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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

探鳥地としてのモンゴル

2013-11-30 18:55:12 | 
Photo
All Photos by Chishima,J.
草原の中のアネハヅルウマ 以下すべて 2013年6月 モンゴル国)

NPO法人日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより181号」(2013年8月発行)掲載の「探鳥地としてのモンゴル‐速報」を加筆修正、写真追加して転載)

 人の縁というのは実に不思議且つありがたいもので、モンゴルと聞いてもチンギス・ハーン、遊牧、ゴビ砂漠、ノモンハン事件、スーホの白い馬…といったごく一般的なキーワード程度しか連想できなかった私が、彼の国へ8日間の鳥を見る旅に行くことができた。帰国から2ヶ月が経ったものの、日々の暮らしにかまけて写真やメモの整理もほとんど手つかずのままでいるため詳細な紀行は次号以降に譲り、ごく簡単に旅を振り返ることで探鳥地としてのモンゴルの魅力を速報的に紹介したい。本文に先立ち、この素敵な旅のきっかけを作っていただいたKさん、同じく貴重な機会の世話人だけでなく現地でもお世話いただいたモンゴル在住のKZさんご夫妻、旅のプラン作りや資料提供にご尽力いただいたモンゴル国立大学の鳥類学者ゴンボバータルさん、現地をガイドして下さったチンギス・ハーン国際空港の鳥類学者オドフーさんに厚く御礼申し上げます。

 国内移動も含めた全旅程は6月11~20日の10日間。19日は成田到着後、羽田から帯広へ飛ぶ予定だったが飛行機の遅れのため間に合わず、東京に泊まった。ただ、空港で調べてもらったところ、札幌(南千歳)便に振り替えてJRで移動すれば19日中に帯広へ帰ることは可能であった。成田からの直行便は14時半頃の離陸なので帯広からの当日移動は時間的に不安だが、前日の最終便で東京入りしていれば問題ないので実質8日間の休みで今回のコースを訪れることはできる。モンゴルの首都ウランバートルへは、成田から直行便で5時間。14時40分に飛び立てば、時差が1時間の現地には夕方着くことができる、はずだったが12日は飛行機が遅れに遅れ、21時ごろようやく離陸、ウランバートル到着は現地時間でも13日1時と深夜だった。
 翌13日朝から鳥見を始め、前半の4日間はウランバートルから西に300kmの距離にあるウギノール(ウギー湖)まで往復した。このエリアは湖沼や集落を除くと丈の低い乾燥した草原のステップが広がっている。地形はなだらかで所々の岩山とともにどこまでも広がる大平原の広漠さは、日々十勝・道東の景色に接している私にとっても十分雄大なものであった。ステップにはコウテンシ、ハマヒバリ、コヒバリといったヒバリ類が多く、ハシグロヒタキやモウコユキスズメ等も見られた。また、ネズミ類やタルバガン(モンゴルマーモット)、オナガホッキョクジリスといった小型哺乳類や昆虫がたいへん多く、そのため猛禽類(オオノスリ、イヌワシ、ソウゲンワシ、ワキスジハヤブサ(セーカー)、ヒメチョウゲンボウ、チゴハヤブサ等)の影が日本では信じられないくらい濃かった。中でも再導入に成功したモウコノウマ(タヒ)で有名なホスタイ国立公園は、哺乳類と猛禽類の密度が高くて驚いた。それらとは別に家畜の放牧がさかんな場所ではクロハゲワシが見られ、1羽だけだがヒマラヤハゲワシもいた。バヤンノールとウギノール(ウギー湖)の2つの大きな湖は水鳥の楽園で、アカツクシガモやアカハシハジロ、インドガン、ソリハシセイタカシギといった日本での珍鳥が惜しげなく現れ、繁殖地で見るタゲリやセイタカシギも新鮮であった。湖岸や周辺の叢林にはツメナガセキレイやシベリアジュリン、ヒゲガラ等の小鳥類やアネハヅル、クロヅルといったツル類が見られた。アネハヅルは草原から水辺、乾燥地帯まで様々な環境に生息し、ほぼどこに行っても見ることができた。バヤンノールではマナヅルやシベリアオオハシシギ、ウギノールでは希少種のキバラウミワシやガイドも興奮したハイイロペリカン、そして数千羽のサカツラガンやインドガンの群れと出会えたことが中でも強く印象に残っている。


どこまでも続くステップと青い空
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コウテンシ
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クロハゲワシ
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飛び立つ種々の水鳥
ウギノールにて。サカツラガンツクシガモアカツクシガモタゲリカモメモンゴルセグロカモメ の姿が見える。
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 16日夕方、後に雹となった激しい雷雨の中、いったんウランバートルに戻り、翌日から仕事のKZ夫妻としばし別れ、テレルジへ向かった。テレルジは首都の北東70km程度に位置するなだらかな山岳・丘陵地帯で、針葉樹林や草原が広がり、網の目のように複雑に流れる川の周りには広葉樹の河畔林も広がっている。森林ではツツドリやカッコウ、ヒガラ、ハシブトガラ、ビンズイ等が囀り、まるで北海道にいるような気分になる。しかし、聞き知らぬ声の主を丁寧に探すとアカマシコ、シラガホオジロ、キマユムシクイ、カラフトムシクイ、シロビタイジョウビタキ…と日本ではなかなか出会えない珍鳥だったりする。前半には出会わなかった鳥たちが次々に現れ、植生が変われば鳥相も変わる見本みたいなものである。集落周辺ではコクマルガラスやベニハシガラス、カササギ、イエスズメ、イナバヒタキ等が多く、これは前半の地域でもほぼ同様であるが、ここではニシイワツバメも見られた。テレルジには2泊して、18日の午後早めにウランバートルへ戻った。天気が良すぎて日中、小鳥の動きが止まってしまったので、首都で自然史博物館を見学しようと思ってのことたがあいにく改装中(?)で閉館していた。買い物や荷物整理の後、KZさんらとビアホールで乾いた喉を潤し、翌19日、2時間遅れでチンギス・ハーン国際空港を離陸したミアット・モンゴル航空の飛行機で帰国した。


テレルジの丘陵と針葉樹林
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ニシイワツバメ
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 日本人バーダーにとってのモンゴルの魅力として、日本での珍鳥・迷鳥が簡単に見られる点が挙げられる。既出の種類以外にもヤツガシラ、ハジロクロハラアジサシ、ノドアカツグミ、ルリガラ…と、「所変われば品変わる」を実感できるだろう。もちろん、ヤマウズラやヒメクマタカ、シベリアオウギセッカ等、日本にはいない鳥種も観察できるし、南ゴビや国の西部に行けばより中央アジアに近い鳥相を示すようになり、日本に生息しない鳥の割合も増えるはずだ。ただ、生物地理区的には同じ旧北区に属するため目や科レベルで激しく鳥類相が変わることはないので、海外探鳥初心者にも比較的馴染みやすいだろう。オオハクチョウやタゲリ、ジョウビタキといった日本での冬鳥の繁殖地での姿を観察できることや、ハクセキレイやツバメ、シジュウカラ等では普通種でも亜種や地域個体群の違いによる形態の違いがあることも嬉しい。


ルリガラ
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ハシグロヒタキ
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 旅の生活についても軽く触れておこう。宿泊はウランバートル(2泊)とウギノールへの途中の町ダシンチリンではホテルで、それ以外はツーリストキャンプだった。首都のホテルは主に外国人向けで部屋は日本かそれ以上に豪華で、フロントでは日本語や英語も通じる。ダシンチリンのはモンゴル人向けと思われ、シャワーは海の家レベルのものが共用であるだけで英語も通じないが、客室の装備や清潔感に問題は無かった。ツーリストキャンプでは伝統的な天幕であるゲルに泊まる。とはいえ観光客用なのでゲル内は清潔なベッドはじめストーブやポットもあり、快適に滞在できた。これらのキャンプでは発電機で電気を供給しているため、夜間には電気は止まる。また、ゲルまで電気が来ていない場合はセンターハウスで充電等させてもらうことになるが、今回訪れた場所ではいずれも快く応じてもらえた。食事は朝夕はキャンプ、昼は弁当のことが多かった。ディナーは基本的に羊や牛の肉料理で炒め物や揚げ餃子、包子、炒麺等がメインで、サラダやライス、パンが付くことが多かった。どれも美味だが肉料理や油っぽいものが苦手な人は日本からカップものや缶詰を持って行った方が良いかもしれない。生水は飲めないので、ミネラルウォーターを何本か常備しておく必要がある。今回はガイドの方が用意しておいてくれたほか、キャンプでも購入できた(ちなみにキャンプでは缶ビールも買える)。移動はオドフーさんの運転する4WD車で、乗り心地は快適であった。今回は当初、家族も同行する予定だったので、舗装道路を中心にルートを選んでくれたが、幹線道路といえど所々穴が開いているし、そこから外れた未舗装道路の揺れと砂塵は日本人には少々辛いかもしれない。


テレルジのツーリストキャンプ
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 今回の訪問でモンゴルが日本人バーダーにとっても非常に魅力的な場所であり、現地で受け入れ可能な体制も確立できていることは確認できたので、十勝支部からのツアーを是非実現させたい。ルートは今回と同様でも良し、日程や見たい鳥に応じて変化させても良いだろう。例えば、後半のテレルジは日本、特に北海道との共通種が多いので、ここを南ゴビの砂漠地帯に振り替える等だ、ただし、その場合、日程と費用が更に必要になる可能性がある。長期の休みが取りづらい人が多いなら極端な話、前半のウギノールまでの往復だけでも訪れる価値は十分にあると思う。どこまでも続くステップの景観にくわえて数多の猛禽類や大陸系水鳥との出会いは、日本ではまず体験できないものだから。


アカツクシガモ
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<確認種リスト(暫定版)>
ヤマウズラ ウズラ サカツラガン ハイイロガン インドガン オオハクチョウ アカツクシガモ ツクシガモ オカヨシガモ ヒドリガモ マガモ ハシビロガモ オナガガモ シマアジ コガモ アカハシハジロ ホシハジロ キンクロハジロ ウミアイサ カンムリカイツブリ アオサギ ハイイロペリカン カワウ ヒメチョウゲンボウ アカアシチョウゲンボウ チゴハヤブサ ワキスジハヤブサ(セーカー) ハチクマ トビ キガシラウミワシ オジロワシ ヒマラヤハゲワシ クロハゲワシ チュウヒ ハイイロチュウヒ オオノスリ イヌワシ ヒメクマタカ クイナ オオバン マナヅル アネハヅル クロヅル セイタカシギ ソリハシセイタカシギ タゲリ コチドリ シベリアオオハシシギ ダイシャクシギ アカアシシギ コアオアシシギ クサシギ タカブシギ イソシギ カモメ モンゴルセグロカモメ ユリカモメ アジサシ クロハラアジサシ ハジロクロハラアジサシ カワラバト(ドバト) カッコウ ツツドリ フクロウ コキンメフクロウ アマツバメ ヤツガシラ オオアカゲラ ヤマゲラ アカモズ カササギ ホシガラス ベニハシガラス コクマルガラス ハシボソガラス ワタリガラス シジュウカラ ハシブトガラ コガラ ヒガラ ルリガラ ツバメ ニシイワツバメ エナガ コウテンシ ヒメコウテンシ コヒバリ アジアコヒバリ ヒバリ ハマヒバリ シベリアオウギセッカ シベリアセンニュウ オオヨシキリ カラフトムシクイ キマユムシクイ コムシクイ コノドジロムシクイ ヒゲガラ ゴジュウカラ トラツグミ ノドアカツグミ ノゴマ シロビタイジョウビタキ ジョウビタキ ハシグロヒタキ セグロサバクヒタキ イナバヒタキ イエスズメ スズメ イワスズメ モウコユキスズメ ハクセキレイ キガシラセキレイ ツメナガセキレイ キセキレイ マミジロタヒバリ ビンズイ マヒワ アカマシコ シメ シラガホオジロ ホオジロ アオジ シベリアジュリン オオジュリン (配列は「Mongolian Red List of Birds」による)


ソウゲンワシ
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(2013年8月   千嶋 淳)


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