All Photos by Chishima,J.
(冠羽を広げたヤツガシラ 以下すべて 2007年4月 北海道十勝管内)
今春の十勝地方はガン類の初飛来が例年より半月以上早かったが、その後の渡りの経過も早く進行し、3月後半以降その数はかなり減少に転じている。カモ類やハクチョウ類も大体同様の傾向を示している。しかし、だからといって夏鳥の渡来が前倒しになることはあまりないようで、ヒバリは3月25日、オオジュリンは3月31日にそれぞれ初認記録を得たが、これは大体例年並みの日付である。冬鳥の北帰が越冬地や中継地の積雪や気温、水域の解氷具合などに左右されるのに対し、夏鳥の渡来はあくまで暦に忠実なのだろうか。これは、多くの夏鳥にとって餌になる昆虫類の発育に日長等が関係している影響かもしれない。
そのため、4月に入ってからの十勝平野は鳥の少ない状態が続いている。先日も、快晴の原野の晴朗さと心地よさとは裏腹に、鳥との出会いが少ないまま昼下がりを迎えていた。少々の退屈さと眠さを覚えながらも海岸の道路を車を走らせていると、道路脇に1羽のハトくらいの茶色い鳥を認めた。時速40kmを超えるスピードだったが、下方に湾曲した長い嘴と頭部から突出した冠羽をはっきりと見ることができた。間違いない、ヤツガシラだ!
しかし、ここで焦って急ブレーキを踏んだら鳥は警戒して飛び去ってしまうかもしれない。少し走ってから停車し、大慌て且つ落ち着いて戻ると、幸いヤツガシラの姿はまだそこにあった。
路上を横断するヤツガシラ
本種は、カワセミ類やブッポウソウなどと同じくブッポウソウ目に属する。ヤツガシラ科は1属1または2種の珍しい科。
もっとも、暫しの観察の後、この慎重を期した接近は特に必要のなかったことを知った。長途の旅で疲れ果てているのか、あるいは己の体色が枯草色の風景の中で保護色となりうることをわかっているのか、一心不乱に採餌していた彼(女?)は、たとえ車が通っても路肩を数m歩いて逃げるだけで、すぐに戻って来ていた。停車した車中から観察している我々など眼中にないようで、徐々にこちらに迫ってきた。最初は「ラッキー!」と写真を撮っていたが、そのうちファインダーから溢れるくらい近くなり、それでも「折角なので顔のアップを」などとシャッターを切っていたが、やがて近すぎてピントが合わなくなってしまった。こうなるともう、「ハハハハ…」と笑いながら見ているしかない。それくらい、警戒心の乏しい個体であった。
大接近(ヤツガシラ)
警戒や興奮した時に冠羽を開くことが多い。扇状に分かれた冠羽が、和名「八つ頭」の由来となった。学名や英名は鳴き声から来ている。
採餌はその特異な嘴を土中や草の隙間などに差し込んで、巧みに餌を捉えていた。その前にはじっと下方を見つめていたので、視覚も重要なようである。餌は、わかった範囲では何かの幼虫(いわゆる毛虫)と甲虫類(テントウムシのようなもの)であった。毛虫は土中から引きずり出すとアスファルトの路上に叩きつけ、次いで嘴で何度もつついて動きを止めてからくわえ直し、飲み込んでいた。甲虫は堅い外骨格が嫌なのか、最初は路上に叩きつけていたが、嘴でやや深くくわえると圧力をかけて2つに割った。割れた甲虫は勢い余って1mほど飛び散った。すると、ヤツガシラは虫を発見できなくなってしまい、少し探していたがじきに諦め、次の獲物探しに取り掛かった。長い冬を乗り越えて、ようやく本格的な春を目前に控えたところで寝床から引き摺り出され、挙句食べられもしないのに殺された甲虫が哀れであった。
餌を捜索中(ヤツガシラ)
本種は土中で嘴を広げることができるそうである。
獲物と対して(ヤツガシラ)
いわゆる毛虫を路上に叩きつけた。
甲虫をくわえている。この後、割って失くしてしまった(本文参照)。
虫を飲み込む(ヤツガシラ)
ヤツガシラは国内では珍鳥だが、ユーラシア大陸をはじめ旧世界の大陸部には広く分布している種である。日本でも日本海側や西南日本の離島・海岸部では定期的に通過しており、十勝地方でも海岸部を中心に10例を越える記録がある。私自身も以前に観察したことがあり、今回が初見というわけではない。ただ、前回は情報を聞いて見に行ったものであり、いつか今回のように春の海岸で偶然出会えるのを心待ちにしていたので、念願叶った喜びはひとしおであった。
携帯電話やインターネットの普及で、珍鳥は情報を聞いて見に行く時代となった。鳥を見始めて間もない人でも、ライフリスト300種や400種が珍しくないらしい。しかし、情報を得て見に行くのはそれがどんな大珍鳥であっても、そこに何がいるかわかって見に行く点において、動物園の動物を見に行くのと変わらない側面がある(鳥には翼があるので、行っても見られる確率は動物園より相当低いが)。思うに、ヤツガシラのような「小珍鳥」であっても、自分のフィールドでの予期せぬ出会いに胸躍らせ楽しむ、これこそが鳥見の醍醐味の一つではないだろうか。そうした予期せぬ出会いの場合は、さらに目の前の鳥が何者なのかという識別・同定の過程も楽しむことができる。もっとも、ヤツガシラはあまりにわかりやすく、今回この過程を経ることはできなかったが。
至近距離で見返り(ヤツガシラ)
(2007年4月9日 千嶋 淳)
とても見てみたい鳥であります。
しかも突然の出会いなんて!
それにしてもかなり堂々した方ですね。
冠羽と黒白ストライプが素敵です。
簡単に出会える鳥ではないですが、毎年のように話は聞きます。
季節は3月末からゴールデンウィークころ、海岸部での記録が多いですが、内陸部の農村地帯や市街地近くでの記録もあります。
是非探してみてください!
一瞬でしたが・・・・。
本当にびっくりしました。
週末に河口やら沼やら湖をめぐっていたのですが、
道路からぱっと飛びたったのがヤツガシラ殿でした。
まさか会えるとは思っていなかったのでもうもう驚きでありました。
たまごさんの想いが、ヤツガシラに通じたのでしょうか。憧れの鳥に出会えた至福の一瞬、最高ですよね。
そういえば、うちの学校付近でも目撃されるのも納得できるな