tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

最低賃金は「上げればよい」のか

2023年07月20日 13時56分56秒 | 労働問題
7月は最低賃金の季節です。
日本の最低賃金は、公労使の3者からなる最低賃金審議会で決めるのですが、毎年6月から7月にかけて全国的な最低賃金引上げの「目安」を決める中央最低賃金審議会で引き揚げの「目安」を決め、8月以降、各県の地方最低賃金審議会が各県の引き上げ幅を決め、10月実施というのがスケジュールとなっているようです。

という訳で、今年も7月中に「目安」を決めるべく中央の審議会(いわゆる中賃)で審議が行われています。

公労使で審議して決めるというのは大変民主的のようですが、マスコミの報道によりますと、ここ数年来政府の最低賃金引き上げの意向が強く、今年は岸田総理が最低賃金は1000に引き上げ、更にその後の議論をと言っているとのことです。

最低賃金審議会では公益代表は政府の任命ですから政府の方針に従うでしょう。労働サイドは賃金引き上げに「ノー」は言わないでしょう。3者のうち、二者が政府の意向を受け入れれば、2対1で、政府の方針は通ることになっているようです。

昨年の最低賃金の全国加重平均(時給)は961円だそうで、1000円にはあと39円ですが、今迄の目安の上げ幅の最高は昨年の31円ですからどうなるでしょうか。

最低賃金の引き上げは、、この所、政府の意向が強く反映され平成28年以来コロナの令和2年を除いて毎年3%を超えています。平均賃金はここ数年ほとんど上昇していませんから最低賃金の上昇は、理論上は賃金格差の是正に役立っていると政府は考えているようです。

しかし、賃金というものは生き物で、最低賃金だけ無理に上げればひずみも出ます。
最も問題なのは、その影響を受ける中小企業でしょう。
最近でこそコスト上昇の価格転嫁を認めようという雰囲気もいくらか出て来ましたが、最低賃金によるコストアップは、昨年来の食料品や日用品の一斉値上げによる消費者物価の上昇の一因という指摘も出ています。

確かに最低賃金の引き上げは、格差社会化の進行を抑えるための効果的な手段のひとつでしょう。しかし、それを、ごく単純に、最低賃金の引き上げだけを毎年進めるという形で、中小企業に負担を押し付け、後は中小企業の自助努力やマーケット・メカニズムがなんとかするだろうという事で済ませるのでは安易に過ぎるでしょう。

大企業の収益はこの所かなりの好調を記録しています。下請け代金の改善の問題については、政府も政策は打っていますが、実効がどこまでかについては、問題は多いようです。

さらに問題なのは非正規雇用という長期不況の結果の雇用構造の復元、改善がほとんど進んでいない事です、正規雇用者にとっては、最低賃金は殆ど無関係という場合が殆どでしょう。最低賃金は殆ど非正規の問題なのです

政府が望む格差是正や中間層拡大の問題は、最低賃金の引き上げを、政府の旗振りで強制すれば進むものではないでしょう。政府が音頭を取り、政労使3者が十分な理解と意思疎通を図りながら、3方納得づくのコンセンサス方式で解決するよりないのです。

スローガンを掲げたり、法律で強制しやすいところだけ進めたりという安易な政策態度では、格差社会化のような複雑な問題は解決出来るものではないでしょう。

最低賃金引き上げと同時に、税制、社会保障、公正取引、政労使のコンセンサス作りなど、格差是正、最低賃金引き上げにに関わる問題全てに、同じような熱心さが必要なようです。

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