鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

クロガモ二態

2007-03-05 20:00:06 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
二枚貝類を飲み込むのに苦労するクロガモのオス 以下すべて 2007年2月 北海道中川郡豊頃町)


 冬の北海道の特徴的な鳥の一つに海ガモ類がある。種類も多くて行動や形態も様々であり、珍鳥を期待しなければ年による当たり外れも少ないので、冬の海辺では好観察対象であるといえる。元々海無し県の群馬に生まれ育った自分にとって、海ガモ類は普段会えない鳥であり、憧れに近い感情を抱いていた。そのせいだろう、すっかり身近な隣人になった現在でも、他の鳥とは何か違う、特別な感を覚えることがある。今回はその海ガモ類の中でも、もっとも普通な種の一つであるクロガモの話。

                  *
 2月下旬、漁港の一角では7・8羽のクロガモがさかんに浮き沈みを繰り返していた。2羽のメスのような体色をした個体がいるが、よく見ると嘴の基部に黄色が出始めている。どうやらオスの幼鳥らしい。海ガモ類は幼鳥の換羽が遅い種が多く、スズガモやビロードキンクロなども渡来当初はメスばかりに見えるが、冬が進んでゆくうちにオスの特徴を示す幼鳥が多くなってくる。シノリガモは北海道沿岸でも普通に越夏するが、6月くらいになっても前年生まれのオスはまだ地味な色彩をしていることが多い。


クロガモ・オスの潜水
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クロガモのオス(右の2羽)とオス幼鳥(?;左)
一見メスっぽいが、嘴の基部(瘤の部分)に黄色が出ている。このような個体は2~4月頃に見ることが多く、オスの幼鳥と考えられる。
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 クロガモはほとんどの獲物を水中で飲み込んでしまうようで、大抵浮上した時には喉が膨らんで口を開閉して獲物を体内に下降させている。ただ、水中で飲み込むにはあまりに大きな獲物は浮上後にくわえ直したり洗ったり(?)してから再度飲み込んでいる。それらはまず例外なく二枚貝類であった。それでも普通は2、3回くわえ直せば綺麗に飲み込んでしまうのであるが、中には貝が大きすぎるのか形状がクロガモの嘴に合わないのかなかなか飲み込めず、3分あまりも格闘した末にようやく飲み込めたオスもいた。かなり労力を費やしたらしく、飲水後は次の潜水にも移らず、いかにも呆然といった風で笑えた。


クロガモ・オスと二枚貝類の格闘
冒頭の写真もこの一部。

何度もくわえ直し、
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ようやく飲み込めた。
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                  *
 同じ港の沖から2羽のクロガモが飛んできた。こちらは雌雄で、つがいのようだ。やや離れているが、海上にいるのを望遠鏡で見ることの多い本種にしては近い位置で、ディスプレイを始めた。海ガモ類のディスプレイは、淡水ガモ類にくらべると出会う機会が少ないので、こちらも観察を決め込む。ディスプレイは2ないし3の一連の動作が1セットになっていた。すなわち、上体を起こすか尾羽を立てて広げ(両者が連動することもある)、その後前傾姿勢で頚部を水面に付け、小走りで水飛沫を飛ばしながらメスの側方を突進する一連の動作が1セットで、これには「ヒーホー」という通常時と同じ声が伴う。これを繰り返すこと数回、オスはメスにマウントした。30秒ほどのマウントの後、雌雄は離れた。メスは多くの淡水ガモ類がするように水浴びと羽ばたきを行ったが、オスは淡水ガモ類が行うような反時計回りでメスを周回することはしなかった。そしてほぼ間髪を入れずに、再び一連のディスプレイに興じ始めた。始めて観察するクロガモの交尾であった。クロガモのディスプレイは1羽のメスを数羽のオスが取り囲んで行うことが多いが、今回観察した2羽は既につがいを形成していると考えられ、ディスプレイは交尾に先立って気分を高める役割を果たしているのかもしれない。


クロガモのディスプレイ
以下褐色の個体はメス。

上体起こし
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尾羽立て
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水面の突進
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クロガモの交尾
鳥の貯精期間は約10日間といわれるので、繁殖には直接結びつかない。つがいの絆を強めるのに役立つのか?
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交尾後(クロガモ
メスは羽ばたいて水気を切っている。
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(2007年3月5日   千嶋 淳)