豊かな国
2011年05月02日 | 詩
南北の海流がぶつかり合い、とてつもない豊かな漁場に取り囲まれていた
山々からは清涼な川が至る所に流れ出て、土地を潤した
四季折々の草花が咲き乱れ、人々の口からは唄が絶えなかった
なにひとつ不足のない国だった
いつのころからか、まだまだ足りないと人々は誰かに諭された
なにが足りないのか戸惑いながらも、そんなものかも知れないと人々は懸命に働いた
そうして作った作物は供給過剰になり、値段が下がった
働けば働くほど手元に残るお金が少なくなった
どこでなにが足りないというのか、人々にはとんと分からなかった
見渡す限り、国土は依然として豊かであり、清らかだった
そのうちに、誰かが国土のあやゆるところをコンクリートで固め始めた
あれよあれよという間に、海岸線から川沿いの至る所にコンクリートで塗り固められた
人々はなにが起きているのかがさっぱり分からなかった
しだいに川に住む魚が消え、野草が消え、四季の境目が曖昧になっていった
懐かしい童謡が学校で教えられなくなり、人々は国土に対する愛着を喪失した
国中がコンクリートの建造物だらけになり、大気が息苦しくなった
人々はうろたえた
懐かしく平安だった時空が急速に失われていくのを感じた
政治家もうろたえ、農民も職人も商人もうろたえた。
そしてテレビからは休む間もなく芸人たちの馬鹿笑いが流され続けた
なにひとつ不足のない国だった
コンクリートに覆われてしまったとはいえ、今でも肥えた土地と豊穣な海を持った国だ
それでも人々はうろたえ続けている
誰かの吹く笛にぞろぞろついて行こうとしている
目を覚ますときが来た
堂々と豊かな国で豊かに生きるときが来た
誰かには勝手に笛を吹かせておけばよい
コンクリートに覆われたコンサート会場から抜け出せば、そこにはこの国の豊かな大地に豊かな風が吹いている