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機龍警察 自爆条項


  月村了衛          早川書房

 機龍警察シリーズ2作目。最初に助言申し上げる。本書を読む前に第1作目を読んでいた方がいい。
 今回の主人公は、純白の龍機兵バンシーを駆るライザ・ラードナー警部。感情を表に出さないクールな美女ライザの本名はライザ・マクブレイド。北アイルランド出身。テロが頻発するアイルランド紛争の真っ只中が彼女の故郷。両親を亡くしたライザにとって心の支えが、口のきけない妹だった。
 そのライザがなぜ過激派IRFに入って「死神」と呼ばれるようになったか。本作は東京と、ライザの故郷イギリスのベルファストとロンドン、ライザがテロリストとして訓練を受けたシリアの砂漠が舞台。
 プロテスタントとカトリックが対立し、イングランドの支配を受ける北アイルランド。テロが日常茶飯事になっている。ライザの生家マグブレド家は裏切り者の家系とされ、北アイルランドでは嫌われ者。貧しい北アイルランドの中でも特に貧乏な一家だ。
 ここで北アイルランドの悲惨な歴史と現状、ライザの哀しい生い立ちがこってりと描かれる。このライザの前に現れたのがIRFの大幹部「詩人」キリアン・クイン。ライザはIRFの「国費留学生」としてシリアのテロリスト養成所に入学。入学生のほとんどが死ぬという過酷な訓練を修了。ロンドンに戻ったライザはキリアン・クインの手の者として数々の暗殺を成功。IRFの「死神」となる。
 そしてライザはIRFを脱走。日本の警視庁特捜部部付警部となる。この「抜け忍」ライザを追って、「詩人」キリアン・クインが日本に来た。手だれの暗殺者「墓守」「猟師」「踊子」を伴って。クインの来日目的は、ライザの処刑は第2の目的。第1の目的は来日するイギリスの要人の暗殺。そして第3の目的がある。
 前作同様。非常によくできたエンターティメントだ。周到に計算された伏線が生きている。ライザは手話を使う。なぜ彼女は手話ができるのか。そして彼女の手話が後半最大の危機脱出に役立つ。ライザが国際ろう学校の演奏会の招待を受けて、観覧にいくが何も起こらない。これがキリアン・クインの打った手だった。このことが後で効いてくる。
 第3作「機龍警察 暗黒市場」もぜひ読もう。ところで、このシリーズなぜ大藪春彦賞にならないんだ。ノミネートにさえなっていない。この「機龍警察シリーズ」ほど大藪春彦賞にふさわしい作品はないと思うんだが。いかがかな徳間さん。
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