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豚汁


 豚汁というと、小生たち神戸市民は、あの阪神大震災を思い出す。被災後しばらくのあいだ、家族ともども近くの小学校へ避難していた。ここでの炊き出しで一番よく頂いたのが豚汁だった。
 寒い時期だった。あたりは瓦礫の山。何人か知人が亡くなったと聞く。心身ともに寒かった。このような時、小学校の校庭で食べた豚汁は本当においしかった。大きな鍋で大量に炊かれていて、味噌のいい香りが。ボランティアの人が発泡スチロールの容器によそってくれた豚汁は本当においしかった。あの時の豚汁とおにぎりの味は、震災の記憶とともに一生忘れないだろう。
「美味しんぼ」で海原雄山がよく「ものの味がわかるのか」と人を罵倒しているが、では雄山、お前には、あの時、寒風吹く小学校で食べた豚汁の味がわかるのか。少なくとも小生はわかる。
美味しい美味しくないは相対的なものだ。絶対的なものはない。だから、絶対的な美味を追求する海原雄山=北大路魯山人的な方向は無意味だ。美味しいとは個人的な物指しで計るべきと考える。だから、小生にとって、高級料亭(西宮播半で1度だけ食べたことがある)よりも、漁労実習の時漁船の上で食べたイカや、あの時の豚汁の方がよほど美味しく感じるしだい。
 あの時の豚汁の味は絶対再現できないが、豚汁そのものはよく作る。肉は豚バラ薄切り。野菜は有り合わせの物を使う。さつまいも、にんじん、ごぼう、なす、こんにゃく。出汁は昆布いりこ出汁。まず野菜の下処理。さつまいもは皮をむかず切っておく。にんじんは適当にいちょう切り。ごぼうとなすはコロコロに切る。こんにゃくはゆでて手でちぎっておく。
 鍋の底にゴマ油を少量ひいて豚肉を炒める。処理した野菜を加える。出汁を注いでしばらく煮る。アクが出るから取る。肉や野菜の素材から美味しさが出て、渾然一体となった汁のうまさが豚汁の魅力。煮えたら味噌を溶き入れる。今日は八丁味噌と信州味噌をブレンドした。味噌は火を止める直前に。味噌を入れてからグツグツ火を入れると味噌の香りが飛んでしまう。
 お椀によそって、青ネギと七味をパラパラ。実に滋味豊かな汁だ。 
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