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場所をあけろ

「おはようございます」
「おはよう。今日は何人だ」
「五名です」
 若い係員は、箱を五個、机の上に置いた。
「ハンお願いします」 
 受領書を鞄にしまった係員は外に駐車してあるワゴンの運転席に乗り込んだ。
「今日は何カ所に配送するんだ」
「あと四カ所です」
 荷台には箱が20個ほど積んである。
「ご苦労さん。気をつけて行ってくれ」
 机の上の箱は、アルミ製で30センチほどの立方体。貼付してあるラベルに五ケタの数字とバーコードが印刷されている。
 手に取る。ずっしりと重い。重量は五キロある。バーコードをリーダーで読みとる。これでウチの収容人数は4000人を超えた。今年中に5000人を突破するだろう。 
「おはようございます。所長」
「おはよう。四号棟G列―7に収容してくれ」「四号棟はもういっぱいです」
「どこがあいている」
「六号棟のK列なら5個分のスペースがあります」
「しかたがない。そこに収容してくれ」
「所長、六号棟はこれで満杯です。七号棟もあと20個分ほどです。八号棟建設の許可はおりないんですか」
「法務省になんども申請を出してるんだが、なんせ予算がないということなんだ」
「どうするんですか」
「入れることができないんだから、出すことを考えよう」
「終了判定会議ですか」
「来週の水曜日にやる。判定委員11人と遺族113人を招集しておいてくれ」
 大会議室の大きな丸テーブルに11人の委員が座っている。男性5人女性6人だ。少し離れた所に議長席がある。所長が座っている。丸テーブルの後方に百脚ほどに椅子が並べてある。遺族席は満席だ。
 議長席の所長が、ぐるりと会場を見渡した。「みなさん、お揃いですね。時間になりました。終了判定会議を始めます」
 議長席の背後のスクリーンに中年男性の顔が映し出された。
「受刑者一六五四番。受刑年数65年。7名殺害のJYー251事件犯人。二号棟Hー13収容」
 くたびれた中年男だ。70年前K市の駅前で無差別殺人で7人殺している。
「お手元の資料を見てください。一六五四番のここ2年分の資料です」
 丸テーブルの11人が資料に目を通し始めた。A4で20枚。充分に時間をかけて読み、考えた。女性委員の一人が手を挙げた。
「充分な反省が認められます。一六五四番の刑期終了に賛成です」
「ほかにご意見は」
「そうだな。長期の受刑だし、私も賛成だ」 委員全員が賛成した。
「JYー251事件のご遺族は」
 議長が横の事務方職員に聞いた。
「いません。全員なくなってます」
「では受刑者一六五四番の刑は終了」
 スクリーンの映像が変わった。不良です、と顔全体で主張している少年だ。
「受刑者二五六六番。受刑年数7年。2名殺害のNQー161事件犯人。七号棟Uー16収容」
「では、委員全員は反対ですね。ご遺族は」 七人立ち上がった。
「昨日二つの家族で話し合ったんですけど、もういいんじゃないか。二五六六は絶対許せないけど、私たちあの事件を忘れたい。終わりにしてください」
「では受刑者二五六六番終了」
「遺族として絶対許せません。永遠に反省させてください」
「受刑者三三八九番刑継続」
 これで十五個分のスペースが空いた。
 死刑が廃止された。それと連動するかのよう凶悪事件が増えた。刑務所はアッという間に満杯になった。凶悪事件はそんなことはお構いなく増え続けた。とうとう無期・終身刑の受刑者の数が有期刑を上回った。日本中の空き地を全部を刑務所にしても足らない。
 死刑に代わる刑罰が採用された。受刑者の脳だけを摘出し、箱に入れて生かしておく。
 受刑者を収容するスペースが大幅に拡大した。刑務所の職員も少数ですむ。脳を生かしておくだけの栄養と少しの電力があればいい。大きなコスト低減になった。
 脳だけの受刑者は思考することしかできない。受刑者の考えることは、プリンターで出力される。そこで本人が希望し、刑務所の委員が賛成し、遺族が許せば、終了となる。受刑者は死ぬことができる。そこに次の受刑者を置ける。
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