鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

白い狩人

2007-02-01 22:35:11 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
シロハヤブサ 以下すべて2007年1月 北海道十勝管内)


14時25分 北国の陽は既にかなり西に傾いた位置から原野に差し込んでいる。電柱の頂上に止まる1羽のハヤブサ類を発見。その大きさからハヤブサかと思い、双眼鏡を覗くと上面の一部が白黒の縞模様である以外全身白い。シロハヤブサだ!数年ぶりの出会いに胸躍るが、鳥の背後であることにくわえ逆光で、距離は近いのだがよく見えない。もどかしい。
14時29分 その場で方向転換を行うと鳥を警戒させるかもしれないので、「急がば回れ」の格言通り、大きく迂回して順光の位置に辿り着く。飛ばずにいてくれた。蝋膜や脚が青灰色であるところから幼鳥のようだが(成鳥は黄色)、かなり白い個体。体下面は若干の縦斑がある以外はほぼ真っ白。淡色型と考えて良いかもしれない。最初ハヤブサかと思っただけあって小さい。オスだろう。100メートル以内に停車して観察している私たちには目もくれず、周囲を見渡している。


電柱に止まるシロハヤブサ
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14時30分 羽を震わせて前傾姿勢。何か見つけたのか?

14時33分 電柱から飛び立つ。上昇するかと思いきや惰性に任せて下降し、地面すれすれの高度を飛翔。道路を横断して、○○川築堤方向へ飛び去る。


出撃(シロハヤブサ
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14時38分 500メートルあまり北西の雪原で再発見。地上に降りて周囲を警戒しており、予想通りその脚には獲物が掴まれている。同分中に食べ始める。獲物は小鳥であり、シロハヤの前後には飛び散った羽毛が数メートルの黒線を、雪上に描いている。


獲物を捕えた(シロハヤブサ
前後に羽毛が線状に飛散している。
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14時40分 内臓を引きずり出しながら食べ続けている。連れが望遠鏡で獲物はツグミであることを確認する。再発見の直前に数羽のツグミが付近を飛んでいたことを思い出す。


捕食(シロハヤブサ
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14時44分 猛禽類は通常翼や脚といった肉の少ない部分は残しがちだが、この個体は余程飢えていたのか、翼に続いて脚をきれいに平らげた。


脚も平らげる(シロハヤブサ
嘴の上に垂直に突き出しているのが、ツグミの脚。
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14時45分 完食。まずはツグミを握っていた左脚を震わせて、付着している羽毛を取り除く。次いで雪に嘴を擦り付けて清掃。更に雪を食べる(飲水であろう)。上体を起こした姿勢で、しばしまどろむ感じ。


脚震わせ(シロハヤブサ・本文参照)
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顔擦りつけ(同上)
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雪の摂食(同上)
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14時50分 地上から飛び立ち。すぐに近くの潅木に止まり。


飛翔(シロハヤブサ
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潅木への止まり(シロハヤブサ
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14時55分 潅木や電柱に、何度か場所を変えながら止まっていたが、××方向へ飛び去る。

15時20分 ××で再発見。トビと交戦しながら、そのまま林の影に見失い。既に夕陽は雲の中。薄暗くなってきた。

                  *

 以上が1月23日、十勝平野でのシロハヤブサとの出会いの一部始終である。余計な描写や修飾を試みるより、臨場感のある観察記を掲載した。
 シロハヤブサが獲物を探す方法には、大きく分けて①見晴らしの良い場所で獲物を待ち、発見したら低空を地形や木等を利用して隠れ飛んで行き、不意打ちをかける、②低空を流し飛翔しながら探す、③高空を飛翔して探すの3つがあるという。今回は典型的な①と思われる。興奮する我々など目にもくれなかったシロハヤブサは、原野の雪の解けた部分で採餌する、あるいは潅木で休息するツグミを見逃しはしなかったのだろう。そして、低空を飛び、道路脇の潅木等を利用して巧みに接近したのであろう。空中で獲物を捕えることが多いハヤブサに対して、本種は獲物を地上に蹴落としたり追い込んだりすることが多いそうだが、今回は捕獲の瞬間は見ることができなかったので、不明である。
 シロハヤブサはカモメ類等の海鳥やカモメ類、また外国ではライチョウ類等中型以上の鳥を捕えるイメージが強く、私もケイマフリを捕食しているのを観察したことがあるが、今回捕食されたのは比較的小型のツグミであった。体の小さなオスと考えられる個体で、また幼鳥であることが関係していたのかもしれない。
 シロハヤブサは北海道でも数の少ない冬鳥で、十勝地方では数年に一度記録されるが居着くことは少なく、大抵は一瞬で姿を消してしまう。そうした習性も手伝って、北海道で10年以上鳥を見ているが、出会いは数えるほどしかない。その鳥の狩りの前後に立ち会うことができたのは、まったくもって幸運だったというしかない。


食事中のシロハヤブサ
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(2007年2月1日   千嶋 淳)