鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

海辺のキレンジャク

2007-03-11 23:50:53 | 鳥・冬
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All Photos by Chishima,J.
キレンジャク 以下すべて 2007年3月 北海道十勝郡浦幌町)


 夏にはハマナスやチシマフウロ、センダイハギなどの花が絢爛に咲き誇った海辺の原生花園。今ではすべてが束の間の夢だったかのごとく枯れ果て、うらぶれた褐色の世界と化している。背後の海の青さとそこからの風が運んで来るクロガモの声の高さはやけに明るく、手前の冬枯れと対比を成している。そんな晩冬の砂丘で、6羽のキレンジャクに出会ったのは、嵐の前の穏やかな昼下がりだった。
 「チリリリリィ…」、突然の闖入者に驚いた彼らは鈴のような高く澄んだ音色で鳴きながら、地上1mほどのハマナスの枝に集合した。しかし、多くの極北の鳥に共通なように元来の警戒心は希薄で、3分と経たぬ内に1羽、また1羽と地上へ舞い戻り、ガンコウランの越冬葉が織り成す赤い絨毯の中を闊歩している(ガンコウランは通常高山の植物だが、ここでは冷涼な海浜性の気候の影響により、コケモモとともに植生の一要素を構成している)。ほぼ水平の目線で見ているため、絨毯の中で何を食べているかはわからないのだが、おそらくその実を食しているのだろう。
 レンジャクというと真冬のナナカマドの街路樹をはじめ、樹林で観察する機会が多いので、波音を聞きながら地表で餌を求める姿は新鮮であった。見慣れたつもりの身近な鳥も、まだまだこちらの知らぬ一面を擁しているらしい。
 ブラインド代わりの車中で、私は弁当を広げた。レンジャクたちはその物音も意に介さず、採餌に余念が無い。あちらではキレンジャクが草木の実で、こちらでは人間が鮭弁当で己の腹を満たしている海辺の砂丘に、午後の陽射しが低く、優しく注いでいる。


地上で採餌するキレンジャク
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(2007年3月11日   千嶋 淳)