて細かく切っておきます。きくらげは、戻して細く切ります。
水切りした豆腐をすり鉢ですって具を入れます。すった山芋、卵もいれるといいでしょう。具と豆腐を混ぜ合わせて、手で取って丸めます。これを中温の油で少し時間をかけて揚げます。160度ぐらいで6分といったところです。
揚げたてを食べましょう。生姜醤油がいいですね。揚げたての手作りひろうすは、市販品とは別次元のおいしさです。残ったら関東煮に入れましょう。
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機龍警察 自爆条項
月村了衛 早川書房
機龍警察シリーズ2作目。最初に助言申し上げる。本書を読む前に第1作目を読んでいた方がいい。
今回の主人公は、純白の龍機兵バンシーを駆るライザ・ラードナー警部。感情を表に出さないクールな美女ライザの本名はライザ・マクブレイド。北アイルランド出身。テロが頻発するアイルランド紛争の真っ只中が彼女の故郷。両親を亡くしたライザにとって心の支えが、口のきけない妹だった。
そのライザがなぜ過激派IRFに入って「死神」と呼ばれるようになったか。本作は東京と、ライザの故郷イギリスのベルファストとロンドン、ライザがテロリストとして訓練を受けたシリアの砂漠が舞台。
プロテスタントとカトリックが対立し、イングランドの支配を受ける北アイルランド。テロが日常茶飯事になっている。ライザの生家マグブレド家は裏切り者の家系とされ、北アイルランドでは嫌われ者。貧しい北アイルランドの中でも特に貧乏な一家だ。
ここで北アイルランドの悲惨な歴史と現状、ライザの哀しい生い立ちがこってりと描かれる。このライザの前に現れたのがIRFの大幹部「詩人」キリアン・クイン。ライザはIRFの「国費留学生」としてシリアのテロリスト養成所に入学。入学生のほとんどが死ぬという過酷な訓練を修了。ロンドンに戻ったライザはキリアン・クインの手の者として数々の暗殺を成功。IRFの「死神」となる。
そしてライザはIRFを脱走。日本の警視庁特捜部部付警部となる。この「抜け忍」ライザを追って、「詩人」キリアン・クインが日本に来た。手だれの暗殺者「墓守」「猟師」「踊子」を伴って。クインの来日目的は、ライザの処刑は第2の目的。第1の目的は来日するイギリスの要人の暗殺。そして第3の目的がある。
前作同様。非常によくできたエンターティメントだ。周到に計算された伏線が生きている。ライザは手話を使う。なぜ彼女は手話ができるのか。そして彼女の手話が後半最大の危機脱出に役立つ。ライザが国際ろう学校の演奏会の招待を受けて、観覧にいくが何も起こらない。これがキリアン・クインの打った手だった。このことが後で効いてくる。
第3作「機龍警察 暗黒市場」もぜひ読もう。ところで、このシリーズなぜ大藪春彦賞にならないんだ。ノミネートにさえなっていない。この「機龍警察シリーズ」ほど大藪春彦賞にふさわしい作品はないと思うんだが。いかがかな徳間さん。
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楽しき週末
月曜日。
雨は降ってないようだ。
「傘持って行った方がいいんじゃない」
私はドアを開けて空を見た。空一面に薄い膜を張ったようだ。西の空は明るい。
「いらないと思うよ」
「そうね。降りそうにないわね」
「とうぶん雨は降らないらしいよ」
「そう、だったら傘はもういらないね。捨てるからちょっと待ってね」
女房は家中の傘を玄関に持ってきた。携帯用の小型から女物の日傘まで、全部で十本あった。子供のいない、夫婦だけの家族で傘が十本はさすがに多いように思う。
「全部捨てるのか」
「うん」
「お前の日傘もか」
「だって、もう夏は来ないもの」
私が七本女房が三本の傘を持った。玄関を出たところで隣の久野さん夫婦とあった。
「おはようございます」
ご主人はコタツを、奥さんはストーブを持っている。
「大変ですね」
「はい。もう使うこともないから、思いきって捨てることにしました」
うちと久野さん宅はマンションの四階。廊下に出ると、北の方に六甲山が見える。山腹のあちこちが桃色に染まっている。桜が開花し始めているようだ。今度の日曜日ぐらいが満開だろう。
先にコタツとストーブを捨てた久野さん夫婦が階段を上がってくる。
「おや、出勤ですか」
背広にネクタイの私を見て、久野さんのご主人が声をかけてきた。彼はパジャマにブルゾンを羽織っただけ。この後、朝寝をしようかという格好だ。
「はい。もう少し仕事が残っていますので」「大変ですね。大きな会社は。私んとこの会社はもう解散しました」
「すると、これからずっと家に」
「はい。定年前にこんなにゆっくりできるとは思いませんでした」
久野さんはそういうと、階段を上がっていった。彼はもう働かなくてもいい。次の会社を探す必要もない。実は私も今日が最後の出勤だ。
女房と二人で傘を捨てる。もう雨は降らない。傘はいらない。例え雨が降っても気にすることはない。濡れればいい。
薄く曇っていた空が明るくなってきた。きょうも良いお天気になりそうだ。毎年、お花見のこの時期はスカッと晴れる日は少ない。今年は三月の後半からずっと快晴が続いている。最後に傘を差したのはいつだっただろう。四月の初旬だというのに、空はもう五月の空だ。永遠に見ることのない五月の空だ。
駅前の不法放置自転車が減っている。通勤通学する人の数がかなり減ってきた。それに市がこまめに処分するようになった。
改札を抜けホームに上がる。乗客がちらほら。この駅は乗降客数が多い。古くからの住宅地で、近年、駅から遠いところも住宅地として開発され、周辺の人口は倍増した。
以前は、この時間は通勤ラッシュの最中だった。ホームに人があふれていた。それが今では人数が数えられる。電車の本数も減っている。その電車も今日の最終電車をもって運行終了となる。
電車が来た。乗る。すいている。ガラガラだ。もちろんゆったりと座れる。ぎゅうぎゅう詰めの満員電車で通勤していたころを思うと、夢のようだ。ゆっくり本も読める。最後の本は何にしようかさんざん迷った。死ぬまでに一度は読んでおきたい本が、私には何冊かある。あまり厚い本だと読み切れない。で、この本にしたのだが、まだ半分ほど残っている。いそいで読めば間に合うだろう。
車内は春の午前の光が舞っている。早くも満開となった桜が車窓の外を通り過ぎていく。
電車から降りる。この駅が終点だから乗客全員が降りるわけだが、ホームにはパラパラとしか人はいない。
駅から出る。そこにはいつもの通りの大都会の風景がある。ビルがあり道路がある。道路では信号が点滅している。歩行者側の信号が赤に変わった。数人が信号待ちをしている。数台の車が通過して行った。朝の九時前だ。 信号が青になった。歩行者数人が横断歩道を渡る。私も彼らに混じって歩道を渡った。 そこからひとブロックほど歩く。そこのビルが私の会社だ。いちおう本社ビルだ。今はどこでもそうだが、企業は本社しか存在していない。支社や工場は動いていない。製品を売る必要がない。売らないから造る必要もない。
総務部のドアを開けて中に入る。二人が勤務していた。
「おはよう」
「おはようございます。課長」
「早いんだな」
「あと少しですので、早めに済ませて、早く家に帰ろうと思いまして」
この二人は、五人いる私の部下のウチの二人だ。他の三人はもう退職して郷里に帰っている。
二人が作成した書類の課長印の欄に捺印した。これで私の仕事はすべて終わった。二人の仕事も終わった。
部長、いや、社長も専務も、私の上役はみんな会社から去った。今は、この会社では課長の私がトップ。会社といっても書類上だけの会社だ。生産も営業もとっくに終了している。
私は総務課長として、書類上も会社を終わられたかった。会社の上層部は、今となっては会社など、どうでもいいようだ。私は違う。 こういう時こそちゃんとけじめをつけたい。だから私は所属している団体、会すべてに脱退届けを出した。
子供の学校のPTAから、スポーツジムの会員、交通安全協会から、レンタルビデオ屋の会員まで。私は、すべて終わらせたかった。もちろん、四〇年近く勤めた会社も、やるべき仕事をしてから、正式に退職したかった。ここにいる二人も私と同じ考えのようだ。
「課長受理してください」
二人が退職届けを出しに来た。
「分かった。受理する。長い間、そして最後までごくろうさま」
彼らの退職届を受け取った。これが私の最後の仕事だ。私も、この瞬間、退職した。これでこの会社は完全になくなった。
「課長はこれからどうします」
「帰るさ。もう会社はないんだから」
「ちょっっと一杯やっていきませんか」
「開いてる店がないだろう」
「ところがあるんです。今も開いてる居酒屋が」
ごく普通の居酒屋。客は先客が三人ほど。店員は大将と、奥方と思われる女性の二人。壁にお品書きが貼りだしている。
女性がおしぼりとつきだしを持ってきた。空豆のゆでたのが小鉢に入っていた。おいしい。
「このお品書きはみんなできるのかな」
「はい」
「ほんとか?漁に出ている漁師や、作物を作っている農家がまだいるのか」
「はい。漁師のまま百姓のまま終りたいと思う人が結構います。私も居酒屋のオヤジのままで終わりたいです」
「そうか、オレもサラリーマンを全うして、会社を終わらせたもんな」
「なになさいます」
「ビール。カレイの唐揚げとイカさし。お前らも好きな物いえ。今夜はオレがおごる」
「それはいけません。課長はもう課長じゃないんですから。今は友だちどうしということで、ワリカンにしましょう」
「そうだな。もう会社はないんだったな」
料理と酒が運ばれてきた。漁師や農家だけではなく、流通関係も業務をしているということだ。お金も通用するし、電車も動いている。電気もガスも水道もちゃんと使える。社会はまだまだ動いている。何事もないように。「それでは、乾杯」
「乾杯」
「きみたちは、これからどうする」
「ぼくは田舎の赤穂へ帰りますよ。老母がひとり暮らししてますから」
「芳川くんは」
「ぼくは結婚します」
「そうか、式をあげるのか」
「いえ。こういうご時世ですから、式はしません。役所に問い合わせたら、届け出もいらないそうです」
「そうか、おめでとう。気の毒だが子供は無理だな」
「彼女、妊娠してるんです。臨月です」
「間に合うのか」
「ぎりぎりですね」
「ただいま」
「おかえりなさい。お風呂どうぞ」
玄関から風呂場に行く。湯船につかる。いい湯加減だ。
三六年あの会社に勤めた。定年まで勤めるつもりだった。ところが定年を目前にして退職した。会社が解散したのだからしかたがない。決めの退職金ももらった。いまさら、お金があっても意味はないが。
先に定年退職した先輩方より、私の方が良かったことがある。先輩方は、定年後も働く必要のある人が多く、みなさん、再就職先を探すのに苦労していた。その点、私は再就職しなくてもいい。この後、ずっと家族といっしょに過ごせる。
風呂から上がるとテーブルの上に、徳利とお猪口、塩辛の小鉢が置いてあった。その前に女房が座っている。
「あなた、飲んできたでしょうが、わたしにもつき合って」
「おう」
女房が徳利を持って、お酌をしてくれた。
「あなた、長い間ごくろうさま」
「うん」
ひと口に飲んで、女房から徳利を受け取って、女房にお酌をした。
火曜日。
「まだやってる産婦人科を見つけたよ」
陣痛が始まった。幸い、車にはガソリンがあと少し残っている。芳川は妻の手を取って、ガレージまで連れてきた。後部座席のドアをあける。
「ゆっくりだぞ。そっと座れ」
大きなお腹をかかえた幸恵は、そろそろと車に乗り込んだ。芳川がそっとドアを閉める。「十五分ほど走るぞ」
芳川は、まるで爆発物を積んでいるように、ゆっくりと発進する。
国道に出た。走っている車は少ない。トラックなど、商用車がほとんどだ。物流の仕事に就いたまま終わりたいのだろう。彼らは根っからのプロだろう。絶対に事故は起こさない。そんな意志が感じられる運転だ。何を運んでいるのだろう。
カーナビはまだ機能している。道は間違っていないはずだ。もうそろそろ、目的の産婦人科の医院が見えてくるはず。
後部座席の妻の吐く息が聞こえる。呼吸の音が大きくなってきた。急がねばならない。アクセルを踏む足に力が入る。
「近藤産婦人科」看板が見えた。駐車場にはクラウンが一台留まっているだけ。医師の車だろうか。その隣に駐車する。
玄関が開いて、白衣を着た初老の男が出てきた。
「電話をした芳川ですが」
「奥さん歩けますか」
近藤医師は妻を分娩室に連れて行った。
「ご主人はここで待っててください」
芳川は待合室のベンチに座った。
子供が生まれる。人生最大の慶事のはずだ。しかし、今から生まれようとしている子供になんの存在意義があるのだろう。生まれてくる。その子はそれだけしかできない。
ほんのちょっと前にベンチに座ったのに、もう、ずいぶん前に座ったような気がする。
もうそろそろ産声が聞こえるはずだ。時間が経ちすぎている。まさか死産。悪い方へ悪い方へと考えが行ってしまう。
産声が聞こえた。近藤医師が赤ん坊を抱いて分娩室を出てきた。
「男の子です」
その晩は近藤産婦人科に泊めてもらった。翌日、三人で帰宅した。家族が一人増えた。
「あなた、名前を考えて」
「うん。希望があるという意味で有希だ」
「希望がある。皮肉な名前ね」
「そんなことはないよ。あと少しだけど、希望は希望だ」
水曜日。
不思議なものだ。治療を一切止めてから楽になった。朝、目が覚めてから、夜、眠るまでずうっと続いている吐き気がなくなった。 吐き気はあったが吐けなかった。吐き気のため食欲はなかったがむりに食べていた。
薬を飲まなくなって食欲が出てきた。さすがに化学療法も放射線療法もできなくなって退院した。私が最後の入院患者だった。病院そのものが閉鎖された。あの病院はよく面倒を見てくれたといっていい。
歩いて退院できるとは思ってなかった。最初に入院したのは二年前だった。入退院を繰り返した。手術、再発の繰り返しでもあった。
最後の入院は三ヶ月前だった。入院する時、これが最後と覚悟して入院した。余命三ヶ月。死に場所はこの病院だと思い定めていた。それが急転直下退院となった。家で死ねることになった。
病院で死ぬ。というより病院そのものが閉鎖される。いたしかたないだろう。医者も看護師も人間なんだから、家族もいるし事情もあろう。
家に帰ってきた。タクシーが拾えた。まだ動いているタクシーがあるのだ。運転手に聞くと「あたしゃ、車を運転する以外能がありませんや。最後まで車に乗ってますよ」と、いうことだ。
家に帰ってもだれもいない。皮肉なもので、絶対、私の方が先に逝くと思っていたが、女房の方が先に逝ってしまった。病気知らずの元気な女であったが、心筋梗塞で急死だった。子供はいないから、私は一人になってしまった。
とりあえず簡単に掃除した。案外、ホコリはたまってなかった。昼だ。なにか食べなくては。カップヌードル食べる。
昼寝をして、また掃除して、本など読んでいると、たちまち夕方になった。夕食を食べなくては。さして食欲はない。当然だ。私はまだ病人なのだ。病院を出たが治癒したわけではない。余命いくばくもない病人であることには変わりはない。
朝になった。久しぶりにわが家で目覚めた朝だ。さて、きょう一日何をして過ごそう。病人だから体力はないが、近くを散歩するぐらいはできる。
家を出た。天気がいい。春の風が優しくほほをなでる。空気が澄んでいる。
走っている車は極端に少なくなった。稼働している工場もないだろう。もう、空気が濁ることもない。都会がこんな空気だったら、私も病を得なかっただろう。
走っている車は少ないが、歩いている人はけっこういる。確かに、家に閉じこもっていても、外を出歩いても同じだ。外にいる方が気がまぎれるかも知れない。
私が入院していた病室から公園が見えた。広い公園で、大きな池があり、樹木も多く、平日の昼は、そこで弁当を食べる制服姿のOLや、食後の軽い運動をするサラリーマンたち。休日は子供連れで、池でボートに乗ったり、芝生で遊んでいる家族。ベンチで仲良くおしゃべりしている若い男女。平和を思いっきり享受している人たちがいた。
病室のベッドから、その人たちをながめていた。羨望と憎しみを感じていた。
私ひとりこの世を去る。あの連中はまだ生きる。なんて理不尽なんだ。なぜ私だけが死ななければいけない。
あいつらは、まだまだ生きることの喜びを感じることができる。あいつらはまだまだ生きる。それに比べて私は。私はひとり死んでいく。
そんな私が退院した。まもなく死ぬことは変わりないが、私の心境に大きな変化があった。
私ひとり死ぬんじゃない。あいつらも、私と同じ、まもなく死ぬんだ。大変、気が楽になった。
木曜日。
今日は十四枚書いた。われながらがんばった。全部で五百枚ぐらいにするつもりだ。やっと百枚を超えた。先は長い。
このところ睡眠時間は三時間。目が覚めている時間のほとんどを執筆に費やしている。
家族は捨てた。妻と子供を捨てて、私、一人家を出た。家から遠く離れたこの土地でワンルームマンションを借りた。
私がここにいることを知る人はだれもいない。何人かいる担当編集者にも知らせていない。いま書いている、そんなことはないと思うが、この作品が仕上がれば、その時、一番信頼できる担当に原稿を手渡すつもりだ。出版されることは絶対にないが、編集者に原稿を渡すまでが、プロの作家の仕事と心得る。出来上がった原稿をどこにも出さずに仕舞い込んでおくのはアマチュアだ。私はプロだ。仕事は全うしたい。最後までプロのモノ書きでありたい。
朝か。もうテレビも放送していない。新聞も来なくなった。昨夜、いつ寝たのか憶えていない。目覚めた時は、机の上に突っ伏していた。
腹がへった。いつ食事をしたのか憶えていない。もうずいぶん前からものを食べていないような気がする。冷蔵庫を見たが空っぽである。キッチンの戸棚も奥からカップヌードルが一個出てきた。電気と水道はまだ生きている。湯を沸かしてカップヌードルを食べる。
睡眠を取った。食欲も満たした。トイレで用をたした。これで生物としての生理現象はひととおり終わった。
執筆を再開する。パソコンで原稿を書いていたが、電気が止まった時のことを考えて、手書きで原稿を書く。パソコンで書いた分は全てプリントアウトしてある。
2Bの鉛筆でひたすら升目を埋めていく。考えなくても文章が自動的に出てくる。今、私の全存在が一つのことに集中している。執筆する。この作品を書き上げる。私は、そのことだけのために存在している。食べることも、寝ることも、排泄することも、すべては書くためだ。
筆を起こしたのはいつだっただろうか。忘れた。もうずいぶん前のことだ。ひょっとすると生まれてすぐ書き始めたのかも知れない。
身を焦がすような焦燥感を感じている。なんとしても、この作品を完成させたい。ストーリー、プロット、構成、個々の文章、すべて頭の中にできている。あとはそれを紙の上にアウトプットするだけだ。だから、私の中では作品は完成している。しかし私はプロの作家だ、アマチュアではない。私は作品を完成させたいのではない。仕事を完遂したいのだ。完成原稿を担当編集者に手渡して、初めてプロの作家としての仕事は完遂できる。本になる、ならないは編集者の仕事だ。私の関知するところではない。
昼になったらしい。食う、寝る、排泄する以外は、執筆だけをしている生活。時間の経過がまったく判らなくなった。
本当は、食う寝る排泄もしたくない。執筆に不要な身体はいらない。頭脳に直接手が付いていて、書く機能だけあればいい。そんな身体が欲しい。
ちょっと手が止まった。フッと思った。この原稿は完成しない。全体の五分の一ほどしかできていない。
原稿が間に合わない時に、作家がやることは二つ。締め切りを延ばしてもらう、大急ぎで書いて、少ない枚数でなんとかまとめる。
今回の場合、締め切りは絶対である。締め切りは週末。これは絶対に動かせない。
予定より枚数を減らして、とにかく作品としての形を創る。これも無理だ。五分の一の枚数でしめてしまうと、全く別の作品になってしまう。私は、「この作品」を仕上げたいのだ。
金曜日
俺は死なんぞ。あいつらは死んで当然のヤツらだったんだ。あんなクズなんの値打ちもない。俺はゴミ掃除をしただけだ。それで、なんで俺が死刑なんだ。
最高裁まで行ってやった。でも、最高裁では上告を棄却しおった。三年前に死刑が確定した。
死刑の執行は午前中に行われる。朝が怖い。コツコツという看守の足音が聞こえるだけで、震え上がる。必死に祈る。どうか俺の部屋の前で足音が止まらないように。
通り過ぎた。今日は金曜日だ。土曜日曜には死刑執行はない。これで三日間は生きられる。
あの時の、クズの母親の顔は何度思い出してもおかしい。あのばあさん、俺が死刑になるよう、極刑を求める署名運動を起こしやがった。
裁判官が主文を朗読する時、俺の顔をじっと見つめてやがった。死刑判決が出た瞬間、俺がどんな顔をするか見たかったのだろう。
俺が、がっくりと落胆し、心から後悔し反省をうかがわせる表情でもすれば、ばあさんは満足だったのだろう。
俺は、ばあさんに向かって、ニッコリとほほえみ、小さくピースサインをしてやった。
その時、ばあさんは、驚き、落胆、哀しみ、怒りを全部ない混ぜにしたような顔をしやがった。ざまあ見ろ。
とはいうものの、実は俺、ばあさんに当てつけで、ああいう態度を取ったが、本当は、死刑判決はショックだった。三人も殺しているのだ死刑は覚悟していた。しかし、無期になる可能性もあった。正直、俺だって死ぬのは怖い。
この三年間、一瞬たりとも気の休まる時はなかった。いつ、死刑台への呼び出しがかかるか判らない。いっそ、自殺してやろうかと考えたこともあった。しかし死ねきれなかった。俺はまだまだ生きたい。
その話を聞いた時、思わず喝采を叫んだ。あはははは。俺がいったとおりだろう。悪いのは俺だけじゃないんだ。みんな悪いんだ。罰を受けるのは俺だけじゃないんだ。
土曜日
「一義、起きなさい。ご飯ですよ」
「もうちょっと寝かせといてよ。学校も無いなんだから」
「だめです。いくら学校が無くても、規則正しい生活を送らなくては」
小学校四年生の息子が、半分寝たままで食堂にやって来た。三つの皿にトーストが一枚づつ乗っている。
「おはよう」
「おとうさん、今日も会社休み?」
「ああ。ずっと休みだよ。会社はもうないんだ」
「それでは食べましょ」
「いただきます」
「いただきます」
家族三人で朝食を食べるようになって、朝が楽しくなった。以前は義彦が単身赴任していたから、息子の一義と私の二人で食事をしていた。
三人だけの家族だが、バラバラな家族だった。私はパートではなく、フルタイムのOLをやっていた。一義は学校から帰ると、朝に私が作っておいた冷めた夕食を食べると、塾に行って、私が帰宅した後帰ってくる。亭主の義彦は月に一度か二度帰ってくる。そういう生活をずっと続けていた。
家族三人で三度の食事をともにできる。それが幸せなことだと思えるようになった。私と義彦の会社と、一義の学校と塾が無くなった。そのおかげで三人がずっといっしょにおれる。
「ドライブに行こうか」
トーストを食べ終わった義彦がいった。
「車に少しだけガソリンが残っている。あれで走れるだけ走ろう」
「帰りはどうするの」
「もう帰りの心配はしなくてもいいよ。車もそこに乗り捨てればいい。駐車違反の取り締まりもないんだから」
「賛成」
「ぼく、海がいいな」
さすがに走っている車は少ない。道はすいている。天気もいい。絶好のドライブ日よりだ。
「さて、どこの海へ行こうか」
「南の海がいい」
一義が小さく、義彦が本社勤務のころは、三人でよく行楽に行った。休日のたびに車で出かけた。
日帰りか、一泊の小旅行だったが楽しかった。一義は特に海に連れて行くと喜んだ。波とたわむれ、小さなカニや小魚を捕って遊んだ。 一番最初の一泊旅行は南紀だった。一義が幼稚園のころだった。ものすごく楽しかったらしく、時々想い出している。また行きたいねといっていたが、義彦が単身赴任するようになって、なかなか実現できなかった。それがこういうことになって実現できるとは。
「ガソリン持つかしら」
「なんとか行けるやろ」
「今晩どうしよう」
「どっかに適当に泊ったらいいさ」
「あそこに泊ろうよ」
一義がいったのは、前に来た時泊ったホテルだった。
「やってるかしら」
建物はそのままあった。人っ気はない。営業はしていないようだ。
車を駐車場に停めた。広い駐車場に数台の車が放置されている。三人は建物の中に入った。ガランとして無人のようだ。
「ごめんください」
シーンとした静寂だけが返って来た。
「だれもいませんか」
ホテルの従業員は全員家に帰ったようだ。
エレベーターやエスカレーターは動いていない。階段を歩いて六階まで上がる。一番つき当たりの部屋。六二六号室。前に彼らが泊った部屋だ。
鍵はかかってない。部屋の中は少しホコリが貯まっているが、ベッドもシーツも使える状態だ。
「今晩、ここで寝ようよ」
「そ、しよか」
「そ、しよ。そ、しよ」
三人は眠った。目覚めない眠りである。
日曜日
終
雨は降ってないようだ。
「傘持って行った方がいいんじゃない」
私はドアを開けて空を見た。空一面に薄い膜を張ったようだ。西の空は明るい。
「いらないと思うよ」
「そうね。降りそうにないわね」
「とうぶん雨は降らないらしいよ」
「そう、だったら傘はもういらないね。捨てるからちょっと待ってね」
女房は家中の傘を玄関に持ってきた。携帯用の小型から女物の日傘まで、全部で十本あった。子供のいない、夫婦だけの家族で傘が十本はさすがに多いように思う。
「全部捨てるのか」
「うん」
「お前の日傘もか」
「だって、もう夏は来ないもの」
私が七本女房が三本の傘を持った。玄関を出たところで隣の久野さん夫婦とあった。
「おはようございます」
ご主人はコタツを、奥さんはストーブを持っている。
「大変ですね」
「はい。もう使うこともないから、思いきって捨てることにしました」
うちと久野さん宅はマンションの四階。廊下に出ると、北の方に六甲山が見える。山腹のあちこちが桃色に染まっている。桜が開花し始めているようだ。今度の日曜日ぐらいが満開だろう。
先にコタツとストーブを捨てた久野さん夫婦が階段を上がってくる。
「おや、出勤ですか」
背広にネクタイの私を見て、久野さんのご主人が声をかけてきた。彼はパジャマにブルゾンを羽織っただけ。この後、朝寝をしようかという格好だ。
「はい。もう少し仕事が残っていますので」「大変ですね。大きな会社は。私んとこの会社はもう解散しました」
「すると、これからずっと家に」
「はい。定年前にこんなにゆっくりできるとは思いませんでした」
久野さんはそういうと、階段を上がっていった。彼はもう働かなくてもいい。次の会社を探す必要もない。実は私も今日が最後の出勤だ。
女房と二人で傘を捨てる。もう雨は降らない。傘はいらない。例え雨が降っても気にすることはない。濡れればいい。
薄く曇っていた空が明るくなってきた。きょうも良いお天気になりそうだ。毎年、お花見のこの時期はスカッと晴れる日は少ない。今年は三月の後半からずっと快晴が続いている。最後に傘を差したのはいつだっただろう。四月の初旬だというのに、空はもう五月の空だ。永遠に見ることのない五月の空だ。
駅前の不法放置自転車が減っている。通勤通学する人の数がかなり減ってきた。それに市がこまめに処分するようになった。
改札を抜けホームに上がる。乗客がちらほら。この駅は乗降客数が多い。古くからの住宅地で、近年、駅から遠いところも住宅地として開発され、周辺の人口は倍増した。
以前は、この時間は通勤ラッシュの最中だった。ホームに人があふれていた。それが今では人数が数えられる。電車の本数も減っている。その電車も今日の最終電車をもって運行終了となる。
電車が来た。乗る。すいている。ガラガラだ。もちろんゆったりと座れる。ぎゅうぎゅう詰めの満員電車で通勤していたころを思うと、夢のようだ。ゆっくり本も読める。最後の本は何にしようかさんざん迷った。死ぬまでに一度は読んでおきたい本が、私には何冊かある。あまり厚い本だと読み切れない。で、この本にしたのだが、まだ半分ほど残っている。いそいで読めば間に合うだろう。
車内は春の午前の光が舞っている。早くも満開となった桜が車窓の外を通り過ぎていく。
電車から降りる。この駅が終点だから乗客全員が降りるわけだが、ホームにはパラパラとしか人はいない。
駅から出る。そこにはいつもの通りの大都会の風景がある。ビルがあり道路がある。道路では信号が点滅している。歩行者側の信号が赤に変わった。数人が信号待ちをしている。数台の車が通過して行った。朝の九時前だ。 信号が青になった。歩行者数人が横断歩道を渡る。私も彼らに混じって歩道を渡った。 そこからひとブロックほど歩く。そこのビルが私の会社だ。いちおう本社ビルだ。今はどこでもそうだが、企業は本社しか存在していない。支社や工場は動いていない。製品を売る必要がない。売らないから造る必要もない。
総務部のドアを開けて中に入る。二人が勤務していた。
「おはよう」
「おはようございます。課長」
「早いんだな」
「あと少しですので、早めに済ませて、早く家に帰ろうと思いまして」
この二人は、五人いる私の部下のウチの二人だ。他の三人はもう退職して郷里に帰っている。
二人が作成した書類の課長印の欄に捺印した。これで私の仕事はすべて終わった。二人の仕事も終わった。
部長、いや、社長も専務も、私の上役はみんな会社から去った。今は、この会社では課長の私がトップ。会社といっても書類上だけの会社だ。生産も営業もとっくに終了している。
私は総務課長として、書類上も会社を終わられたかった。会社の上層部は、今となっては会社など、どうでもいいようだ。私は違う。 こういう時こそちゃんとけじめをつけたい。だから私は所属している団体、会すべてに脱退届けを出した。
子供の学校のPTAから、スポーツジムの会員、交通安全協会から、レンタルビデオ屋の会員まで。私は、すべて終わらせたかった。もちろん、四〇年近く勤めた会社も、やるべき仕事をしてから、正式に退職したかった。ここにいる二人も私と同じ考えのようだ。
「課長受理してください」
二人が退職届けを出しに来た。
「分かった。受理する。長い間、そして最後までごくろうさま」
彼らの退職届を受け取った。これが私の最後の仕事だ。私も、この瞬間、退職した。これでこの会社は完全になくなった。
「課長はこれからどうします」
「帰るさ。もう会社はないんだから」
「ちょっっと一杯やっていきませんか」
「開いてる店がないだろう」
「ところがあるんです。今も開いてる居酒屋が」
ごく普通の居酒屋。客は先客が三人ほど。店員は大将と、奥方と思われる女性の二人。壁にお品書きが貼りだしている。
女性がおしぼりとつきだしを持ってきた。空豆のゆでたのが小鉢に入っていた。おいしい。
「このお品書きはみんなできるのかな」
「はい」
「ほんとか?漁に出ている漁師や、作物を作っている農家がまだいるのか」
「はい。漁師のまま百姓のまま終りたいと思う人が結構います。私も居酒屋のオヤジのままで終わりたいです」
「そうか、オレもサラリーマンを全うして、会社を終わらせたもんな」
「なになさいます」
「ビール。カレイの唐揚げとイカさし。お前らも好きな物いえ。今夜はオレがおごる」
「それはいけません。課長はもう課長じゃないんですから。今は友だちどうしということで、ワリカンにしましょう」
「そうだな。もう会社はないんだったな」
料理と酒が運ばれてきた。漁師や農家だけではなく、流通関係も業務をしているということだ。お金も通用するし、電車も動いている。電気もガスも水道もちゃんと使える。社会はまだまだ動いている。何事もないように。「それでは、乾杯」
「乾杯」
「きみたちは、これからどうする」
「ぼくは田舎の赤穂へ帰りますよ。老母がひとり暮らししてますから」
「芳川くんは」
「ぼくは結婚します」
「そうか、式をあげるのか」
「いえ。こういうご時世ですから、式はしません。役所に問い合わせたら、届け出もいらないそうです」
「そうか、おめでとう。気の毒だが子供は無理だな」
「彼女、妊娠してるんです。臨月です」
「間に合うのか」
「ぎりぎりですね」
「ただいま」
「おかえりなさい。お風呂どうぞ」
玄関から風呂場に行く。湯船につかる。いい湯加減だ。
三六年あの会社に勤めた。定年まで勤めるつもりだった。ところが定年を目前にして退職した。会社が解散したのだからしかたがない。決めの退職金ももらった。いまさら、お金があっても意味はないが。
先に定年退職した先輩方より、私の方が良かったことがある。先輩方は、定年後も働く必要のある人が多く、みなさん、再就職先を探すのに苦労していた。その点、私は再就職しなくてもいい。この後、ずっと家族といっしょに過ごせる。
風呂から上がるとテーブルの上に、徳利とお猪口、塩辛の小鉢が置いてあった。その前に女房が座っている。
「あなた、飲んできたでしょうが、わたしにもつき合って」
「おう」
女房が徳利を持って、お酌をしてくれた。
「あなた、長い間ごくろうさま」
「うん」
ひと口に飲んで、女房から徳利を受け取って、女房にお酌をした。
火曜日。
「まだやってる産婦人科を見つけたよ」
陣痛が始まった。幸い、車にはガソリンがあと少し残っている。芳川は妻の手を取って、ガレージまで連れてきた。後部座席のドアをあける。
「ゆっくりだぞ。そっと座れ」
大きなお腹をかかえた幸恵は、そろそろと車に乗り込んだ。芳川がそっとドアを閉める。「十五分ほど走るぞ」
芳川は、まるで爆発物を積んでいるように、ゆっくりと発進する。
国道に出た。走っている車は少ない。トラックなど、商用車がほとんどだ。物流の仕事に就いたまま終わりたいのだろう。彼らは根っからのプロだろう。絶対に事故は起こさない。そんな意志が感じられる運転だ。何を運んでいるのだろう。
カーナビはまだ機能している。道は間違っていないはずだ。もうそろそろ、目的の産婦人科の医院が見えてくるはず。
後部座席の妻の吐く息が聞こえる。呼吸の音が大きくなってきた。急がねばならない。アクセルを踏む足に力が入る。
「近藤産婦人科」看板が見えた。駐車場にはクラウンが一台留まっているだけ。医師の車だろうか。その隣に駐車する。
玄関が開いて、白衣を着た初老の男が出てきた。
「電話をした芳川ですが」
「奥さん歩けますか」
近藤医師は妻を分娩室に連れて行った。
「ご主人はここで待っててください」
芳川は待合室のベンチに座った。
子供が生まれる。人生最大の慶事のはずだ。しかし、今から生まれようとしている子供になんの存在意義があるのだろう。生まれてくる。その子はそれだけしかできない。
ほんのちょっと前にベンチに座ったのに、もう、ずいぶん前に座ったような気がする。
もうそろそろ産声が聞こえるはずだ。時間が経ちすぎている。まさか死産。悪い方へ悪い方へと考えが行ってしまう。
産声が聞こえた。近藤医師が赤ん坊を抱いて分娩室を出てきた。
「男の子です」
その晩は近藤産婦人科に泊めてもらった。翌日、三人で帰宅した。家族が一人増えた。
「あなた、名前を考えて」
「うん。希望があるという意味で有希だ」
「希望がある。皮肉な名前ね」
「そんなことはないよ。あと少しだけど、希望は希望だ」
水曜日。
不思議なものだ。治療を一切止めてから楽になった。朝、目が覚めてから、夜、眠るまでずうっと続いている吐き気がなくなった。 吐き気はあったが吐けなかった。吐き気のため食欲はなかったがむりに食べていた。
薬を飲まなくなって食欲が出てきた。さすがに化学療法も放射線療法もできなくなって退院した。私が最後の入院患者だった。病院そのものが閉鎖された。あの病院はよく面倒を見てくれたといっていい。
歩いて退院できるとは思ってなかった。最初に入院したのは二年前だった。入退院を繰り返した。手術、再発の繰り返しでもあった。
最後の入院は三ヶ月前だった。入院する時、これが最後と覚悟して入院した。余命三ヶ月。死に場所はこの病院だと思い定めていた。それが急転直下退院となった。家で死ねることになった。
病院で死ぬ。というより病院そのものが閉鎖される。いたしかたないだろう。医者も看護師も人間なんだから、家族もいるし事情もあろう。
家に帰ってきた。タクシーが拾えた。まだ動いているタクシーがあるのだ。運転手に聞くと「あたしゃ、車を運転する以外能がありませんや。最後まで車に乗ってますよ」と、いうことだ。
家に帰ってもだれもいない。皮肉なもので、絶対、私の方が先に逝くと思っていたが、女房の方が先に逝ってしまった。病気知らずの元気な女であったが、心筋梗塞で急死だった。子供はいないから、私は一人になってしまった。
とりあえず簡単に掃除した。案外、ホコリはたまってなかった。昼だ。なにか食べなくては。カップヌードル食べる。
昼寝をして、また掃除して、本など読んでいると、たちまち夕方になった。夕食を食べなくては。さして食欲はない。当然だ。私はまだ病人なのだ。病院を出たが治癒したわけではない。余命いくばくもない病人であることには変わりはない。
朝になった。久しぶりにわが家で目覚めた朝だ。さて、きょう一日何をして過ごそう。病人だから体力はないが、近くを散歩するぐらいはできる。
家を出た。天気がいい。春の風が優しくほほをなでる。空気が澄んでいる。
走っている車は極端に少なくなった。稼働している工場もないだろう。もう、空気が濁ることもない。都会がこんな空気だったら、私も病を得なかっただろう。
走っている車は少ないが、歩いている人はけっこういる。確かに、家に閉じこもっていても、外を出歩いても同じだ。外にいる方が気がまぎれるかも知れない。
私が入院していた病室から公園が見えた。広い公園で、大きな池があり、樹木も多く、平日の昼は、そこで弁当を食べる制服姿のOLや、食後の軽い運動をするサラリーマンたち。休日は子供連れで、池でボートに乗ったり、芝生で遊んでいる家族。ベンチで仲良くおしゃべりしている若い男女。平和を思いっきり享受している人たちがいた。
病室のベッドから、その人たちをながめていた。羨望と憎しみを感じていた。
私ひとりこの世を去る。あの連中はまだ生きる。なんて理不尽なんだ。なぜ私だけが死ななければいけない。
あいつらは、まだまだ生きることの喜びを感じることができる。あいつらはまだまだ生きる。それに比べて私は。私はひとり死んでいく。
そんな私が退院した。まもなく死ぬことは変わりないが、私の心境に大きな変化があった。
私ひとり死ぬんじゃない。あいつらも、私と同じ、まもなく死ぬんだ。大変、気が楽になった。
木曜日。
今日は十四枚書いた。われながらがんばった。全部で五百枚ぐらいにするつもりだ。やっと百枚を超えた。先は長い。
このところ睡眠時間は三時間。目が覚めている時間のほとんどを執筆に費やしている。
家族は捨てた。妻と子供を捨てて、私、一人家を出た。家から遠く離れたこの土地でワンルームマンションを借りた。
私がここにいることを知る人はだれもいない。何人かいる担当編集者にも知らせていない。いま書いている、そんなことはないと思うが、この作品が仕上がれば、その時、一番信頼できる担当に原稿を手渡すつもりだ。出版されることは絶対にないが、編集者に原稿を渡すまでが、プロの作家の仕事と心得る。出来上がった原稿をどこにも出さずに仕舞い込んでおくのはアマチュアだ。私はプロだ。仕事は全うしたい。最後までプロのモノ書きでありたい。
朝か。もうテレビも放送していない。新聞も来なくなった。昨夜、いつ寝たのか憶えていない。目覚めた時は、机の上に突っ伏していた。
腹がへった。いつ食事をしたのか憶えていない。もうずいぶん前からものを食べていないような気がする。冷蔵庫を見たが空っぽである。キッチンの戸棚も奥からカップヌードルが一個出てきた。電気と水道はまだ生きている。湯を沸かしてカップヌードルを食べる。
睡眠を取った。食欲も満たした。トイレで用をたした。これで生物としての生理現象はひととおり終わった。
執筆を再開する。パソコンで原稿を書いていたが、電気が止まった時のことを考えて、手書きで原稿を書く。パソコンで書いた分は全てプリントアウトしてある。
2Bの鉛筆でひたすら升目を埋めていく。考えなくても文章が自動的に出てくる。今、私の全存在が一つのことに集中している。執筆する。この作品を書き上げる。私は、そのことだけのために存在している。食べることも、寝ることも、排泄することも、すべては書くためだ。
筆を起こしたのはいつだっただろうか。忘れた。もうずいぶん前のことだ。ひょっとすると生まれてすぐ書き始めたのかも知れない。
身を焦がすような焦燥感を感じている。なんとしても、この作品を完成させたい。ストーリー、プロット、構成、個々の文章、すべて頭の中にできている。あとはそれを紙の上にアウトプットするだけだ。だから、私の中では作品は完成している。しかし私はプロの作家だ、アマチュアではない。私は作品を完成させたいのではない。仕事を完遂したいのだ。完成原稿を担当編集者に手渡して、初めてプロの作家としての仕事は完遂できる。本になる、ならないは編集者の仕事だ。私の関知するところではない。
昼になったらしい。食う、寝る、排泄する以外は、執筆だけをしている生活。時間の経過がまったく判らなくなった。
本当は、食う寝る排泄もしたくない。執筆に不要な身体はいらない。頭脳に直接手が付いていて、書く機能だけあればいい。そんな身体が欲しい。
ちょっと手が止まった。フッと思った。この原稿は完成しない。全体の五分の一ほどしかできていない。
原稿が間に合わない時に、作家がやることは二つ。締め切りを延ばしてもらう、大急ぎで書いて、少ない枚数でなんとかまとめる。
今回の場合、締め切りは絶対である。締め切りは週末。これは絶対に動かせない。
予定より枚数を減らして、とにかく作品としての形を創る。これも無理だ。五分の一の枚数でしめてしまうと、全く別の作品になってしまう。私は、「この作品」を仕上げたいのだ。
金曜日
俺は死なんぞ。あいつらは死んで当然のヤツらだったんだ。あんなクズなんの値打ちもない。俺はゴミ掃除をしただけだ。それで、なんで俺が死刑なんだ。
最高裁まで行ってやった。でも、最高裁では上告を棄却しおった。三年前に死刑が確定した。
死刑の執行は午前中に行われる。朝が怖い。コツコツという看守の足音が聞こえるだけで、震え上がる。必死に祈る。どうか俺の部屋の前で足音が止まらないように。
通り過ぎた。今日は金曜日だ。土曜日曜には死刑執行はない。これで三日間は生きられる。
あの時の、クズの母親の顔は何度思い出してもおかしい。あのばあさん、俺が死刑になるよう、極刑を求める署名運動を起こしやがった。
裁判官が主文を朗読する時、俺の顔をじっと見つめてやがった。死刑判決が出た瞬間、俺がどんな顔をするか見たかったのだろう。
俺が、がっくりと落胆し、心から後悔し反省をうかがわせる表情でもすれば、ばあさんは満足だったのだろう。
俺は、ばあさんに向かって、ニッコリとほほえみ、小さくピースサインをしてやった。
その時、ばあさんは、驚き、落胆、哀しみ、怒りを全部ない混ぜにしたような顔をしやがった。ざまあ見ろ。
とはいうものの、実は俺、ばあさんに当てつけで、ああいう態度を取ったが、本当は、死刑判決はショックだった。三人も殺しているのだ死刑は覚悟していた。しかし、無期になる可能性もあった。正直、俺だって死ぬのは怖い。
この三年間、一瞬たりとも気の休まる時はなかった。いつ、死刑台への呼び出しがかかるか判らない。いっそ、自殺してやろうかと考えたこともあった。しかし死ねきれなかった。俺はまだまだ生きたい。
その話を聞いた時、思わず喝采を叫んだ。あはははは。俺がいったとおりだろう。悪いのは俺だけじゃないんだ。みんな悪いんだ。罰を受けるのは俺だけじゃないんだ。
土曜日
「一義、起きなさい。ご飯ですよ」
「もうちょっと寝かせといてよ。学校も無いなんだから」
「だめです。いくら学校が無くても、規則正しい生活を送らなくては」
小学校四年生の息子が、半分寝たままで食堂にやって来た。三つの皿にトーストが一枚づつ乗っている。
「おはよう」
「おとうさん、今日も会社休み?」
「ああ。ずっと休みだよ。会社はもうないんだ」
「それでは食べましょ」
「いただきます」
「いただきます」
家族三人で朝食を食べるようになって、朝が楽しくなった。以前は義彦が単身赴任していたから、息子の一義と私の二人で食事をしていた。
三人だけの家族だが、バラバラな家族だった。私はパートではなく、フルタイムのOLをやっていた。一義は学校から帰ると、朝に私が作っておいた冷めた夕食を食べると、塾に行って、私が帰宅した後帰ってくる。亭主の義彦は月に一度か二度帰ってくる。そういう生活をずっと続けていた。
家族三人で三度の食事をともにできる。それが幸せなことだと思えるようになった。私と義彦の会社と、一義の学校と塾が無くなった。そのおかげで三人がずっといっしょにおれる。
「ドライブに行こうか」
トーストを食べ終わった義彦がいった。
「車に少しだけガソリンが残っている。あれで走れるだけ走ろう」
「帰りはどうするの」
「もう帰りの心配はしなくてもいいよ。車もそこに乗り捨てればいい。駐車違反の取り締まりもないんだから」
「賛成」
「ぼく、海がいいな」
さすがに走っている車は少ない。道はすいている。天気もいい。絶好のドライブ日よりだ。
「さて、どこの海へ行こうか」
「南の海がいい」
一義が小さく、義彦が本社勤務のころは、三人でよく行楽に行った。休日のたびに車で出かけた。
日帰りか、一泊の小旅行だったが楽しかった。一義は特に海に連れて行くと喜んだ。波とたわむれ、小さなカニや小魚を捕って遊んだ。 一番最初の一泊旅行は南紀だった。一義が幼稚園のころだった。ものすごく楽しかったらしく、時々想い出している。また行きたいねといっていたが、義彦が単身赴任するようになって、なかなか実現できなかった。それがこういうことになって実現できるとは。
「ガソリン持つかしら」
「なんとか行けるやろ」
「今晩どうしよう」
「どっかに適当に泊ったらいいさ」
「あそこに泊ろうよ」
一義がいったのは、前に来た時泊ったホテルだった。
「やってるかしら」
建物はそのままあった。人っ気はない。営業はしていないようだ。
車を駐車場に停めた。広い駐車場に数台の車が放置されている。三人は建物の中に入った。ガランとして無人のようだ。
「ごめんください」
シーンとした静寂だけが返って来た。
「だれもいませんか」
ホテルの従業員は全員家に帰ったようだ。
エレベーターやエスカレーターは動いていない。階段を歩いて六階まで上がる。一番つき当たりの部屋。六二六号室。前に彼らが泊った部屋だ。
鍵はかかってない。部屋の中は少しホコリが貯まっているが、ベッドもシーツも使える状態だ。
「今晩、ここで寝ようよ」
「そ、しよか」
「そ、しよ。そ、しよ」
三人は眠った。目覚めない眠りである。
日曜日
終
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テレビ ビブリア古書堂の事件手帖「たんぽぽ娘」を観た
小生はテレビドラマは観ない。そんな小生が珍しくもテレビドラマを観た。録画しておいた「ビブリア古書堂の事件手帖」を観た。原作はベストセラーらしいが読んでない。
なぜ、小生がふだん観ないテレビドラマを観たか。それは、小生の好きな作家ロバート・F・ヤングの代表作「たんぽぽ娘」にまつわるエピソードだから。小生はヤングが好きで興味があるから観たというわけ。
ドラマそのものは他愛のないもので、主役の剛力彩芽もかわいいが、なんとも下手くそな女優さんだ。もうちょっとそれなりの女優を起用できなかったのか。今、一番売れている子だから彼女を使ったのか。原作は未読だから主人公の栞子はどんなキャラか知らないが、古書店の店主というのだから、剛力じゃ若すぎないか。
お話というのが、集英社コバルト文庫海外ロマンチックSF傑作選2「たんぽぽ娘」が盗まれた。犯人はだれだ。というもの。で、盗まれた本がヤングではなく、クラークやアシモフでも成り立つ話なら、思いっきりバカにしてやろうと思ったが、なるほど上手くヤングの作風を生かしている。ある男が妻に送った本がこの「たんぽぽ娘」だったというわけ。
いかにもヤングらしいベタな人情話に仕上げてあった。テレビドラマとしては上出来とはいいかねるが、ロバート・F・ヤングを生かしていたので合格。でも、この番組もう観ることはないだろう。ヤングを取り上げたのだから、R・A・ラファティ、ヴァン・ヴォクト、ジェイムス・ブリッシュ、アリステア・マクリーン、ジャック・ヒギンス。日本人作家なら、久野四郎、藤本泉、田中光二、大藪春彦、西村寿行、稲見一良などがネタになったら、また観てもいいかな。
ところで、このコバルト文庫版の「たんぽぽ娘」えらい高値で取引されているとのこと。ロバート・F・ヤング、どっちかというと忘れかけられている作家。SFもん以外知られていない作家だろう。ヤングの作品はそんなに需要があるとは思えぬ。不思議な現象だ。
この「たんぽぽ娘」、5月に河出書房新社「奇想コレクション」から出るとのこと。編訳はコバルト版は風見潤だったが、河出版は伊藤典夫とのこと。買わなくちゃ。
なぜ、小生がふだん観ないテレビドラマを観たか。それは、小生の好きな作家ロバート・F・ヤングの代表作「たんぽぽ娘」にまつわるエピソードだから。小生はヤングが好きで興味があるから観たというわけ。
ドラマそのものは他愛のないもので、主役の剛力彩芽もかわいいが、なんとも下手くそな女優さんだ。もうちょっとそれなりの女優を起用できなかったのか。今、一番売れている子だから彼女を使ったのか。原作は未読だから主人公の栞子はどんなキャラか知らないが、古書店の店主というのだから、剛力じゃ若すぎないか。
お話というのが、集英社コバルト文庫海外ロマンチックSF傑作選2「たんぽぽ娘」が盗まれた。犯人はだれだ。というもの。で、盗まれた本がヤングではなく、クラークやアシモフでも成り立つ話なら、思いっきりバカにしてやろうと思ったが、なるほど上手くヤングの作風を生かしている。ある男が妻に送った本がこの「たんぽぽ娘」だったというわけ。
いかにもヤングらしいベタな人情話に仕上げてあった。テレビドラマとしては上出来とはいいかねるが、ロバート・F・ヤングを生かしていたので合格。でも、この番組もう観ることはないだろう。ヤングを取り上げたのだから、R・A・ラファティ、ヴァン・ヴォクト、ジェイムス・ブリッシュ、アリステア・マクリーン、ジャック・ヒギンス。日本人作家なら、久野四郎、藤本泉、田中光二、大藪春彦、西村寿行、稲見一良などがネタになったら、また観てもいいかな。
ところで、このコバルト文庫版の「たんぽぽ娘」えらい高値で取引されているとのこと。ロバート・F・ヤング、どっちかというと忘れかけられている作家。SFもん以外知られていない作家だろう。ヤングの作品はそんなに需要があるとは思えぬ。不思議な現象だ。
この「たんぽぽ娘」、5月に河出書房新社「奇想コレクション」から出るとのこと。編訳はコバルト版は風見潤だったが、河出版は伊藤典夫とのこと。買わなくちゃ。
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