鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

足踏みするオカヨシガモ

2006-04-11 01:17:24 | カモ類
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Photo by Chishima,J. 
オカヨシガモのつがい 2006年4月 北海道帯広市)

 オカヨシガモは、全国の多くの水辺でマガモやコガモなどにくらべてはるかに数の少ない淡水ガモ類である。近年いくらか増加傾向を示しており、たとえば私の郷土である群馬県の利根川原では、1980年代には数千羽のカモ類の中に数羽が混入している程度だったが、1990年代の初めころに増加して、多い時では200羽以上を数えるようになり、現在に至っている。それでも増加は局地的なもののようで、現在住んでいる十勝地方では、渡りの時期に少数が見られるくらいの稀な鳥である。道東のある地方では、夏期普通に繁殖していて数も多いことを考えると、やはり局地的な分布を示す種のようである。
 そのオカヨシガモが、少し前からつがいで市内の川に滞在している。風もなく暖かい、麗らかな日に彼らの採餌行動を観察してみた。水深の浅い岸近くの水面で逆立ち式の採餌を繰り返している。水底の餌を拾っているのだろう。しばらく観察していると、オスは逆立ちする前にその地点で、あたかも足踏みでもするようにひとしきり脚をぶるぶる震わしていることに気が付いた。興味を覚えてなお見ていると、オスはかなりの高頻度で逆立ちの前に、この「足踏み」を行なっていた。どうやら脚を上下して震わすことによって、水底やその付近を攪拌し、浮かび上がってきた餌を逆立ちによって効率よく摂取していたものと思われる。オスもメスも活発に逆立ち採餌していたにも関わらず、観察した範囲内では足踏みするのは、まず例外なくオスの方であった。単なる偶然なのか、それともミクロなサイズの違いなどによる役割の分担なのか、はたまた学習などによって特定の個体だけ身に付けた技なのか、不思議である。

「足踏み」するオカヨシガモのオス(左)
2006年4月 北海道帯広市
周辺の水中が攪拌されているのがわかる、
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Photo by Chishima,J. 

逆立ち採餌するオカヨシガモのオス
2006年4月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

 オカヨシガモの一風変わった採餌法が、ドイツから報告されている。秋に水深が深くなってしまう水域に住む約300羽のオカヨシガモは、その時期オオバンが(おそらく潜水して)水面に持ってくるシャジクモの1種に完全に依存しているそうである。したたかなオカヨシガモもいたものだ、と思う。

オオバン
2006年2月 東京都台東区
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Photo by Chishima,J. 

 淡水ガモは「水面採餌ガモ」とひとくくりにされることが多いが、その採餌法は水面でのついばみ(ヒドリガモなど)やこしとり(ハシビロガモなど)、逆立ちによる水底の餌の採取(オナガガモなど)、水際での植物のついばみ(カルガモなど)から陸上での草の引きちぎり(ヒドリガモ)などバラエティーに富んでおり、それは各種の形態や生活様式の微妙な違いを見事に反映している。さらに「ヒドリガモの潜水採餌」で紹介したような変則的な手法もよくあるので、カモ類の採餌行動は見ていて飽きることがない。

淡水ガモ類の採餌法いろいろ

水際でのついばみ(マガモ
2006年4月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

浅い水溜りの底からのついばみ(オナガガモ
2006年4月 北海道河東郡音更町
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Photo by Chishima,J. 

水面でのこしとり(ハシビロガモ
2006年2月 東京都台東区
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Photo by Chishima,J. 

陸上での草のひきちぎり(ヒドリガモ
2006年4月 北海道河東郡音更町
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Photo by Chishima,J. 

(2006年4月10日   千嶋 淳)